iBeaconの活用で新しい広告アプローチに挑む! 映画館内で取り組んだプロモーション事例
この記事はD2Cが発行するDIGITAL&DIRECT NEWSの一部をWeb担当者Forum向けに特別公開したものです。
ネット環境での情報収集やアクション(チケットの購入など)が普及した現在においても、どの映画を観るかの判断を、映画館でする人が多いという。本編の前に流される予告動画や館内のポスター、チラシなどで観たい映画を探すわけだ。しかし、そうしたマーケティングスペースは限られているため、スペースの確保は簡単ではない。そこで20世紀フォックス映画がTOHOシネマズとタッグを組んで取り組んだのが、スマートフォンと映画館を連携させる手法だ。
映画の宣伝には、コアユーザーに映画館でマーケティングコンテンツを訴求するのが一番だが、インシアターのマーケティングスペースの確保は、年々上映される映画が増加しているため、競争が激しくなっている。画期的な方法で、独自のスペースを確保することを模索した。
point2 企画Apple社が開発したiBeaconのテクノロジーを活用して、TOHOシネマズと組んだインシアターサービスを行う。これは、ビーコン(iBeaconを活用するために必要な情報発信端末)のある場所にアプリをダウンロードしたiPhoneが近づくと、プッシュ通信で予告やメッセージが流れたり、クーポンが配布されるといったシステムを採用した。
point3 成果TOHOシネマズの六本木ヒルズと日本橋の2館での展開(6月13日まで)。世界初のサービスに率先して挑んだ結果、さまざまな知見とノウハウが貯まっている。今夏にはTOHOシネマズ全館で展開予定。先行者利益を期待できる。
インシアターで、これまでになかったマーケティングスペースを作れる!
手元のiPhoneにさまざまな情報が舞い込んでくる
映画館に初めて導入されたiBeacon。TOHOシネマズの六本木ヒルズと日本橋の2カ所で、5月14日よりスタートした。
対象は、仕掛け人である20世紀フォックス映画が配給する『X-MEN:フューチャー&パスト』。そのマーケティングコンテンツが、館内4カ所で体験できるというものだ。
ただし、現状は対象となるデバイスはiPhone(iOS7以降)のみ。アンドロイド端末はOS4.3以降が対応するため、今夏の新モデルが出揃った後に対応することになるそうだ。
まずは入館前にTOHOシネマズのアプリ『TOHOシネマズマガジン』をダウンロードする。TOHOシネマズが無料配布している公式アプリだ。そして、Bluetoothと位置情報の設定をオンにする。この状態でTOHOシネマズの六本木ヒルズなどに入館すると、最初のプッシュ通知が届き、アプリの起動を促す。
起動すると、X-MENの告知ムービーが15秒流れ、キャンペーンについての詳細な説明が表示される。iBeaconを楽しむガイダンスだ。
第2のプッシュ通知は、自動券売機前でキャッチ。上映期間前では、先行上映のイベントクーポンの配信が通知される。
第3のプッシュ通知は、TOHOシネマズマガジン(紙媒体)のラック前。こちらは近づくだけではなく、タッチすることで情報を入手できる。今回はギフトカードが当たる抽選のお知らせを入手できる。
最後がシアターの出口。届くのはX-MENの予告とムビチケ(前売り券)のお知らせ。次に観る映画の参考になる。400円引きの前売り券がその場で買える。
TOHOシネマズさんは、すでにデジタルクーポンシステムをお持ちになっていましたので、これを利用しました。『X-MEN』の場合は5月27日の特別先行上映に限り、特別に800円引きのクーポンを出しました。X-MEN公開後は、9月に上映される最新作『猿の惑星:新世紀』の予告に切り替わっています。いろいろと試して、また劇場によってもパターンが少し違いますが、すべてその場で完結するサービスを提供しています。(平山 義成氏、以下同)
これまでのインストアプロモーションに代わる、新たなマーケティングツール
そもそもの発端は2013年の暮。平山氏がApple Japanの担当者と接触する機会があったことに始まる。20世紀フォックス映画はまだ誰もやったことのないマーケティング手法に貪欲に挑戦する会社なだけに、常に、そうした手法を探している。その話し合いの中から平山氏が目をつけたのが、iBeaconという新しいテクノロジーだった。
大きな可能性を感じました。映画のマーケティングコンテンツを、これまでとは違った形でダイレクトにお客様に提供できるからです。さらに、これまで私たちがやってきたインシアターのプロモーションと掛け算ができると思ったのです。
平山氏は早速、そのアイデアを社内会議に提案し承認を得て、開発に入った。
映画は3000万人ともいわれるコアユーザーに支えられる産業だという。彼らにプログラムを宣伝する手法は数多くあるものの、次に観る映画を決定する最大の決め手はインシアターのマーケティング手法によるということはわかっている。本編前の予告編を筆頭に、館内のポスターやチラシ、バナー、またスタンディと呼ばれる大型ディスプレイなどだ。しかし、年間1000本以上の映画が上映される今日、館内のスペースも予告枠も限られているため、そのスペース取りの争いは熾烈を極めている。
そのためにはアイデアで競うという方法を採ってきました。たとえば古い例になりますが、突然、テレポーテーションができるようになった主人公の冒険を描いた『ジャンパー』という映画の場合、その映画館で特撮した絵を基に、そこに来たお客様が見知った場所から次の場所に飛ぶというイメージのクリップを作り、予告と予告の間にはさんでもらいました。しかし、そうしたアイデアも常にはまるものが出せるかは疑問です。
その点iBeaconは物理的なスペースを取らずに、新たなマーケティングスペースが無尽蔵に作り出せるわけだ。しかも、今後データを蓄積していけば、各個々人に合わせて個別のお知らせをすることも可能なのだ。
いくつかのハードルがあった。新しいテクノロジーなので、iOS7以上のiPhoneでないと対応していないというだけでなく、アプリが重要なので、独自に開発するか、すでにアプリを持っている映画館チェーンと組まないといけない。アプリを前提としても開発も必要だ。
独自にアプリを作っても、すぐにダウンロード数を稼ぐことができませんので、劇場最大手であるTOHOシネマズさんにお声掛けをして快諾をいただき、1年間のコラボレートプロジェクトをスタートさせました。
今後、20世紀フォックス映画が配給するコンテンツが、引き続きTOHOシネマズのアプリでiBeacon施策が展開されるわけだが、そこでお互いに知見を貯め、さらにユニークで私たちを楽しませてくれるマーケティング施策が繰り広げられることだろう。
というのも、iBeaconを使えばさまざまな遊びができる。たとえば20世紀フォックス映画で今後公開を控えているのが『ナイト ミュージアム/エジプト王の秘密』。この映画を前提にすれば、たとえば宝探しのようなミニイベントの開催も考えられる。つまりは、アイデア次第でその場がアミューズメント化して、楽しい空間になるわけだから、映画配給会社だけでなく、これは映画館側にとっても期待大の技術ということが言えそうだ。
全く新しいワンストップサービスで次々に自社の次回作へ誘導することができる
本編の前に上映する予告編の時間枠は10分ほどです。そのスペースを取り合うのが現状です。そうではなく、たとえば自社のポスターの前に来ると、自分の持っているスマートフォンに予告画像が飛び込んでくる。全く新しいスペースです。それでユーザーの気持ちが傾いたところで、クーポンや前売り情報をプッシュする、その場で購入もできる。それを可能にするツールなわけです。
認知から購入までワンストップで通貫するプロモーションが構築できるわけで、この上ない手法であるわけだ。
配給会社としては、今後、仮に自前のアプリを持てば、たとえば屋外広告でもこの方式を応用できますし、電車の中などの交通広告でも可能です。実際、このキャンペーンによって、やってみなければわからない、そんなさまざまな知見やノウハウを貯めることができています。距離はどうなのか、端末の反応にどんな癖があるのかなどもわかりました。今後はユーザーのパーソナルデータと紐づけるなども検討していきたいと思っています。
バーチャルとリアルのマーケティング施策の組み合わせによる掛け算によって、新たな顧客とのコミュニケーションを築くことができる可能性があるだろう。
この記事は、株式会社D2Cが発行する小冊子 『DIGITAL&DIRECT NEWS』 Vol. 49のコンテンツの一部を、許諾を受けてWeb担当者Forumの読者向けに特別公開したものです。
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