家電ネット販売のエクスプライスでは6月、新社長に稲積憲氏が就任した。同氏はNHN Japan(現LINE)の執行役員やNHN PlayArt(現NHN Japan)の社長、トランスコスモスの取締役専務執行役員を歴任。エクスプライスの2021年6月期売上高は、前期比約20%増となるなど業績は好調に推移している。新規上場を見据える同社の舵取りを任された稲積社長に今後の戦略を聞いた。
差別化ポイントは、ネット専業でライフスタイルに合わせたトータル提案
――社長就任の経緯は。
「エクスプライスの株主は100%投資ファンドだが、ファンドの別の投資先の社長が知人だったことから、当社を紹介され、社長に就任することになった。物販は初めてだが、EC支援事業にはこれまでも関わってきた。当社の強みは、優秀なバイヤーによる仕入れ力と、それときちんと値付けして売る販売力だ。彼らをサポートしてくとともに、私の得意分野である『顧客接点』と『経営管理』分野に取り組む。これまで当社が培ってきた強みと私の強みを組み合わせていく」
――現状の家電EC市場をどうみるか。
「コロナ禍以前からEC化が着実に進んできた分野だ。家電量販店の成長率と当社のこれまでの成長率を比べると、当社の成長率の方がはるかに大きい。それは、当社の強みもさることながら、顧客の購買ニーズがECに移りつつあり、家電のECが伸びていることが大きい。そこに新型コロナの感染拡大があり、EC化がさらに進んだ」
――競合も非常に多い分野だ。
「ヨドバシカメラやビックカメラといった大手家電量販店がECを強化しており、売り上げも非常に大きい。知名度という点で当社よりもはるかに上の存在だが、当社は店舗を有していないのでコスト構造が全く違う。固定費が少ないということもあり、それを価格という形で還元できるのが有利な点であり、今後も強みとしていけるのではないか。アマゾンに関しては、競合というよりも、当社も活用するプラットフォームという要素が強いが、もちろん家電も多く販売している。ただ、家電の設置や工事など、付帯事象に関しては当社に強みがあると思う。家電を購入し、使っていくという点では、当社の方が体験価値という点で高いのではないか。家電量販店やアマゾンとは違った形で顧客に価値を提供しているし、これからも進化していくのではないか」
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エクスプライスが運営するECサイト(画像は編集部がキャプチャして追加)
――家電量販店もECにおいて価格面で攻めてきており、競争は激しい。
「4月に『MOA』から『エクスプライス』に社名を変更した。『プライス』は価格を意味しており、『エクス』はエクストリーム、つまり究極。『競争力のある価格と、家電通販として究極のサービスを目指す』という思いを込めている。価格だけではなく、安心して購入し、快適・便利な体験をしてもらうことが大事だ。品揃えだけではなく、事前の購入相談やレコメンド、購入後の設置・工事のスムーズさ、ライフスタイルに合わせたトータルでの提案などを、ネットのプレイヤーとして届けていくことが大きな差別化ポイントになってくると思う。シンプルに、ネットに特化した形でサービスを提供するというのは、家電量販店にはできないことだし、強みになるはずだ」
――エクスプライスの強みとは。
「顧客満足度が高いということだ。もちろん『エクス』の部分は大きく進化させていかなければいけないが、現状でも他社と比較した際の満足度は相対的に高い。ブランドの知名度がまだ高くない部分をカバーできている。もう一つがバイヤーによる仕入れ力だ。彼らが良い売り方をしてくれる点も大きい」
――現在、主要な家電メーカーとは取引はあるのか。
「メーカー、メーカー系商社、メーカー指定商社を含めると、ほぼすべてのメーカーと取引口座を開いている」
――以前はメーカー以外からの仕入れが多く、そのために安売りできていた部分が大きい。メーカーとの取り引きが増えると、ボリュームが大きい家電量販店よりも仕入れ価格の面で不利になるのでは。
「そこをコスト削減でカバーするのが当社の勝ちパターンだと思っている」
――具体的には。
「最近の取り組みでいえば、基幹の物流センターを移転した。これまで複数階にまたがっていたものをワンフロアに集約したほか、同じ敷地には佐川急便の営業所もあるので、時間やコストを削減できる。設備投資をしながら生産性を上げていきたい」
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稲積憲社長
24年6月期、年商1千億円へ、顧客満足度向上でファン増やす
――4月に社名を変更し、ショップ名も「エクスプライス」に変えた。
「これまではショップ名が『A-PRICE』と『プレモア』で、社名が『MOA』とブランドが3つ存在し、名前に意味づけもできていなかった。今回、意味を込めた社名に変更し、ショップ名も基本的にはエクスプライスに統合した」
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ショップ名も「エクスプライス」に変更した(画像は編集部が追加)
――消費者に浸透していたショップ名を変更することにはリスクもある。
「大きな認知度の下落はなかったようだ。ただ、それはあまり知名度が高くなかったということでもある。これまでは仮想モールや価格比較サイトに集客してもらってきた面が強かったということを改めて感じた。そのため、エクスプライスの認知度を上げていくことが必要になってくる。4月には、サッカーJ1の『ヴィッセル神戸』と今年12月末までのスポンサー契約を締結したが、コミュニティーに訴えかけていくのも1つの手段。ただ、一番大事なのは、一人ひとりの顧客に満足してもらい、ファンになってもらうことだ。リピート購入はもちろん、くちコミで周囲の人たちに広めてもらえるという波及効果もある。まだマス媒体を使ってアピールしていくフェーズではないので、地道にやっていきたい」
――2021年6月期の業績は。
「売上高は前期比約20%増の640億円程度で着地したようだ。もちろんコロナ禍による追い風はあったが、それが全てではない。コロナ禍がなくても2桁増収は達成できたのではないか。足元でいえば、家電市場はあまり活況とはいえないが、こうした中でも当社は伸びている。ネット専業の中でも、価格のみならず、大型家電を中心とした品揃えの面でも顧客にアピールできているのではないか。追い風だけにはとどまらず、エクスプライスの認知を拡大するとともに、顧客満足度を高め、ファンを作るという取り組みを続けることで成長を続けていきたい」
――家電以外の商材の売り上げ比率は。
「20%程度で、比率は徐々に伸びている。スポーツ用品やアウトドア用品、家具、ベビー用品などが人気だ」
――プライベートブランド「マクスゼン」について。
「前期の売上高は50億円を超えた。アイテム数は64となっている。理美容家電や、まだ扱っていない生活家電、さらには非家電商品にもトライしていきたい」
――現状の課題は。
「やはりファンづくりだろう。1つは『顧客から見てどうなのか』ということ。長年商売していると凝り固まってしまう部分がるので、顧客視点が重要だ。もう1つは、システムが全体的に古く、足かせになっている部分がある。基幹システムとECシステムの刷新が終わればレベルアップできると思っている。この両面を変えていくことで、より顧客に満足してもらえるようになるのではないか」
「システム刷新は今期中には終える予定だ。顧客が買いやすいサイトになる。細かい設定やセット販売など、今のシステムだと表現できない部分が多いので、分かりやすいサイトになるのではないか。サポートという点でも、これまで以上に顧客の情報理解した上で対応できるようになる。また、ショッピングアプリも開発する予定だ」
――今期の業績見通しは。
「少なくとも2桁増収は達成したい。24年6月期には売上高1000億円を目指しており、そのためには成長を加速しなければいけない。新しい商品ジャンルの取り扱いや、リピート率の向上も目指したい。精度の高いレコメンデーションと、クーポンを含めた販促が重要になってくる」
――どんなジャンルを扱うのか。
「家電量販店を見ても、さまざまなジャンルの商材を扱っている。どのジャンルと決めているわけではないが、良い仕入れ先を開拓するのが重要になってくる」
――配送関連の取り組みは。
「5月には大阪に拠点を設けた。各地にサテライトの拠点を作ることで、スピード配送に対応したい。8月には基幹物流センターとして千葉県船橋市に『船橋物流センター』をオープンしており、拠点づくりは来年度以降取り組んでいきたい」
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CO2排出量削減など環境配慮型の船橋物流センター(画像は編集部が追加)
――上場の時期は。
「審査の状況にもよるが、今期は上場直前期と位置づけている」
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オリジナル記事:家電EC大手のエクスプライス(旧MOA)稲積社長に聞く成長戦略と差別化策 | 通販新聞ダイジェスト
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