中国IT業界に激震が走った2つの大きな出来事が起きたのは2019年。1つ目はアマゾンが中国国内でのネット通販事業(マーケットプレイス)を7月18日に停止したこと。2つ目は、オラクル中国が約900人のリストラ計画を発表したことです。
Amazon(アマゾン)とオラクルは、中国市場での長年の苦戦を経て最終的に中国現地企業のBAT(「百度(バイドゥ)」「阿里巴巴(アリババ)」「騰訊(テンセント)」)に敗れ、撤退しました。世界の大手IT企業に当時何が起こったのかを振り返ります。
アマゾンが中国市場でのマーケットプレイス事業を停止
アマゾンは2019年7月18日に中国国内でのネット通販事業を終了しました。ただ、越境ECサイト「Amazon海外購」、海外販売サービス「Amazon global selling」、「Kindle」「Amazon Web Services」は現在も継続しています。
アマゾンは、書籍や音楽、おもちゃなどを販売する中国企業「卓越網(Joyo.com)」を7500万ドル(約84億円)で買収し、2004年に中国市場へ正式参入。2008年に中国EC市場におけるシェアは15%にまで到達しました。
しかし、阿里巴巴や京東(JD.COM)を筆頭とした中国EC市場の成長と競争激化に伴い、アマゾンの市場シェアは年々減少傾向にありました。「中国ネット小売市場データモニタリング報告」によると、B2Cネット通販市場におけるアマゾンの市場シェア率は2012年第1四半期の2.3%から、2019年第1四半期には0.5%まで低下しました。
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中国ネット通販市場規模およびAmazonのB2Cネット通販市場の占有率
(「中国ネット年間トラフィック報告」、「中国インターネット年度トラフィック報告」のデータを基にトランスコスモスチャイナ作成)
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2019年第1四半期における中国ネット通販市場シェア
(出典:Analysys「中国ネット通販B2C市場四半期のモニタリング報告2019年第1四半期」)
「消費者ニーズを捉えられない」「低価格競争未参入」が敗因に
アマゾンが中国市場で敗北した要因の1つは、中国市場や文化の認識不足により中国人消費者のニーズを的確に捉えられなかったことです。
京東(JD.COM)の劉強東CEOは、「アマゾンとの競合時に最も感じたことは、アマゾンが中国チームに信頼を置いていないということ」だと述べました。中国の意思決定権はアメリカ本社に委ねられていたため、中国市場の急激な変化についていけなかったと指摘しました。
2012年以降、中国EC市場では低価格競争が激化。京東(JD.COM)、蘇寧(Suning)、国美(Gome)、当当網(Dangdang)などのECプラットフォームは次々と価格競争を繰り広げました。
それに対し、アマゾン中国は高品質な商品やサービス、つまり、商品購入から購入後の体験までの総合的価値で顧客から信頼を得ることを追求し、中国市場の低価格競争には参入しませんでした。
また、2014年から中国越境EC市場は急成長を遂げ、Tmall国際、網易コアラ、聚美優品(jumei.com)は次々と膨大な資金で越境ECを展開。一方、アマゾン中国は低価格競争には参入せず、最終的に中国EC市場における状況がますます厳しくなったのです。
IT大手オラクル(Oracle)の撤退
データベース管理システムで有名なオラクルは1989年、中国市場に進出。中国での市場シェアは最大で56%に達し、長期にわたって中国市場をほぼ独占していました。
ところが現在、オラクルは中国各地のR&Dセンターを閉鎖、クラウドコンピューティングの発展チャンスを見逃し、急成長を続ける中国市場に追いつけない状態になりました。
オラクルの創業者であるラリー・エリソンは、2008年にクラウドコンピューティングを批判しました。一方、アリババグループは2009年にクラウドコンピューティングサービス「Alibaba Cloud(アリババクラウド)」を立ち上げ、「脱IOE(IBM、オラクル、EMC)」を構想したのです。
「脱IOE」とは、アリババのITフレーム構造からIBM小型機、オラクルデータベース、EMCメモリー装置を除去し、オープンソースソフトウエアを基に独自開発したシステムを活用することです。
中国の主要ECキャンペーン需要に対応できず
オラクルはデータベース事業を維持するため、2013年にビッグデータ専用マシン「Oracle Big Data Appliance」を発表しました。しかし、Tmallの「W11(ダブルイレブン)」や京東の「618商戦」といったECキャンペーンの需要に柔軟に対応できなかったり、トランザクションを処理できなかったりしました。
また、オラクルは2016年に企業向けクラウドサービスであるOCI(Oracle Cloud Infrastructure)の2世代目をリリースするも、あまり良い効果を得られませんでした。
2018年から「脱IOE」は中国IT業界の潮流となり、10年間で企業のクラウド使用意欲は3%から84%までに上がりました。「テンセントクラウド(Tencent Cloud)」、「アリババクラウド」「バイドゥクラウド(Baidu Cloud)」といった、クラウドコンピューティングやクラウドストレージなどのテクノロジーが急成長を遂げるなか、オラクルの市場シェアは年々縮小し、大幅な人員削減を余儀なくされました。
2018年には世界クラウドサービスプロバイダーのトップ3はアマゾン、マイクロソフト、アリババとなったのです。
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2016年~2018年のクラウドサービスプロバイダー売上ランキング
(出典:2019 Gartner,The Future of the DBMS Market is Cloud)
2019年までの「アリババクラウド」の売り上げは247億元(1元15.3円換算で、約3,779億1000万円)で、アジア太平洋市場で1位、世界市場で3位にランクインしました。一方、オラクルはすでにデータベース管理システム市場の上位3位から脱落しています。
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「アリババクラウド」の売り上げ年間推移
(出典:データアリババ決算報告書、画像:China Webmaster)
「アリババクラウド」は2020年4月に、今後3年間でクラウド事業に2000億元(約3兆円)を投資する計画を明らかにしました。サーバー、チップ、ネットワーク、OSなどインフラ開発と次世代データセンターの構築に注力する、これは「アリババクラウド」のデータセンターとサーバーの規模が3倍に拡大することを意味しています。
2023年までに、世界のデータベースの4分の3がクラウド上で稼働し、アマゾン、マイクロソフト、アリババクラウドの市場シェアは合計で69.7%に到達。クラウドコンピューティング市場は寡占市場となっていくことが予測されています。
アマゾンとオラクルの事例が示す、中国市場での敗北要因
アマゾンやオラクルなどの外資系企業が中国市場で敗北した事例から、外資系企業が中国市場で勝つためには次の3点に注意すべきだと考えられます。
1つ目は、外資系企業のグローバル経営管理モデルと他国の成功事例を中国市場に直接応用できないこと。アマゾン本社から幹部層派遣という管理モデルは会社の現地化を妨げる要素となりました。外資系企業は、中国市場において現地の状況に応じた柔軟な経営モデルと権限委譲を適用し、中国消費者のニーズを的確に把握して、ローカル市場とともに成長することが必要です。
2つ目は、グローバル企業は中国市場における自社の位置付けを的確に行い、リソースの活用と製品の差別化で競争優位性を獲得する必要があること。ユーザーが注目したパーソナライズド製品、サービス、ソリューションを提供し、継続してアップグレードを行い、競合他社の模倣を防ぎます。
たとえば、BMWは中国人幹部層が87%を占め、中国独自開発の製品を世界で販売しています。3Mは「in country、for country」という信条に従い、地元企業を超えた柔軟性と革新性を備えています。
3つ目は、グローバル企業は先見力とイノベーション力を持ち、市場環境の変化および自社商品・サービスが置き換えられる危険を敏感に察知し、市場動向に合わせてリアルタイムに戦略を調整する能力が不可欠であること。オラクルを撤退に追い込んだのは、従来の競合ではなくオラクルの顧客企業だったアリババです。
アマゾンとオラクルは中国市場で敗北しましたが、中国IT業界との競争が終わったわけではありません。ここ数年、アリババをはじめとした中国大手IT企業はグローバル市場に進出し続け、アマゾンやオラクルとグローバル市場で再度競争しあうでしょう。
現地化戦略が好調なスターバックス
中国内で成功している外資系企業として、スターバックスがあげられます。何千年にもわたる深い茶文化を持つ中国において、シアトル発のスターバックスは新興市場の開拓やコーヒー需要の増加に成功しました。
新型コロナウイルス感染拡大の影響により、2020年の中国飲食業は収入が前年比16.6%減となりました。しかし、2020年末時点でスターバックスは中国国内に581店舗(うち第4四半期は259店舗)をオープンし、業績は好調に推移しています。
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中国におけるスターバックスの店舗数推移
(「前瞻産業研究院」のデータを元にトランスコスチャイナが制作)
スターバックスが中国で成功している理由は、現地化戦略が優れていることです。中国市場に進出した当初、スターバックスは飲食大手の「香港美心(マキシム)」や食品会社「統一」などの現地パートナー企業と業務提携することで中国現地の文化を深く知り、参入障壁を克服したのです。
2017年にパートナー企業とのフランチャイズを解約して、直営店をスタート。また、産業チェーンについては、サプライヤーのNestle社を蒙牛乳業(もうぎゅうにゅうぎょう)社に変更したり、雲南省にコーヒーの栽培基地を設立したりして、現地化戦略を行いました。中国文化を尊重した上で、商品の研究・開発を行い、中国人消費者の好みに合わせた運営に取り組んでいます。
スターバックスが提供する心地良い「第三の場所(サードプレイス)」や親切なスタッフにより、新しい顧客体験が生み出され、顧客ロイヤリティはさらに強化されました。2020年末時点で、スターバックス公式サイトのアクティブメンバーは1350万人に達しました。
中国市場のネット通販やデリバリーの発展状況に合わせるために、スターバックスはアリババと協力し「ニューリテール」事業を推進しており、2020年度第4四半期には、デジタル事業による売上高が総売上の26%超を占めました。オフラインではパン工房の開設で他社との差別化を図っています。
20年以上にわたる努力の結果、スターバックス中国は市場への深い理解と消費者インサイトに基づき、製品とサービスの高級化を続けて、より良い顧客体験を提供しています。一方で、市場環境の変化に応じて戦略を見直し、常にイノベーションを創出しています。
こうしたスターバックスの取り組みは、中国市場への進出を検討している外資系企業の参考になるのではないでしょうか。
※このコンテンツはWebサイト「ネットショップ担当者フォーラム - 通販・ECの業界最新ニュースと実務に役立つ実践的な解説」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:アマゾンとオラクルの中国市場撤退の事例に学ぶ、グローバル企業が中国で勝ち抜く方法 | 中国の最新買い物事情~トランスコスモスチャイナからの現地レポート~
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