IoTで変わる人々の「時間」の使い方とエクスペリエンス・デザインの背景
〈エピソード1〉自動運転サービス
2027年、晩秋。
リニア中央新幹線で出張先の名古屋から東京の品川駅に戻った小笠原教授は15時30分からの経済学部の講義に間に合うように大学がある渋谷区に向かった。移動手段は今回も日米のIT企業が合弁で設立したウトロ社が運営する自動運転サービスである。
「Drive-Pod」と呼ばれるウトロ社の自動運転車にはハンドルやアクセルがない。インテリアはいたってシンプルだ。2座の黒革張りのベンチシートとダッシュボードにあたる位置に17インチのワイドスクリーンの画面があるだけである。従来の自動車に比べると足下の空間が広いため、リビングのソファが急に走り出すような感覚と例えられることもある。
品川駅から大学到着までの30分は貴重な時間だ。助手から送られているはずの講義スライドの最終チェックをしよう。シートの中央の肘掛けの下にあるコネクタにスマートフォンを繋ぎ、秘書アプリ「パーソナル・アシスタント」を立ち上げる。画面の右上に擬人化されたコンピュータエージェントが現れ、小笠原教授と対話型で仕事をこなして行く。
講義スライドを画面上でスクロールし、講義の流れをシミュレーションする。何箇所か説明不足のページがありそうだ。エージェントがインターネット検索したいくつかの企業のケーススタディを新規のスライドにレイアウトし直して講義スライドに追加しておくように指示を出しておく。
自動運転サービスでは配車されるクルマはその都度違うが、どのクルマも小笠原教授の好むルートを熟知している。今日も泉岳寺前のクランクを抜けて魚籃坂を下り、恵比寿3丁目を経由してプラチナ通り(外苑西通り)に入った。銀杏並木の紅葉が始まり、晩秋の青空に美しく映えている。
ところが、今日はいつもと違う事件が起きた。天現寺交差点の手前に差し掛かった時、画面に「事故発生」のアラートメッセージが突然、表示されたのである。台数比率で言うと50%以下にまで減少した「手動」運転車同士の衝突事故のようだ。続いて画面には複数のアングルからの事故の鮮明な映像が5秒単位で次々と映し出されている。これらは約2キロメートル先を先行している別の自動運転車の車載カメラから送られて来たものだ。この先の明治通りではすでに渋滞が始まっており、「通過予想時間30分」の文字が小笠原教授の目に飛び込んでくる……。
それから約10分後、キャリーバックを研究室にデポした小笠原教授は講義が行われる教室に向かっていた。
自動運転車は瞬時にいくつかの代替ルートを提案し、小笠原教授はためらうことなく時間最優先のルートを選択した。それは住宅地の狭い路地を抜けるルートで、必ずしも快適なドライブではなかったが、大学には予定時間通りの到着となったのは不幸中の幸いであった。通過したルートの走行データも後続の自動運転車に活用されているかもしれないし、今後、同じような状況になった時に再び利用することになるかもしれない。たとえ、小笠原教授がどういう道順だったかを再現できないとしても。
『IoT時代のエクスペリエンス・デザイン』
企業が立ち向かうべきもの
デジタルのテクノロジーの進化では泣く、お客さまの気持ちや行動の変化、つまりエクスペリエンスそのものの進化である。
企業はIoTに適応する前提として、マーケティングを企業主語の発想からお客さま主語の発想へと転換しなければならない。これは同時に、組織運営や企業文化の刷新を含む、大がかりな改革(企業の体質改善)を意味するのである。
エクスペリエンスは「場」から「時間」へ
生き残りのために、すべての企業はIoTで武装したハイテク企業へと業態を変革する必要に迫られる
もはやモノとモノの戦いではない
既存のサービス業はもちろんのこと、すべての製造業は新しい形のサービス業へと形を変える。
AIによるビッグデータ活用とアナリティクスにより、お客さまの近未来のエクスペリエンスの予測と改善提案が企業のサービスの根幹として提供され続けることになる。
いずれにしても変化の激しいマーケットでは市場の競争ルールをその手にしたものだけが生き残るのだ。
エクスペリエンスとエクスペリエンスの戦いになる
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