ビジネス目的別企業Webサイト成功の法則

消費者×企業サイト―「顧客」を「個客」としてもてなす優良顧客育成の法則

顧客満足度の向上は企業に多くのメリットをもたらします。

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ビジネス目的別企業Webサイト成功の法則

この記事では、企業のWebサイトが持つ役割を、対象とするユーザー(ステークホルダー)とサイトのビジネス目標の2軸に分け、それぞれのケースに合った事例と対策を具体的に紹介していきます。各記事の最後には、チートシート形式としてまとめたPDFファイルを掲載しています。全17パターンの業務に直結する実践的なノウハウの中から、あなたのサイトに合ったものをぜひ活用してください。

この記事の進め方
背景背景テーマごとのWebサイトの現状を説明
課題課題そのテーマに関して、Web担当者の多くが抱える問題を提起
サイト構築のポイントポイントデータ全体を通しての重要ポイントを解説
コンテンツの具体例コンテンツ数ある具体的なコンテンツの例を提示
リスクと解決策リスク陥りやすい間違いやそれらをうまく回避するためのヒントなど
サイトの要素要素サイトに必要な要素の洗い出し
サイト構造図構造図サイトの構造図や位置づけなど
成果の判定指標判定指標サイトの成果を判定するために確認する指標
補足事項補足事項その他補足事項

対象ユーザーとサイトの目的ごとにまとめた全17パターンの記事一覧はこちらからどうぞ。

消費者×企業サイト―「顧客」を「個客」としてもてなす優良顧客育成の法則

消費者に対して企業Webサイトは何をすべきか―。3回目の今回は、ユーザーの「ロイヤリティ向上」をテーマにお話したいと思います。前回までの「充実したサポート提供で顧客満足度を向上させるための法則」や「売れない時代に成果をあげるWebマーケティングの法則」の結果として、企業が成し得られるものは顧客満足度の向上、つまりWebブランディングにほかなりません。ECサイトやホテルの予約サイトなど、直接的に顧客と商取引を行うWebサイトはもちろんのこと、商材に限らず参考にしていただければと思います。

背景「顧客」を「個客」としてもてなす

サービス業の最高峰といえばやはりホテルではないでしょうか。幸運にも、私はホテルのWebサイトのお仕事をいくつか担当させていただきました。チェーン展開をしているホテルもあれば単独店舗のホテルもあり、シティホテルからリゾートホテルまでいろいろなお仕事をしました。そこで教わったのはロイヤリティを生むサービスとは利用者の方々を「個客」としてもてなすということです。

企業からみれば多くの顧客のうちの1人であっても、顧客からみればそのときその一瞬は唯一無二のものです。ホテルでたとえるならば、大切な人との特別な時間であるかもしれませんし、久しぶりに取れた休暇を過ごすのかもしれません。つまり、顧客にとっては台無しになってはならない瞬間なのです。

たびたび訪れるお客様であればそれなりのご挨拶をし(男性が女性の方を連れて来る場合は、「初めてのお客様」というような顔をするのもホテルマンの心遣いだそうです)、明日が荒天の場合は予約確認の電話で雨の備えをお勧めし、枕や食事の好みまで覚えてくれる。そういった体験を経た結果、顧客満足度が高くなるといえます。

課題万人受けを狙わない

ここで、話をWebサイトに移して考えてみることにしましょう。ホテルや店舗に比べてWebサイトには実に多くの人が訪れます。利用者層を限定するような心理的なハードルがないので、本来お客さまになってくれる方以外の人も、皆さんのWebサイトを訪れているのです。Webサイトのサービスで重要なことは、あなたのWebサイトがお客さまとしてもてなせる方を明確にすることです。この「誰が」の部分が明確になっていないサービスは「帯に短しタスキに長し」となり、ロイヤリティを高めるまでのサービスには至らないのです。

Web担当者の方から「リピーターが来てくれるWebサイトにしたい」という要望をたびたびいただきます。そのように考えている企業のWeb担当の方は多いようで、過去にどのような施策を試したかをうかがうと、毎日来てくれるように占いコンテンツを買って掲載しているとか、著名な人に原稿を書いてもらいWebサイトに連載コンテンツを掲載しているといった答が返ってきます。そういったコンテンツに対して、Web担当者の方は費用対成果が実感できないと評価をしているようです。根本的な解決方法は、漠然と「リピーター」を対象とするのではなく、どういう人に訪れてほしいのかターゲットをもっと明確にすることです。漠然と「誰」とも決めずに実施している施策は、たとえ数千円の制作費でも成果が実感できないのは当然だといえます。

ポイント顧客育成プロセスでユーザーニーズを整理する

顧客育成のプロセスを整理し、必要なコンテンツをプランニングする際、キノトロープコンサルティングでは「ユーザーヒエラルキー」という絵を描きます。これは育成段階のユーザーを企業に対するロイヤリティの達成度別に階層構造で示したものです。

ユーザーヒエラルキー(例:カスタムカーメーカーA社)

その企業の潜在顧客(三角形の底辺)からロイヤルユーザー(三角形の頂点)までを整理し、各ステージにいるユーザーのニーズを満たし、次のステージへステップアップの動力となるコンテンツを企画するものです。そのステージ特有のニーズを満たし、ステップアップをしてもらうことで最終的にはロイヤルユーザーへと育成することを目指します。どこのステージにいるユーザーをターゲットにするのかを定めることで、そこにいるユーザーのロイヤリティ向上に効くサービスやコンテンツに特化することができます。記事の冒頭で「ロイヤリティの向上は、マーケティングやサポートの結果なしには得られない」と説明しました。この図の底辺から1ステージ目の「プロモーション」には、ズバリ前回記事で解説したマーケティング施策が有効といえます。1ステージ目から検討段階にある人には前々回記事のサポートコンテンツが有効なのです。そのうえで最後の段階として、その企業のサービスを利用した人をロイヤルユーザーとして定着してもらうステージにフォーカスをして、「ロイヤルユーザー育成のためのコンテンツ」をまとめてみます。

コンテンツ個客感の演出

それでは、消費者向け企業サイトにおける「ロイヤリティ向上」のためのコンテンツについて、具体例をあげていきましょう。

  1. Webサイトを訪れていないときも個客として扱う

    御社のサービスを1度だけ利用した人のロイヤリティを高めるサービスとして、アラートやお勧めをしてくれるサービスがあげられます。いわゆるレコメンドエンジンを用いて、蓄積されたユーザーのページ閲覧データをもとにアラートするものが主流ですが、ここではベルメゾンネットの「お気に入りリスト」に付随する機能を紹介したいと思います。お気に入りリストに登録したまま購入を見送っていた商品が販売完了期間に近づくと、自動的にアラートのメールが届くという機能です。「お気に入りに登録いただいた商品が、○月×日に販売終了になります。お求めの場合はこちらからご購入いただけます(お気に入りページへリンク)」といった内容のメールです。購入しようかためらっていた商品を憶えていてくれて、購入できなくなるまえに注意を促してくれるこの機能は、ベルメゾンネットを訪れていないときも、ユーザーである自分のことを憶えていてくれる点が個客演出として優れているといえるでしょう。企業側から見れば取りこぼしが防止でき、もちろんユーザーにもメリットのあるサービスです。

    別のサービスで、三井ダイレクト損害保険の免許更新のアラート機能があります。保険に加入した際に任意で免許証情報を登録すると免許の更新期限前にお知らせをしてくれるというものです。損保商品自体とは少し違いますが「カーライフ」という視点でユーザーのニーズを捉えた、かゆいところに手が届くサービスといえます。

    「この商品を購入している人はこの商品も見ています」といった他人の購買行動に基づくレコメンドには賛否両論があるようです。今回、例としてあげた「自分がお気に入りリストに入れた商品」についてのアラートや、「損保=自動車=免許」といった同じテーマでのアラートは、心地よいサービスとして受け入れられる、ほどよい距離感がポイントといえるでしょう。

  2. 顧客行動をもとにしたスペシャル対応

    普段と違う行動をしたユーザーに特別な対応をしてくれるサービスがあります。食品の宅配業務を行うあるECサイトの定期宅配というサービスです。定められた日時以内であれば食材の内容変更やキャンセルができるのですが、期限を過ぎると受け付けてもらえません。宅配の内容を普段からカスタマイズする購買行動をしているVIPユーザーが、うっかり内容変更期限を忘れてしまったところ、カスタマーサポートからこんなメールが届きました。

    ●●様、いつも購入ありがとうございます。いつもは内容を変更してご利用いただいていますが、今回は承っておりません。問題はございませんでしょうか? 商品の変更はできませんが、定期便をいったんキャンセルいただき、必要な商品を新たに購入いただくことが可能です。

    このサービスは、以下2つの点で優れています。VIPユーザーに限定して行われるサービスのようですが、個客感の演出としては秀逸です。

    • ユーザーの購買行動を普段から蓄積していて、ユーザーがうっかり忘れていそうなことをケアしてくれる
    • 「キャンセル」という本来企業にとってネガティブなものでも案内をし、ユーザーが成し得たい事柄の手助けをしている
  3. ファン心をくすぐる参加イベント

    ロイヤルユーザーとはその企業にとってのファンと呼べる存在です。もっと深く特別な体験を求めるファン心を満足させるための参加型イベントがリアルやWebサイト上で数多く展開されています。自動車業界で例をあげると、1984年からスタートし残念ながら今年2009年に終了してしまう日産のマーチカップや、ホンダインサイトのエコグランプリがあります。マーチカップは実際にサーキットを走る体験を提供しWebサイトでレースの模様や結果を告知して「スポーティーなマーチファン」を熱くさせました。ハイブリットカー・インサイトのエコグランプリでは、カーナビの通信を利用して走行距離と燃費を集計し、それらをWebサイトに掲載して順位を競うコンテンツです(7月15日時点で参加者2,350人)。いずれもファンにイベントに参加してもらい、それらのコンテンツをファン予備軍へのプロモーションコンテンツとして用いるケースです。企業が企業の言葉で発する広告ではなく、ユーザーがユーザーの言葉や行動を通して語る広告といえるでしょう。ファンの心を満足させつつ、新たな顧客獲得につなげる有効な手段といえます。

  4. 自慢の場とネタの提供

    イベントは、大掛かりで実施が難しいという場合は、Webサイト上にロイヤルユーザーが自らの体験を語る場所を設けてあげるだけでも有効といえます。「オーナーコンテンツ」というもので、投稿していただいた内容をもとにコンテンツとして掲載するものや、企業がオーナーを取材して写真や原稿を作成しコンテンツとして掲載するものなどが見受けられます。イベント参加という要素はありませんが、企業側が提供した場で自慢ができるという点では、ファンの心を満たすサービスだといえます。昨今、ブログなどで個人が情報発信をする場が以前よりも増えてきてはいますが、好きであこがれている企業が提供した場所でユーザー自らが取り上げられるという点がポイントなのです。

    また、ロイヤルユーザー(=ファン)の心を満たすという点では、好きであこがれている商品や企業に対して「うんちくを語りたい」ユーザーに満足してもらうこともロイヤリティを高める点で効果的です。ソニーなどの家電メーカー各社が展開している「開発者ストーリー」などが代表的なコンテンツです。ユーザーが友達や家族に自慢する際のネタとして使ってもらえるような話題を、わかりやすく、熱く語ることがポイントです。そうすることで、ロイヤルユーザーから新たな顧客獲得というバイラルマーケティングを有効に機能させることが可能になります。

リスク明確な目的を持って計画的に作成する

上記にあげたような有効なコンテンツを用意すればすべてうまくいくかというと、そんなに簡単ではありません。必ずどこかに落とし穴が潜んでいるものです。Web担当者が陥りやすい問題点を2つほど挙げてみました。個別に詳しくみていきましょう。

始めてしまったら安易に止められない

ロイヤルユーザー(=ファン)の期待に応えるコンテンツですから、少数のユーザーであっても不満をもたれては逆ブランディングとなります。はじめてみてから企業側の都合で安易に止めてしまっては、ファンにネガティブな印象をもたれてしまいます。特にコミュニティ運営は、企業にとって必ずしもポジティブな意見ばかりが寄せられるわけではないので、万が一そういった事態になっても続けるという覚悟のもとに、中長期的な計画をたてて実施することをお勧めします。

Web単体ではなくすべてのチャネル連動が望ましい

ユーザーはWebサイト単体の個客としてでなく、あくまで皆さんの企業全体から「個客」としてもてなされることを期待しています。Webサイトで「ようこそ●●さん」と表示しても、コールセンターや店頭でスムーズに対応してもらえないのでは幻滅です。ユーザーのロイヤリティ向上の過程、またはロイヤルユーザーとして定着してもらうには、Web単体ではなくすべてのチャネル連動が望ましいのです。トヨタの高級車ブランドであるレクサスの場合、オーナーが愛車で店舗を訪問する際には、店舗側でカーナビとの通信を行い、入店前に個客対応の準備をしてオーナー様をお迎えする仕組みになっているそうです。どこにいっても「個客」としてもてなされることそれが顧客ロイヤリティを高めるために最重要な事柄といえます。

用語集
KPI / コンバージョン / ステークホルダー / バイラル / リンク / ロイヤルティー / ロイヤルユーザー / 企業Webサイト / 訪問 / 顧客満足度

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