検索ボリュームの調査でGoogleキーワードプランナーの数字を盲信してはいけない(前編)
検索エンジンでのキーワードごとの検索ボリュームを調べるならば、いまやGoogleキーワードプランナーは外せない。しかし、キーワードプランナーが示す数字は、使い方によっては実は不正確なことがしばしばあり、それを盲信するべきではないことを、ご存じだろうか。
「緻密かつ包括的なSEO向けキーワードツール」――ランドがそう呼ぶ素晴らしいプロジェクトの中心に、僕は飛び込んだ。2015年8月に、Mozに仲間入りした直後だ。才能豊かな開発者やデザイナー、データサイエンティスト、プロジェクトマネージャーからなるチームで、ランドの壮大なビジョンに挑んだのだ。
僕は、自分が得意な分野のプロジェクトに参加したいと思っていたから、MozのサービスであるKeyword Explorerの「Volume」指標を担当できると聞いて、すぐに飛びついた。僕のなかでは、この仕事のオファーを受けた瞬間に作業は終わっていた。すでに膨大な数のキーワードデータベースを管理していたし、クローリングのためのプラットフォームも準備ができていた。あとは、相互に連携させるだけで完了だ!
仲間からのプレッシャー
最初は気づきにくかったし、決して直接的に示されたわけではないが、Mozが問題に対処するやり方はどこか違っていることがすぐに明らかになってきた。僕には常に怠惰な現実主義者という一面があり、ハンマーが必要なときは、手近なところで代わりに使える固いものを探そうとする。迅速に目的に近づくという意味では有益な能力だが、数か月をかけて何かにじっくり取り組もうとする場合には少々マイナスだ。
Mozは、ハンマーの代わりになるものを探していたわけではない。求めていたのは完璧なハンマーだ。指標やボタン、ワークフローなどを綿密に検討していた。Keyword Explorer内でキーボードショートカットをExcelと同じに揃えられないかという、とんでもなく現実離れした議論が闘わされていたのを覚えている。
僕は最初、Google AdWordsのキーワードプランナーにおける検索ボリュームのクローンとも言うべきものを携えて企画会議に出席したのだが、見通しが甘かった。みんな礼儀正しかったが、「以前より良い物になっていないじゃないか」という思いは伝わってきた。
Mozのツールは、より優れたものでなければならないのだ。ときに仲間からのプレッシャーを受けるのもいいものだ。
悪い点がなければ、直す必要はない。
当然ながら、ボリュームのデータが正確かどうかを最初に聞いてきたのはランドだった。僕の答えは、またまたあの怠惰な現実主義者のものだった。
手に入る最良のものだよ。
それから他の人たちも、次々に同じようにもっともな質問をしてきた。
- このデータでユーザーをどう分類するのか。
- 量はどれだけあるのか。
- すでに顧客が無料で得られているものを提供する理由は何か。
すっかり意気消沈した僕は、今は細かい点にこだわるべきときだと肝に銘じ、「どこが悪いんだろう?」と問いかけることから始めた。
これこそが、Googleキーワードプランナーのデータにまつわる多くの問題について概説し、その隠された不公正さを論じた記事へと発展していく調査の推進力となったきっかけだった。ここでは詳細を省くが、「なぜランドが正しかったのか」「キーワードのボリューム指標に関する従来の考え方に対して、なぜ僕たちがストップをかける必要があったのか」について背景を知りたい人は、上記の記事を見てほしい。
ここでは、懸念を1つだけ挙げよう。それは、次のようなものだ。
Google Adwordsでは、検索ボリュームを大まかな区分で分けているが、ユーザーにはそのレンジ(範囲)がわからない。
問題があるとわかったら、そのときは細部にこだわるべきだ!
もはやグーグルの数字を鵜呑みにすることもできず、根拠のある正しいデータとみなすこともできない。
それがわかったからには、次のようなことを問いかけなければならない。
検索ボリュームという指標によって明らかにしたい基本的な問題は何なのか?
Keyword Explorerに取り組んでいる多くの同僚と協議し、優れた検索ボリューム指標が備えるべき4つの特性を明らかにした。
適正な精度
優れたボリューム指標の中核となる特徴は、実際の平均検索ボリュームを忠実に反映するものであることだ。ボリューム数は可能な限り現実に近づけたい。
カバレッジ(網羅率)
ボリュームは月によって異なるため、すべての月の平均を反映するだけでなく、各月の特異性も示すものにしたい。優れたボリューム指標は、1年全体を12で割るだけでなく、月ごとに妥当な予測が得られるものでなければいけない。
変化への適応
優れたボリューム指標はトレンドを考慮に入れ、それまでの12か月とは異なる統計的に有意な変化に適応する。
関連付け
優れたボリューム指標では、ボリュームが同じ水準のキーワードを相互に関連付けられるようにする必要がある(グループ化など)。
これら4つの特性を実際にGoogleキーワードプランナーに当てはめてみると、その弱点がわかる。
適正な精度 ―― グーグルのキーワードボリュームは、1か月ごとの概数を単純平均したものを、さらに1年ごとに単純平均した概数だ。
カバレッジ ―― ほとんどのキーワードでは、月間平均検索が正確な月は、1年うちのわずか33%にすぎない。ほとんどの月では、実際のボリュームは月間平均検索とは異なるボリューム区分になる。
変化の反映 ―― キーワードプランナーが更新されるのは月に1回で、平均に予測値は示されない。話題になっている新しいキーワードは、月間平均検索の中で実際のボリュームの12分の1にしか見えず、しかも30日たたないと表示されない。
関連付け ―― キーワードは84種類のボリューム区分のうちの1つに分類するのだが、分類がどのようになされているかについては説明されていない(単純な対数曲線に沿っているように見える)。
なぜ僕たちが懸念を抱いたか、おわかりだろう。数字は個々の実態を示すものではなく、範囲はほとんどが誤りといってよく、更新は定期的だとはいえ頻度は十分ではなく、グループ化も適正ではない。だから、僕たちは自分で作り上げなければならず、問題に全力で取り組み始めた。
適正な精度とカバレッジのバランスを取る
想像はつくだろうが、「適正な精度」と「カバレッジ」は、相反する。ボリューム範囲が狭いほど精度は高まり、カバレッジは狭くなる。範囲が広いほど、精度は低下し、カバレッジは広がる。
- ボリューム範囲が「0~10億」の1つだけなら、精度は最悪で、カバレッジは完璧だ。
- 数百万に区分したボリューム範囲があれば、精度は完璧だがカバレッジは無となる。
僕たちは重み付けやパラメータを考慮して、可能な限り最適な設定を見出した。これにはもっと手早くできる数式がきっとあるとは思うが、僕は頭がよくないので、「力ずく」という一番好きなツールを使った。考え方はシンプルだ。
Googleキーワードプランナーが提供している検索ボリュームデータの範囲の最大値と最小値を取得する。たとえば、「0~10億」とか。
次に、妥当な数の範囲(10~25個など)をテストしていって、いくつかの任意の範囲に分割する。本棚に並べた書籍の間に、任意に仕切りを置いていくことを想像してみよう。僕たちがやったのはそれと同じことだ。ただ、書籍をキーワードボリューム数に置き換えただけだ。
精度(キーワードの実際の月間平均検索数と、範囲の最小値と最大値の平均との差)の重要度に重み付けを割り当てる。たとえば、年間平均に近いならば、重要度80%といったところだ。
カバレッジ(過去1年の任意の月が範囲内に収まる可能性)の重要度に重み付けを割り当てる。たとえば、各月平均に近いならば、重要度20%ぐらいだ。
任意に選択した範囲に対して、任意に選択したキーワード10万件とそのGoogleキーワードプランナーのボリュームをテストする。
過去12か月の概算平均ではなく、過去12か月の実際の平均を使用する。
これを、任意に選択した数百万の範囲に対して行う。
成績上位の中から勝者を選択する。
実行には数日かかった(やればやるほど、新たな勝者を発見する頻度は低下した)。精度へのダメージを可能な限り最小限に抑えながら、最終的に20種類の範囲(グループ化や表示のために切りのいい整数)に落ち着いた。カバレッジ率は、すでにあるGoogleキーワードプランナーデータの2倍以上になった。
これがどう便利なのか、例を挙げてみよう。「baseball」(野球)というキーワードを考えてみる。野球のシーズンは長いとはいえ、かなり季節的なキーワードだ。
上の例でいうと、「Baseball」のグーグル平均月間検索ボリュームは36万8000件だ。これをカバーする範囲は約33万~41万件となっている。おわかりのように、この範囲では12か月のうち3か月しか収まらない。Mozの範囲は12か月のうち9か月をカバーしている。
これはどういうことを意味するのか:
来年に向けてPPCおよびSEOマーケティングを計画している小売業者が、Googleキーワードプランナーで示された36万8000という数字に基づいて予測を立てるとしよう。
すると実際には、1年のうち8か月は平均を下回ることになる。ひどい話だ。
しかしMoz範囲なら、最小値を「ワーストケースシナリオ」として使用できる。Moz範囲なら、トラフィックが平均を下回るのは1年のうち2か月だけだ。
正確な平均値が得られることがほとんどないとわかっていながら、正確な平均値が得られているとみなしていい理由はない。
この記事は、前後編の2回に分けてお届けする。今回は、優れたボリューム指標を形成する4つの特性のうち、適正な精度とカバレッジのバランスについて説明した。後編となる次回は、「関連付け」と「変化の反映」をどのように向上させるかを紹介する。→後編を読む
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