企業ホームページ運営の心得

顧客の失望を買う残念セール。期待を裏切らない演出の心得

残念セールを回避するポイント、演出の心得について
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の308

裏切りの朝市

2年前に黒の柴犬(♀)を飼ってから日曜日の朝寝坊ができなくなりました。朝になると散歩に連れて行けとせがむからです。散歩の通り道にあるスーパーマーケットは週末ごとにイベントを開催し、この日の目玉は「売り切れ御免の朝市」と銘打った「マグロ半額」でした。品質をチェックすると、見事な大トロが100gで1,580円、半額なら790円。スペイン産の養殖物とはいえ、これはお買い得。大トロは常温で溶けていくので、不満げな犬を引きずり、散歩を途中で切り上げます。

夜になりマグロしか食材がないことに気がつき、再びスーパーへ。そこには衝撃の展開が。すっかり日も暮れ「サザエさん」がはじまる時間なのに「朝市」が継続されているのです。愛犬に起こされたことなどすっかり忘れて、朝寝坊ができなかったことへの怒りがふつふつと沸きます。これを「残念セール」と呼びます。

利益を削り失望を買う

残念セールとは、「利益を削り、損失も覚悟した施策を打ち出しながら顧客の失望を買う」という、損をするセールやイベントのことです。このスーパーでは平時の大トロは100gあたり、980円から1,280円で販売されており、790円なら確かに特売です。「半額セール」の元値が平時より高い気もしますが、仕入れは水物とそこには目をつぶります。

失望を買う理由は「朝市」としていることです。店内掲示板やチラシでも告知しており、売れ残ったという理由があっても、夕方まで販売を続けるのは、寝坊したい欲求に打ち勝って駆けつけたお客への裏切り行為です。

残念セールはネットでも起こります。そこで残念な実例と、残念にしない手法を紹介します。

カタルシスを与える先着限定

先着100名様限定!

と銘打ったセールを1年以上続けている通販ショップが実在します。円高ユーロ安、そして資源価格の高騰前に仕入れた商品で、価格だけ見れば間違いなく「特価商品」ですが、残念な理由は「演出」の欠落です。

平時の価格を理解している買回り品でもなければ、「特価」の価値を知る客はまれです。そこで数量を限定する「先着」によって希少性を演出します。購入した客は「間に合った」と感じ、それはお得感と同義です。同時に、先着何名様とは、入手した客にカタルシスに与えるものなのです。ところが1年以上もセールを続けては「平常販売」と変わりません。購入者が再訪したときに覚える「ガッカリ感」が「残念セール」の理由です。

この場合、先着10名様など、すぐに完売する数字にしておくのが正解です。あるいは、売れ残っていてもセールの終了を告げることで、先に購入した客の満足感を維持することを優先します。

キャンペーンはズルじゃない

売れ残りの90個はどうしましょうか。そのまましれっとセールを延長するのも1つの方法ですが、こういう方法もあります。

次回入荷予定のご案内

メルマガを発行していれば、その登録を促し、Twitterならフォロワーになるよう誘導します。そしてもったいぶって「入荷のご案内」を発行します。これが「演出」です。実際に商品があっても、待たせることにより商品価値を高めるのです。

反対にまったく売れないのであれば、価格設定や需要の有無、コンテンツの説明不足など別の所に問題があります。本当に売る気があるのなら、これらを検討し、本気で売る気持ちがないのなら「家具屋の閉店セール」のようにそのまま放置し、ごくまれに騙されてやってくる客を夢見て過ごしてください。ちなみにこれは「残念セール」ではなく「平常営業」。家具屋の「閉店セール」は値引きしていないものが大半です。

嘘をつかずに完売とする方法

店頭に商品を山積みするリアル店舗と違い、ネットショップの場合は「数量」を簡単に演出できます。そこでこうした売り方をすることもできます。

毎週水曜日10台入荷予定!

毎週水曜日には「在庫アリ」と表示しておいて、金曜日には「次回入荷をお待ちください」に差し替えます。金曜日に差し替えるのは、土日の休みを取るためです。完売とも、売り切れとも表示していませんので嘘はありません。さらに厳密な表現を好むなら「入荷」を「販売」に変えればOK。お客に毎週の販売台数まで教える義理はありません。

ずるいと思うでしょうか。これを私は演出と考えます。お客様は商品だけに金を支払うのではなく、購入に至るプロセスや、プレミアム感を価値に加えるからです。

半額セールを改善する方法

広告代理店時代に、脱法すれすれの販促を何度も企画したことがある身として、冒頭のスーパーマーケットが、

朝市に来た客が夕方に来るわけがない

という確信犯ならば、ガッカリどころか「やるな」とつぶやき、ニタリと笑うことでしょう。残念に思うのは「演出」の精神の乏しさです。

最後に別のスーパーマーケットの話を1つ。こちらは牛肉の半額セール。同じく通常売価は平時のそれより高めの価格でしたが、半額シールにマジックでバツが付けられ、手書きで半額以下の価格が示されています。廃棄する寸前の「見切り品」で使われる手法で、閉店時間も近いからだろうと手に取りながらも、山のように積まれた牛肉にもったいないなあ、とつぶやきます。

翌朝、この店に足を運ぶと「見切り品」だったはずの牛肉が、そのまま手書きの価格で販売されています。そこで「消費期限」を見ると、通常の価格表示で販売されている商品と同じです。この手法は「二重価格(2年前の安田編集長の記事をご覧ください)」として、景品表示法に触れる可能性もあり読者に勧めるものではありませんが、私はニタリと笑い、いまもその店の常連です。ネットでの再現は難しいですが「手書き」もまた演出の1つだからです。

さて、冒頭のスーパーがマグロ半額を夕方まで行っていたことはよしとしましょう。最もガッカリしたのはPOPが「朝市」のままだったことです。つまり正解は「POPを外す」。たったそれだけのことを惜しむというか、気がつかないところが「残念」。そして今後、朝市を理由に散歩を途中でやめることはないでしょう。つまり「朝市」という希少性をみずから崩壊させた「残念セール」です。

今回のポイント

損して失望を売る愚

信頼関係を損なうセールにご用心

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