コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の四十六
ビジネスモデルとは要するに金の流れ
東京ビッグサイトで行われたある展示会で「地域SNS」「ポータルブログ」という出展を多数見つけました。前者は地域に特化したSNSの主催を指し、後者はブログサービスの提供をして、「収益アップ」「訪問者増加」につながると謳います。枕詞として「Web 2.0」が使われ、「CGM(Consumer Generated Media=ブログなどのように利用者がコンテンツを作り出す媒体)」はとりわけ強調されます。SNSやブログといった「場所」を提供すれば、あとは利用者がコンテンツを作り出すので手間いらずと。
ビジネスモデルとは儲かる仕組み。ならば「手間いらずなら自分でやればいいのに」という言葉が脳裏をかすめます。
今回は知っておきたい商売用CGMの考察です。
誰もクチにしない地域SNSの限界
博打も商売もルールを決めることができる「胴元」が儲かります。ただし、客さえ集まればという条件付きです。
自治体の参入も著しい地域SNSは客数に制限がかかります。観光地でもなければ地域人口が「最大客数(期待値)」だからです。これは「不特定多数無限大」というネットの利点と逆行します。また、経済効果も「地域」故に、リアル社会の経済状況が反映されるので、不況の地域がネットだからと起死回生を願うのは厚かましい話です。
交流が主としても「商売用」とみれば机上の空論です。すぐに会いに行ける地域の人間と、仮想空間で交流するメリットはあまりありませんし、直接会って相手を知ることも商売では重要だからです。
好評だったとされる千代田区の地域SNSについては最後に触れますが、地域ならではの問題はまだあります。商工会の青年部部長に、町内会長の息子といったリアル社会のヒエラルキーが持ち込まれるのです。すると「守旧派」に属さない人たちの興味は薄れ集客力も低下します。
CGMという甘い水の本当の味
ブログの元締め(ポータル運営側)には更なる難題が立ちはだかります。ブロガーをどう集めるのかということです。ブロガーが増えればコンテンツも増えますし、ブロガーの知人や自身が訪問者となる善循環が生まれます。
しかし、冷静に競争相手を見てください。楽天、ヤフー、ライブドア達と戦うということです。また、「いまさら」新しいブログサービスに魅力を感じる人がどれだけいるのかも疑問です。
地域SNSもブログポータルも「当たれ」ば大きいのですが、確実に儲かるのはそのシステムを売っている人だけです。
「Web 2.0」や「CGM」で利用者やアクセス数が増加して「利益」につながった……例は非常に少ないのです。
CGMを「甘い水」と飛びつくのは甘い考えです。
カリスマも制御できない集合知
ある格闘技団体が「ファンの声を聞こう」と「掲示板」を用意しました。掲示板とブログの違いを議論しませんが、「みんなの声」を集める為のチョイスです。「荒らし」も懸念されましたが、所属選手がコメントを寄せてくれ、オブザーバーの「カリスマ格闘家」も匿名(ファンの間ではバレバレだったらしいのですが)で投稿してくれたお陰で、秩序のある盛り上がりを見せました。ファンは関係者の声に応えるように、盛り上げるために協力してくれたのです。
ところが団体内部のゴタゴタが表面化し、関係者が投稿しなくなると一変し、予想通りの荒れ模様となりました。愛憎相半ばする書き込みは西原理恵子さんの漫画「ゆんぼくん」の中で主人公の母がいった「好きと嫌いは同じものでできているんだよ」という言葉と重なります。
ゴタゴタしているときほど応援の声を聞きたいものですが、みんなの声は「都合良く」コントロールできません。
成功例は「2ちゃんねる」
Web 2.0の教義に則っての「CGM」の成功例をあげるとするなら「2ちゃんねる」でしょう。
悪評も高い2ちゃんねるですが、自由な「みんなの声」だけで成立している数少ない成功例です。Web 2.0風に表すなら投稿者と閲覧者だけで成立している「不特定多数無限大による分散寄稿型CGM」といったところでしょうか。
一方、Web 2.0礼賛派が錦の御旗のように掲げる電子書店アマゾンの「レビュー(書評)」では、投稿はチェックされた後に公開されます(※カスタマーレビューガイドライン参照)。投稿された「レビュー」はそれぞれの「みんなの意見」ですが、アマゾンが自社のサイトに有益となると判断したものだけを公開するといった「管理下」にあります。
アマゾンの管理を揶揄するものではありません。一定の品質や条件に見合ったものを選択するという「品質管理」は営業活動として当然のことなのですから。
CGMを煽る人たちが、確信犯的に触れない事実です。
商売用なら「手塩」にかけて当然
アマゾンにはガイドラインがあります。格闘技団体は内紛から関係者の「声」がなくなり「炎上」しました。商売用のCGMは野放しにはできず、「手間いらず」とはいかないのです。野放しにすれば「2ちゃんねる」に向かい、ブログを放置すればスパムコメント・トラックバックで埋め尽くされます。また、たびたび触れていますが、自由が苦手な日本人に「ご自由にどうぞ」というスタンスでCGMの盛り上がりを啓蒙する姿勢に首をかしげます。
「悪いようにしないから」は相手を陥れるときに使う言葉です。「楽して儲かる」も推して知るべしです。
商売用のCGMが成功するには相応の手間と時間と愛情が欠かせません。
地域SNSの「実証例」として東京都千代田区での実験「ちよっぴー」が引き合いに出されますが、実証期間は約2か月と短く、オフィス街と官公庁が建ち並ぶ、夜と昼の人口差が19倍という「珍しい街」での結果だということです。また、一般論として「役所系」は失敗をあまり認めません。主催団体は「公社」の流れを組みます。そして準公的機関は「動員」をお家芸としています。タウンミーティングのように。
♪今回のポイント
消費者任せのCGMは商売用には不向き。
人の褌や知恵の拝借はそんなに都合良くはいかない。
※お知らせ
来週からミックの「通販支援ブログ」で新連載が始まります。
こちらは「商売人」向けに綴っていますので、一般の方には刺激が強すぎるかも知れません。
初回は「安売りに群がる貧乏人。クレーマーも貧乏人」お客様は神様ですと言ったのは昭和のエンターテイナーですが、神様は慈しみを与えてくれます。
21世紀。もちろん一部ですが「お客様は王様」となりました。搾取するだけで施しはしません。パンがないならお菓子をと。
赤字覚悟の特売商品だけを買っていく。商売の中では本当に赤字の商品だってあります。売っているのだから何を、何だけを買っていってよいという客……を、実は自分たちがせっせと作り出しているとしたら? 苦労して損をして損を増やす結果につながっているとしたら?
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