パルコの公式アプリ「POCKET PARCO」がリニューアル。ユーザーとの接点を作ってMAUを上げる
ショッピングセンター事業大手のパルコは、スマホアプリ「POCKET PARCO」を2018年11月にリニューアルした。その結果、課題だった月間アクティブユーザー数(MAU)が改善するとともに、アプリからECサイトへの流入も増加、EC売り上げにも貢献しているという。
「デジタルマーケターズサミット 2019 Winter」に登壇した、パルコの北山隆造氏と櫻井愛氏が、アプリリニューアルを成功させる3つのポイントについて紹介した。
リニューアル前の「POCKET PARCO」とは?
公式アプリ「POCKET PARCO」は2014年に福岡店からスタートし、2015年には全国のパルコで展開された。当初のメインコンテンツはショップブログ(フォローしたショップからセール情報などのお勧め情報が日々届くもの)で、ECサイトの商品の一部もアプリから購入可能になっていた。
その他、貯めた「コイン」が優待券やクーポンと交換できるサービスもある。コインはアプリにクレジットカードを登録すると、クレジットカードの利用額に応じて貯まる仕組みだ。
また、館内でチェックインし、館内を歩くとコインが貯まる「ウォーキングコイン」というサービスもある。つまり「POCKET PARCO」は、家にいるときにショップブログを見て、パルコに来たらウォーキングコインを楽しんで、お買い物したらクーポンが届く、お客様との接点を絶え間なく作っていくアプリとしてスタートしている。
ウォーキングコインは、パルコ館内でチェックインしてアプリを開いた会員の5~6割の方が利用している。ウォーキングコインを利用したことのあるユーザーは、館内でアプリを使用していない会員に比べて、取引回数は3.2倍、購入金額も2.3倍。また、お買い上げ店舗の数も1.9倍。ウォーキングコインの利用者はかなりヘビーユーザーです(櫻井氏)
さらに今回のリニューアルでは、「抽選機能」が追加された。家にいながら、アプリ上で映画鑑賞券などの抽選に参加でき、抽選に当たれば賞品をもらいに店舗へ行くという仕組みだ。
リニューアル前の課題 月間アクティブユーザーの停滞
さまざまな成果をあげていた「POCKET PARCO」だが、リニューアルへのきっかけはダウンロード数が伸びても、アクティブユーザーが伸び悩んでいたことだ。北山氏は以下のような点が課題だったと指摘する。
- 情報発信をショップブログにゆだねていたため、質と内容が担保できていない。
- コインを集める以外の楽しさが足りない。
また、社内の運営体制にも以下のような課題があったという。
- アプリ制作の担当と、運用の担当で意思疎通ができていなかった。
- それまでの仕事にアプリの仕事が追加になるなど、運営体制ができていなかった。
せっかくお客様に直接情報が届けられるアプリなのに、社内の運用体制の構築ができておらず、アプリ運用が「自分ゴト」として捉えることができていなかった(北山氏)
リニューアルの目的① パルコが好きを醸成する
リニューアル後のあるべき姿を概念図にしたのが以下の図だ。
アプリを改善することによって月間アクティブユーザー(MAU)を上げる。MAUが上がることで、ユーザーはアプリを見る頻度が高くなり、コンテンツを読みたくなる。アプリを開きたくなり、楽しくなって、パルコが好きになり、パルコを利用しようと思う。そして、また「POCKET PARCO」を見に行こうと思ってくれる、という好循環を目指している。
好循環が行われることで「生きた顧客データを獲得」できていく。しかし、これをそのまますべてのステークホルダーに伝えても、各方面を納得させるのは難しい。そこで、ステークホルダーごとに目的の表現を変えたと北山氏は言う。たとえば、以下のように説明したという。
- お客様にとって、店舗以外に楽しめるチャンスができる。情報を得られる。
- テナントにとって、ブランドについてより深くお客様に知ってもらうことができる。パルコ顧客に情報を伝え、オンラインで販売できる。
- CRMツールとして、より細分化したターゲットに向け情報を届ける。
- 独自顧客獲得&運用で、独自顧客データを獲得。
- EC取引高拡大・メディアコマースチャネル確立。
リニューアルの目的② パルコの情報を顧客に届ける
また、社内的には「パルコとして知って欲しい情報を発信する」こともあるべき姿である。
アプリにクレジットカードを登録するという手間をかけてくれたお客様は、そうでない人よりもパルコが好きと思ってくれているはず。そういう方々にショッピングセンター以外にも魅力的な事業があることを丁寧にお伝えしたい(北山氏)
リニューアルの目的③ EC強化、メディアコマース化
さらに、リアル店舗顧客、EC顧客、エンタメ顧客の情報を1つのアプリで管理することで、より詳細なターゲティングや、独自顧客の獲得、独自データの獲得が可能になると期待している。
そして、アプリの利用者が増え、アプリで購入する仕組みがしっかりしていれば、ECサイトの稼働も増えるのではという期待もあるという。
従来でもアプリからECサービスを利用することは可能だったが、アプリの利用が少ないのであれば貢献度は低い。EC強化のための施策として考えたのは、アプリの「メディアコマース化」と、「ECサイト自体のリニューアル」だ。
ECサイトとしては大手に比べれば非力なので、品揃え、利便性、価格で勝負するのではなく、伝え方でお客様に好きになってもらうECをアプリ内でもしっかりやっていこうと考えた(北山氏)
まず、アプリのメディアコマース化をするにあたり、アプリ内におもしろい記事を作り、それを読んだ人がECに遷移して購入するという流れを作った。
そして、ECサイトのリニューアルではサイト名称や全体デザイン、UIの刷新を行い、ECへの出店状況も見直した。従来はリアル店舗のテナントがECに出店していたが、期間限定でECのみの出店誘致を行った。さらに、出店テナントや商品のブランディングも強化したという。
リニューアルのスケジュール・運営体制
リニューアルは約1年かけ、専属3名を含む8名で行われた。その中で、櫻井氏は苦労したポイントを次のように話した。
- 人によってデジタルリテラシーの差があり、やりたいことがうまく伝わらない。
- 部署横断のプロジェクトのため、部署ごとの目的やメリットなどを解説する資料を作成して、丁寧に説明しに行った。
- システム構築において、ベンダーやシステム担当と会議で話しが通じなかった。
代理店を挟まず直接ベンダーとやり取りしたこともあり、「こういうことをしたい」と言っても専門用語で返されてよくわからないという会議が何度も続いたという。
システム担当やベンダーは新しいことをやりたがる傾向があるように思う。「日本初、世界初の素晴らしい機能をつけます」と言われても、自分たちのやりたいこととは違う場合が多い。そのため、今回はコンテンツに重点を置くと説明し、理解してもらって進めた(櫻井氏)
メディアコマースのコンテンツ制作の部分については、アプリ全体のペルソナから訴求内容を洗い出すため、各部署にヒアリングして編集方針を決め、それを実現する制作会社も選定した。また、記事をすべて制作会社に依頼すると高コストなので、自分たちでも記事を作れるようにCMSを構築した。
コンテンツ制作では、以下のような点に苦労したという。
- 新規媒体なので説明が難しく、タレントをブッキングするのに時間がかかった。
- 多方面からさまざまなオーダーがくるようになった。嬉しい反面、ペルソナや編集方針に合わないものはきっぱり断ることや、合うように変える提案も必要だった。
リニューアル周知のプロモーション 意外とチラシが効果的?
リニューアルの結果、アプリは以下の図のように変わった。以前はショップブログ中心だったが、パルコ全体の情報が集まる「パルコジャーナル」がトップにくるデザインになっている。
記事は、「ファッション」「エンタメ」「エッセイ」「ライフスタイル」「アート」エリアの情報を出す「エリアインフォ」の6ジャンル。エリアインフォでは、そのエリアのインフルエンサーを起用している。インフルエンサーから発信してもらい、記事から新規ダウンロードを促す仕組みだ。
リニューアル前の最大の課題は、ダウンロード数に対してアクティブユーザーが少ないことだった。そのため、プロモーション展開では休眠会員にもう一度アプリを使ってもらうためのアプローチを考えた。リアル店舗がある点を生かし、館内でのチラシ配布やポスター、サイネージ、テナント店舗での紹介を行ったところ、結果的に最も貢献したのは来店者が増えるパルコカードのセールのタイミングで配ったチラシだったという。
リニューアル後は、ユーザー数110%、セッション数150%、スクリーンビュー250%などの成果があり、ダウンロード数、アクティブユーザー数ともに大きく改善した。また、以下のような知見が得られたという。
- タレント情報よりも商品紹介ページが人気
- 店舗の入館数とアプリの起動数は比例する
同時に強化したECサイトも、リニューアル後はアプリからの流入数が大きく伸び、購入数も増加している。また、創業間もない企業や個人事業主にとって、パルコに実店舗を出店するのは、在庫や釣り銭の準備、販売員の常駐など、ハードルが高い。
今回のリニューアルでは、ECサイトのPOP-UP SHOPとして、実店舗への出店はハードルが高いと感じているお店でも、ECサイト上で出店が可能になった。ゆくゆくは実店舗を出していきたいテナントとつながれたことも大きな収穫で、顧客にとってもECサイトならではの商品が購入できる点で価値があると感じている(北山氏)
まとめ アプリリニューアルを成功に導く3つのポイント
最後に、北山氏はセッションの内容を以下のようにまとめた。
- 目的を明確に持つ
誰にとってメリットがあるのか、楽しいのかを、社内で明確にして伝える。 - とにかくTRY!
作った仕組みをどのような体制で運用すればアプリが育っていくかと、少し先を想像したうえで、いろいろなことをどんどんトライするのが大事。 - リアルとデジタルの両輪を生かす
リアルとデジタルをまったく関係ないことと考えず、リアルのステージの人をどうデジタルに行くようにするか、デジタルからまたリアルに行ってもらうかという部分の重要性をしっかり捉えて取り組んでいきたい。
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