LINEで顧客理解と新規開拓ができる? 次世代のオムニチャネル戦略
2019年10月18日にアカマイ・テクノロジーズ合同会社(以下アカマイ)は「次世代 顧客ID プラットフォーム座談会」と題した小規模セミナーを開催した。
今回の小規模セミナーは「デジタルの信頼性を強化する」がテーマ。
セミナーの最初のセッションに、LINE株式会社 藤原氏が登壇。MAU 8,200万人を誇るアプリ「LINE」を活用することで、顧客理解が促進できるという。なぜ顧客理解ができるのだろうか? LINE株式会社 藤原氏が語った。
本記事は、10月18日にアカマイ・テクノロジーズ合同会社が開催した「次世代顧客IDプラットフォーム座談会」で行われた講演の一部をまとめたものである。CRMの流れがますます強まる中、顧客IDをどうサービス向上に活かすべきか、参加企業各社が意見を交わした。また、アカマイ社のID管理ソリューション「Identity Cloud」についての解説も行われた。
変わり続ける「広告」、その未来
LINE株式会社には7つの社内カンパニーが存在して、藤原氏はそのうちの1つであるO2OカンパニーでエグゼクティブCMOを務めている。藤原氏はWeb系広告代理店でキャリアをスタートさせている。
本題に入る前に、藤原氏はまず顧客へアプローチするための手法、デジタル広告の歴史から振り返った。
藤原氏によれば、ネット広告のトレンドは常に「プル型」「プッシュ型」の間で揺れ動いているという。1996年にYahoo! JAPANがバナー広告の取り扱いを本格的にスタートさせたが、これは典型的な「プル型」だ。ポータルサイトを閲覧したユーザーに対して、広告が届けられるといもの。
ほぼ時を同じくしてスタートしたのが、メール広告だがこれは「プッシュ型」にあたる。メールマガジンのヘッダーやフッターに広告を挿入するというもの。広告主から消費者に対してなかば強制的に広告を見せるだけに、その伝搬性は高いが、費用対効果はプル型に比べて劣るという難点がある。
結果、更なる成果向上を狙って、プル型であるアフィリエイト広告、検索連動型広告が台頭していった。
しかし、その中で「広告枠から人へ」という考え方が生まれていった。
バナー広告は、ユーザーのサイト訪問状況を踏まえた「リマーケティング」の要素を取り込んでいき、Facebookメッセンジャーでは、ユーザーIDに紐付いて広告が表示される。広告のターゲティング精度が、かつてとは比べものにならないほど向上したという訳だ。
2019年5月にスタートしたばかりの「Google Travel」は、こうした広告の新しい潮流を探る上で興味深い例だという。旅を軸に、ホテルや飛行機の検索・予約機能を統合。ここにはGmailで送受信された旅行関連の予約メール内容、つまり顧客IDベースの情報も反映されている。
藤原氏はさらにその先も見据えている。
これまでWeb広告は、Webでの接点でしか打ち手がなかった。しかし、一定の道路を通っただとか、特定のリアル店舗で買い物をしただとか、タッチポイントに応じたコンバージョンが測定されるのではないか(藤原氏)
こうして測定・検証すべき項目が増えていくと、人力ではいずれ限界が訪れる。そこではAIが活躍する機会も増えるだろうと藤原氏は予測する。
圧倒的なユーザー数を武器に“送客” IDで顧客管理も万全
Webとリアルの連携は、O2Oの本分である。無料メッセージ・通話アプリとしてのLINEは国内MAUが8,200万人超、しかもMAUのうち毎日アプリを立ち上げるDAUの割合は86%にも達する。
LINEのO2Oカンパニーが事業を本格化させて約3年が経過するが、その当初から一貫しているのが「Commerce Gateway」という理念だ。
MAU8,200万人を、さまざまな企業のサイトやサービスに“送客”する――このモデルでつねに運営をしている(藤原氏)
O2Oカンパニーが手がけているサービスは全部で6つ。大きく役割が2つある。
- オンライン送客を担う「LINEショッピング」「LINEデリマ」「LINEトラベル」
- オフライン送客を担う「SHOPPING GO」「LINEポケオ」「おでかけNOW」
これら6サービスは、「ショッピング」、「グルメ」、「トラベル」という軸でも分類できる。たとえば「LINEデリマ」「LINEポケオ」はともにグルメの送客サービスだが、前者は宅配(オンライン)、後者はテイクアウトの事前注文(オフライン)という関係性にある。
新規開拓ルートにつながる
実際にO2Oサービスで送客をしてもらう加盟事業者からは「新規率が高い」との声が寄せられているという。
たとえば、出前業者がWeb上で集客したい場合は、出前に関連したキーワードで検索をしたユーザーに広告が届く。一方、LINEデリマの場合は、LINEアプリを立ち上げたユーザーに幅広くアプローチできる。
「出前を利用したい」というニーズが、そもそもないユーザーでも、それこそポイントの高率還元キャンペーンなどを用意することで注目を集められる。結果として、検索連動広告とはまた違う新規顧客開拓ルートになるのだという。
顧客育成ができる
同様に、事業者にとっては「顧客育成ができる」のも魅力のようだ。
LINEアプリを利用していれば、すでにIDが登録されている。LINEのサービスを使うために新しくIDを登録する必要が無い。このことは、ユーザーにとってストレスが少ない。また注文回数や閲覧履歴に応じてOne To Oneのメッセージをプッシュで送れる。見込み客のナーチャリングも可能だ。
ECのトレンドは「自社サイト運営」、LINEの送客力は大きな魅力
藤原氏は、ここでECトレンド変遷を解説した。1997年「楽天市場」がスタートしたのを皮切りに、多くのモールと自社ECができた。
事業者が新たにECサイトを立ち上げると、楽天市場やYahoo!ショッピングなど実績あるモール型ECサイトへ出店するのが、典型的なパターンだった。しかし、これらのサービスは、モール運営者側が会員管理を行うため、事業者は、モール上の顧客行動を分析することが難しかった。
このため、ECのトレンドは自社ECサイトによる独自管理へ移行しつつある。独自管理は顧客分析ができる一方で、モール型ECに比べ集客で苦戦する傾向がある。
こうしたマーケティングの潮流などを背景に、顧客をあくまでIDベースで管理しよう・管理したいという機運はますます高まっている。とはいえ、一般ユーザーに会員登録してもらうためのハードルが極めて高いことは、改めていうまでもない。
ONE ID化問題――ソーシャルログインを活用
この問題を解決するための手段の1つが、「ソーシャルログイン」である。
FacebookやTwitterなど、普段から使い慣れたSNSのアカウントを流用してもらうことで、会員登録のための心理的ハードルを少しでも下げられる。またサイト設計によっては、サイト内を回遊しているだけでコンバージョンしていないユーザーに対し、バナーを差し替えるなどのマーケティング対応も行えるようになる。
ONE ID化問題――サードバーティのチャネルを活用
また、サードパーティのチャネルを利用・連携する手段もある。これはまさにLINEのO2Oカンパニーによるサービスが該当する。LINEアプリ内から自社サイトへアクセスさえしてくれれば、会員登録をするまでもなく、詳細なユーザープロファイルを参照できる。
LINE側では、各ユーザーの性別や年代、どんな商品のページを訪問し、コンバージョンしたかも把握している(利用規約に同意したユーザーに限られる)。ただ情報セキュリティ上、こうした個人データを外部ECサイトの会員データベースと直接接続することは現在できない。ただLINEとしてはマーケティング支援という形でのデータ提供ができないか、検討していくという。
加盟企業へのマーケティング支援充実を目指して
加盟事業者向けマーケティング支援の一環として、現在検討しているのが「商圏分析レポート」。たとえば、LINEポケオのようなテイクアウト事前注文サービスの場合、店舗からどれくらい離れた地域に住んでいるユーザーが注文をしているかを詳細に把握できる。これを活用することで、リアル施策のチラシ配布エリアの最適化が可能という。
また、競合店舗をどの程度併用しているか、一度店舗に訪れたユーザーが再度訪問してくれる確率の分析なども可能になる見込みだ。
独自開発のMAツールも今後提供する。
LINEはユーザーの位置情報を把握できている。この位置情報をもとに情報をプッシュするためのツールを今まさに開発中だ(藤原氏)
藤原氏は最後に改めて、「企業の顧客ID化をサポートしたり、自社で取得できないレポートや顧客育成をサポートしたりする仕組みを整えている。MAU8,200万人をさまざまな企業サイトやサービスに送客し、デジタルとリアルを融合した企業のマーケティング活動を後押ししてきたい」と言い講演を終えた。
LINE株式会社 藤原氏のセッションの後に登壇したセミナーの主催企業であるアカマイからは、顧客IDを正しく理解することで、マーケティングに生かせる、ひいては顧客体験の向上が可能となる一方で、この分野にも顧客管理やセキュリティなどの課題が明らかになりつつある現状が報告された。
アカマイは、2019年1月にCIAM分野のパイオニアであるJanrainを買収。登録顧客のデジタルアイデンティティの管理を統合する「CIAM」により、デジタルの信頼性を強化することが重要であると述べ、セミナーを締めくくった。
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