四家正紀が聞く! 顧客とのデジタルコミュニケーションで大切なこと

仮説なき「やってみなはれ」はデジタルでは一番の失敗パターン

仮説なき「やってみなはれ」はデジタルでは一番の失敗パターン

四家僕にもちょっと持論があって、ネットの面白さって「新しいものを生み出す」というよりも「スピードを速めたり、もともとあったものがクリアになったりする」ことだとだと思うんですね。

ビジネスについて言うと、日常業務に埋もれがちな「本質的な課題」がネットにかかわることでクリアに見えてくる、というか、見えてきてしまう。だから、ビジネスパーソンとしての自分を磨きたいなら、どんどんネットに、デジタルに取り組んだほうがいいと思うんですよね。

室元デジタルの施策って、課題を絞り込んで、クリアにしていかないと成果につながらないんですよ。そこは鍛えられますよね。

四家企業によってはデジタルマーケティングの仕事ってまだまだオタクなイメージがあったりするんですが、きちんと取り組めば他の部署でも通用する人材になると思うんです。デジタルのお仕事を進めるうえで大事なことって何でしょうか。

室元まず、新しいことに飛び込んでいく勇気は一番大切なんですが、単純に飛び込むだけではまずい。それはあまり賢くない人がやることです(笑)。私は「成功要因の仮説を持って飛び込め」と言っています。

サントリーといえば創業者である鳥井の「やってみなはれ」という言葉があり、社員もそれを意識しています。うちの社員はけっこう嗅覚が鋭いんですが、「やってみなはれ」という言葉を誤解していて、とにかく手当たり次第に思いついたことをやっちゃう癖がある。それは「絶対にやるな」と言っています。

「店頭・業務店頭・テレビCM」といった今までよくわかっている分野のスキームであれば、もともと成功パターンがあるし、一定の配荷率があってきちんとCMを打てば、どんなキャンペーンでもある程度は売れるんです。でもこういう別チャネルにおける過去の成功体験にもとづいた思いつきでデジタルに取り組むと、大コケするんですね。

デジタルでは課題をクリアにしないと成果につながらない

四家大コケ。従来のスキームとデジタルはどう違うのでしょう。

室元なぜかというと、リーチがまったく違うからです。デジタル施策では、テレビみたいな大きなリーチは取れない。だから特定のニーズを持っている人に向けてピンポイントでアプローチして、その人たちに響くようなクリエイティブなり企画でないと、まったく刺さらない

だから、「まず課題を抽出し、『解決するには何と何が必要か』ということを考えなさい」といつも言っています。デジタルの場合、マスに比べて予算こそ少ないですが工数はとてもかかる。それなのに成果がまったく上がらず、その原因がわからないのであれば、取り組む意味がまったくありません。

きちんと課題をブレイクダウンして、仮説を立ててから飛び込む。仮説があれば、たとえ失敗しても改善点が見えますよね。こういうプロセスを飛ばして「やってみなはれ」でなんとなくデジタルをやるというのが、一番の失敗パターンなんですよ。

四家今おっしゃられていること、すごく腑に落ちました。室元さんはビジネススキームを作って仮説があってこそ、ビール工場見学でも、ハイボールイベントでもそれを実証していたんだ、と。決してたまたま成功したわけじゃない。

初期のネット施策って「なんか新しいものがあるからやっちゃえ」と手を出して、結局失敗しているケースがよくありました。「炎上」なんかも仮設立案のプロセスを飛ばしてなんとなく始めちゃうから起きるのかなと。

人材育成の柱は「課題の解決力」と「デジタルの知識」の2つ

室元隆志氏

四家こういう成功体験を積み重ねて、デジタル部門の組織がだんだんと大きくなってくると、分業や人材育成が大きなテーマとなってくると思います。こうした課題にはどのように取り組まれていますか。

室元今うちのセクションには約40人のメンバーがいますが、公式SNSとオウンドメディアをやるグループ、ブランドの上流工程で施策を行うグループ、あと営業課題をやるグループ、インフラをやるグループ、といった具合に分かれています。

四家それぞれのメンバーに対して、求めるスキルセットやそのスキルを獲得するために行っているプログラムが必要になりますよね。

室元はい。実は組織が今の形になったのが今年の4月で、メンバーのうち3分の1くらいがデジタル以外の部署からの異動組です。この人たちには「デジタル新人」のスキルを身に着けてもらい、すでにデジタルをやっているメンバーはプロフェッショナルのスキルを上げていくという両輪で鍛えていきたいと思っています。

四家部下にスキルを獲得してもらうために重視されていることはありますか?

室元2つのことを重視しています。まず、デジタルだけわかっても、本業がわからなければトンチンカンな答えを出してしまい、事業課題や営業課題を解決できません。ですので、先ほどお話ししたビジネススキルというか「課題があったらどうやってそれを分解して仮説を立てていくのか」「どういうことをすればビジネスが成功するのか」ということが1つです。うちの部署に来たらまずデジタルの知識を詰め込まれるのかと思ったら「あれっ?」っていう感じでしょうね。

四家ビジネススクールでやるような、MECE(重複なく、漏れなくというロジカルシンキングの考え方)で課題を分解するとかそういうことですか?

室元やりますね。実は、他部署から「何かデジタルでやってほしい」という依頼が来た時点では、課題が漠然としていることが多いんです。「じゃあテレビCMをこれだけ流しますので、営業がんばりましょう」というノリでは、デジタルではうまくいきません。そうした社内の「漠然とした課題」をちゃんと分解することがスタートです。チームのメンバーには「向こうが持ってきた営業課題や事業課題を、絶対にそのままうのみにするな」と言っています。

たとえば、他部署は「新しい飲食店チェーンさんをひっくり返したいから、とりあえずブロガーさんをたくさん連れてきてよ」とか依頼してくるんです。こういうときに「その課題はブロガーさんを連れていったら解決しますか? 食べログやぐるなびへの出稿を最適化する方が、よっぽど大事じゃないですか?」とか「ブロガーさんを呼んでイベントを開いても、それっきりでは飲食店チェーンさんは納得しませんよ」という話を冷静に返せるようにならないといけない。

課題を分解して仮説を立てていくことが何よりも大事

四家想像するに、社内の各ブランドの担当者もデジタルについての習熟度にばらつきがあるんでしょうね。だから「ブロガー呼んでください」みたいな荒っぽいオーダーも来る。

室元持ち込まれる話の90%くらいはそんな感じですよ(笑)。

四家その90%の荒っぽい話を課題として分解し、組み立て直すことが、デジタルそのものへの知識よりも重要だ、と。

室元はい。とはいえ、デジタルがわからないようだと何のために存在しているのかわかりませんから、当然もう1つはデジタルの知識です。その2つを両輪として重視しています。

デジタルの基礎知識については、Web担当者Forumで以前に講座を担当していたときの資料をもとにしてカリキュラムを作り、とてもいい仕上がりになりました。メンバーごとに「全員習得する基礎知識」と「セクションごとに習得する専門知識」があり、「何を」「いつまでに」「どのレベルに」するかが決まっています。以前は私が中心になりOJTでやっていたんですが、今はもう無理です。スピードが追いつきません。課長が部下を育成するためにも、こうした習熟の仕組みが必要です。

四家スピードをもそうですし、分業が進んでいるのにOJTに任せてしまうと、特定の分野ばっかり詳しい人がたくさんできちゃって、いびつな組織になってしまいますもんね。

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