役に立たない「ペルソナ・カスタマージャーニーマップ」はコレ! 現場で使える見直し術
顧客を深く理解し、より良いアプローチをするために活用される「ペルソナ」「カスタマージャーニーマップ」。だが、苦労して作っても、形骸化するケースも多い。「Web担当者Forum ミーティング2024 秋 」にグッドパッチのUXデザインユニット長を務める秋野氏が登壇し、ペルソナとカスタマージャーニーマップのよくある誤解や失敗事例を紹介しながら、効果的な活用法を解説した。
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作ることが目的になってない? ペルソナは手段の一つ
UXデザイナーは「ペルソナやカスタマージャーニーマップを作り、サービスをなんかいい感じにしてくれる人」と思われがちだが、秋野氏は「それは間違い」と言う。「ツールを作成することが目的ではなく、達成したい目的に対して、手段としてツールを活用しなければ意味がない」と語り、「ペルソナやカスタマージャーニーマップを効果的に活用するには、目的に合わせて意識的に作成することが大切」と語った。
効果的なペルソナを作るには?
では、どのようにペルソナやカスタマージャーニーマップを作成すれば、効果を上げることができるのか。1つ目のポイントは、明確なゴールを掲げることだという。ゴールが漠然としていては意味がない。
たとえば、「自社サービスに新しい年齢層を取り込むため、20代後半の女性に響く新しい化粧品ブランドを考える」というゴールを掲げたとする。そのゴールに対し、秋野氏はサンプルとして以下のペルソナを提示した。
「このペルソナは効果的に使えるでしょうか?」と秋野氏。下図のペルソナ例では、「化粧品」というテーマに対して、情報が多すぎて効果的に活用できないという。
では、活用できるペルソナに作り直していこう。まずペルソナの情報のうち、下記の図で青マーカー部分は、化粧品ブランドで新商品を作るケースにおいては「関係がない」と思われる情報だ。
人は情報が多すぎると、自分の気になった情報だけを覚えてしまう。ペルソナを作る目的は、関係者間で共通認識を持つためだ。人によって覚えている情報がまちまちでは、共通認識を持つことは難しくなる。
たとえば、年収や同居者などの情報はゴールに対して直接関係はない。その情報から、化粧品に使えるお金が算出できるのなら、化粧品に使えるお金は●●円と記載した方がわかりやすい。情報はできるだけシンプルに、不要な情報は削ぎ落とすのがコツだという。
効果的なペルソナにするために意識すべき3つのポイント
秋野氏が次に着目した項目は、サンプルのペルソナの「現在の状況・情報ニーズ」だ。「そのペルソナがどんな状況で、どんなニーズを持っているのか」を記載することが重要だという。サンプルの内容では誰にでも当てはまることが多く、何が課題なのかがわからない。効果的なペルソナにするポイントとして、秋野氏は次の3つを挙げた。
【課題】
サービス・施策を使って、ユーザーが解決したい課題は何か【意思決定の軸】
ユーザーはどんな要素があれば意思決定できるのか(価値観や、意思決定に影響する人なども)【理想の姿】
ユーザーはどんな理想の姿を目指しているのか
これらのポイントを意識して、サンプルのペルソナを深掘りしてみよう。
「化粧のノリも悪い【課題】」とあるが、その課題はなぜ生じているのか。遅くまで働いているからなのか、パソコンの見過ぎなのか、外食の多さなのか、理由によって求められる商品はまったく異なる。
「利用しているSNSにInstagram【意思決定の軸】」とあるが、「インスタを見ているのに自分にあったものがわからないのはなぜか。具体的な行動を起こす障壁になっているものはなにか」と、想像力を働かせることも大切だ。
次の項目は、「性格(価値観・人生観)【意思決定の軸】」だ。性格は意思決定に大きく関わるので、しっかり書きたい。たとえば、「興味の幅が広くて目移りするから、自分にあったものがわからない」や「妥協したくないから、リップやファンデなど友達に見られやすいものは必ずデパコスを使いたい」など、性格や価値観のどんなところが意思決定に影響しているかを記載しよう。
最後のポイントは【理想の姿】だが、ペルソナにとって「理想」はどのようなものなのか。たとえば、美容に関する課題一つとっても、「美容に時間をかけて、自分に合うものをとことん探したい」、「内面から魅力的な女性になりたい」、「趣味にお金をかけたいから、高価な化粧品は欲しくない」など、さまざまな理想が想像できる。ペルソナにとっての理想の姿は何なのかイメージしよう。
ペルソナに必要なのは「課題」「価値観」「ユーザーゴール」「名前」の4項目だけ
サンプルのペルソナを深掘りしてきたが、結局ペルソナにはどんな項目が必要なのか。秋野氏は「これだけ書いてもらえれば良い」と、次の4つを挙げた。
1. 課題(シナリオ)
ペルソナが普段どんなことを考え、どんな環境で、どんな行動をしているのか、前後のコンテキストを含めて可視化する。
2. 価値観
ペルソナが課題を解決するにあたって重視している特有の意思決定の軸や関与する人、環境、過去の経験を記載する。個別の情報が重要なのではなく、これらの情報が組み合わさった結果、どんなことが導かれるのか、そこに意味がある。それを記載するのが重要。
3. ユーザーゴール
ペルソナが課題を解決した結果、最終的になりたい理想の姿。(1)課題と、このユーザーゴールがつながっていることが理想的だ。
サービスやプロダクトとの接点は、ユーザーの人生におけるほんの短い瞬間です。その短い時間がどの接点でつながっているのかに着目し、ユーザーゴールを設定するのが良いです。
保険のように生涯に関わる商材であれば、「どういう人になりたいか」が重要ですし、化粧品などの消費財も「どういう人になりたいか」からブレイクダウンした結果、この商品が良いと選択することがあります。扱う商材は、ユーザーの理想の姿との関係性が遠いのか、近いのかだけでも記載しておくべきです(秋野氏)
4. 名前
ペルソナの名前は、なんとなくつける場合が多いが、秋野氏はこだわってつけるという。ペルソナの特徴を体現し、親しみやすいインパクトのある名前をつける。「一言で言うとその人ってどんな人?」が名前になっていると、関係者でペルソナをイメージでき、認識がそろいやすくなる。
サンプルのペルソナを、この4項目で記載したのが以下だ。
パッと見て課題が把握できる効果的な「カスタマージャーニーマップ」の書き方
続いて、カスタマージャーニーマップの効果的な作成方法が紹介された。秋野氏はサンプルのイケてないカスタマージャーニーマップを示し、陥りがちな3つの問題を示した。
- 利用までの流れを可視化するものの、誰のどんな課題を解決したいのかが曖昧になってしまう
- 課題と理想が混在してしまう。課題を見つけたいのか、理想を描きたいのかをまず定義する
- フレームワークにこだわりすぎて、ユーザーの行動に矛盾が生じる場合がある
ユーザーはフレームワーク通りに行動しないので、フレームワークは気にしすぎず、ユーザーがどういう行動をしているかを基に考えていこう。意識すべきポイントは、以下の3つだ。
- サービス・施策を使ってどんな課題を解決したいのか
- 可視化したいのは現状の課題なのか、理想の状態なのか
- どんな時系列(ステージ)が可視化できれば課題が浮かび上がるのか
カスタマージャーニーマップで実施すべきことは、ユーザーの行動や心理をステージごとに整理し、各ステージでの課題を特定することだ。ステージは、フレームワークにしばられず、実際のユーザー行動に基づいて組み上げていく。
ユーザーの実態について、想像力を働かせてイメージしたり、ユーザー調査を行い、その結果から反映させたりしても良い。その中で、課題・離脱ポイントを特定することが重要です(秋野氏)
カスタマージャーニーマップの縦軸の項目も、目的に合わせてカスタマイズするのが効果的
カスタマージャーニーマップの縦軸の項目は「タッチポイント」「ユーザー行動」「ユーザー心理」の3点セットのほか、カスタマージャーニーマップを使う目的・ゴールに対して項目を追加してカスタマイズするのも効果的だという。
下図のサンプル例では、3点セットに加えて「課題」の項目を追加している。これだけで、誰が見ても課題を把握できるため効果的である。また、良いアプローチやアイデアにつながるのであれば、たとえば、「琴線に触れるキーワード」「行動量の違い」などを入れても良いという。
カスタマージャーニーマップで一番重要なのは、理想と現状のギャップを可視化し、解決すべき課題を特定することです(秋野氏)
ペルソナ・カスタマージャーニーを使う目的は? 「なぜ」を三段階で掘り下げて研ぎ澄まそう
秋野氏は講演を振り返り、ペルソナやカスタマージャーニーマップを有効に活用するには、「どんなサービス・施策において、どんな意思決定をしたいのか?」を言語化することが重要と言う。というのも、目的を言語化してみると、意外に関係者間で認識が合っていない場合がある。「目的を言語化して、研ぎ澄ましておくこと」が重要だ。
研ぎ澄ませるとは、どのようにしたらよいのか。「なぜ?」と三段階で掘り下げると、より明確化でき、本質的な目的にできるという。
(具体例)目的:取り組むチームメンバーと合意形成するため
なぜ(第一段階)?
「なぜ、合意形成する必要があるのか」→「ユーザーが求めるサービスを考える時、想像するユーザーが異なると困るから」
なぜ(第二段階)?
「なぜ、困るのか」→「サービスの考え方に違いが出るから」
なぜ(第三段階)?
「なぜ、違っているとよくないのか」→「変化に対応できず、小さな意思決定にも再論の時間がかかるから」
ペルソナやカスタマージャーニーマップによって、ユーザーの価値観など、深いところまでチームメンバーで把握し、合意できていると、急な仕様変更の際も短い時間で対処法を検討できます。そうした説明があれば、クライアントや上司もユーザー理解の重要性に納得してくれるかもしれません(秋野氏)
ペルソナ・カスタマージャーニーマップを効果的に活用する3つのポイント
そして、プロジェクトに関わる全員が、ペルソナやカスタマージャーニーマップを活用するポイントとして、次の3点を紹介した。
活用ポイント①UXマスター(プロダクトとユーザーに関する仮説をまとめたもの)を作成して見えるところに置いておく
ペルソナやカスタマージャーニーマップの他、体験サイクルや成長ステップ、どのようにサービスが拡張していくのかというUXマスターを作成する。みんなの見えるところ、たとえば、朝会でみんなが必ず見るページなどに置いておく。
活用ポイント②何度もペルソナの名前を出して振り返る
施策検討や会議の際などに、ペルソナを引っ張り出すことを習慣化する。「ペルソナの●●さんは、どう思うかな」というように、何度も日常的に使うことが大切。
活用ポイント③使った方がいいものだと感じてもらう
クライアントなどステークホルダーから、ペルソナの話がでてきたら積極的に反応する。「ユーザー理解をしてることはいいこと」だと認識してもらう。
ペルソナ・カスタマージャーニーマップを効果的に活用できるかは、あなたの行動次第
最後に秋野氏は以下のように語った。
どんな目的のためにペルソナやカスタマージャーニーマップを活用するのか、効果的に活用できるかできないかは、全て自分の行動次第です。まず、自分がどのように活用するのか決めましょう。目的は3回の“なぜ“で掘り下げた本質的な目的にすることで、説得力が増していきます(秋野氏)
なお、グッドパッチでは、カスタマージャーニーマップやペルソナの作り方や、それらを作るにあたり必要なリサーチの方法など、UXデザイナーのリサーチスキル育成メソッド「リサーチ道場」を提供している。興味がある方はアクセスしてみてはいかがだろうか。
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