講座16 進化し続ける広告プラットフォームとの付き合い方
文:芝野徹也 監修:紺野俊介((株式会社アイレップ))
2007年最大のニュース、「新スポンサードサーチ」を改めて理解する
2007年、日本のSEM市場に最も大きなインパクトを与えたものの1つに、オーバーチュアスポンサードサーチが、新しい広告プラットフォームである「新スポンサードサーチ」(コードネーム「パナマ」)に変更されたことがある(図1)。
この新しい広告プラットフォームは、オーバーチュアからは「新スポンサードサーチ」という名称でリリースされているが、コードネームとしての「パナマ」としての名称のほうが認知度が高いかもしれない。
日本での正式リリース前から、USでの導入状況が語られる際に、「パナマ」というコードネームとセットだったことに由来すると考えられる。オーバーチュアスポンサードサーチが広告配信するYahoo! JAPANの検索シェアが約86.3%であることを考えると、日本の検索マーケティングのほとんどの広告主に何らかの影響が生じていると考えていいだろう。改めてそのインパクトの大きさがわかる(インプレスR&D発行の『インターネット白書2007』資料2-2-1「利用している検索サービス」より)。
新スポンサードサーチへの移行は4月18日に開始され6月末で完了し、7月12日には広告表示システムが新方式に切り替わった。オーバーチュアの日本でのサービス開始以降、最大の変更ともいわれる新スポンサードサーチへの移行は、わずか3か月で実施されたこととなる。
- 2007年4月18日 新スポンサードサーチへのプラットフォーム移行開始。
- 2007年7月9日 新スポンサードサーチへのプラットフォーム移行が、6月末にすべて完了したことを発表。
- 2007年7月12日 新スポンサードサーチにおける広告掲載順位の新掲載順位決定方式の導入。
そして、この短期間で起きた劇的な変化は、大きく分けて以下の6点に集約される。
- 掲載順位決定方式(品質インデックスという概念の導入)
- 動的アカウント構造
- 地域ターゲティング機能
- 広告掲載開始の迅速化(審査プロセスの変更)
- 予測機能と予算設定・スケジュール管理機能
- 目標管理機能
新スポンサードサーチでは、ユーザーニーズと広告のマッチング精度が向上
広告主が最も関心を集めているのが、「①掲載順位決定方式」だろう。本講座の「講座11 ナンバー1よりナンバー4?」の回でもとりあげているとおり、キーワード広告における広告掲載順位は、非常に重要な指標の1つであるため、そのコントロール次第で集客の効率が大きく左右されてしまうからだ。従来の入札金額による単純なオークション制から、入札金額にクリック率などから算出される品質インデックスを加味して、順位が決定するという考え方に新スポンサードサーチでは変更された。効率的な集客をねらって掲載順位を高めるためには、ユーザーニーズと広告のマッチングを考慮することが必要条件となったのだ。
しかし、仕組みが変わったからといって不安に考える必要はない。本講座の「講座3 ニーズを拾うキーワードのワザ」でとりあげているように、検索キーワードにはそれぞれにユーザーのニーズが込められているため、そのニーズを考慮して広告文やランディングページを作成することで、広告とユーザーニーズのマッチングを高めることは可能だろう。
また「②動的アカウント構造」の導入により、同一キーワードに対して複数の広告文を並行配信することが可能になったため、いままで以上に広告文の効果検証がしやすくなった。たとえば、「講座10 思わずクリックしたくなるタイトル&説明文の『内容』とは」のように、「価格系」「安心系」「品揃え系」などの複数の訴求をテストし、ユーザーニーズとのマッチングが高い広告で集客を図ることができる。
さらに、サービス提供地域が限定されている場合、「③地域ターゲティング」も併用することで、さらなるユーザーニーズとのマッチングを高める方法もある。東京でしかサービス展開していない場合に、東京からの検索にのみ広告配信し、広告文にも「東京限定」という訴求を行うことで、よりマッチング精度が高まり、広告の品質インデックスを高めることも期待できるだろう。
これらのユーザーニーズを考慮した広告文のトライアルをさらに強力にサポートするのが、「④広告掲載開始の迅速化」である。広告掲載の審査プロセスが変更されたことにより、広告文の追加・変更が従来よりもスムーズになったのは、広告文のトライアルを積極的に行いたい広告主にとっては朗報だろう。
広告管理スピードUPの究極形?
広告管理用API活用による「自動化」
新スポンサードサーチの変更点の「⑤予測機能と予算設定・スケジュール管理機能」と「⑥目標管理機能」は、あらかじめ定めた予算や掲載期間、あるいは目標とする掲載順位やCPAをルールとして組み込み、広告掲載を新スポンサードサーチのシステムによって自動管理する仕組みである。広告プラットフォームの高度化の一方で発生する、管理の複雑さを軽減するための仕組みだといえる。
APIは基本的に大規模な広告代理店や関連システムを開発して提供するデベロッパー向けのもの。
一般の広告主は、そういった事業者がAPIを使うようにして作ったシステムを利用することで、ここで示されているような自動化の機能を利用することになる。
この考え方の究極形の1つとしては、オーバーチュアが提供する「広告管理用API」の活用による“自動化”があげられる。API活用によりレポート取得・分析や、広告掲載用キーワードの生成・登録なども自動化できるようになるのだ。広告プラットフォームと他ビジネスシステムとの連携など、ほとんどの広告主にとってまったく新しい取り組みになるケースのため、現状ではAPI活用が一般化するまでには時間を要するものと考えられるが、今後API活用が普及することによりキーワード広告で実現可能な施策の幅は、飛躍的に広がっていくことが予想される。
API利用により実現される運用の例(「オーバーチュア公式ブログ」より)
- 在庫状況に応じた出稿制御による在庫回転率の最大化。
- 季節や他広告媒体とのメディアミックスなどによる売れ筋商品の変動にあわせた広告運用。
- データベースから自動抽出した多数のキーワードの出稿・管理(工数削減、業務効率化)。
モバイルも進化する!
モバイル版コンテンツ連動型広告のスタート
PC向けのキーワード広告でさかんに新スポンサードサーチの話題がとりあげられる一方で、実はモバイル向けのキーワード広告でも、大きな進化が起こっている。「モバイル版のコンテンツ連動型広告の提供」である。
- 2007年2月1日 オーバーチュア、モバイル向けサイト用のコンテンツ連動型広告の提供開始
- 2007年8月21日 グーグル、モバイル向けサイト用のコンテンツ連動型広告の提供開始(モバイル版 GREE/EZ GREE)
- 2007年10月10日 グーグル、モバイル向けサイト用のアドセンスの申し込み受付開始
特に、先行してモバイル版コンテンツ連動型広告の配信をスタートしているオーバーチュアでは、配信先パートナーの拡充を積極的に行っている。モバゲータウンやモバオクといった大手モバイルサイトを配信先パートナーとして追加しており、段階的に広告のリーチを拡大させているのだ。
また、グーグルもPC向けサイト用のコンテンツ連動型広告で大きなリーチを持つアドセンスを、モバイルでも提供開始したことにより、今後モバイル領域においてもブログなどを利用したリーチを拡大しそうだ。
広告配信のリーチが拡大する一方で、それぞれの配信先のユーザーニーズとのマッチングを考慮して、広告文の訴求や投入する広告費のバランスをとることが重要だろう。
進化し続ける広告プラットフォームの活用
広告プラットフォームは、複数の局面において大きな進化を遂げている。また、新スポンサードサーチによる掲載順位決定の新方式の導入以後も、動的なアカウント構造の仕組みに細かな変更が加わるなど、継続して進化・改善されている。
とはいえ、マクロ的な観点で見た場合の広告プラットフォームの進化は、結局のところ、いままでのキーワード広告においても重要とされてきた、「ユーザーニーズと広告のマッチングを高める仕組みを高度化させる」方向性をたどっていることは間違いない。
したがって、ミクロの観点においても、1つ1つの仕組みに対して過剰に反応するのではなく、引き続きキーワード広告の根本である「ユーザーニーズと広告のマッチングのために活用するには、どうすればいいのか」という観点で対応していくことが重要になるだろう。
ゴールはユーザーと広告主のWin-Winな関係構築。
プラットフォームの進化とともに、ニーズと広告のマッチングを追求し続けよう。
ソーシャルもやってます!