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マーケターが生成AIと仕事をするために、やっておきたいこと、読んでおきたい本

オススメの課題図書。今回は、生成AIと仕事をしていくために、マーケターがやっておきたいこと、読んでおきたい本を、博報堂の奥村伸也さんに紹介してもらった。

急速に存在感を増す生成AI。ビジネスでの活用事例が取り上げられ始める一方で、生成AIの限界を感じて利用を断念したという方もいるかもしれない。今回は、生成AIに早くから注目し、博報堂社内の生成AIのマーケティング業務活用ゼミの講師を担当している博報堂の奥村伸也さんに、生成AIを理解し、そのアウトプットを最大限活用するのに役立つ書籍を紹介してもらった。

株式会社博報堂 ストラテジックプラニング局 マーケティングプラニングディレクター 奥村伸也氏

まずは試してほしい!

奥村さんは人材系の企業に新卒で入社してサービス設計に携わった後、広告会社に転職。広告アナリストとして広告の経験を積み、その後博報堂に入社した。現在は、消費財、人材サービスなどを提供するクライアント企業に、広告戦略立案、ブランド戦略立案、新製品開発などの支援をしている。

マーケティングプラニングディレクターの仕事は、広告やブランディングの戦略を考えることから、新製品のコンセプト立案、事業開発のプロジェクト伴走まで、多岐に渡ります。どうすればもっと効率的に、クライアントの期待を超える業務遂行をできるか思案しているところに登場したのが、ChatGPTをはじめとする生成AIでした(奥村さん)

生成AIについては、所属するストラテジックプラニング局内での社内研修で講師を務めている。最新情報のインプットのための研修だ。奥村さんは、2020年3月にGPT 3が登場した頃から注目しており、3.5がリリースされたときにマーケティング業務への活用方法を率先して研究。有志のメンバーと、AI活用研修を担当するようになった。

博報堂のストラテジックプラニング局内では、生成AIは「山の五合目まで登るスピードを早めるもの」、つまり初動の早さに再現性をもたせるもの、と捉えている。今回は、業務での活用を前提にオススメ書籍を選んでもらったが、奥村さんは「ChatGPTやClaude、Geminiなど何でもよいので、本を読むよりも先に、自分の手で生成AIを動かしてみてほしい」と語る。

最初は仕事とは関係なく、「晩御飯のレシピ」や「インドア派の人に勧めるアウトドア5つ」など、身近なものから質問してみるのがよいという。

まずは、生成される回答の速さや自分にはない着眼点からの回答を体験してみてほしいです。感動体験がないままに生成AIに取り組んでも、飽きてしまうと思います(奥村さん)

無料で試せる生成AI

以下に、無料で試せる生成AIをいくつか紹介しておこう(2024年10月時点、編集部より)。

文章生成AI

ChatGPT https://openai.com/chatgpt/
Gemini https://gemini.google.com/app?hl=ja
Claud https://claude.ai/

画像生成AI

DALL·E 3 https://openai.com/index/dall-e-3/
Adobe Firefly https://www.adobe.com/jp/products/firefly.html
Image Creator in Bing https://www.bing.com/images/create

まずは生成AIにふれてほしいと語る奥村さん

生成AIを学ぶための4つのステップ

生成AIを試したことがある人のなかには、アウトプットにがっかりした経験をもつ人もいるだろう。ざっくりとした質問を入れ、納得のいく答えを出してくれるかと思いきや「なんだ、こんなものか」「たまに嘘をつくじゃないか」と幻滅した人もいるにちがいない。

しかし、今後の生成AIの進化を考えるとき、学ばないことはリスクだと感じているはず。そこで奥村さんは、次の4つのステップで理解を深めていってほしいと話した。

  1. 生成AIの全体観を把握する
  2. あらためて触る(YouTube等の動画で学ぶのがオススメ)
  3. 最新情報をインプットする(Xなどがおすすめ)
  4. AIが出すアウトプットの良し悪しを見極める「思考力」×「思想力」を鍛える

本記事でもこの流れにそってオススメ本を紹介する。

1.生成AIの全体観を把握する

1冊目
『60分でわかる! 生成AI ビジネス活用最前線』(上田雄登:著 技術評論社:刊)

まずは全体像を把握するために、ビジネスの現場で生成AIがどのように使われているのかを事例で知っておこう。本書では、活用の前提として生成AIの技術背景から、活用する上での課題についても取り上げている。

いろいろな分野の活用例が紹介されているので、あらゆるビジネスパーソンに参考になると思います。2024年4月に発行されているので新しい情報が多いです。ただし、生成AIは数週間単位で変わるので、常に学び続けないといけない領域です(奥村さん)

2冊目
『AIナビゲーター2024年版: 生成AIの進化がもたらす次世代ビジネス』(野村総合研究所:著 東洋経済新報社:刊)

前半は生成AIの概況や歴史的背景、RAG(Retrieval-Augmented Generation)/ファインチューニングといった技術、課題と社会的影響までをまとめており、後半では製造業、金融業、小売流通業など業界別の活用事例を紹介している。

生成AIが今後どう拡張していくのか、未来についてまで考察されており、読んでいてワクワクさせられます。各業界がどう変わるべきかという見立ても語られており、学びが深い一冊です(奥村さん)

3冊目
『努力革命 ラクをするから成果が出る! アフターGPTの成長術』(尾原和啓、伊藤羊一:著 幻冬舎:刊)

今回の選書にあたっては、プロンプト集のようなものは除外したと奥村さん。Howにより過ぎてはその場しのぎになってしまうからだ。そこで3冊目として、成果を出すための具体的な活用術を教えてくれる本を紹介してくれた。

この本は、ビジネスパーソンの素養として成果を出すためのChat GPTの活用方法を紹介しています。印象的だったのは、これまでは80点を取るために時間をかけてきたが、これからは生成AIが80点を一瞬で出してくれるということ。そしてそれがスタートラインになり、80点以上にするのが人間という話です。
タイトルの努力革命の意味は、今までは何度も繰り返し、時間をかけて技術を身に着けていましたが、これからは努力の考え方が変わるということです(奥村さん)

書籍のなかでは、成果を出すための活用として「ざっくり問うてからじっくり問う」「GPTに直接GPTの考えるプロセスを聞いてみる」「最後は人間の頭でジャンプする」といった流れが紹介されている。「壁打ち相手」として、対話しながら新しいものを一緒に作る共創ツールだと紹介されており、生成AIの活用をモチベートされる内容となっている。

なお、博報堂のストラテジックプラニング局の研修では「対話したくなる生成AIの人格設定」を推奨している。デフォルトのChatGPTを、自分が対話したくなるような設定に変更するのだ。奥村さんは「子供にもわかるような平易な言葉で対話してくれる人格」を設定しているそうだ。

4冊目
『先読み!IT×ビジネス講座 画像生成AI』(深津貴之、水野祐、酒井麻里子:著 インプレス:刊)

画像生成AIの関連書籍としては「この本がオススメ」と奥村さん。この本を片手にぜひ実践してみてほしいという。

画像生成AIは使ってみたことがないという人も多いと思います。この本は対話型でプロンプトを織り交ぜながら、画像生成AIが得意な表現、苦手な表現を学べます。著作権の問題にも触れていて、生成AIを起点とした次世代の画像の作り方を学べる1冊です(奥村さん)

ただし画像生成AIについては、機械学習に使われた画像の著作権の問題など、賛否両論な部分もある。奥村さんも画像を外部に出すときには利用せず、実験的な使い方、あるいは社内用の企画書で使うくらいで、その際にも注釈を入れているという。ただし、オンライン広告では生成AIのクリエイティブが使われるシーンも増え、今後3年くらいで大きく状況は変わると考えている。

マーケターが自分で画像を作ったり、依頼する際の画像のたたき台を作ったりできるのは進化です。ただ、技術的な課題だけでなく、倫理的な課題もあり、AI画像に不快感をもつ人もいるので、その点についても注意する必要があります(奥村さん)

2.あらためて触る

ここまでで生成AIの全体像をつかんだら、あらためて生成AIの活用を実践してほしいという奥村さん。

以下のYouTubeチャンネルは、生成AIに触るために参考になるだろう(2024年10月時点、編集部より)。

動画を見ながら自分でも手を動かしてみてくださいと話す奥村さん

3.最新情報をインプットする

最新情報をインプットするには、Xのアカウントをフォローするのが早い。

たとえば、次の2アカウントがあげられる(2024年10月時点、編集部より)。

4.AIが出すアウトプットの良し悪しを見極める「思考力」×「思想力」を鍛える

ここからは、生成AIに飲み込まれないために、人間として思考力と思想力を鍛える3冊を紹介していく。

奥村さんは、生成AIの活用の場が広がるほど、これまでビジネスで重視されてきた「思考力」に加え、新たに生じる倫理的な問いにこたえたり、他者の共感を生むテーマを掲げたりする「思想力」も求められると考えている。

生成AIが普及するほど、最適解を一瞬で出せるようになる一方で、「思想・思考のコモディティ化(一般化)」が起こると考えています。今後、「思想力✕思考力の総量」で生成AI時代のビジネスパーソンのアウトプットの差が決まるでしょう(奥村さん)

思想・思考のコモディティ化とは、生成AIを利用することで、多くの人が似たような思考パターンや解決策にアクセスできるようになり、普通のアイデアや分析が容易に得られ、差別化が難しくなる可能性を指している。

AIの回答に過度に依存することで、人間が自ら深く考え、問題を分析する機会が減少するリスクもあるだろう。こうしたなかで、差別化するには、「自分なりの思想をもって独自の思考解釈ができることが重要」と奥村さんは話す。

思想力・思考力を高めるためにオススメしたいのが次の書籍だ。

5冊目
『シン・ロジカルシンキング』(望月安迪:著 ディスカヴァー・トゥエンティワン:刊)

著者の望月さんは「人としての考える力が弱いと、生成AI時代を生き残ることはできない」と書いている。

生成AIは正統派テンプレの答えを出してくるので、人間として差別化するには、論理に主観性をもたせて、論理的意外性を出すことが重要だと書かれています。本書は、論点思考、仮説思考のアップデート版という印象があります。
発想力の本質は、問いを立てる力。答えよりも問いが重要です。生成AIのアウトプットも、問いの質が低いと一般論になります。そこで、生成AIと一緒に議論のスコープや前提条件を絞ったり、ターゲットを考えたりして、その過程で生まれる問いをインプットにすれば、よりよいアウトプットになります(奥村さん)

問いの質が重要なのは人と仕事をするときでも同じだと語る奥村さん

6冊目
『スマホ時代の哲学 失われた孤独をめぐる冒険』(谷川嘉浩:著 ディスカヴァー・トゥエンティワン:刊)

奥村さんは、「スマホ時代だからこそ、哲学の重要性が見直されており、これまで哲学に触れてこなかった人でも読みやすい本書をオススメしたい」と語る。

スマホをさわらないデジタルデトックスが無理という人のために、スマホとうまく付き合うための考え方が紹介されています。一人でいるとモヤモヤ悩んでしまいますが、人は悩む時間も大事。ネガティブケイパビリティは、このモヤモヤを抱えておく能力、不確実さに耐える能力のことで、それについても触れられています。

哲学は過去の偉人の頭を借りながら考えることで、生成AIも他人の頭を借りて考えるものなので共通しているともいえます。どちらも「自分のなかに他者を住まわせる現代的な手段」だというわけです(奥村さん)

7冊目
『偏見や差別はなぜ起こる?: 心理メカニズムの解明と現象の分析』(北村英哉、唐沢穣:編 ちとせプレス:刊)

最後の7冊目は少し重めの一冊だ。生成AIの文脈で読んだわけではなかったが、生成AIを触る上で知っておくべきことだと感じたという。

生成AIの回答は学習データに依存するので、ときにステレオタイプの、ある種の偏見をもった返答をしたり、人を不快にするアウトプットを出したりするリスクがある。生成AIのアウトプットをそのまま表に出したら、炎上するケースも想定できる。それは人間も同じで、「自分は偏見がない」と思っている人でもどこかに偏見がある。

現代は、明らかなレイシズムは減っていますが、自分でも気づかないうちに特定の集団に対して偏見をもっていることがあり、それに気づけないのは、大きなリスクになります。たとえば本書では「特定の集団に対しての差別は解消されており、さらに権利を訴えるのは過剰である」と考えてしまう「現代的レイシズム」と呼ばれる事象に触れられています。

まったくのノンバイアスで社会を見られる人はいないので、自分の偏見に気づける力が大切です。本書では、研究者目線で差別と偏見が生まれるメカニズムについて客観的に紐解かれています。読みやすく、気づきになる点も多くあります(奥村さん)

奥村さんは、性別・年齢・障害の有無などに限らずあらゆる生活者がブランドを心地よく使い続けられる、「ブランド・アクセシビリティ」という概念を博報堂で提唱し、昨年、レポートも執筆した(https://www.hakuhodo.co.jp/magazine/105024/)。レポートのなかでは、ブランド・アクセシビリティとは、今まで見過ごされてきた障がいのある方のお困りごとや、独自に生活に取り入れている工夫に注目して、イノベーティブな製品・サービス開発を行うことを提唱している。自分の思い込みに知覚的になることは、そういったレポートの思想にも通じるものがあるという。

動画配信サービスでいろいろな世界を楽しむ

奥村さんが本以外でよく触れているメディアは、Netflix、Amazonプライムなどの動画配信サービス。ヒューマンドラマやSF、サイコスリラーなど幅広いコンテンツを視聴している。日常から離れて、非日常に没入するのが余暇のスタイルだそうだ。

破顔一笑。奥村さんは、すてきな笑顔で、さまざまな視点からの本を紹介してくださった
◇◇◇

奥村さんは、技術によりすぎず、活用する立場として参考になる書籍を紹介してくれた。生成AI活用には自分の思想力と思考力が大事だということで、後半に紹介してくれたラインナップも興味深い。生成AIに振り回されない力を身に着ける参考にしてほしい。

奥村伸也 (おくむら しんや)

株式会社博報堂 ストラテジックプラニング局 マーケティングプラニングディレクター

2020年、博報堂に入社。日用品、食品、飲料、家電などの領域における広告戦略策定から、事業開発・サービス改善を得意とする。
現在は、消費財、人材サービスなどを提供するクライアント企業に、広告戦略立案、ブランド戦略立案、新規商品開発などを支援している。

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