デジタル広告が頭打ち…「もっと成果を出す」知っておきたい運用の3ステップ
ある程度経験を積んだデジタル広告の担当者は、商材や目的によって、どうプランニングすべきかを判断できるようになり、自分の中で勝ちパターンもわかってきます。さらに、近年はプラットフォーム上での機械学習の精度が向上し、CVを獲得しやすくなっています。
一方で、もう一段階上の成果を出そうとすると、「次の優良な施策が見当たらない…。管理画面上のCV成果が上がっていても、会社や事業の成長に貢献できている気がしない…」。そんなふうに感じることありませんか。
その解決策を、アユダンテの寳氏と粂野氏に聞きました。本記事の内容を詳しく知りたい人は、以下講座を受講すると学べます。
デジタル担当者の三大課題
―― デジタル広告の担当者さんが抱える課題はどんなものがありますか?
寳: 担当者さんが抱える課題として、大きく3つあると思っています。
- 獲得偏重型広告の限界
- Googleをはじめとする広告出稿プラットフォームの進化
- プライバシー保護の潮流
――「獲得偏重型広告の限界」とは、どういうことでしょうか?
寳: 運用型広告が出始めた当初は、きちんと考えて設計して広告を出せば、効率よくコンバージョンを獲得できていました。そのため「運用型広告=費用対効果に優れたツール」と捉えられて、効果がはっきり見えるのでわかりやすい側面もあったのでしょう。
広告を出す企業の数も投資する金額も増えていったように思います。しかし、運用型広告に出稿する企業が増えてくると、競合する企業も増えてくる。競合していればクリック単価も上がるし、ほしいユーザーの取り合いになるので、以前ほど効率よくコンバージョンを獲得できないし、ある程度行うとそれ以上には増えない、つまり成果の頭打ちが起きてきます。
広告担当者は運用のなかで日々さまざまな努力を行いますが、効率よくコンバージョンにつなげることのみが期待されているため、結果として打ち手はしぼられ、コンバージョンの数まで減ってしまう。これが「獲得偏重型の広告運用」であり、そのやり方には限界が来ているように思うのです。
―― なるほど。次に「Googleをはじめとする広告出稿プラットフォームの進化」が挙げられていますが、なぜプラットフォームの進化が課題になるのでしょうか?
寳: 進化すること自体は素晴らしいです。GoogleやFacebookは自動化が進み、出稿画面に表示された通りに設定していくだけで広告出稿ができます。最近ではGoogleは過去のアカウント内の出稿データなど基に、最適な広告文まで作って提案してくれるようになりました。人間が手を動かすことは最小限で精度高く出稿してくれる仕組みが整っています。
―― 進化のどこに課題があるのでしょうか?
寳: 広告媒体の進化が早すぎて、ほとんどの企業の自社サイト(アプリ)の進化と足並みがそろっていないように見えます。現在の広告は、コンテンツや商品情報データベースなど自社が保有するデジタル上のアセットを使って出稿するものになっています。広告媒体が推奨するような最適なかたちでWebサイトを用意し提供できている企業は限られています。企業が持つアセットがしっかり整っていなければ広告の成果とビジネス成果(CV)が比例しないんです。
――なるほど、広告成果とビジネス成果の観点で課題がある、ということですね。最後、3つ目の「プライバシー保護」は、世界的な潮流になっていますよね?
粂野: はい。世界的にデジタル上における個人情報の解釈がより厳密化し、「プライバシー保護」の法制が進んでいます。日本でも2022年4月に個人情報保護法の改正が行われます。また、技術的な面では、Appleは完全にサードパーティCookieをブロックしていますし、Googleも2023年にサードパーティCookieを段階的に廃止し、Cookieを用いたリターゲティングなどができなくなっていきます。
寳: 各プラットフォームでは、広告データの精度を上げるために、顧客のメールアドレスの取得を提案していますが、「広告主が顧客のメールアドレスを広告媒体社に提供する」というのは重い判断を強いられます。法的面や企業の顧客や社会に対する姿勢が問われており、簡単に「広告の機械学習の精度を上げるためにメアドを提供する」→「では、やりましょう」と二つ返事で決断することが難しい状態でもあります。
課題に対する3つの解決策|デジタル広告で「顧客創造」を目指す
――では、この3つの課題に対して、どんな解決策があるんでしょうか?
粂野: デジタル広告の役割を「効率よく顧客獲得するための活用」から「新たな顧客を創造するための活用」と捉え直すことが、まずはポイントだと思います。次の3つのステップで、広告を「新たな顧客を創造する」状態を目指せると思います。
広告クラフティング~顧客創造を目指した広告活用の3ステップ
- Step ①【仮説創出】新たな仮説の発見フェーズ
(N1のユーザー行動観察・顧客インタビュー) - Step ②【クラフティング】関係者が共同で広告を作っていくフェーズ
(共同編集、ユーザーと商品/サービスのストーリーを描く) - Step ③【仮説検証】テスト結果を商品/サービスの改良に活かすフェーズ
(構造化テストとダブルループ学習)
Step ①【仮説創出】新たな仮説の発見フェーズ
――【仮説創出】では、どんなことをやっていくのですか?
粂野: 今の広告運用の現場では、すでに明確化している顧客像を用いて、定量データを基に確実にとれるターゲットに広告を当てていく“効率優先”の状態です。冒頭でも説明した通り、その運用は限界に来ていますので、まずは、新たな仮説を作っていくことを目的に、N=1でユーザー行動を深掘りしていきます。具体的には、Clarity(クラリティ)を活用しながら、ユーザー行動を観察し、Googleアナリティクスも併用して、顧客の状態を分析していきます。
寳: 次に、社内の関係者や顧客へのインタビュー(ヒアリング)を通じて新たな仮説の種を発見していきます。仮説検証ではなく新しい仮説を見つけるために行うインタビューは、たんに「話し手が持っている情報を引き出す」だけでは不十分です。良いインタビューとは、話し手自身が語る言葉を大切に捉え、聞き手がアクティブに関与して「対話」することから生まれます。
また、インタビュー後、テキストに起こしたら必ず読み返して、気になる箇所を切り取ってラベルをはっておくのが大事です。関係者で集まって広告のアイデアを広げるときに考えるきっかけとして活用します。
Step ②【クラフティング】関係者が共同で広告を作っていくフェーズ
――【クラフティング】ではどんなことをやるんでしょうか?
粂野: ユーザー行動の観察やインタビューで得られた情報をMiro(ミロ)を通じて整理し、アイデアを広げていきます。「機能的価値」「情緒的価値」「サービス利用による変化」などの要素にわけて、アイデアを広げていき、【誰に(Who)】【何を(What)】【どのように(HOW)】の軸で広げたアイデアを整理していきます。このアイデア出しは、広告担当者だけでなく、製品や商品の担当者、営業、エンジニアなどを含めた関係者全員で行っていくといいでしょう。
―― キーワードの整理ができたら、次はどうするのでしょうか?
寳: ユーザーと商品/サービスのストーリーを描きます。獲得偏重型の広告では、「キーワード」起点でしかシナリオを考えていない場合が多いんです。キーワード起点で広告やコンテンツ設計をしてしまうと機械的になりやすく、ユーザーに対する想像力がない状態になってしまいます。すると、結局自社にとって都合の良いカスタマージャーニーを描いてしまいがちです。
ユーザーを中心としたカスタマージャーニーを描きながら、映画のシナリオ作法から、自社の商品サービスと顧客の物語を明らかにし、商品と顧客とのギャップを埋めるアクションを埋めていく。予定調和ではないシナリオをストーリーテリングの技術を用いて構成していきます。
Step ③【仮説検証】テスト結果を商品/サービスの改良に活かすフェーズ
――【仮説検証】パートでは、何をしていくのでしょうか?
寳: アイデアを広げてまとめていったら、広告を出稿していきます。顧客創造型広告が目指すのは新たな顧客層を作り出すことによる商品・サービスの成長であり、広告の運用は仮説を検証するためのテストです。
このとき、テストを構造化することがポイントです。改善しやすく、結果もわかりやすく、担当者個人の知見にとどめないために、Notion(ノーション)を使って構造化していくやり方をおすすめします。
たとえば、「テスト期間」「ターゲット」「出稿媒体」「目的」などといった項目で出稿するときの情報を整理します。たとえば、テストAでは「機能的価値 vs 情緒的価値」を比較するための広告運用を実施。テストBでは、別パターンで比較……といった具合でまとめていきます。Notionを使って構造化していくことで、次のアクションが起こしやすく、ノウハウが蓄積されていくというのが優れています。
粂野: 獲得偏重型広告では、広告の結果で得られた学びを広告の改善にのみ活用しがちです。これを「シングルループ学習」と呼びます。広告運用の結果を踏まえて、広告にその学びを活かしていくことはもちろん、LP(ランディングページ)やWebの改善に活かしたり、さらには商品開発そのものに活かしていくことがとても大事です。これを「ダブルループ学習」と呼びます。
だからこそ、Miroを使ってアイデアを広げる段階で多くの関係者を巻き込んでおけると、広告運用の結果を反映しやすくなります。このような動きができると、広告運用する人(=作業者)という社内での立ち位置から、価値が上がって行くのではないかと思っています。
――最後に一言
寳・粂野: これらの内容は2022年4月27日(水)に開催される講座で詳しく解説します。講座のなかでは、ワイヤレスイヤホンECサイトを例に今日紹介したステップを6時間かけて解説していきます。インタビューでは、良い例悪い例を挙げながら、講座受講者同士でグループに分かれてグループワークしてみたり、Miroを使ってアイデア整理をやったりしていきます。ぜひ参加してみてください。
ソーシャルもやってます!