アドビとSAPが協業を発表 ―― ビッグデータ時代の2大企業による、マーケティングの再創造への挑戦

「Adobe Marketing Cloud」「SAP HANAプラットフォーム」「hybris Commerce Suite」が関連

「アドビとSAPがパートナーシップ契約、企業のデジタルマーケティングの分野において」――Adobe Summitで発表されたこのニュースに驚いた人も多いだろう。

マーケティングとクリエイティブの企業であるアドビ システムズと、情報システム部門や経営層向けの硬派な製品を提供するSAPが、どのように連携し、それが企業のマーケ担当者にどう影響するのだろうか。

Adobe Summitでの発表内容などを元に考えていく。

デジタルマーケティングの大規模カンファレンス「Adobe Summit 2014」初日の基調講演で、アドビのシャンタヌ・ナラヤン氏とブラッド・レンチャー氏は、過去を振り返り、次のように感慨深く語った。

10年前にパートナー向けイベントを実施したが、もっと小さな部屋だった。今年は、6,500人以上を収容する大規模会場で開催するほど、ビジネスが成長した。

これは顧客企業の課題解決のために、尽力をしてきたことが、受け入れられたためだ。

そして、さらなる「顧客企業の課題解決」の追求のために、アドビ システムズとSAPがパートナーシップ契約を締結したという、かなり大きな発表を行った。

両社が今回締結したのは、企業向けデジタルマーケティングおよびオムニチャネルソリューションのグローバルリセラー契約。これにより、SAPが同社のソリューションとともにAdobe Marketing Cloudを提供していくとともに、両社がパートナーシップに基づいた開発を進めていくとしている。

このパートナーシップに関連するのは、主にAdobe Marketing Cloudと、SAP HANAプラットフォーム、そしてhybris Commerce Suiteだ。

Adobe Summitの初日基調講演に、SAPのヴィシャル・シッカ氏が登壇した。

SAPといえば、企業がビジネス判断をより効率的により的確に行うための「エンタープライズ・アプリケーション・ソフトウェア」におけるマーケットリーダーだ。そのデータ管理などのサービスは、世界各国25万社以上の顧客企業で利用されている。

モバイル環境も含め、さまざまなシーンで利用されているSAPのシステムだが、その導入は情報システム部門が担当するのが一般的である。Web部門やマーケティング部門が中心となって導入・活用促進するアドビのマーケティング関連サービスとは、企業との接点という意味でかなり異なると思われる。

発表では、今回の統合で顧客企業が期待できるメリットとして、次のようなトピックを挙げている。

  • オムニチャネル・コマース
  • データドリブンなインサイト
  • エンゲージメントを高める顧客体験
  • 迅速・高精度なマーケティング

これ自体はアドビがこれまで進めてきたものと大きく変わらないように見えるが、アドビとSAPのパートナーシップがこうしたことをどう促進していくのか。Adobe Summitでの発表内容などをもとに考えていく。

登壇したSAPのヴィシャル・シッカ氏(プロダクト&イノベーション担当エグゼクティブボード・メンバー)は、次のように語った。

大量のデータを高速に処理して分析できるSAPのインメモリー・コンピューティング・プラットフォーム「SAP HANA」を利用している企業は、すでに4000社にのぼる。

SAP HANAは、ビジネスにインパクトをもたらす判断をより適切なタイミングで行えるようにすることを、その高速処理によって助ける。

そのSAP HANAとAdobe Marketing Cloudの統合の準備を進めている。これにより、あらゆるチャネルのデータを統合し、ビッグデータをビジネス活用することが実現できるようになる。

「SAP HANAの優れた性能により、業界全体を再構成し、CIOからCMOまで幅広いニーズを持つユーザーの潜在力を最大化できると考えている」と述べるヴィシャル・シッカ氏。

アドビ システムズについては、Web担の読者には詳しい説明は不要だろう。

デジタル・マーケティングの総合ソリューションとして同社が提供する「Adobe Marketing Cloud」は、フォーチュン上位50社のうち約6割以上など世界各国のマーケットリーダー企業が導入している。PCやモバイル向けのサイト構築・運営や、ユーザー行動の分析、広告やeメール施策の効果測定、そしてパーソナライズされた情報の配信などを複合的に実行できる統合ソリューションだ。

アドビのシャンタヌ・ナラヤン氏は、この統合の狙いを次のように説明した。

「オムニチャネル」のテーマに本格的に取り組むためだ。

「情報システム部門が持つデータ」と「マーケティング部門が持つデータ」を統合できるようにすることで、オムニチャネルを本格的に実現できる環境が整う。

もちろん、オムニチャネルを推進する目的は、多様化する顧客の環境に対応し、顧客とのエンゲージメントをより高めるためだ。

アドビはこれまでも、より高度なマーケティングを実現するためには、「CIOとCMOの連携」が極めて重要な課題であるというメッセージを、繰り返し発信してきている

しかし現実的には、情報システム部門とマーケティング部門がしっかりと連携できるような組織への変革は、なかなか進まない状況が続いていた。

今回のSAPとのパートナーシップ契約は、その具体的な解決策として進めたのではないだろうか。そうだとすると、アドビが正しいと信じて進んでいる方向性は以前から変わっておらず、一度掲げたビジョンに対して徹底的にそれを追及するアドビの姿勢が伺えるパートナーシップ契約の発表だと言えるだろう。

オムニチャネルという言葉をよく耳にするようになったが、その実現にはさまざまな障壁がある。

たとえば「データ統合」という点だけでいっても、Adobe Marketing Cloudのようなマーケティングソリューションと、基幹システムのデータの統合をするためには、かなり複雑な要件定義をしなければならないケースがある。

おそらく、顧客IDを軸にデータを連携させようと考えることが多いのだが、システムが複雑であればあるほど、また、データに含まれる情報の機密性が高ければ高いほど、そこに手を加えること自体が非常に難しくなる。

システム要件を徹底的に理解していたとしても、通常業務に影響を与えずに、そうした大きな変更を加えていくのは、簡単な意思決定ではない。

このような環境において、あらかじめプラットフォーム同士が連携を前提としていることの意味は大きい。マーケターのアイデアをよりスムーズに実現できる可能性が高くなるからだ。

また、SAPが2013年に買収したhybris(ハイブリス)のサービス「hybris Commerce Suite」が今回のパートナーシップ契約に含まれていることも、大切なポイントだ。

Eコマースのプラットフォームであるhybris Commerce Suiteは、2000万SKUを管理し、1日あたり50万件のオーダーも管理できる、エンタープライズクラスのEコマース製品。

なぜこれがポイントかというと、アドビはAdobe Marketing Cloudで「アクセス解析」「コンテンツ管理(エクスペリエンス管理)」「テスト&ターゲット」「ソーシャル」「キャンペーン管理」「アセット管理」などのサービスを提供しているが、そこにはEコマースに特化したサービスは含まれていないからだ。

「Adobe Scene7(シーンセブン)」という製品がAdobe Experience Managerに含まれているが、あくまでもECに強いクリエイティブの管理・配信のための製品だ。

hybris Commerce Suiteは以前からAdobe Experience Managerとの連携に対応しているが、今回のパートナーシップ契約によって、その連携はさらに強化されることだろう。

Adobe Summit 2014内のSAPが出展するブースでは、多くのマーケターが質問をしていた。
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