ユーザーに不利な選択をさせる「ダークパターン」対策、誠実なWebサイトの認定制度 2025年開始
近年、消費者が気づかないうちに不利な選択をしてしまうWebデザインやインターフェース(ダークパターン)が問題となっている。これを受け、消費者が正しい判断をできるようにするため、企業の誠実な対応を促し、その評価を行う認定制度が2025年から始まる予定だ。「Web担当者Forum ミーティング 2024 秋」に一般社団法人ダークパターン対策協会のカライスコス氏と岡田氏が登壇し、同協会で進める新たな認定制度やガイドラインに関する取り組みを紹介した。
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「ダークパターン」とは、消費者が間違った同意・確認に誘導されること
1回だけ購入するつもりが、サブスク契約になっていて、解約手続きがとても複雑だった
不要なオプションが初期設定で有効になっていて、気づいたら課金されていた
消費者が気づかないうちに不利な選択をさせるこういった不正なWebデザインやインターフェースを、「ダークパターン」と呼ぶ。近年日本でも注目が集まっている。
一般社団法人ダークパターン対策協会(以下、「ダークパターン対策協会」)のカライスコス氏は、適切な情報提供や同意確認が行われていれば問題ないが、法令違反とまではいかないグレーゾーンが存在しており、グレーゾーンでダークパターンが使われることが多いと指摘する。
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消費者が正しい判断ができるように、企業の誠実な対応を促す仕組みが必要であり、誠実なWebサイトを評価・認定する制度の構築と運営を行う目的で、2024年9月にダークパターン対策協会が設立された。
そもそも「ダークパターン」とは何なのか? カライスコス氏によると、法令などにおける統一的な定義はなく、日本の議論でよく参照されているのは、次の図に示したOECD(経済協力開発機構)の文書における定義だ。OECDは、ダークパターンの被害を測るのは多くの場合、難しいか不可能だとしている。
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ダークパターンにはどんな種類がある? ダークパターンの7種類を解説
では、ダークパターンは具体的にはどのようなものがあるのか。カライスコス氏がダークパターンを7つに分類して解説した。
- 強制
- ユーザー登録の強制(Webサイトで買い物をしたいだけなのに、ユーザー登録をしないと買い物ができないなど)
- 必要のない個人情報の開示の強制 など
- インターフェース干渉
- 事業者に有利な選択肢を事前選択したり、視覚的に強調したりする など
- 執拗な繰り返し(ナギング)
- 通知や位置情報の取得等について、事業者に都合の良い設定にするように繰り返し要求する
- 妨害
- 解約等の行為やプライバシーに配慮した設定への変更などを、分かりにくくしたり、難しくしたりなどして妨害する
- こっそり(スニーキング)
- 取引の最後に非オプション料金を合計価格に追加する、トライアル期間後に自動的に定期購入を継続する など
- 社会的証明
- 他の消費者の行動などについて、虚偽の、または不正確な通知や表示を行う(たとえば、ホテルの予約時に「今、この部屋を100人のユーザーが見ています」と表示し、その数字が正しい情報にもとづいていない場合) など
- 緊急性
- 虚偽の時間的制限や量的制限を表示すること など
ダークパターンは非デジタルの世界でもよく使われる手法です。たとえば、いつも閉店セールをやっているお店がデジタル化したものと思ってください。問題なのは、消費者を誤解・誤認させたり、あるいは困惑を生じさせたりして、それがなければしなかった行為をさせることと、そのために技術や技法を使っていることです(カライスコス氏)
ダークパターンによる推定被害額は年間1兆円超! なぜ企業はダークパターンを使ってしまう?
ダークパターンによって金銭的な被害が生じる場合があることを伝えたが、ダークパターンに関するアンケート調査によると、消費者の86.2%が何らかのダークパターンを経験しているという。また、消費者の30.2%は過去1年の間にダークパターンにより金銭的被害を受けている。年間で1兆円以上の被害が発生していると推定され、その被害は増加傾向にあるという。
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消費者の89.4%はダークパターンを使う企業からの商品・サービスを購入することに抵抗があると回答している。このことから、ダークパターンは使わないほうがよいと思うはずなのに、なぜ企業はダークパターンを用いてしまうのだろうか。カライスコス氏は、主な理由として次の3点を挙げた。
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- 縦割りの企業組織となっている
他の部署との連携があれば問題を防ぐことができるが、連携が不足しているために防げない。
- 短期的なビジネス視点が支配的となっている
売上が一時的に上がる効果が期待できるため、長期的には信頼を失うとわかっていても、やってしまう。
- ダークパターンに対する認識が消費者に十分に浸透していない
消費者の認識が浅く、気づかれないのであれば問題ないと考えて使っている。
今回の認定制度で、ダークパターンを使わない事業者を評価することで、これらの問題を解決できると考えていると、カライスコス氏は語った。
ダークパターンをめぐる日本の法規制と執行事例
続いて、ダークパターン対策協会の理事で弁護士の岡田氏が、ダークパターンに関する日本と海外の法規制について説明した。岡田氏によると、個別に規制する法律は存在するが、日本国内にはダークパターンを正面から横断的、包括的に規制する法律はないという。
心理学的効果を活用し、事業者が消費者を向かせたい方向に誘導する手法は昔からあり、営業活動やプロモーション活動の一面という側面もありました。度を越して悪質なものであれば、従来から民法や消費者法、独占禁止法などで対応できるケースもありますが、多くの場合、グレーな領域であって黙認されてきたのが事実かなと思います(岡田氏)
ダークパターンは違法と適法の境目が曖昧であり、グラデーションのある概念のため、法律での規制が難しい面もあり、専門家でも意見が分かれるところだと言う。とはいえ、特定商取引法や景品表示法など個別に規制している法律があり、最近ではサブスクやステルスマーケティングの規制も進んでいるという。
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続いて、日本での執行事例を3つ紹介した。
左の事例は、ステマ規制で行政処分を受けたクリニックのクチコミに関する事例だ。来院者にクチコミで高評価をつけた場合、ワクチン接種の割引をするとして高評価を誘導していた。クチコミを見た一般ユーザーはその前提を知らず、公平な評価だと誤解してしまうため、不当表示と判断された。
中央の事例は、「24時間365日 自動音声で解約可能」といった表示があったものの、実際には解約が難しく、正確な情報を提供していなかったとして処分された。
右の事例は、事業者がインフルエンサーにユーザー評価を依頼し、報酬を提供していた事例だ。Instagramの投稿には「PR」と表示されていたが、自社のWebサイトに引用する際にその注記を入れておらず、ユーザーがWebサイトを見ると第三者の客観的評価だと誤認されると判断された。
欧米のダークパターンの法規制の状況は? 法だけでなく民間でのアプローチも重要
では、欧米における法規制の状況はどうか? 既存の法律を積極的にダークパターンにも当てはめるアプローチと、新しい法律を導入するアプローチの両方が行われているという。
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新しい法律を導入するアプローチの代表例は、欧州における「デジタルサービス法」だ。また、個別的な規制としては個人情報保護の文脈では「GDPR」が有名だが、2023年にはGDPRの中でソーシャルメディアプラットフォームでのダークパターンにフォーカスしたガイドラインが公表されたという。消費者保護の観点では、「不公正取引行為指令(UCPD)」でもダークパターンに言及するガイダンスを提供しているとのこと。
米国では、既存の法律をダークパターンの文脈で活用するアプローチがとられている。例えば、「FTC法」では、不公正または欺瞞的な行為・慣行を広く禁止しており、これをダークパターンにも適用している。欧米では、執行も活発に行われており、数十億円、数百億円規模の制裁金が課されるケースもあるという。
日本にはダークパターンを包括的に規制する法律はありませんが、日本でも消費者関連法や、個人情報保護法など既存の法律に抽象的な条項が含まれています。これまでは当局が積極的にそれを執行してこなかった側面がありますが、状況によっては今後、既存の法律を積極的に活用する可能性もあるでしょう(岡田氏)
一方、法律ですべてを対応しきるには限界があるので、民間での自主的なアプローチやフレームワークが法律を補完する役割を果たすことが非常に重要だと、岡田氏はまとめた。
民間の自主的な取り組みが重要。ダークパターン対策協会の取り組みとは
最後のパートは、カライスコス氏と岡田氏によるディスカッションだ。カライスコス氏が岡田氏に、「日本で法規制が進まない理由と今回の認定制度の意義について」質問を投げかけた。
岡田氏は、ダークパターンは法律だけの問題ではなく、心理学や行動経済学、デザインなど多くの領域が複合的にかかわる課題だという。さらに、縦割り組織の企業内で横断的なガバナンスが効いていないことを指摘した。また、消費者にダークパターンの認識が広まっていないので、啓発活動も必要であり、これらの観点を踏まえて、法律だけではできない、民間の自主的な取り組みが重要だという。
その取り組みは、悪質な事業者を叩くということだけではなく、良い事業者を積極的に褒め、「正直者が損をしない」インセンティブを働かせていく。そういう点も含めて、民間の取り組みが必要とされる素地があり、それに応えていくことが大事だと話した。
ダークパターン対策協会は、消費者が正しい判断を行えるようにする1つの目安として、誠実なWebサイトを審査・認定し、ロゴマークを付与する仕組みを提供し、消費者に対してダークパターンに関する注意喚起やロゴマークの普及啓発活動を行っていく。
認定制度は、非ダークパターン認定(Non-Deceptive Design Accreditation : NDD認定)という名称で検討しています。また、消費者にわかりやすく、訴求力の強いロゴマークを考えています(カライスコス氏)
政府関係機関と密に連携。25年7月から審査を開始できるよう準備中
カライスコス氏は、認定制度を構築・運営するダークパターン対策協会の組織体制を紹介した。
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ポイントは、消費者庁、総務省、経済産業省、個人情報保護委員会など政府関係機関と密に連携していることだ。「NDD認定制度・ガイドライン構築分科会」では、各省庁の代表者が参加して意見交換を行っている。また、審査は内部のみで行うのではなく、上記の図で緑色で書かれている外部の「登録認定審査機関」に委託し、なおかつ内部でも確認を行う体制としている。
「ダークパターン通報窓口」も設置予定で、ここでも消費者庁などとの連携を予定している。このように外部機関とも適切に連携を進めている点を強調した。また、同協会の理事・監事・顧問には豊かなバックグラウンドを持つメンバーが参加しており、多角的な検討や分析を行う体制を整えているという。
2024年11月から正会員の募集を開始している。正会員になるとガイドラインの検討資料や議事録が閲覧でき、普及活動や制度の運営などに協力すると割引が受けられる仕組みがあるという。今後の活動スケジュールは、2025年1月にガイドラインとチェックリストを公開し、7月から審査が開始できるように準備を進めているという。
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消費者が正しい選択・判断ができるよう、ベストプラクティスを追求していく
では、審査対象とガイドラインはどのような方針で対応していくのだろうか。岡田氏によれば、審査対象で何をカバーするかと、ガイドラインで何をカバーするかは分けて考えているという。審査対象は、どの審査員がみても判断が分かれにくい部分から開始予定だという。
これに対し、ガイドラインは、消費者に対する啓発、事業者に対する注意喚起・レコメンデーションの側面もあるので、広くカバーすることが重要だと考えている。ベストプラクティスや手引き、ルールやプロセス、教育などをカバーして実装を推奨していく予定だ。
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この制度は、法解釈について判断するものではありません。適法か違法かを超えて、ベストプラクティスをきちんと追求していくという姿勢が大事だと思っています(岡田氏)
審査は本部のみで行うのではなく、第一段階で対象企業においてチェックリストを用いてチェックを行い、第二段階で外部機関で審査、第三段階で本部でチェックを行うフローとしている。また、ガイドラインの作成においても政府機関と連携しており、透明性の高い制度としている点を強調した。
ダークパターン対策協会の活動は、誠実なWebサイト運営を行う企業のブランド向上につながるだけに今後の動きにも注目だ。
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