悩める若きPRパーソンへ! 本の力を実感しているSansan小池さんがオススメする3冊
今回の「私の本棚」は、SansanのPRマネジャー 小池亮介さんにご執筆いただきました。本好きの小池さんはいろいろな分野の本を読まれていますが、今回は特にPRパーソンにオススメした本を紹介してくれました。(編集部)
PRパーソンこそ本を読むべき オンラインにはない情報
読書への抵抗感をなくした宮部みゆきの『レベル7』
私は、4人兄弟の末っ子で、家族が多かったからか家は裕福な方ではなく、小学生の途中まで家にテレビがありませんでした。自由に使えるお金がなかったのに、両親は本を買う小遣いはいつも渡してくれました。思い出深い本は、宮部みゆきの『レベル7』(新潮社:刊)。なんとなく、10秒も考えずに購入しました。
読み進めるうちに、続きが気になって席を立てなくなり、昼ご飯も抜いて、ずっと読んでいました。それが本への抵抗感をなくしてくれたきっかけです。
社会人になり、そこそこ忙しく仕事をこなす毎日を過ごしていますが、意識して本は読むようにしています。普段はおもに30分の通勤時間に読んでいます。短いですが、普段の仕事から離れて本の世界にトリップできる大切な時間です。
周りの人がもっていない知識を本から仕入れる
PRという仕事柄、日々大量の情報に触れていて思うことがあります。
インターネットの爆発的な発達によって、私たちは情報に簡単にアクセスできるようになりました。そしてSNSが普及し、大量の情報が日々飛び交っています。そんな高度情報化社会の今だからこそ、紙の本で情報を摂取することが、PRパーソンには必要だと思います。
理由は簡単で、ほとんどの人が、ネットの情報を中心に摂取していて、本を読んでいないからです。私は、PRパーソンにとって日々の情報摂取は義務で、なかでも、人が知らない情報に貪欲にならなければいけないと考えています。
インターネットに出回っている情報は、アクセスしやすいがゆえに誰でも知っている情報です。情報の更新が早いがゆえに、その情報を追っているだけで満足してしまいがちですが、PRパーソンは、皆が知っている情報を知って満足していてはいけません。
「みんなが知らないことを知っている・理解している」ことは、優位性につながります。その情報を元に、クリエイティブなアイディアを生み出せるかも知れません。特に、若手のPRパーソンは、同年代から頭一つ出すために、本を読んでみるべきだと思います。
たとえば記者さんや、クライアント、社内の人間に、「この人と話していたら、次の企画のアイディアが湧いてくるな」と思ってもらえるのは大切な能力です。私がそうかは別として、情報源を片寄らせず、他の誰もがもっているわけではない知識を本から仕入れることは、PRパーソンとしてとても大切だと思います。
また、情報をインプットする効率性においても、紙の本をオススメします。インターネットに出回っている情報、特にSNSの情報は、誰もが手軽に発信できます。ですから真偽が十分に検証をされていなかったり、断片的な情報が多く、体系立てて理解し、自分のものにするのに時間がかかったりします。
本には新規性がない分、検証され、理解しやすいように編集を経た情報が載っています。筆者が時間をかけ、推敲を繰り返し、まとめられた情報を摂取した方が効率の良い情報摂取といえるかもしれません。
人生を変える本との出会い 『裸でも生きる』
「この本と出会っていなかったら、今の自分はない」と断言できる本があります。バングラデシュで現地工場を作り、途上国からアパレルブランドを立ちあげた、マザーハウスの山口絵理子さんが書いた『裸でも生きる』(講談社:刊)です。
ふ抜けた大学生活に喝を入れられ、大学院へ
この本は、「仕事にモヤモヤしている」「失敗をしてへこんでいる」と悩んでいる若手PRパーソンがいたら、ぜひ読んで欲しいです。
いじめられっ子だった小学生が、中学生で不良になり、強くなりたいと高校から柔道を始め、ジュニアオリンピックに出場。その後、偏差値40から一念発起して大学受験し、慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス(SFC)に入学。国連機関を見て、その現場に違和感を覚え、アジア最貧国のバングラデシュに行き、23歳で「マザーハウス」を起業する。
著者が起業するまでの半生を書いた本です。なおマザーハウスは今では、国内外に40店舗を構える、レザーカバンのブランドになっています。本書を原作にしたドラマがありますので、視聴した方もいると思いますが、原作もドラマも、壮絶なストーリーですよね。
この本とは、大学生活を謳歌していた私が久しぶりに実家に帰った際に、姉から勧められて出合いました。読み進めていくうちに、これといった目標もなくふ抜けた生活をしている自分に喝を入れられたように感じました。
やりたかったことを考え直し、あらためて興味をもった分野を研究しようと、神戸の大学院に進学。もちろん、研究対象地は「バングラデシュ」です。ただ、意気揚々と入学したのはいいものの、海外経験豊富で超優秀な同級生に囲まれ自信を喪失。アカデミックな世界にも馴染みきれず、挫折しました。
そしてマザーハウスで働く
挫折から立ち直りたかった私は、「もっと大きな挫折を経験している著者の近くに行きたい」と、当時、大阪の南船場にあったマザーハウスの路面店舗に足を運び、アルバイトに採用されました。
マザーハウス大阪店では、バングラデシュの現地工場で作られたバッグをお客様に販売したり、お店のメンバーと施策を考えたり、とても充実していました。昼からバイトして夜22時頃に神戸に着き、研究室に寄って論文を読み、2時くらいに家に帰宅。そして熟睡しないように床で寝て、朝起きてバイトに行く。シフトまでの時間はカフェで販促案を考える。そんな生活をしていました。バングラデシュにも行き、修士論文の研究と、マザーハウスの現地工場で手伝いに行ったりしました。
憧れだった山口絵理子さんと一緒に働いたこともありました。仕事に真摯な人で、動き続ける経営者のすごみを感じました。山口さんから影響を受けたものは、「現場感」と「企業ミッション」の大切さです。
誰かの情報を鵜呑みにしない「現場感の大切さ」を知る
山口さんは、自分で見た情報から判断を下し、ビジネスを立ちあげていました。「途上国は貧しい」という誰かの情報をうのみにするのではなく、自分で現場を見て可能性を見つけ、動いていました。 だから私も、誰かから聞いた話や本で読んだ情報も、あくまで最善の判断をするための材料であり、最終的な判断は自分で下そうと心がけています。
ミッションドリブンな企業に身をおくと決める
また、企業ミッションが強い会社には多様なタレントが集まることを体感しました。私がいた当時のマザーハウスは、今と比べてもかなり小さかったのですが、いろんな経験をもった人たちが一つのミッションに向かって働いていました。働くのであれば、多様な世界で働いた方が楽しいですよね。この経験から、私はミッションドリブンな企業に身をおく、と決めています。
コミュニケーションを再定義する
店舗での経験は、「コミュニケーションは何たるか」を考えるとても良い機会になりました。バッグの機能を1から10まで説明しても、ふらっと立ち寄ったお客様は買ってくれません。お客様が気になっていることや、困っていることに気がつき、話す必要があります。このときから私は、コミュニケーションを「相手が聞きたい情報を、自分が伝えたいように伝えること」と定義しています。
こうしていろいろなことを経験させてもらったマザーハウス。大学院修了後もそのまま働くという選択肢もありました。しかし、もっと自分が役に立つために誰ももっていないような能力を身に付けたいと思い、高校時代の部活の先輩から誘われたPR代理店に就職しました。
このように、本を1冊手に取った瞬間から、見事に人生が変わってしまいました。たぶん、『裸でも生きる』を読んでいなかったら、PRの仕事もしていなかったと思いますし、今Sansanにもいないと思います。
私がいまだに、本を読むようにしているのは、PRパーソンだからと言う理由と、もう一つ、次なる人生を変える本との出会いを探しているからかもしれません。
PRの皆さんにオススメしたい本
「7:2:1理論」という、人の成長に貢献する要素を比率化した考え方があります。7割は「仕事経験から学ぶ」。2割は「他者から学ぶ」。残りの1割は「研修や書籍から学ぶ」ことを示しています。
仕事をするからには、PRパーソンとしての成長が求められます。その中で、最も大切なのは「実践」です。仕事経験から学ぶために、日々の業務を丁寧に行い、バッターボックスに立つ瞬間を増やして、トライしてみて、失敗し、それを血肉に変えていく。そんなサイクルを回していく必要があります。
一方、実践をしていない時間でもできることがあります。それが本を読んで、知識を蓄えたり、どこかのPRパーソンの実践を学ぶことだと思います。「7:2:1理論」でいう、「2:1」の部分です。
特に駆け出しの若手PRパーソン(私もまだ若手ですが)にとって、経験で勝る先輩PRパーソンより先に出るためには、業務から学ぶのと並行して、積極的に本から情報を摂取し、身にしていかなければなりません。少しの積み重ねが、先輩との距離をつめると思います。
その一助にしてもらうため、今回は、私が特に参考にしている本を2冊ご紹介します。
『ドキュメント戦争広告代理店 情報操作とボスニア紛争』
『ドキュメント戦争広告代理店 情報操作とボスニア紛争』(高木徹:著 講談社:刊)は、PRという仕事の大きさを体感できる本です。1990年代に起きた民族紛争「ボスニア紛争」で、ボスニア・ヘルツェゴビナとセルビアとの間で実際に行われた、情報戦争の裏側を描いています。ボスニア側についた、アメリカのルーダー・フィン社は「民族浄化」という言葉を作成し、巧みなPR戦略を仕掛けて世論を誘導。戦局を有利に進めます。
PRで紛争の勝敗が決したわけではないですが、同社が行ったPR活動がボスニア勝利に大きな貢献をしたことは事実です。もちろん、真実ではない「虚」を発信し、社会を誘導するべきではありません。ただ、社会や世論を味方に付け、大きなうねりとして世の中を動かす、PRという仕事のスケールの大きさや重要性を知るには、良い本だと思います。
目の前の業務と向き合い続けていると、ふと自分の視界がとても狭くなっていることに気がつきます。そういうときには、この本を読み返して、グローバルレベルで、国の趨勢をも分けるPR合戦に思いを巡らせ、業務に戻るようにしています。
『アマゾンで学んだ! 伝え方はストーリーが9割』
『アマゾンで学んだ! 伝え方はストーリーが9割』(小西みさを:著 宝島社:刊)は、事業会社でPR業務を行っている人にこそお勧めしたい、実務的な本です。13年間、アマゾンジャパンの広報活動をけん引された小西さんが、アマゾンで実際にどのようにPR活動をしてきたのかを紹介した本です。
アマゾンといえば、新しい事業を立ち上げる際に、プレスリリースから作成を始めることが有名です。そんなPRが根付いている企業で実践されてきた広報活動は、とても参考になります。また、事業会社の悩めるPRパーソンのことを思ってか、すぐにでも実践できそうな方法がたくさん掲載されているのも、ありがたいところです。
事業会社の広報担当は、大抵の場合少人数で、社内に相談相手もいないことが当たり前です。自分のアプローチが正しいのか、今の成果が十分といえるのか、ふとわからなくなるときがあります。そのときに、頼れる先輩に相談するように、(小西さんにはお会いしたことはないのですが…)この本を読み返します。
その他、私が読んでみて参考になったPR広報関連の本をまとめてみました。ぜひ、ご参照ください。
『広報・PR概論』公益社団法人日本パブリックリレーションズ協会:編 同友館:刊
『サイバーエージェント 広報の仕事術 成長をかけ算にする』上村嗣美:著 日本実業出版社:刊(2016/2/27)
『TRUST 世界最先端の企業はいかに〈信頼〉を攻略したか』レイチェル・ボッツマン:著関美和:訳 日経BP:刊(2018/7/20)
『戦略思考の広報マネジメント』企業広報戦略研究所:著 日経BPコンサルティング :刊(2015/4/2)
『最新 戦略PR 入門編』本田哲也:著 角川アスキー総合研究所:刊(2014/10/30)
『最新 戦略PR 実践編』本田哲也:著 角川アスキー総合研究所:刊(2014/10/30)
『情報参謀』小口日出彦:著 講談社:刊(2016/7/20)
『嶋浩一郎のアイデアのつくり方』嶋浩一郎:著 ディスカヴァー・トゥエンティワン :刊(2007/2/25)
『ビンラディン、9・11へのプレリュード 大仏破壊』高木徹:著 文藝春秋:刊(2007/4/10)
『戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則』本田哲也:著 ディスカヴァー・トゥエンティワン刊(2017/4/12)
『アイビー・リー 世界初の広報PR業務』河西仁:著 同友館:刊(2016/11/2)
『【小さな会社】逆襲の広報PR術』野澤直人:著 すばる舎(2017/6/17)
『次世代コミュニケーションプランニング』高広伯彦:著 SBクリエイティブ:刊(2012/3/28)
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