DMPを導入して何が変わったんですか? アイティメディア、イード、ぴあ国内3社の事例をまとめて公開
DMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)という言葉はよく耳にしても、具体的にどのように企業活動に活用しているかはあまり聞かないのではないでしょうか?
ここでは、プライベートDMPを提供するシーセンス(Cxense)が5月に開催した「第5回シーセンス・ユーザー事例セミナー」から、国内のメディア企業3社のDMP活用事例を紹介します。
あらゆる業態でデジタルシフトが進むなか、メディア企業(パブリッシャー)における従来のビジネスモデルは収益が落ちています。
シーセンス COOのビグレッグ・タックル氏は、「新しく生まれたデジタル広告とサブスクリプション(購読契約)の売り上げを足しても、紙の売り上げ減少分はカバーできていないのが現実」と説明します。
そんななか、DMPを導入したことで成果を上げている国内のメディア企業の取り組みを紹介します。
事例1アイティメディア
ユーザーを深く知ることで正しい対応を迅速にできる
テクノロジー系の専門情報媒体であるアイティメディア。同社メディア・テクノロジー本部 データ・ソリューション統括部の後藤健太郎氏は、「Webメディアが抱える課題をどのように解決し、メディア価値の向上に取り組んでいるか」を紹介しました。
後藤氏は「現在オンラインメディアには3つの課題がある」と指摘し、それぞれの課題の解決にDMPの導入が役立っているといいます。
その人に適切なコンテンツを提供できているか?
フェイクニュース、ステルスマーケティング、WELQなどの問題でメディアへの不信感が高まっています。これに対しアイティメディアでは「記者、編集者同士で確実にチェックを行う体制を整え、信頼を得られるよう努力している」と話します。
信頼性を担保したうえで、さらなる信頼を勝ち取るために、同社は次の3つのデータを活用しています。
- コンテンツデータ: 「人間では気付けないキーワード」を抜き出してコンテンツを分析
- パフォーマンスデータ: コンテンツを表示した回数や見た人、場所など細かい視点で分析
- オーディエンスデータ: 読者の属性や行動履歴から「どこの誰が何をしたか」を分析
「IPアドレスをもとにした企業情報など、DMPで得られたデータにサードパーティデータを加えれば、さらに詳細な分析ができる」と後藤氏は説明します。
DMPを使うと、コンテンツに反応しそうな人を簡単に洗い出せます。その人のプロファイルと、CRMに入っていない外部データとも合わせてさらに読者をセグメント化します。これをくり返せば、コンテンツに確実に反応する人をセグメント化できます。マッチングを高めることにより広告配信のパフォーマンスも330から400%向上しています。(後藤氏)
タッチポイントごとに想定どおりの「おもてなし」ができているか?
ユーザーの環境変化を見極めて媒体の品質を維持することも課題です。媒体の品質とは、「訪問者が期待する体験を与えられているか」ということです。同社では次のことをチェックしています。
- 釣りタイトルになっていないか
- ニュースや連載など、構造に合った閲覧行動になっているか
- 閲覧されるコンテンツのバランスは想定内か
多様化するタッチポイントに対応するために流入元の違いによる読者行動を把握し、タッチポイントごとに適切なコンテンツ配信ができているか、そのうえでタッチポイントごとに「おもてなし」ができているかもチェックしています。
たとえば「滞在時間」と「スクロール深度」のデータを掛け合わせた指標を設定し、こちらが想定したように読まれているかをチェックしています。(後藤氏)
今、何が起きているか? TVモニターに分析結果をリアルタイム表示
最後の課題が、変化への迅速な対応です。これまでのページビューだけでは状況把握には足りず、しかもすぐに集計できないという問題がありました。シーセンスのDMPは集計結果がリアルタイムにわかるという特徴があるので、読者のふるまいデータの分析結果をリアルタイムで見られるようになりました。
大型のTVモニターを各部署に置いて、そこで「各種KPIがどれくらい達成されているか」をリアルタイムに見られるようにしています。これはすごく効果的だと感じています。(後藤氏)
後藤氏は「APIを使って閾値を超えたKPIのアラートをSlack(ビジネス向けのチャットツール)に通知し、担当者が素早く対処できるようにしている」と説明します。
「成功も失敗もたくさんあるが、いったん成功すればそれをまた利用できるのもデータ活用のいいところ」だと後藤氏は説明します。「勝ちパターンを見つけて再利用する」取り組みをサポートしてくれるのがデータ活用だといいます。
事例2イード
DMPを自社のメディア運営+他社への広告商品に活用
総合自動車ニュースサイト「レスポンス」をはじめとする各種メディアを運営するイードは、40を超えるニュースメディアを独自のCMSで一括管理しています。そのなかで、どのようにシーセンスのDMPを活用しているかを紹介しました。
同社は、まず2015年にスポーツニュースメディア「CYCLE(サイクル)」にシーセンスを導入し、それがうまくいったことで2016年5月から全社規模で利用を開始しました。
同社メディア事業本部 第2編集ユニット レスポンス編集部 媒体統括の宮崎紘輔氏は、「DMPを利用して新しい施策を考える際には次の3つの柱がある」と説明します。
- ユーザーの理解・新規獲得
- ページビューの向上
- マネタイズ
Twitter投稿を自動化して流入300%アップ
イードでも実績のある自動車ニュースサイト「レスポンス」では、1ページでも多くコンテンツを読んでもらうために、記事本文からキーワードを自動抽出して、自動でハッシュタグを付けてTwitterに投稿する仕組みを構築しています。これはシーセンスがページのコンテンツを分析したデータを利用しています。この施策は成功し、Twitterからの流入は300%増になったといいます。
まず3、4年分の記事データで流入の状況を分析して「いつ、どのように流入するか」の予測を立てました。その結果をもとに、まるで人が行っているかのようなソーシャルの投稿を自動で行っています。(宮崎氏)
「リツイートや『いいね!』の数は、自動化しても維持できることがわかりました。まだ改善の余地はありますが、シーセンスを使った自動化で、SNSに関してはまだまだ成長させられます」と宮崎氏は説明します。現在は過去記事も対象にして、ハッシュタグを付けTwitterへの投稿を行っています。
コンテンツ内容を分析したレコメンドで回遊率を163%に向上
回遊率を上げてページビュー向上につなげる施策としては、記事の内容にマッチしたコンテンツのレコメンドをDMPのデータを使い表示しました。これにより、回遊率は163%、ページビューも132%に向上しました。今後は、記事の内容だけでなく、記事を読んでいる「人」にマッチするコンテンツのレコメンドを考えているとのことです。
「DMPをいかに新しいビジネスにつなげるか」が重要
イードではDMPを自社で活用するだけでなく、次の2つのサービスを他社に提供しています。
- パブリッシャートレーディングデスク: 媒体社が持つファーストパーティデータを活用してWeb広告の運用を最適化
- アクセスログリサーチ: 楽天リサーチと連携してWeb広告の接触者にアンケートを配信
1年ほど使って、シーセンスへの投資額よりもDMP関連の広告売上額が上回りました。もちろんこれは営業担当の努力もありますが、コスト削減のためではなく「DMPをいかに新しいビジネスへつなげるか」というチャレンジの成果だととらえています。(宮崎氏)
イードでは、新たな施策の1つとしてZEALSと協力して完全自動化のチャットボットにも取り組んでいます。読者との1対1のコミュニケーションを図れることに可能性を感じているといいます。
宮崎氏は「ニュースメディアは受難の時代だが、こうしたデータを使っていかにユーザーと一緒にやっていくか、ユーザーの声に耳を傾けるかがカギになる」として締めくくりました。
事例3ぴあ
消費意欲が高く「濃い」顧客に直接アプローチできるPIA DMPを他社に提供
ぴあは、次の4つのビジネスを展開しています。
- チケット販売(チケットぴあ)
- 会場・主催者ソリューション(興業主催者へのチケットシステムの提供や集客支援)
- メディア/広告(ウレぴあ総研など)
- イベント・コンテンツビジネス(音楽フェスや舞台、食イベントなどの企画、制作、運営)
4つのビジネスにおいて、潜在・見込み客層の選定と分析、リアルとデジタルを通じたユーザーとのエンゲージメントの構築支援に利用されているのが「PIA DMP」です。国内最大級のライブ・エンタメ・レジャーDMPであるPIA DMPの構築から、その本格的な利用に至る過程を紹介したのは、同社デジタルビジネス推進局 データマーケティンググループ グループ長の市川雅仁氏です。
チケットの「場所」「時間」というオフライン行動データを活用
PIA DMPには、ぴあがかかわるライブ・エンタテインメント参加者のオフライン行動(予定の)データが一堂に集められています。ライブチケットには「会場」という「場所」、開催日時という「時間」のオフラインデータがあります。さらに第三者の外部データも加え、会員をセグメント化しています。
ライブに参加するのは、趣味・嗜好に対して消費意欲が高い人たちです。そしてアーティストやライブが好きで、ポジティブかつ熱狂的に行動するユーザーのデータがPIA DMPに集まることになります。
人気のあるライブは、すべての人がチケットを買えるわけではありません。「買いたくても買えなかった」ユーザーもいます。PIA DMPではそんなユーザーも追いかけてコミュニケーションをとることができます。(市川氏)
チケット販売だけでなく、生活やエンタメ情報を届けるメディアの「ウレぴあ総研」や「ぴあ 映画生活」では、趣味・嗜好に特化した人たちのWebサイト上でのバーチャルな行動データも集めています。
これらのデータが蓄積されるPIA DMPを用いて会員をセグメント化することで、セグメントごとにチケット購買状況などを見ることができ、その結果にもとづいてターゲティング広告を打つことができます。
高いお金を払ってライブに行く優良顧客に対してダイレクトにマーケティングができるのです。嗜好性の高いファンが集まるので、そのデータを使ってファンとの長期的なエンゲージメントを深める施策も可能となります。(市川氏)
「一部の人しか使えない」では意味がない。全員がDMPを使えるように
PIA DMPでは無数のセグメントの組み合わせがあり、「どう組み合わせるか」が重要です。当初利用していたDMPだけではデータが扱いにくく、一部のスタッフしか使えないという問題がありました。ぴあではこれらの課題を解決するため、シーセンスの導入を決めたのです。
シーセンスを導入することでセグメントの設計・分析を容易にし、タグでの分類やAPIの活用で設計にかかる時間も約2日から5分程度へと大幅に短縮されました。さらに、分析結果をデータサイエンティストなどの専門職以外でも扱えるようになり、スタッフ全員がPIA DMPのデータを扱える環境を整えました。
分析スピードが大幅に上がったことで、より多くのトライ&エラーをできるようになりました。これにより、広告配信の効果も、案件獲得率も向上しています。分析結果は、会員、購買、購買プロセス、閲覧記事などの多様な視点で誰でも容易に見られるようになっています。(市川氏)
ぴあは、ニーズが高かったDSP「FreakOut」とPIA DMPの連携も実現し、さらにシーセンスを活用してFacebookやInstagramとオーディエンスデータを連携させることも実現しています。
市川氏は「PIA DMPで得られるセグメントには、価値が高いものもあればそうではないものもある。今後はセグメントごとの価値を上げていく施策に取り組みたい」といいます。そして、PIA DMPでライブ・エンタテインメント市場をさらに活性化し、アーティストと新規ファンとのエンゲージメントを構築する支援も含めて、DMPを活用していきたいと語りました。
メディアも「ユーザーとの深いエンゲージメント」が求められる時代
国内でメディア事業を展開する3社のDMP導入事例が語られました。メディア事業も、従来のビジネスモデルのままでは収益を維持できません。ユーザーのことを知り、一人ひとりに最適なコンテンツを最適なタイミングで届けることが求められているのです。そのための仕組み(DMP)も整ってきています。
「ユーザーがコンテンツにいつ、どう接触するか」というタッチポイントも多様化しています。「コンテンツを届ける」だけでなく「ユーザーとのエンゲージメントを深める」という取り組みが必要になっているのです。
ソーシャルもやってます!