マーケティングオートメーションは5年後には消える――MarketoのCMOが語るマーケティングの本質
昨今話題の「マーケティングオートメーション(MA)」だが、米国では、すでにその言葉はあまり使われなくなっているという。
- MAはバズワードなのか、5年後には消える運命なのか
- マーケターやマーケティングの定義や役割とは
- エンゲージメントとは何か
- CMOという役割は日本でどうなっていくのか
- 経営層にマーケティングの重要性を認識させるには
―― MAとマーケティングの本質について、マルケトCMOのチャンダー・パタビラム氏に聞いた。
マーケティングオートメーションはバズワードか
――日本では、いまマーケティングオートメーション(MA)が盛り上がっているのですが、この呼び方も数年後にはなくなるのでしょうか?
「MA」という用語は、一過性の用語でしょう。徐々に「デジタルトランスフォーメーション」「カスタマーエクスペリエンス」のような言葉が取って代わり、もしかしたら5年後には「MA」という言葉を使う人がいなくなるかもしれません。
実際、ガートナーやフォレスターといった調査会社は、「MA」を含んだ顧客コミュニケーションの仕組みを指すのに「デジタルマーケティング・ハブ」という表現を使い始めています。
――MAのツールを提供していると一般的に認識されているマルケトですが、MAはどのような位置づけですか。
MAは技術の分類を表した用語だと思っています。あくまでも技術分野のことを指す表現です。
- BtoBやBtoCでエンゲージメントを高める
- 見込み客に情報提供して購入に至るまでのパイプラインを作り営業に引き継ぐ
といったマーケティングを実現するために必要な技術の1つのカテゴリとしてMAがあると思っています。
マルケトはMAツールの会社だと思われているかもしれませんが、我々が目指しているのは、マーケターが顧客の体験を大きく変えられる「デジタルトランスフォーメーション」です。そのための技術的な手段として、MAを活用しているのです。
マルケトが考える「マーケティング」や「マーケター」の役割
――マルケトが対象にしている「マーケター」とは、どういう仕事をする人のことですか。また、「マーケティング」をどう定義していますか。
「マーケティング」や「マーケター」には、次の3つのタイプがあります。
アドバタイジングマーケティング
これはブランドの認知度を上げるのが主な仕事です。すなわち、媒体に広告を出し、ブランドの認知度を上げるのが仕事のマーケターがいます。
デマンドマーケティング
需要を作り出し、パイプラインを起こしてそれを営業側に引き継ぐという仕事です。これに責任を持つタイプのマーケターがいます。
プロダクトマーケティング
プロダクトに特化したマーケティングをメインに行うタイプのマーケターがいます。
この3つのタイプのうち、我々がフォーカスしているのは2番目の「デマンドマーケティング」です。需要を作ってパイプラインに発展させ、営業に引き継ぐというタイプのマーケターですね。
顧客とのエンゲージメントを高めることがマルケトのビジョン
――マルケトのビジョンとフィロソフィを教えてください。誰がどうなるためのサービスを目指しているのでしょうか。
我々のビジョンは、次の2つのことについて、マーケターをデジタルプラットフォーム上で支援することです。
- 常に顧客の視点に立ち、顧客に寄り添うこと
- 顧客と長期的な関係を築くこと
具体的には、顧客がどこにいて、どのようなチャネルを使っていても、常に顧客の声に耳を傾けることができるようにします。
そして、さまざまなチャネルでの顧客の振る舞いから、エンゲージメントを深めて1対1のコミュニケーションを築けるようにします。
それを、ウェブだけでなく、モバイル、Eメール、ソーシャルメディア、ウェアラブル端末などすべてのチャネルで、1か所に統合された形で実現できるようにしようと考えています。
――ソーシャルメディアでは、「いいね!」やコメントのようなユーザーのアクションのことを「エンゲージメント」と言いますが、ここでいうエンゲージメントはそれとは別の意味合いですか。
我々の言うエンゲージメントは、顧客の行動をきちんと理解し学んだうえで、パーソナライズされた形でコミュニケーションをとるという意味で使っています。
それはソーシャルなど、1つのチャネルに限られたものではありません。複数のさまざまなチャネルにわたって企業と購入者のコミュニケーションを実現することを意味しています。
具体的にBtoBでたとえると、「あるものに関心を持っているが、まだ購入には至っていない」人がいたとします。
その人が金融機関に勤めていると、BtoB企業側では把握できているとします。
その人が情報収集のためにBtoB企業のウェブサイトに来たときには、サイト上では金融業界関連の情報や事例などを表示して、その人のウェブ上での体験をカスタマイズします。
さらにウェブを離れた後にも、Eメールで情報提供します。もちろんメールの内容は、誰にでも当てはまるような内容ではなく、その人にとって金融業界関連の情報やウェブで興味を示した内容をフォローするような、意味のある内容のメールを送ります。
このように、最終的に「買う」という判断に至るまで、パーソナライズされたコミュニケーションをさまざまなチャネルで行い情報提供し続けることで、見込み客を育てていきます。
そして、その人が「購入しよう」というシグナルを見せたら、営業の部署に引き継ぎます。
これを実現しているいい例がパナソニックです。マーケティングがニーズを掘り出してそれを営業に引き継ぐという流れで、年間総額2億ドルの商談を生み出しています。
BtoCの場合でも同様です。消費者のライフサイクルによってさまざまなステージがあるので、その段階ごとに、パーソナライズしたコミュニケーションをさまざまなチャネルで行うことで、消費者のエンゲージメントを深めていきます。
ライフサイクルにあった顧客体験を作り、中長期的に売り上げをドライブするのがCMOの役割
――日本ではCMOはまだ少ないのですが、CMOとは何をする人だと捉えればいいですか。
いまの世の中で、マーケティングは顧客に最適な体験を創造し、新規受注や優良顧客への育成やサービス改善など企業活動の鍵として、重要な役割を担っています。
その理由は、売る人と買う人の力関係が変わっているためです。今は買う人の力が強くなっていますから、どちらの重きを置くべきかといえば、当然売る側ではなく買う側です。
CMOはお客様の体験、それも一時的なものではなくライフサイクル全体の流れの中での体験を左右する重要な役割を持っています。
ですから、日本で今はその数が少ないとしても、これから増えていくでしょう。
日本に限らず世界中どこでも、マーケティングは今後の会社組織の中で一番重要な役割になってくるはずですから。
――とはいえ、日本では経営層がマーケティングを理解していないことが多いのではないかと思われます。そういう組織でデジタルマーケティングを推進するには、何が重要でしょうか。
そのためには、マーケティングがコストセンターではなく、売り上げに貢献するようなプロフィットセンター(利益を生み出す場所)であるように役割・責任を変えていく必要があります。
マーケティングによって売り上げが上がり、顧客に対してライフサイクルごとに影響力を行使できるのであれば、経営層もマーケティングの重要性を理解してくれるでしょう。
先ほども挙げましたがパナソニックがいい例です。「年間2億ドルの商談を創出している」といった経営者の理解しやすい数字で役割を示せるようになれば、マーケティングがコストではなく、レベニュードライバー(利益を生み出す担い手)であると、CEOも認識するでしょう。
――最後に、読者へのメッセージをお願いします。
最後に伝えたいのは、
マーケティングはストラテジーファンクション(戦略的な役割)にシフトすべき
ということです。
これまでのマーケティングは、サポートファンクション(補助的な役割)でした。しかしこれからのマーケティングは、ストラテジーファンクション(戦略的な役割)でなければなりません。
――ありがとうございます。
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