消費者×企業サイト―売れない時代に成果をあげるWebマーケティングの法則
2009年7月28日22:00ごろ~2009年7月29日16:00ごろにかけて、本記事内の解説部分が次回公開予定記事の内容に差し替わって表示されていました。読者の皆さま、また関係者の皆さまにご迷惑をおかけしましたことをお詫び申し上げます。Web担当者Forum編集部
この記事では、企業のWebサイトが持つ役割を、対象とするユーザー(ステークホルダー)とサイトのビジネス目標の2軸に分け、それぞれのケースに合った事例と対策を具体的に紹介していきます。各記事の最後には、チートシート形式としてまとめたPDFファイルを掲載しています。全17パターンの業務に直結する実践的なノウハウの中から、あなたのサイトに合ったものをぜひ活用してください。
背景 | テーマごとのWebサイトの現状を説明 | |
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課題 | そのテーマに関して、Web担当者の多くが抱える問題を提起 | |
サイト構築のポイント | データ全体を通しての重要ポイントを解説 | |
コンテンツの具体例 | 数ある具体的なコンテンツの例を提示 | |
リスクと解決策 | 陥りやすい間違いやそれらをうまく回避するためのヒントなど | |
サイトの要素 | サイトに必要な要素の洗い出し | |
サイト構造図 | サイトの構造図や位置づけなど | |
成果の判定指標 | サイトの成果を判定するために確認する指標 | |
補足事項 | その他補足事項 |
対象ユーザーとサイトの目的ごとにまとめた全17パターンの記事一覧はこちらからどうぞ。
消費者×企業サイト―売れない時代に成果をあげるWebマーケティングの法則
消費者(コンシューマー)に対して企業Webサイトは何をすべきかというテーマを3回に分け、前回は「サポート」をメインにお話しました。続く2回目では「マーケティング」という切り口でお伝えしていきます。マーケティングという言葉自体は企業が主体となる活動ですが、ユーザーからの視点でいえば自分のニーズとマッチする商品・サービスに出会うことです。どんな商品が売れるのか、どのような売り方をすれば買ってもらえるのか、商売の基本中の基本がマーケティングといえます。Webマーケティングの手法を述べた書籍はいろいろありますが、この記事では企業のWeb担当者の皆さんがマーケティング活動をどのように捉え、日常業務の中で何をすべきかを中心にお話を進めたいと思います。
モノが売れない時代がやってきた
現代は「モノが売れない時代」と言われます。かつての大量生産・大量消費を続けてきた時代には、「持っていないから」「不便だから」が商品の主な購入動機でした。テレビや冷蔵庫、洗濯機が登場した頃は、安くて良いものを大量に作ればみんながそれを買って満足していたものです。ところが現在は、「買い換える」「付加価値の高いものを買う」「好みのものを買う」など、商品の購入動機が変化してきました。テレビや冷蔵庫であっても、多機能なものを欲しがる人もいれば、シンプルな機能でいいという人もいます。さらに、機能的でなくても「かわいいから買う」「カッコいいから買う」というニーズを持った人もいて、商品に対する選択や満足の基準がより多様化しているのです。
近年でいえば携帯電話が良い例です。普及の過程では、販売台数は右肩上がりに伸びましたが、おおよそすべてのユーザーに行渡ったところで販売台数は伸び悩みをみせ、新しい機能を展開しても以前のように爆発的な成長には至らなくなりました。かつての大量生産・大量消費を前提としたマスマーケティングでは、多様化した個別のニーズにマッチすることが難しくなっているのです。
「セグメント」×「絞り込み」=Webマーケティング
テレビCMに代表されるマス広告は、商品を印象付けることはできても、そこから先のユーザーとの関係構築はできません。一方、Webサイトを利用したプロモーションは、セグメントされたユーザーにアプローチしやすいという特性があります。ユーザーが能動的に「探す」行為をしなければWebサイトにたどり着くことは困難だからです。たどり着いたユーザーに対して商品やサービスの情報を提供し、さらにその情報に反応したユーザーに対して営業活動を展開する、さらにその営業活動に反応したユーザーをターゲットにして次のプロモーションを展開する……。
Webマーケティングとは、ユーザーとのインタラクティブなやり取りの中でセグメントと絞り込みを繰り返して、自社の商品やサービスによりマッチした「優良顧客」をふるいにかけていく行為なのです。消費者の価値観が多様化した現代では、ユーザーを絞り込み確実に購入してくれる人を見つけることで、初めてモノが売れます。Webマーケティングでは、ユーザーとのインタラクティブなやり取りに基づき「その商品が欲しいユーザー」を見つけることができるのです。
日々の試行錯誤が肝心
某大手コンビニエンスストアでは、「おにぎり」の商品開発にグループインタビューなどの旧来のマーケティング手法は使わないそうです。新しいアイデアで開発されたおにぎりを、まずは店頭に陳列して一定期間の売り上げを測定し、売れなかったら止める/売れたら他の店舗にも展開する、という手法を用いているとのことです。この日々の試行錯誤は、まさしく多様化するニーズに対応したマーケティング手法といえます。とにかく陳列棚にならべて効果を測定し、出したり下げたりを繰り返す。商法の原点ともいえる、この試行錯誤がWebマーケティングの成否の肝といえます。そして、ユーザーを絞りこみつつそれなりの売上を達成するには、セグメントされたユーザーのニーズに対応する「売り場」をたくさん設ける必要があります。「売り場(ユーザーから見れば買い場)」の多様化が重要だといえるでしょう。
Webサイトは物理的な制約のない媒体であり、陳列棚は無限大です。Webサイト上の「売り場」の代表格に、Web広告(リスティング広告やバナー広告など)と連動した「ランディングページ」があります。わたしがプロジェクトの中でよく遭遇するのが、制作会社にランディングページを大量に作ってもらったものの、それぞれのページにどれぐらい効果があるかを測定しておらず、ページの内容も変更していないというケースです。いくら物理的に制約のないWebサイトといっても、試行錯誤もなにもないサイトは、本質的にはバランスを欠いたWebマーケティングといえます。
利用者が欲しい情報を探しやすくするために
それでは、消費者向け企業サイトにおける「マーケティング」のコンテンツについて、具体例をあげていきましょう。
- HOMEやTOPだけが入り口ではないマルチエントランス構造
あなたの担当するWebサイトを利用したいユーザーは、いろいろな切り口でアプローチをしてきてくれます。商品名や企業名で探してくれる人もいれば、地名や商品カテゴリ名などで探してくれる人もいます。誤ったWeb広告活用のケースで頻繁に見受けられるのは、出稿しているキーワードと誘導しているページの内容がかみ合っていないケースです。ひどい時には、どんなキーワードでもとにかくHOMEやTOPページに誘導しています。せっかくユーザーから訪れてくれるのですから、探しているキーワード(つまり、ユーザーのニーズや抱える問題)に合致したページやコンテンツにお招きしましょう。ナビゲーションの設計時に、「TOPページから少ないクリック数で誘導したい」というリクエストを受けたことがあります。しかし、ユーザーにとって真に快適なナビゲーションとは、ニーズにマッチしたコンテンツにすばやくたどり着ける入り口を多数設けてあげることに他なりません。
たとえば、プリンスホテルの場合、「プリンスホテル」で検索したときにはプリンスホテル&リゾーツのTOPページが入り口になりますが、「品川+ホテル」であれば、品川プリンスホテルのTOPページが入り口であるべきです。さらに、「品川+レストラン」で探しているユーザーは品川プリンスホテルのレストラン情報に誘導してあげるのがベストサービスなのです。このように、従来のようなHOME・TOPページ起点の設計ではなく、入り口がユーザーのニーズに併せて多数設置してあるマルチエントランスなWebサイト構造こそが、Webマーケティングに活かせるサイト構造といえるのです。
- ユーザーの目的に合った売り場を提供
ユーザーニーズにあわせたマルチエントランスなWebサイト構造ができたならば、それらの入り口のすぐそばに「売り場」を設けてあげましょう。ここでいう「売り場」とは、ユーザーが商品を買う(成約を判断する)ために必要な情報にすぐ行ける場所です。入り口に入ったらレジしか置いていない売り場や、検索エンジン対策用の商品一覧が表示されてしまう売り場は今一つです。ユーザーが訪れて売り場として機能させるためにはやはりコンテンツが必要です。
たとえば、三井ダイレクト損害保険の場合、「自動車保険」「バイク保険」「ドライバー保険」の3つが、それぞれ売り場として機能するようにサイト構造が設計されています。レジ(「見積」や「申込」)にもすぐに移動でき、必要であれば商品の詳細(保障内容など)・サポート情報を閲覧することもできます。もちろんユーザーにとって使いやすいことが第一ですが、ニーズ別に分類されたコンテンツ群を作ることで、オーガニック検索結果の上位表示が期待できるでしょう。さらには、Web広告やランディングページをそれらのコンテンツ群に即したテーマごとにまとめることで、Web広告費の効率化も実現できるでしょう。ランディングページ自体は、いろいろな誘導先があるとどうしてもコンバージョン効果が分散してしまいます。ランディングページから1クリックで必要な情報をまとめているページにリンクされていれば、コンバージョン効果を損なうことなくユーザーにも有意義だといえます。
- Web広告+ランディングページはショーウィンドー
Web広告やランディングページはいわば店舗のショーウィンドーです。入り口と売り場が設置できたならショーウィンドーを用いて集客します。ショーウィンドー→入り口→売り場へユーザーが進む過程で「絞り込み」と「セグメント」が同時に行われます。ショーウィンドー(=ランディングページ)は、つくったらそのままにするのではなく、刻々とかわる周辺状況にあわせてチューニングできるといいでしょう。具体的には、すべてを社外の制作会社やコンサルタントにまかせるのではなく、Web担当の皆さんが自ら修正・変更できるようなページの作り方をするということです。手の込んだクリエイティブを要する部分は外部の専門家に制作してもらうこともありますが、タイトルを少し変更するのに外部に依頼して数日かかるようでは問題です。Webマーケティングの本質である日々の試行錯誤を迅速に実現できるページ構造にして、日々改良を加えられるといいでしょう。
消費者向け企業サイト「マーケティング」の失敗がもたらす悲劇
上記にあげたような有効なコンテンツを用意すればすべてうまくいくかというと、そんなに簡単ではありません。必ずどこかに落とし穴が潜んでいるものです。Web担当者が陥りやすい問題点を2つほど挙げてみました。個別に詳しくみていきましょう。
ランディングページだけではユーザーの離脱を招く
SEOやWeb広告がもてはやされるようになって4~5年になりますが、一昨年ぐらいから相談されることの1つに、ランディングページやWeb広告の成果が鈍くなっているという問題があります。ランディングページ自体の集客は以前と変わらなくても、購入や成約へのコンバージョンが落ちてきているのです。Web広告費を増強しランディングページの数を増やすことで鈍くなった伸びを補おうとした結果、Web広告費が毎年増大していくという悪循環に陥っています。調べてみるとそういったWebサイトの多くに特徴的な構造が見受けられました。具体的には以下の通りです。
- ランディングページがWebサイト全体の大多数を占めている(ランディングページ以外のコンテンツが少ない)。
- ランディングページからは、「購入」などのアクションへの誘導があるだけで、他のコンテンツへの回遊はない(ランディングページ→フォーム直行便構造)。
- Webサイト全体のナビゲーションルールが破綻している(グローバルナビゲーションやローカルナビゲーションといった構造的なナビゲーションがない・ルールが矛盾している)。
- Webサイトのコンテンツが相乗効果を発揮していない(関係する情報でも相互に行き来ができない)。
これらは、高額な商品や保険の契約のように、購入に際して特別な知識や支援を要する商品に顕著な現象です。根本的な原因は「Webサイトの成果=フォームに対する直行誘導」に限定されていることにあります。直接的な成果のみを追求しすぎて、潜在顧客の育成やサポート(詳細は前回の「消費者×企業サイト―充実したサポート提供で顧客満足度を向上させるための法則」を参照)を軽視した結果、全体として達成しなければならない売り上げや成約に対して離脱を招いてしまっているということです。実店舗がショーウィンドーとレジだけでは成り立たないのと同じで、ランディングページやWeb広告自体がすべてではないことを忘れないで下さい。
検索順位を上位表示させたり、ランディングページを設けて訪問者数を増やしたりすること自体は、集客という面で必要なことですが、それ自体が目的になってしまったり成果だと誤解することは危険です。ビジネス目的を達成するための成果指標と測定方法で説明したように、成果はあくまで「ビジネスの成果」でなければなりません。
縦割り組織を横断する業務フローを
WebマーケティングではWebサイトが1つの店舗として機能することが重要ですが、組織を横断してPDCAサイクルを確立している企業はまだまだ少ないのではないでしょうか。
PDCAサイクルというと何やら大げさなものと捉えられがちですが、実態は、「どんなデータを測定し、それを誰に報告して、報告された人は何をやればいいのか」という業務フローです。毎月Web担当の皆さんがログ解析をしていても、それが自分の部署のなかで共有されているだけではPDCAサイクルの確立にはなりません。営業や商品企画・宣伝部門と共有してはじめて次のアクションプランが立てられるのです。このような組織横断のWebマーケティング業務フローを確立するためには、過去何度か述べているように他部署の協力が不可欠です。そのため、Webサイトの成果を単なる「Webサイトの数字」とするのではなく、ビジネスの成果を定めることで、他部署に対してWebサイトに有効なマーケティングチャネルであることを訴求することが重要なのです。
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