マーケティングデータの活用に必要な視点とは?
ツール導入でさまざまなデータを把握できるようになったデジタルマーケティングだが、一方で「数値を見るので手一杯。効果的な施策を発想するところまでいかない」という悩みを聞くこともある。
「Web担当者Forum ミーティング 2020 春」で講演したプラスアルファ・コンサルティングの山崎雄司氏は、「データ活用を顧客視点で見つめ直し、自社独自の体験価値の創造が必要」と語り、顧客群ではなくあたかも目の前の個人に効果的なアイデアを考えるかのような、“顧客実感”という発想を提案した。
マーケティングにおける変化と課題
マーケティングに起きている環境変化のトピックスとして、山崎氏は以下の4点をあげている。
- 所有から利用へという消費マインドの変化
- 体験を提供することによる差別化の必要性
- 新規顧客獲得の効率が悪化し、高まるCRMの重要性
- アフターコロナを踏まえたデジタル接点の再構築
こうした変化とともに、「高齢化と人口減少、さらには所得も減少傾向にある日本経済の環境では、これまで通りの市場拡大前提の戦略は一切通用しない」と山崎氏はいう。その状況を打破するために多くの企業が取り組んでいるのが、顧客体験(CX)向上への取り組みだ。
また山崎氏は、「デジタルマーケティングはテクノロジーの進化とともに進化を続けているが、一方で問題もある」という。たとえば、以下のような問題だ。
- さまざまな情報が把握できるようになったが、KPI偏重で顧客が数値化され、顔が見えづらくなっている
- マーケティングノウハウが共有され、手段がコモディティ化している
- マーケティングオートメーションの導入が進んだことで全体像が見えにくくなり、ブラックボックス化している
つまり、「マーケティングの基本である顧客理解からの乖離」と「手段の目的化による独自性の喪失」が起きているということだ。
課題解決に必要なのは「顧客実感」
これを解決するためのフレームワークとして提案するのが、“顧客実感”という発想だ。すなわち、顧客を実感するためには、サマリーとして数値化された情報を見るのではなく、一人の顧客を具体的にイメージし、その人に効果的だと思うアイデアを発想する必要があるという考え方である。
顧客が求めている価値は1つではない。たとえば「お得」「便利」「安心」「楽しい」「共感」などがあるが、取り組みの難易度で並べると以下の図のようになる。
難易度の低いものは、あって当然の価値。いわば「当たり前品質」である。一方、今本当に顧客に提供すべきなのは、取り組みが難しい方の、魅力を感じてもらえる価値だ。
そのために、これまでのデータの見方に“顧客実感”の発想を加える必要がある(山崎氏)
たとえば、以下のような取り組みが必要になるということだ。
従来の定量的な傾向からでは見えなかった体験価値を創造するとき、新しい顧客分析手法が必要になる。その際、「直接ヒントになると考えられるのが、オフラインの取り組み」だという。
結果だけでなく、その理由や背景を把握することが“顧客実感”を得るためのポイントだ(山崎氏)
そのためには、これまで重要とされてきたPDCAサイクルだけでは十分ではない。今までのPDCAにS(See)とT(Think)を加えたSTPDCAというフレームで捉えていくことが必要だという。
Seeはアクションの結果を個客まで掘り下げて視ること、Thinkはそれを基に気づきを得ることを指す。サマリーされた情報から新しい気づきを得て施策に落とし込むのは非常に難しい。そこで、個客まで掘り下げてリアルタイムに気づきを得ながら、プランにつなげるということだ。
NPSや顧客アンケートで顧客を実感する
山崎氏は、顧客実感を活用することによって得られる示唆について、2つの例を紹介した。
活用方法① NPSを活用した改善点の発見
NPS(ネットプロモータースコア)は、たとえば以下のような設問でアンケートに答えてもらい、顧客ロイヤルティを数値化する指標である。現時点でのロイヤルティだけでなく推奨意向という今後の行動も把握するのが特徴だ。また、総合的なロイヤルティを測るだけでなく、個々の体験価値を測るステップごとのNPSもある。
Q1)あなたはこの商品を親しい友人や知人にどの程度おすすめしたいと思いますか? 0~10点で選んでください
Q2)上記の評価をつけた理由は何ですか?(自由回答)
NPSで施策の効果を見極めることも必要だが、個で見ていくと人によってスコアの上がり下がりが違うことにも注目したい。NPSが下がっているポイントがあるなら、そこに対して掘り下げて対策を立てるという考え方が、改善ポイントを見つけるうえで重要になる(山崎氏)
活用方法② 購入理由アンケート(顧客の声)の活用
購入理由のアンケートを取ってみると、社員が考える自社商品の価値・魅力と、購入した顧客が感じた評価が違うことがある。
紹介されたのは、食品の単品通販の企業の例だ。社員は価格に優位性があると考え、販促のキーメッセージに据えていたが、アンケートを見ると、ユーザーが評価していたのは国産野菜を使っていることだったという。これが発見できたことで、この企業では「国産野菜」をキーワードにしたプロモーションに変えたという。
マーケティングツール導入の落とし穴
顧客を実感するためにも、デジタルマーケティングにはさまざまなツールが不可欠になってきているが、うまく使いこなすのが難しい場合もある。そこで山崎氏は、マーケティングツール導入で失敗しがちな落とし穴を、2つ紹介した。
落とし穴① 運用を進めるプロセスと設計するプロセスでは、順序が真逆である
「データ統合したはいいが、そこから施策に落ちない」ということがよくある。その原因は、「順番が逆だからだ」と山崎氏はいう。
たとえば、データを蓄積・統合して環境を作り、その中からデータを可視化し、セグメンテーションしながら施策を実行。そして、効率化・自動化に取り組む。その結果から2次セグメンテーションやKPIをモデリングする。プロセスは、どうしてもこのような順番で考えがちだ。しかし、これは単に運用の流れで、設計は逆向きに考える必要がある(山崎氏)
つまり、「どのような効果測定で何の数値を見たいのか」を決め、「そこから逆算してどのようなデータを統合すべきか考える」ということだ。この順番が逆になっていると、次のようなことが起きる。
- データ統合したもののアイデアが出ない(=施策に落ちない)
- 施策を実行したが効果測定できない(=そもそも必要なデータが揃っていなかった)
落とし穴② 運用時に発生する変化や修正を前提とする
運用では必ず変化や修正が起きる。そこで、うまくいかないことを想定した「プランB」的なものを用意し、柔軟に運用する必要があるということだ。
マーケター自身が使えるツールで顧客実感の取り組みを実現
プラスアルファ・コンサルティングでは、“顧客実感”の取り組みを実現するプラットフォームとして「カスタマーリングス」を提供している。先述したSTPDCA全体を網羅し、さまざまなマーケティングデータをCDP(カスタマーデータプラットフォーム)的アプローチで統合するCEM(カスタマーエクスペリエンスマネジメント)プラットフォームである。山崎氏があげた特徴は、以下の3点だ。
特徴① カスタマイズ不要
目的はデータを活用することであって、データを統合するのはそのための手段に過ぎない。このため、データ統合の部分で負荷がかからないようにという思想で設計されている。あらゆるデータ活用を想定し、さまざまな定量データや定性データを統合できるプラットフォームとなっており、カスタマイズ不要で、運用の変更にも柔軟に対応できる。
特徴② プログラミング不要
データ統合後にはさまざまな条件で顧客を抽出するが、システムスキルがなければ抽出できないようなツールだと、マーケターが運用できない。そこで、誰でも簡単にデータを抽出できるUIにしてある。
特徴③ 分析スキル不要
表やグラフで表現したものの中で、気になった部分をクリックして中身をさらに見ていく「ドリルダウン」の機能を提供。最終的には、個を見て属性を捉えるだけでなく、過去に取り組んだ施策を時系列で捉え、コミュニケーションを可視化している。
分析レポートをダッシュボードに登録しておくこともでき、分析ツールを使いこなすスキルがなくても、顧客実感による気づきを得られる。
また、2020年には「タッチポイント強化」「顧客実感機能の強化」「組織的なデータ活用基盤への進化」といった機能追加を予定しているという。
最後に山崎氏は、マーケターが取り組むべき3つのポイントとして以下の3点をあげ、セッションを締めくくった。
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