コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の十五
「商売」とは永遠のベータ版
「Web 2.0」の提唱者、ティム・オライリー氏はその定義の1つに、未完のままバージョンアップを繰り返し進化し続けるソフトウェア(サービス)を挙げて「永遠のベータ版」としました。これを、拙著『Web2.0が殺すもの』で「子供オヤジ」としたのは、きれいな言葉で綴った責任回避の礼賛への反語としてです。
Web 1.0(笑)以前から終わりのないバージョンアップは常識で、商品化にあたり便宜上「Version 1.0」とするだけです。「バージョンアップはいつ終わるんですか?」とソフトハウス時代の師匠に質問すると「売れなくなったとき」とバッサリ切り捨てられました。リリース時を「1.0」と宣言するか「ベータ」とお茶を濁すかの違いだけです(余談ですがグーグルは正式サービス開始としたものは「ベータ」を外しています)。
また、広義に捉えればどんな商業活動でもより良くを目指し、市場のニーズに応える作業に終わりはなく「商売用ホームページ」も同じです。つまり「商売」そのものがティム氏の定義によるベータ版なのです。
10年前、世界のナカタの金髪は非難されていた
21世紀に「ちょベリバ」「ナウい」は死語でしょう。言葉は変化し、日経新聞でも「冷や水」を年寄り以外にかけています。元サッカー選手の中田英寿さんは、フランスワールドカップで金髪にして出場し、非難されました。1998年のことです。90年代のドラマのキャストはほとんど黒髪です。時代とともにトレンドも常識も変わります。
「ホームページは更新しなければならない」と黎明期から言われてきましたが、新しいコンテンツのことだけではなく、文章やデザインも時代に合わせていかなければならないということです。
赤ちゃんが走れないように「失敗」から始める
ネットトレンドの移り変わりは早く、短期の波なら3~6か月。中長期でも1~2年でがらっと変わります。
これは「失敗」してもリベンジがしやすいことにも通じ、変化に合わせて過去の失敗を「なかったこと」にできる便利さともとれます。
商売用ホームページは、最初は必ず失敗します。赤ちゃんが突然立ち上がって100メートルダッシュができないのと同じです。ところが商売用では、「成功する」と信じて疑わない人がいるのが不思議です。最初から完璧な勝利を目指すと、かえって萎縮してしまい成果は期待できないのです。
まずはノビノビと失敗をしてください。失敗を練習と考えチャレンジする姿勢が商売用ホームページの運営には不可欠です。
上手な失敗の導き方。量稽古のススメ
有効な練習は「量稽古」です。回数をこなす練習方法を指し、ページ数(コンテンツ)を増やすことを目指します。
最初は1つのページをじっくり作りたがるものですが、商売用ホームページは芸術活動ではなく商業活動です。必ず作業速度が求められるようなります。
デジタル環境での作業速度は体力やセンスではなく経験がものを言います。また、長い時間を割いて1つの「作品」を提供するよりも、多面的な情報を複数のページにして紹介する方が喜ばれるネットの世界だから、量産できる作業速度は重要となるのです。
同時に、たくさんのページ作りを通して、多くの失敗という練習ができます。
まず看板を掲げよ。通り過ぎる人は未来の客
商売を始める際に、最初に「看板」を出すのがセオリーです。店の前を通る人に「お店ができますよ」という告知と広告になるからです。
商売用ホームページもドメインを取得したら即座に公開してください。
新規取得のドメインは俗に言う「エイジングフィルタ」によってグーグルに相手にされないといいます。エイジングフィルタとは、新規ドメインを一定期間、検索結果で上位表示がされないといわれるものです。
また、巨費を投じたCMでも打たない限り、公開直後のホームページに訪問者はほとんどありませんから、致命的な失敗は考えにくいのです。
不細工でも公開すれば、検索エンジンに認知されますし、存在していればビジネスチャンスはゼロから大きく飛躍します。ないものは相手にされませんが、あれば偶然が入り込む余地が生まれます。
芸能人がきれいになるわけ
タレントが人気とともに輝きを増すのは、見られることにより顔が引き締まり自己演出や表現が上手くなるからです。褒められたら伸ばし、適切な批判は真摯に受け止めて改善していきます。タレントは自分自身が「商品」であり、より高く売る商売です。
商売用ホームページも見られて磨かれます。時には批判に晒されますが問題点を教えてもらったと喜ぶぐらいがちょうど良いのです。「ベータ版」だと開き直るのも、時にはありでしょう。
ベータ版でも公開したから得られる恩恵です。歩き出した人に運命は優しいものです。
評論家になるな。プレイヤーが何よりも尊い
商売用ホームページは時代やトレンドにも敏感な永遠のベータ版でなければなりません。
そして変化するものに批判はつきものです。量稽古の最中も社内外から批判があるでしょう。とある企業で、上司の好みと違う画像を採用したことを、しつこく否定されているのを見たことがあります。またブログの匿名評論家は言いたいことを言うでしょう。
しかし、プレイヤーがもっとも尊いのです。評論の言葉によって気づかされることもありますが、発信する「プレイヤー」がいての評論であり、あるものを論ずるのはたやすい作業なのです。作り出す作業の比ではありません。
常に転がる石のように絶えず変化する「ロックンロール」。永遠に完成されないベータ版ではなく、永遠に満たされないどん欲なロッカー。それがWeb担当者の理想形だと考えます。
ティム氏が「Web 2.0とはロックンロールである」と定義していたら私も尻馬に乗って礼賛したかも知れません。
♪今回のポイント
商売用ホームページはロックンロールで!
失敗は負けじゃなく、リベンジというステージのセッティングだと思うべし。
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