髙島屋の顧客や商品などの情報プラットフォームを整備し“再発明”を目指す
この記事はD2Cが発行するDIGITAL&DIRECT NEWSの一部をWeb担当者Forum向けに特別公開したものです。
情報プラットフォームの整備を推進 Part 1
株式会社セレクトスクエア 代表取締役
屬 健太郎 氏
1973年生まれ。滋賀県出身。早稲田大学卒業後、丸紅に入社。審査業務などを経て、2004年に繊維部門に異動してセレクトスクエア事業の責任者となる。07年に友好的MBOを実施し、代表取締役に就任。12年には髙島屋と業務・資本提携を行い、傘下に入る。13年より髙島屋 クロスメディア事業部 事業部長を兼務。
資本提携先の企業の経営者に“クロスメディアの推進”を託す
2012年6月、髙島屋はファッション通販サイトを運営する「セレクトスクエア」と業務・資本提携を行い、傘下に収めた。同社はそもそも丸紅からMBOにより独立した会社で、屬(さっか)健太郎氏が代表取締役を務めている。
翌年、屬氏は髙島屋のクロスメディア事業部の事業部長を兼任することになる。本社の事業部長が子会社の社長も兼任する話はよく聞くが、これはその逆で、屬氏は“二足の草鞋”を履くことになった。
そもそも髙島屋がセレクトスクエアを傘下に収めたのは、eコマース事業の強化を狙ったからだと推察される。ところが、「提携後も、実は、ネット事業の変革は、なかなか前に進まなかったのです。そこで私はどのように動くべきかを考えました」(屬 健太郎氏、以下同)
結論は、自分自身が旗振り役となり、髙島屋の経営戦略そのものを変えていくように働き掛けなければならないということだった。
「外部の人間である自分が、髙島屋の現状を俯瞰して相対化し、どうあるべきかという未来像とそのプロセスを提案しようと考えたのです」
実際、屬氏はさまざまな形で各種の提案をしたようだ。そこから生まれてきた概念がオムニチャネルであるが、この概念は一般的に定義されるオムニチャネルよりはかなり広い意味を持つ。
いずれにしても、そうした抜本的な話を進めるのであれば、その本人が主管部署を担うべきと判断されたのであろう。2013年の年初に「クロスメディア事業を任せたい」との要請があったと言う。
提案したのは3段階の経営改革
そのベースが情報プラットフォームの整備
2013年、屬氏は髙島屋クロスメディア事業部の事業部長に就任するが、それに先立つ12年の秋に、髙島屋の「長期経営戦略プロジェクト」を髙島屋の専務取締役ら以下とスタートし、経営戦略の見直しを始めた。
彼が提案したのは事業の前提となる3つの改革だった。まず情報プラットフォームを整備すること、意思決定プロセスを見直すこと、人材育成だ。
つまり、情報という神経系と、意思決定という骨、そして人材という筋肉をすべて見直すということです。小売業として経営改革をしていくには、前提として情報プラットフォームの整備が必要ですし、以下、意思決定プロセス、一人ひとりの人材育成と、企業経営において当たり前に重要な要素を見直していくのが必要だと考えました。
整備すべき情報プラットフォームは顧客データベース、商品データベースに加え、経営情報、システム、さらに物流などさまざまな情報のプラットフォームを含んで考えられている。整備とは、それぞれのプラットフォームを整備し、それらを統合し、融合していく一連の作業をすべて含む。
特にこうした情報プラットフォームの整備全般を指して、髙島屋ではオムニチャネルという言葉が用いられた。さらに、そこから紐づけられるマーチャンダイジング戦略、マーケティング戦略、さらに人事や財務までを一気通貫して見直していくという5ヵ年戦略を立案した。それを鈴木弘治社長(現・会長)が「オムニチャネル化宣言」として発表した。
オムニチャネルも現象面の一つなのです。経営がまずやるべきことは現象そのものではなく、その全体となる土台づくりです。その土台は何かと言えば、小売業の場合は顧客データベースと商品データベースの整備につきます。そこさえしっかりと押さえることができれば、つまりはモノと顧客をきちんと把握することができれば、それをつなぐものはアプリケーション(ツール)であり、そここそ無限のアプリケーションが描けてしまうと思っています。
そのためには、タカシマヤ・オンラインで扱っている商品だけでなく、店で扱っているすべての商品、そして店が現在、カード会員として把握している顧客だけでなく、オンラインの顧客、さらに、店に来訪する年間延べ約2億人に近い顧客すべてを結びつけていくのが理想だ。これらは、顧客データベースの構築や管理、顧客が使用するパソコンやスマートデバイスの普及による、顧客との直接的なコミュニケーションチャネルによって実現できるようになったものである。
百貨店事業を再定義
これは自分の理想ですが、そうすることができれば、百貨店は劇的に変わることができると思っています。顧客価値を軸にして、事業の再定義を行うことができる。私はそれを“事業の再発明”と呼んでいます。
もはや、場所や店もアプリケーションの一つに過ぎなくなる。立地そのものもアプリケーションの一つに過ぎない。より魅力的なアプリケーションもあるはずだ。そこはアイデア次第なのだと屬氏は言う。
顧客と商品というモノを結びつけるのが根本的な小売業の役割だと捉えています。その結び付け方、その役割の一つひとつをアプリケーションと呼んでいます。
そのアプリケーションを考えることで、個性的な百貨店のありようがさまざま生まれてくると思います。モノづくりに力点を置いた百貨店、街づくりを得意とする百貨店……最も可能性の高い近未来の姿は、フロアごとにテーマをより鮮明にして、ハードのモノだけでなく、サービスをも取り込んで提案してく百貨店です。本当に自由に発想すべきだと思いますが、条件が一つだけあります。それは、顧客の半歩以上先を行き、提案するという力をもう一度つけることです。
その道は、もちろん簡単ではない。
「ただこれは、私の立場から見た視点です。百貨店は現在、90%以上の人が店を中心にリアルな商売をしています。その立場から考えた場合、物事の優先順位を、また違った判断でつけていると思います。理解の深度も人によって違います。だから、簡単に進む話だとは思っていません」と屬氏は語った。
本インタビューの続きは、7月11日より、デジタルマーケティングの総合オピニオンサイト「D2Cスマイル」上でご覧いただけます。
この記事は、株式会社D2Cが発行する小冊子 『DIGITAL&DIRECT NEWS』 Vol. 49のコンテンツの一部を、許諾を受けてWeb担当者Forumの読者向けに特別公開したものです。
※『DIGITAL&DIRECT NEWS』を長らくご愛読いただきまして、ありがとうございました。
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