アカマイがマルチデバイス戦略を明確に: スマホ・タブレット・IPTVどこででも最良のUXを
Webサイト・Webアプリ・動画など、ネットを通じた情報やデータをユーザーが快適な状態で配信できるように裏で支えているアカマイが、スマホなどのモバイル機器を始めとするマルチデバイス対応の方針を明確に進めている。
世界のインターネットトラフィックの15%~30%を支えるアカマイ
アカマイは、世界中で大規模サイトなどのネットを通じたトラフィックを支えている企業で、コンテンツ配信ネットワーク(CDN)のサービスを中心に提供している。アカマイがどのように大規模トラフィックを支えているのかを簡単に解説しておこう。
たとえばスポーツやエンターテインメントのようなサイトは、人気が高まればトラフィックは非常に多くなる。トラフィックが増えてもユーザーが快適にサイトのコンテンツや動画を見られるようにするには、通常は、Webサーバーの数を増やして、サーバーに接続するネットワークを増強する。つまりそれだけコストがかかる。
アカマイは、そういうトラフィックの多いサイトでも過度にサーバーを増強しなくてもユーザーに快適にコンテンツを体験してもらうためのサービスだ。具体的には、ISP(インターネット接続業者)の施設内にアカマイの配信サーバーが設置してあり、本サイトからアカマイサーバーにデータをコピーする。そして、サイト訪問者に対してはネットワーク的に近い位置にあるアカマイサーバーからサイトのコンテンツや動画を提供するのだ。
アカマイは、日本を含む世界71か国に9万5000台ものサーバーを設置しており、ウェブトラフィックの15%~30%がアカマイのネットワークを通じて配信されているのだという。全日空(ANA)、アップル、富士通、任天堂、リーボック、フジテレビ、トヨタなど、数多くの企業がアカマイを利用しており、あなたも知らないうちにアカマイのネットワークを通じてインターネットを利用しているはずだ。
・アカマイ
→ http://www.akamai.co.jp/enja/index.html
「どこでも」「どんなデバイスでも」良いユーザー体験を提供
前述のように、すでに世界のインターネットを支える重要な基盤となっているアカマイだが、そのサービス提供の方向性として、「マルチデバイス」を前面に押し出している。
アカマイのマルチデバイス戦略について、同社のチーフ・ストラテジストであるクリス・アレキサンダー氏に聞いた。
日本のWebサイトでも、PCに限らずケータイやスマートフォン対応など、さまざまなデバイスへの対応が進んでいるが、アカマイがそうしたマルチデバイス対応の方針を明確に示した。そのメッセージは次のようなものだ。
このメッセージが示すものとは何だろうか。
各種の調査によると、ユーザーが利用するデバイスの数はどんどん増えている。
2005年 | 2010年 | 2015年(予想) | |
---|---|---|---|
ネット接続 デバイス数 | 15億台※1 | 50億台※2 | 150億台※3 |
ネット接続 ユーザー数 | 10.8億人※4 | 18億人※5 | 28.9億人※6 |
ユーザー1人あたりの 利用デバイス数 | 1台 | 3台 | 5台 |
また、自宅ではIPテレビを使い、通勤中にモバイルデバイスで情報を得て、会社ではPCからネットを使い、帰宅中にもモバイルでネットにつなぎ、帰宅したら家ではPC+スマホやIPTV+タブレットというマルチスクリーンにするといった行動をしている。
しかし、実際には通信がつながりにくかったり混雑していて遅かったりすることもあるのが現状だ。特にモバイルではその傾向が強い。
そういった状況を背景に、アカマイが現在ゴールとして設けているのが、「どこでも、どんなデバイスでも、良いユーザー体験を提供する」。つまり、これまでPCを中心としたデータ配信の快適化を支えてきたアカマイが、「マルチデバイス対応」に全力で取り組んでいくということだ。
アカマイの進める「any device」「anywhere」サービス
たとえばモバイル環境でのユーザー体験向上のために、現在エリクソンと共同でモバイルキャリアのインフラ内にアカマイのサーバーを配置してコンテンツ配信を効率化・高速化する「モバイルコンテンツアクセラレータ」のサービス整備を進めている。テスト初期にはモバイルでの表示パフォーマンスを500%改善した実績があるのだという。
これまでのアカマイネットワークではモバイルキャリアネットワークの手前まででしかデータ配信を最適化できていなかったため、言ってみれば「モバイルのラストワンマイル」に対する配信ネットワークの整備を進めているということだ(日本での提供に関しては2012年以降となると思われる)。
また、マルチデバイス対応をWeb担当者が楽にするためのサービスも提供する。
すでに日本でもPC向けサイトやケータイ向けサイトをスマートフォン向けサイトに自動変換するサービスがいくつか提供されているが、そうした仕組みをさらに高度にしたものも提供する。アクセスしてきたデバイスの種類を自動検知して、サイトのコンテンツを対象デバイスに最適化した形に自動変換して送信するのだ。もちろん「マルチデバイス」を対象にしているため、スマホ向けだけでなく、IPTVなどさまざまなデバイスに対応できるのが特徴だ。
また、アカマイは動画にも強く、MP4動画データをマスターデータとして1つアカマイのシステムにアップロードしておけば、さまざまなビットレートやフォーマット(Flash、Silverlightなど)のバージョンを自動的に生成して、アクセスしてきたデバイスの機能や画面サイズ、そして接続している回線速度に応じて最適な形で動画データを配信する仕組みもある。こうした自動最適化配信のサービスを利用すれば、さまざまなフォーマットやビットレートのデータを準備したり新しいデバイスに対応したりといった作業からWeb担当者が解放される。
そして、配信の状況やユーザーが動画などのコンテンツにどのように触れたのかを分析するための監視やアクセス解析のサービスも提供しており、他のアクセス解析サービスのデータと一緒に分析することも可能なのだという。
こうした仕組みによって、Web担当者が自分でいろいろな作業をすることなく、マルチデバイス対応を進めユーザーの体験を良くすることができる。たとえばオフィスデポやネットアップスといった企業はコンテンツの自動変換を利用しているし、ESPNやNBCやFOXといった企業は、動画データの自動変換・配信を利用することで数千万円を節約できているのだという。
配信だけでなく強固なセキュリティも提供、さらなるサービスも予定
またアカマイは配信の役割を担うと同時に、ネットワークを通じたセキュリティを提供していることもポイントだ。家庭にあるウイルス感染した多数のPCを利用して攻撃することでサイトを利用できなくする「DDoS(分散サービス不能攻撃)」に対抗できるのはアカマイによる配信だけだと言われているし、実際にアカマイのインフラを利用することで、一時期勢いを増していた攻撃グループanonymous(アナニマス)からの攻撃を防いだ企業もあったのだという。
こうしたセキュリティ確保の機能をマルチデバイスでのサービス提供においても利用できるのが、アカマイの強みの1つだ。
ほかにも、リビングルームでIPTVで見ていた番組を一時停止してからベッドルームに移動してタブレットから続きを見るといったことを可能にする「アイデンティティ・サービス」を北米でTV Everywhereサービスとしてパイロット提供していたり、映画スタジオなどが進めているUltraVioletコンソーシアムで進めている仕様に準じたコンテンツ制作・販売・配信サービスの提供を2012年に予定していたりと、マルチデバイスにおけるユーザー体験向上のためのサービスをアカマイは進めている。
ここで紹介した各種のサービスは、既存の配信サービス以外はいずれも日本での提供は「今後の予定」というものだが、世界のインターネットを支えているアカマイが「マルチデバイス」に大きく舵をとり、進めていることは間違いない。アカマイはB2BでもB2Cでも、動画でもECでも、全体として冒頭に示した「あらゆるユーザー体験を、あらゆるデバイスで、どこででも」の方針を進めるのだという。
そして、アカマイがこの方針を進めるのは、実際のユーザーがさまざまなデバイスを使い、さまざまな場所でネットを利用するようになってきているからだ。
御社のマルチデバイス対応の参考にしてほしい。
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