購買ファネル上流で行うマーケティングのメリット
より多くのオーディエンス(潜在顧客)がいて、競争が少ない――そんな場所を見つけるのは、実は、さほど難しくない。購入ファネルの少し上流で働きかければいいだけだ。
今回は、このほとんど未開拓の場所「購入プロセスの早い段階で、顧客や潜在的なオーディエンスに照準を合わせること」で得られる利点についてランドが説明し、自らの関心をまだ自覚さえしていない段階の潜在顧客に訴えかける方法を紹介する。
購買プロセスの「認知」よりも前の段階
おそらくみんなは、購入プロセスに関するさまざまな図表をすでに見たことがあるだろうし、マーケティングのセミナーなんかでも見たかもしれない。通常、購入プロセスは、認知のあたりから始まる。認知し、調べ、条件を設定し、業者を評価するという段階を経て、購入の決定を下すことになる。
ここでは、それよりさらに一歩前を考えてみたい。
僕たちは、買うかもしれない製品を認知するよりも前に、自らの興味関心を追求している。僕たちは自らの人生を生きている。
君も、携帯電話で退屈やスランプを追い払おうとしたり、インターネットで手当たり次第にサイトを見てまわったり、興味のあるものを追いかけたりするだろう。
自発的に行動することが何であっても、この「興味関心の追及」という段階が、通常、何かを認知するためのスタート地点となる。
まだはっきりわかっていない問題や事柄、投資したくなるかもしれないものを認知すること。こういった認知の出発点は、企業にも、個人にも、家庭にもあるだろう。
そこから「認知」の段階に入れば、「そうだ、僕には必要なものがある。このニーズ、この問題、この課題について調べてみよう」と認識し始める。
それから、少し調べてみた後で、もっと知りたい気持ちになったら、条件を考え、それに基づいて買うかどうかを決める。いくつかの業者を比較検討してから、購入することになる。
おわかりだろうが、これはファネル(じょうご)という概念で捉えるられることが多い。通常、上部には下の方よりはるかに多くの人がいるからだ。
ファネルの下のほうにいる人が少ないのは、何かあっても、それほど大きな問題ではないとして、調べる必要はないと判断する人もいるからだ。調べた場合でも、あまりに費用がかかりすぎると判断したり、あるいは調べただけで満足して何か他のことに移ったりすることもある。業者を吟味し始めても、どの業者も気に入らないといって、何も購入しない人もいる。それはそれでいい。
もっと上流で考えてみるべきこと
問題は次の点だ。SEOの世界では特に顕著だが、もっと広くインターネットマーケティングの世界を見ても、あらゆるマーケティング活動をこのファネルの底のほうで考えている。いちばん広く考えようとした場合でも、認知や調査の段階で考えるのが一般的だ。
「関心の追求」段階について考える人はまったくと言っていいほどいないが、ここでこそすばらしいことができるのだ。
マーケターやチームとして考えてほしい問いかけがある。
潜在顧客は、オンラインのどこで時間を過ごしているか
ウェブで何をしているか
誰の話を聞いているか
これらは幅の広い大きな問いかけだ。「認知が存在しない段階でも、認知を生み出せる」ということを教えてくれる。これは、多くの企業、中でも、商取引に特化しているわけではない企業が直面する「ブランド構築の課題克服」という挑戦だ。
次は、こんな問い掛けだ。
認知の段階に来たときに、潜在顧客がまず気になるのは何だろうか(あなたのビジネスに関連するトピックで)?
ここで考えるべきは、購入や条件、業者に関するものではなく、もっと手前の、広範なトピックに関するものだ。
さらに、調査の段階になると、こんな問い掛けがあるはずだ。
彼らは、選択肢や解決策をどのように見つけたいと思うだろうか?
すでに何らかの方法で見てまわっているかもしれない広範なリソースにはどんなものがあるだろうか?
この先に顧客が進んで、条件を決めて、業者の評価も終わってしまったら、どうなる? 手遅れだ。遅すぎるのだ。
この段階では、すでにだれもがSEOをやっている。あらゆるキーワードや用語、あらゆるリターゲティング、あらゆるコンテンツマーケティング活動が、すべてこの下流に集まっている。
認知や調査の段階にいるマーケターはごくわずかで、さらにその上となるとほとんどいない。だからこそエキサイティングなのだ。
なぜ初期の段階からターゲティングするべきなのか?
初期の段階からターゲティングすることのメリットは何だろうか?
1つは、競争が少ないということだ。前述のように、ここで活動している人はほとんどいない。
さらに、リンク機会が増えるというメリットもある。
なぜなら、下流で作成するコンテンツの多くは、販売が大きな比重を占め、プロモーション目的がはっきりしているので、リンクをたくさん呼び込めるむ可能性が低く、紹介する価値がないからだ。
これに対して上流の意識に当てたコンテンツならば、それを見た人がだれかに紹介する価値は抜群に高い。
ここでこそ、コンテンツマーケティングやリンクの獲得、ソーシャル共有が期待でき、そうしたリンクを獲得することのすばらしい効果が実際に得られる。それによってドメインオーソリティが高まり、すべてのコンテンツの検索順位を上げることができる。
となれば、次にコンテンツを作成するときも、ますます簡単になる。大きな丸い石が丘を転げ落ちるように。
また、プロセスの早い段階ほど、オーディエンスは多い。オーディエンスが多いということは、コミュニティを構築するのに格好の場所であるということだ。
プロセスの遅い段階でコミュニティを構築するのは難しい。不可能ではないが、早い段階に比べると非常に難しい。
では、デメリットは?
だが、これには課題もある。
評価するのがきわめて難しいということだ。ときには、実質的に不可能な場合もある。
実際、ファネルの上流で行う取り組みと、その結果として下流で現れる効果を完全に見極めるのは不可能だろう。何らかの偶発的な成果や、測定できない結果を受け入れる用意がなければならない。
だからこそ、競争は、はるかに少ない。
また、全体のコンバージョン率は低くなる。膨大な数の人をターゲットにするからだ。
Mozを見てほしい。Mozのオーディエンスでいうと、250万人、あるいはひょっとしたら300万人を超える人々が毎月ウェブサイトを訪れる。無料のトライアルを利用する人は、そのうちの0.5%にも届かない。僕たちははるか上流の「興味関心の追求」や「認知」や「調査」の段階に働きかけているのであって、ファネルの下流でただ待っているわけではないからだ。そのため、全体のコンバージョン率はものすごく低い。
さらに、こうした事情や、測定が難しいこと、成果の実に多くが偶発的なこと、そして全体のコンバージョン率が低いことなどから、このようなプロセスを上司や幹部、あるいはクライアントに受け入れてもらうのは、きわめて難しい。多くの人はただ「ノー」とだけ言って、やろうとしない。
でも僕は、多くの人が「ノー」と言っているところにマーケティング機会を見いだすのが大好きだ。
なぜかわかるだろうか? それは僕にとってチャンスがあることを意味するからだ。いくらでもミスができるし、完璧でなくてもかまわない。しかもそこには僕しかいない。すばらしいじゃないか。
具体的にはどういうこと?
そこで、これがどういうことかわかってもらえるよう、簡単な例を作ってみた。
僕、ランドが、ProBloggerのダレン・ロウズ氏からメールをもらい、オーストラリアに来て講演するよう誘われたとしよう。
オーストラリアなんて、はるか遠くの国だ。だけど行きたくなった。
ProBloggerのカンファレンスはとても良さそうだし、オーディエンスだって超クールだ。僕はブロガーたちが大好きなんだ。話をする相手として申し分ない。本当にすばらしいプレゼンができると思うし、これはすばらしい機会になる。
そういうわけで僕は行くことにしたが、オーストラリアでは、クイーンズランドで3日か4日のフリータイムをとるつもりだ。その間、何をしようか? どこへ行こうか?
そう、僕はすでにいくらか関心を抱いていて、やっていることもある。オーストラリアの観光についてはいくらか知っているし、クイーンズランドのプロジェクトで1つ特によく知っているものがある。
だから、僕はすでに多少の認知があるけれど、僕がふだんいる場所(ソーシャルネットワーク、技術関連イベント、技術やマーケティングのサイト)では、イベントに沿ったマーケティングをやるほど賢い会社は、なかった。
いや、1社あった。それはたしか、僕がユタ州で訪問した技術検索イベントのときで、そこではスキーやスノーボード用品、ゲレンデの運営を手がける地元の企業が、イベントと連動してサービスや割引といったものを行った。そのため、カンファレンスに来た人はこぞってそのスキーやスノーボードのイベントに出かけた。これはきわめて賢いやり方だ。レンタル料で臨時収入がたくさん得られたからだ。とにかく、本来ならオフシーズンのような状況だったから、非常に賢いやり方だ。
だが、ソーシャルネットワークや技術関連イベント、技術およびマーケティングサイトといった場所は、一般に休暇中の過ごし方に関する情報が提供される場ではない。
僕が早い段階で抱く疑問は、こんなところだ。
- 季節はいつがいい?
- 天気はどうなる?
- 電源の変換アダプター、通貨、予想される物価など、通常の旅行に関する問題は?
- チップの習慣は?
どれも、すべて旅行に関してよくある疑問だ。米国西海岸からオーストラリアに向かう航空会社についても知りたい。
さて、僕にはこんなに疑問があるのに、答えてくれるところはびっくりするほど少ない。
たぶん、結局のところこういった種類の情報が得られるのは、ホテルのウェブサイトが1つか2つあるぐらいだろう。そこで僕は、他の場所で調べなければならなかった。
こういった潜在的な選択肢を見つけるのに役立つ場所は、すでにある。
- クイーンズランド観光局
- ホテルやリゾートのリスト
- 旅行関連の情報集約サイト
- ブログ
- 掲示板
といったところだ。
ここまでくると、多くのマーケターたちが英知を発揮し出すのがわかる。彼らはここ、つまり調査の段階にはすでに手を伸ばしていた。
しかし、あなたが、キーワード、ウェブサイト、コンテンツ、ソーシャルアカウント、潜在的インフルエンサーなど、あらゆる種類のユーザーや機会について、ファネルの下流ではなく上流で考え、マーケティング活動に努めるならば、ファネルの下流に多大な影響を及ぼすことができる。それも、競争がはるかに少なく、たいていはオーディエンスがはるかに多い状況でだ。
だから、みんなの中からもSEOやソーシャルやコンテンツの取り組みにおいて、ファネルの少し早い段階を考慮する人が出てきてほしいと思っている。
ソーシャルもやってます!