PR 2.0の現場から

ブロガーリレーションは目線が大事

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ブロガーリレーションは目線が大事

初めて広報と販促が連携した企画が、スカイラインの発表会。マスメディア向けの発表会は広報のしきりというのが通常でしたが、そこに、インターネットプロモーションを絡めたのは、部門を越えた定例会議の成果の1つだといえるでしょう。

広報が担当した初めてのブロガー向けイベントとなったスカイライン発表会。実際の発表会の運営の現場の様子はどうだったのでしょうか?

小川 正太郎氏
小川 正太郎氏
日産自動車株式会社
グローバルコミュニケーション・CSR本部 広報・CSR部
アシスタントマネージャー

メディア対象の発表会の第四部としてブロガーの部を設けました。こういうインターネット関連の新しい試みは米国の方が先行することが多いのですが、ブロガーと会社が直接コンタクトをとるのは、米国法人よりも先だったことに驚きました」(小川氏)

ブロガーならその場で記事を書きたいだろうということで、メモ台付きの椅子を用意してほしいとか、会場からネットにアクセスできるようにワイヤレス接続用のプリペイドカードを用意してもらったり……。マスコミ向けには発表内容に含めなかったブログの読み上げができるカーナビの紹介をいれたりして、その場その場でかなり無理を言って、広報に対応してもらいました。

実は、プレゼンテーションの内容も、専門紙の人たち向けとは変えていたんです。当日のオペレーションが、むちゃくちゃになっていましたが(苦笑)、広報としても、ブロガーのみなさんと直接コミュニケーションしたいと思っていたんです」(工藤氏)

昨今ブロガー向けイベントもたくさんありますが、ターゲットであるマスコミを熟知した広報がいるのと同様に、ブロガーを理解している担当者がいて、細かな点まで配慮しているところが重要なんですね。特に日産自動車の場合は、自社で複数のブログを数年に渡って運営している経験があります。スカイライン発表会の成功は、そういった経験から生み出されたものなのだと思います。

実は発表会のあとにも、サプライズがありました。12月になると参加ブロガーに、日産自動車からクリスマスギフトが届いたのです。

日産からのメリークリスマス

参加いただいたブロガーの方々にお礼をちゃんとしたいと思っていて、悩んでいるうちに12月になってしまったんです。それでクリスマスっぽいものに……ということで、スカイラインのメッセージ『ときめき』という花言葉を持つ花をカードと一緒に贈りました。手作りな感じにしたかったんですよ」(工藤氏)

後から届いたカードで過去のイベントをもう一度思い出し、その体験をブログで紹介したブロガーも多かったようです。イベントそのものはたった1日の話。でも、そのブログのエントリーがアーカイブされるネットの特性をしっかり理解した上でのコミュニケーションはさすがとしか言いようがありませんね。

PR目的と割り切ったセカンドライフ参入

昨年一大ブームとなった企業のセカンドライフ進出。これまでオンラインマーケティングをリードしてきた日産自動車ですが、「エクストレイル」の発表と同時にセカンドライフ進出を告知していますが、実際にオープンしたのは10月です。セカンドライフへの期待と実際についてどのように考えていたのでしょうか。

セカンドライフの外への波及効果を考えると、あのタイミング(2007年夏)しかなかったんですよね」とは工藤さんの弁。

※Web担編注

「羅針盤」とは、日産自動車の企業ウェブサイト(nissan.co.jp)の呼び名。1994年12月12日にラシーン(RB14)の発表とともに開設されたことから、ラシーンの車名の由来ともなっている「羅針盤」をそのままホームページのニックネームとしている(「ラシーン」は、羅針盤から産まれた造語)。

羅針盤のエクストレイルのサイトがセカンドライフで疑似体験ができる、という目的です。ネガティブな意味はさておき、もともと北米日産がやっていたので、(セカンドライフ内での)アクセス数も知っていたし、日本でやったらそこまで行かないのもわかっていました」(小川氏)

もともと目的を、セカンドライフ外でのPR効果と、クルマの世界観を伝えるウェブコンテンツのネタ作りに置いてたので(笑)。2年後くらいにまた3Dインターネットがきたら、今度は3Dの中で実を取る方策に再度チャレンジしてみますよ」(工藤氏)

どういうことをやると、どういう反応があるかをみてみたかった。どんなログがとれるのかというのも、当初わからなかったので」という工藤氏。セカンドライフ進出がPR目的だとしても、そこでの経験を次に生かすためのデータをしっかり入手し、分析しているようです。

タッチポイントとしてのニュースリリース

神原氏

日産自動車では、企業から発信されるプレスリリースはもちろん、販促部門から出されるリリースの内容についても、すべて広報が判断をしています。その判断の基準について聞いてみました。

もともとプレスリリースは、マスコミ向けに発表するためのツールとして考えています。一方で、報道発表というような大げさなネタじゃなくても対外的に発信したいような情報を、社内的には「宣伝リリース」と呼んでいます。具体的にはウェブサイトの更新情報、販促キャペーン、日産ギャラリーでのイベント情報などで、報道発表の内容と齟齬のないように、マーケティング本部から情報を出しています」(小川氏)

報道発表の“プレスリリース”と“宣伝リリース”の内容的な違いを、小川氏は次のように説明してくれました。

たとえば『日産、新型スカイラインを発売』という内容は広報からの“プレスリリース”です。一方、“宣伝リリース”には、スカイラインの広告にだれを起用したといったような内容になります

マスメディアが取り上げやすい内容を扱うプレスリリースと、ユーザーに近い内容を扱う宣伝リリースを棲み分けているとのこと。

現在、広報リリースが年間200~250本発表されるのに対して、宣伝リリースはまだ100本前後とか。もっとたくさんの情報発信ができそうですが、宣伝リリースが少ない理由は?

スカイライン担当の加治マーケティング・ダイレクター(当時)は、もともと広報に明るい人。ネタになりそうなものはどんどん出していこうという考えなんですよね。逆にそういうところまで手が行き届いていない担当もあり、販促のリリースの活用という点では、まだ成長過程にある感じですね」(工藤氏)

(リリースのネタという)宝の山に埋もれているのかもしれません」(小川氏)

タッチポイントの1つとして、ユーザーに親近感を持ってもらえる宣伝リリースを出している」という工藤氏。一方で、どんな情報がクローズアップされるか、よくわからないとの本音も。ヤフーのトピックスで紹介されたリリースについても、「これは取り上げられないだろう」と思っていたような内容のこともあったとか。ネットユーザーの関心やオンラインメディアのニュースの選択基準については、まだまだ研究の余地がありそうです。

自社ウェブサイトは自社メディアか否か

100万人を越えるユニークユーザーを有する企業サイトは、すでに自社でメディアを保有しているといっても過言ではありません。そのような巨大企業サイトの1つである日産自動車のウェブサイトを、実際に運営している人たちはどのように見ているのでしょうか。

自社メディアという感覚まではいきませんが、お客さんとのゲートウェイ、タッチポイントを持ったという感覚はありますね」(井原氏)

1999年にグローバルサイトをオープンした当初は、企業広報部分と販促部分が混乱していたものを整えたという段階だったと思っています。プレスリリースを掲載したり、投資家向けの情報提供を始めたところでしたね。彼らの時代(井原氏、工藤氏)になって、よりパーソナライズされたものに変わってきています。それだけをとっても読み物になっているので自社メディアになってきているといえるかもしれません」(小川氏)

これまでは伝統的にメディアを通しての情報発信だけだった」という小川氏。広報の立場の小川氏が、「メディア」として考えることに慎重なのに対して「我々は元々そういう感覚ですね」というのは工藤氏。現在は、自社ウェブサイトでブログやポッドキャスティングで情報を提供していたり、と積極的に情報発信をしている現場では、実際にメディアを運営しているという自覚は十二分にあるようです。

今後の課題、取り組むこと

新しいチャレンジを続けてきた日産自動車のオンラインマーケティング。現在の課題、そして来期はどんなことに取り組む予定なのかを聞きました。

来年度は、羅針盤(日産自動車の公式サイト)そのものをもっと使い勝手良くしたいと思っています。ユーザーの導線を考えたコンテンツ配置をしたいですね。そのなかで、外部サイトとの連携を考えていきます。nissan.co.jpの出店をつくっていく、機能の切り出しのようなイメージですね」(工藤氏)

販促と広報の連携がうまくいき始めています」という小川氏は、自身が担当しているライフスタイル関連の媒体と販促の連動による部門横断的なキャンペーンなどを視野に入れているようです。

一般の人がふつうに企業のサイトを見るきっかけは少ないと思うんです。何かのきっかけで商品に興味を持った人が、日産自動車で働いている人や安全にも興味をもってくれるように、うまく連動できればいいと思います」(井原氏)

安全や品質に対する一般の方々の関心た高まってきています。これに伴って、車を検討している人たちの関心も広がってきています」(小川氏)

たとえ普段、あまりアクセスしないコンテンツでも、ニュースがきっかけで『自分の車はどうなっているんだろう』と思ったとき、きちんと説明できていることが重要ですよね。企業の背景や、作り手の心といったコンテンツがウェブサイトに載っていないだけで、他社に行くことのないように……。ディスクローズすることが企業の責任になっていますので」(井原氏)

工藤氏は「本来、一緒のチームだったらやっているだろうなということができていなかったりする」という反省をふまえて、「もっと一緒にできることがあるなぁと思っています。お互い大きな人事異動もなかったことですし(笑)、この取材をキックオフにいろいろチャレンジしてみたいですね」とまとめてくださいました。

取材風景
◇◇◇

日産自動車のサイトにアクセスすると、その膨大なコンテンツに驚きます。そして当たり前のことですが、各サイトがすべて「生きている」、つまり更新され、情報発信され続けていることに、企業としてインターネットを通じたユーザーとのコミュニケーションをどれだけ大事に考えているかが伝わってきます。

大きな組織だからこそできること、そして困難なこと。今回のインタビューでは、そういった先入観が払拭され、ウェブで一人ひとりの消費者と向き合っていこうとしている企業姿勢に気づかされました。

延々と増え続けるコンテンツは、作れば作るだけ、運営/管理しなければならない対象が増えることを意味します。コンテンツを作るだけでなく、集客も視野にいれたオンラインマーケティングを実施する一方で、コンテンツの統廃合も含めた整理なども必要になってくると思います。その基準をどう見つけていくか。オンラインマーケティングはもちろん、サイト運営/管理においても、日産自動車の動向から目が離せません。

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