フェイクニュースの見破り方――Web・広報担当者が押さえておくべき基本
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の494
超嘘ニュースと指摘
今すぐ、今年のネット流行語を決めたなら間違いなく「フェイクニュース」が入賞するでしょう。いわゆる「嘘ニュース」「デマ情報」を指し、米国大統領選挙期間中、数多くのフェイクニュースが流布され、それがトランプ大統領を誕生させたというフェイクニュースまで流通しています。このように断定できるのは、米国のSNSをたどれば各種報道と違う熱い「トランプ支持」を確認できるからです。
トランプ大統領はCNNを名指しでフェイクニュースと呼び、記者会見でCNNの記者に発言を問われた大統領は、「違う」と否定した後に「超フェイクニュース(very fake news)」だと上書きしてみせます。
フェイクニュースは対岸の火事ではありません。「実際にありそうで実は存在しない」ネタを掲載するジョークサイト『虚構新聞』のことでも、忌まわしき「Welq」でもありません。すでに大手メディアが堂々と拡散しています。
今回はフェイクニュースをめぐるトリビアと、その見破り方を紹介します。
マスコミの体質をチェックに利用
大統領選挙における代表的なフェイクニュースは、次のようなものでしょうか。
ローマ法王がトランプ氏を支持
ヒラリー・クリントンのメールサーバー疑惑を調査していたFBI捜査官が自殺
それぞれグーグルニュースのヘッドラインを飾り、Facebookでは数十万件単位で拡散されました。前者は「WTOE 5 News」、後者は「The Denver Guardian」という嘘ニュースサイトによる仕業です。
フェイクニュースを見破る方法は簡単です。たとえば、ローマ法王のデマ記事には「バチカンがリリース」とあります。ならばリリースを入手した他のメディアも報道しているはず。ニュースの見出しでググって、別の媒体からの報道が見つからなければ「怪しい」と留保します。マスコミの「横並び体質」を逆手に取って確認するのです。
注意しなければならいのは、個人ブログやキュレーションサイト(もどき)。これらのサイトは「噂」を「噂」として伝え、デマをそのまま拡散します。チェック対象から外すか、かならず本文で確認しなければなりません。
フェイクニュースの目的
さて、フェイクニュースは誰がなんの目的で作るのでしょうか。
過去にはトランプ氏がロシアのプーチン大統領に弱みを握られているという前提に基づき、「トランプ氏に有利に働くフェイクニュースが、ロシアの情報機関により捏造された」という、これまた根拠があやふやな情報がありました。
しかし、米国のWebメディア「BuzzFeed」は、マケドニア共和国に住む10代の若者たちが、金儲けのためにフェイクニュースを制作していると伝えます。
フェイクニュースの裏にあったのは陰謀や政治的背景ではなく金儲け。トランプ有利というネタのクチコミ効果が高かったという理由です。
19世紀のフェイクニュース
法令遵守を課せられた上場企業が、金儲けのためにデマの拡散に加担した「Welq事件」を見れば、我々がマケドニアの若者を叱ることもできませんが、今後もフェイクニュースが撲滅されることはないでしょう。
1989年におきた「珊瑚落書き事件」などは、報道を担う朝日新聞所属のカメラマンの捏造によるフェイクニュースです。
これほどまでに『フェイクニュース』にあふれた記事が出現することを誰が予想しただろうか
と嘆くのは、1896年のアイオワ州の新聞「ダベンポート・デイリー・リパブリック」の論説記事です(2017年2月28日読売新聞「偽ニュース席巻 120年前にも」より引用)。フェイクニュースは今に始まったことではなく、いつの時代にもあるものと諦め、そして見破る力が求められます。
さらにネット時代となり、既存メディアがネットを理由にフェイクニュースを拡散しています。
事実をすり替えるメディア
麺をすする音は外国人にとって不快。だからそれはヌードル・ハラスメント(いやがらせ)、すなわちヌーハラだ
とするフェイクニュースがあります。
発端は、あるツイッター民による論拠やファクト(事実)の一切ない、Togetterのまとめ記事です(現在は削除)。当初、あまりの妄想ぶりにネット民が嘲笑していたに過ぎないできごとでしたが、「ネットで話題」と某教育系出版社のWebサイトが紹介したことでデマが広がります。さらに出版社から記事提供を受けていた毎日新聞のサイトが転電し、これらの報道をもとにテレビ各局が報じたのです。
この件は、発端となったデマがすでに削除されたことで「火元」にたどり着くことが困難な上に、「報道された事実」という、事実のすり替えを論拠として各方面でいまでも拡散されています。これは単純な検索では見つからない「中ボスレベル」のフェイクです。
集合知はあなどれない
あるジャーナリストはフェイクニュースの日本上陸を懸念していました。しかし、懸念は杞憂です。日本のネット界には「鬼女」がいて、たちどころにフェイクニュースだと暴かれてしまうからです。
鬼女とは「2ちゃんねる」のスレッドの1つ「既婚女性板」から転じた「ネット民の総称」です。男女を問わず有名無名のネット民が、わずかな情報を集積し、仮説と検証を繰り返しながら、野次馬精神をそのままに真実を暴いていくことから「特定班」とも呼ばれています。
中ボスレベルのフェイクニュースを見破るには、該当キーワードと「嘘」や「デマ」を組み合わせて検索すること。ヒットする内容は、個人のブログや「まとめサイト」が大半ですが、時系列で「証拠」が並べられているので、フェイクかどうかを判断するには十分な情報を見つけることができます。
ヌーハラ以外でも「ネットで話題」という切り口のフェイクニュースが数多く確認されています。仮に自社の製品サービスのあらぬ噂が立ったのなら、それが真実か嘘か見抜いた上で対応することが求められます。これに釣られるのは、Web担当者としては少し恥ずかしいこと。くれぐれもご注意ください。
今回のポイント
マスコミの横並び体質を利用する
そのマスコミがフェイクを拡散していることもある
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