コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の百伍
日本独自のエリアターゲティング広告
不況はチャンスです。より良い条件の取引を求めて「検索」する企業が増えます。ただし、すべてをネットで賄おうとすると高くつくことがあるのでご注意を。
定価1,000円の拙著「楽天市場がなくなる日」はアマゾンで最高3,500円のプレミアム価格がついていますが、書店に注文すれば定価で入手できますし、ショッピングモールに出店する店舗の中には電話注文すると5%値引きの上、送料無料のところもあります。広告もそうです。
安価なイメージの検索連動型広告も人気キーワードは高く、入札価格が吊り上げられていきます。また、見出しと短い文章で、客を惹きつけるのは難しく、費用対効果は必ずしも高いといえません。以前は有効だった「キーワード+地名」も、桁違いの広告費を使える不動産業者が荒らしています。ネット広告にばかり注目しがちですが、地域で絞り込むのならネット以外の広告「新聞折込チラシ」もオススメです。
新年初回はあえて「ネット」から離れてみることに。ちなみに拙著は弊社のサイトで「定価販売」しています。
新聞業界のタブーに切り込む
全国を網羅する新聞の戸別宅配制度は折り込まれる「チラシ(以下、オリコミ)」も含めて日本独自の制度です。新聞は販売店ごとに配達エリアが決まっており、オリコミは販売店単位で配布ができます。気取っていうなら、地域セグメント対応メディアといったところでしょうか。ネット広告も地域指定に取り組んでいますが、徒歩10分以内の客に限定することはできません。
広告費は不況で真っ先に削られる予算ですが、スーパー各社は「オリコミ」をやめていません。ネット通販に力を入れつつも、やめられないのは効果があるからです。不況に強い広告ともいえます。にもかかわらず、オリコミがあまり語られないのは「メディア」の事情によります。
語られない大人の事情、それを世間では……
オリコミの仕組みを簡単に説明すると、広告主がチラシを用意して新聞販売店(以下、販売店)に持ち込むと、販売店が新聞に挟んで各家庭に届けてくれるというものです。10の販売店にオリコミを依頼するなら配送先も10店舗で、「折込料」もそれぞれに支払います。実際には面倒なので次に述べる「代理店」に発注するのがいいでしょう。オリコミに新聞社の関与はありません。
ダイエーの「流通革命」とは中間業者を排してコストダウンを実現し、楽天市場の三木谷さんは「トランザクションコストをゼロにする」とネット通販の利点を雑誌で述べています。一般的に中間業者が少なければ価格は下がります。ところがオリコミは「折込広告代理店」という中間業者が間に入り価格が下がります。直接取引をすると、販売店が決めた「定価」ですが、「折込広告組合」に加入している代理店には「業者価格」が設定されており値引きが期待できるのです。この組合を辿ると新聞社の影がちらつきます。
ホストのような永久指名の世界
代理店に発注すると、値引きした上に代理店へチラシの配送もしてくれます。代理店に発注した方がメリットはあるのですが、業者選びには注意が必要です。販売店が母体の代理店です。
自由市場において競争は客のメリットを生み出します。ところが、販売店が母体の代理店に勝負を挑む同業者は希です。客を奪うと販売店が近隣の系列販売店に呼びかけ、この代理店のすべてのオリコミを拒否するというのです。特定の新聞にオリコミできないとなれば代理店にとっては致命傷です。ホストクラブでは一度指名すると他のホストを指名できなくなるといいます。実例は控えますが……完全な自由競争を阻害する「噂」は多く、取引業者を選べないことは、広告主の利益に反すると一般論として指摘しておきます。
諸処のデメリットを踏まえた上で
ゼネコンや鉄鋼業者の談合に「社会正義」を持ち出す新聞社(と系列テレビ局)が、横並びの定価や自由競争を阻害する販売店を報じることはありません。掘り下げると「押し紙」と呼ばれる新聞社による部数の水増し……疑惑にも触れなければならず、すると高額な広告費の裏付けとなる「発行部数」が揺らぐ……という「噂」を耳にします。言葉を濁すのは私の周辺の「リアル」に迷惑を掛けるからで「理不尽」が日常にある世界です。
「大人の事情」はともかく、地域広告「オリコミ」のメリットは変わりません。それは大きく2点の理由からです。
まず「ネットはそんなに使われていない」という身も蓋もない事実。メールは使っても、特売情報をネットでチェックしている主婦は少なく、ニュースサイトは目にしてもご近所情報をわざわざ検索しません。ヤフーニュースとスポーツ新聞で十分と公言する友人は、徒歩1分の実家に宅配される読売新聞の「チラシ」でご近所の特売情報をチェックしています。ネット業界人と違い、一般消費者はネットに依存していません。
オリコミとは招待状
次はより重要です。オリコミは「客を集める」のに向くツールなのです。「売る」ためではありません。オリコミだけで売れるほど商売は甘くなく、オリコミは実店舗に足を運ばせるために使います。たとえば「チラシ持参の方に粗品進呈」はベタな企画ですが、手ぶらで来店するのにためらいを覚えるのが普通の客で、この時チラシが「招待状」となり来店理由を正当化するのです。「チラシがあったから」と。ネットでの「ページをプリントアウト」という手法も良いのですが、徒歩圏内の客へのアプローチ方法が確立している「オリコミ」に軍配を上げます。
ビジネスマンの中にはチラシを見ないという人がいますがもったいない。集客・販促の「アイデア」が詰まった教材です。ちなみに、コンサルタントがオリコミをあまり取り上げないのは効果がないからではありません。客であるビジネスマンの興味がないものを語ってもセミナーに客が集まらずに金にならないからです。彼らは「先生」と呼ばれますが、その中身はサービス業に近いのです。
そして語られないツールだからこそチャンスが眠っています。
♪今回のポイント
地元だから使えるツール。
実店舗を持つなら、ネットの外の広報手段もお忘れなく。
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