Webサイトリニューアル特集

グローバルでサイト統合したカシオ計算機 リニューアル後の購入数は1.9倍! 成功のカギを聞いた

2021年3月にWebサイトの大規模リニューアルを実施したカシオ計算機。どんなことをしたのか詳しく聞いた。

2021年3月にWebサイトの大規模リニューアルを実施したカシオ計算機。独立して存在していた製品情報サイト(casio.jp)、G-SHOCKなどのブランドサイト、ECサイト(e-casio)を統合し、統一した情報を発信できるようにした。そのリニューアルについては、記事で詳しく取り上げている。

それから2年が経過し、ASEAN、アメリカ、ヨーロッパなどグローバルのサイト統合が進み、Webサイトの継続的な改善によってさらに利用しやすくなっている。日本におけるリニューアル後の購入数は、1.9倍に伸長。リニューアル以降のサイト運用について、カシオ計算機株式会社 執行役員 デジタル統轄部長 石附洋徳氏にお話をうかがった。

カシオ計算機株式会社 執行役員 デジタル統轄部長 石附洋徳氏

Webサイトのプラットフォーム、ドメイン、サイト構成まで変更したリニューアル

デジタルマーケティングの推進をミッションに2019年9月にカシオ計算機に入社した石附氏。2021年からデジタル統轄部長となり、デジタルマーケティング領域に限らず、IT部門、開発、生産、流通など全社DXの責任者として業務を推進している。

2021年のサイトリニューアルで意識したことが「ユーザー視点」で考えること。以前の製品情報サイトは、メーカー視点で作られており、カタログサイトとして情報が掲載されていた。製品情報サイト、ECサイト、ブランドサイトで掲載している情報が統一されておらず、ユーザーにとってわかりづらい構成になっていたという。まずは日本のサイト統合を実施したあと、グローバルで統一した情報を提供できるように各国で30以上あるサイトを統合していった。

製品情報は「casio.jp」で発信していたがこのドメイン名は廃止し、北米のカシオが使っていた「casio.com」に情報を集約した。その配下に国別のディレクトリ名を用意し、日本の場合は「casio.com/jp/」とした。その後、ASEAN、アメリカ、ヨーロッパのサイトも統合を行った。現状、中国のみドメインが異なるが、Adobeが提供するAdobe Experience CloudのCMS 「Adobe Experience Manager(AEM)」をグローバルで導入し、同じプラットフォーム上でWebサイトが稼働している。

グローバルで共通のプラットフォームを活用することを前提に、各国で通用するプラットフォームを選定しました。グローバルのロールアウトは成功しています。本社からプラットフォームを提供し、統一した情報を発信できるようにしつつ、各地の特性を捉えたプロモーション、マーケティングができるようにしています(石附氏)

ブランドサイトの統合も行ったが、G-SHOCKはブランド認知度も高いためG-SHOCKのサイト自体は残しているが、掲載されている情報は、「casio.com/jp/」で掲載されているG-SHOCKの情報と同じ内容を表示できる仕組みにしており、購入ボタンを押した後はスムーズにcasio.comへと遷移し購入手続きが進むようになっている。

カシオ計算機株式会社 石附洋徳氏

グローバルサイトの順次統合。各国担当者の反発にどう対応したのか?

大規模なサイト統合プロジェクト。グローバルサイトの統合で各国の担当者からの反発はなかったのだろうか。

拠点の担当者から『自由が奪われる』という声もありましたが、それぞれの担当者と話をして、メリットを伝えていきました。以前は、日本から送られるデータを各国が翻訳してWebサイトに反映していました。翻訳工数を各国で担う必要があり、この工数削減が課題になっていましたが、プラットフォームを刷新し、掲載するデータや翻訳もすべて本社が管理することで、自由が奪われるというマイナス面よりも、手間がかからなくなるというプラス面を理解してもらいました(石附氏)

Webサイトに掲載すべき商品情報は、PIM(Product Information Management)と呼ばれる商品に関するマスタ情報を格納するシステムとDAM(Digital Asset Management)と呼ばれる画像、動画、3Dデータなどの素材を管理するシステムを活用し、AEMで集約管理している。さらに、翻訳フレームワークを使えば、一つのマスターページを更新すると、各国の言語に翻訳されたページが生成される。

グローバルの情報を本社が管理でき、各国の発売時期にあわせて公開設定をコントロールできるため、各国の担当者はWebサイトの管理にかかっていた工数を大幅に削減できるのだ。

「自分たちが作ってきたWebサイトが奪われる」という現地担当者の気持ちを慮り、統合作業時には、本社の担当チームが真摯に向き合い、こまめに相談をしながら一緒に作業を進めていった。

北米の場合は12時間の時差があるので、当時は日本の担当メンバーは昼夜逆転で動いていました。『本社は本気でやっているんだ』ということをわかってもらいながら、押し付けではなく、一緒に統合を進めました。その効果もあり、現在でも本社担当と現地担当の間でコミュニケーションがしっかりとれる体制ができています(石附氏)

なお各国のサイトは、同一ドメイン名でディレクトリ名で分けているが、すべて同じ階層構成で配置されている。つまり、国を指定するディレクトリを別の国に変更すれば、同じ製品の各国語のページを閲覧できるようになっている。

https://www.casio.com/jp/watches/gshock/product.GA-B2100-1A1/
https://www.casio.com/us/watches/gshock/product.GA-B2100-1A1/

外国のページを表示すると、IPアドレスから判断して、ポップアップが表示されて自国のページに誘導します。

誘導された時に、その国のトップページに遷移するのではなく、その国の同一の商品のページが表示されるので、ユーザーは探し直す必要はありません。これも、すべて同じディレクトリ構成にしているからできることです(石附氏)

石附氏は、普段からグローバル展開する様々なブランドのサイトをチェックしているというが、「日本企業でここまで徹底できているのは他にない」と自信を見せる。

リニューアル後の購入件数は約1.9倍。小さな改善で、使いやすいサイトに

プラットフォームを共通化したことで、業務の効率化、ガバナンスなどの効果があったと同時に、グローバルで同じ指標で評価できるようになったことが大きいと、石附氏は話す。

サイトの構成・構造が同じになったことで、国によって『成果の違いが何か』を考えられるようになりました。これまでは、前提が違うのである国でコンバージョンが良い・悪いがあったとしても、その理由が何なのか特定できませんでした。指標が同一になることで、国の課題や特性が明らかになったので、そこも大きなメリットでした(石附氏)

日本の場合を見ると、リニューアル以降訪問回数は約6.5倍、購入件数は約1.9倍(2020年12月と2022年12月で比較)と改善している。これについて、石附氏は訪問回数の増加の要因として、サイトを統合したことで集約されたことを挙げる。現在は、サイト訪問した人の体験価値を高め、満足度を損ねないために、改善活動を続けているという。体感的に、表示スピードも速くなっているように感じる。

まずはサイトが遅い、商品を探しにくいというネガティブをなくすために2~3週間単位で、常に改善を行っています。少しずつ変えてデータを見て、また改善という繰り返しです。スピートについては、レイアウトを省いた構造化データを配信するヘッドレスな仕組みを導入していたり、キャッシュを持たせたり、読み込み順番を変えたり、連携部分を調整したりと細かく調整したことが結果的に表示速度の速さつながっていると思います(石附氏)

商品の探しやすさでもさまざまな改善を行っている。たとえば、MR-GはG-SHOCKシリーズの最上級ラインの製品だが、いろいろな製品がある中で名称だけでは伝わりにくい。そこで、メニュー上の「時計」にロールオーバーすると、下図のような画像入りの詳細が現れるようにし、メニューから探すタイミングでビジュアルを見せるようにした。

メニューにロールオーバーすると画像で内容が把握できる

また、価格や質量でのソート、機能、時計盤表示、カラーでのフィルタリングなどができるフィルター機能の使い勝手も改善した。

当初はフィルター機能を使う人が少なく、原因を考えたところフィルターが閉じているからではないかと仮説をたてて、最初から開いた状態にしたところ、利用者が増えました。製品を探すときのペインポイントを見つけては除去するようにしています(石附氏)

フィルター機能

なお、改善にあたっては、ユーザーリサーチなどは行っていないという。「自分たちも一生活者」という視点でサイトをみて、使いにくい場所はないか、他のサイトで良い機能はないかを常に探している。そのうえで、費用対効果、開発工数と改善効果を検証して、対応するべきかを検討しているという。

定量的な分析では、まずは全量データでアクセス解析をして課題があれば、セグメントに分けて分析していく。セグメントで分けて分析すれば、ある程度の課題が発見でき、対応するべきかを判断する。

この施策をしたからサイトが改善したということはなく、細かく改善をやり続けたことで効果が上がってきました。細かい改善で成果が出ているのは、最初にサイトリニューアルで全サイトを統合するという大きな判断があったからのことです(石附氏)

宝探しのような楽しさで商品と出会ってほしい

サイト内で、ユーザーに期待以上の体験をしてもらうために、偶然の出会い(セレンディピティ)を提供することも重視している。その一つがレコメンデーションだ。訪問回数やサイト内の行動、購入履歴などに応じて、トップページでその人へのおすすめを表示するようにしているという。製品のページでも、「一緒に見られている製品」「おすすめの製品」をそれぞれ異なるロジックで表示し、出会いを広げている。

商品の閲覧数と購入率には相関があり、いろいろな製品と出会うための仕組みを用意している。大事にしているのは、「自分で見つけた」と感じられることだ。

G-SHOCKならではかもしれませんが、宝探しの楽しさがあります。『これこそ探していたものだ』というのを偶然見つけたように感じられる場を増やせるようにしています。もともと探していた商品を見つけて終わりではなくて、自分でも気づかなかった自分の好みを発見できれば、サイトを訪問した時間がプラスワンになると思います(石附氏)

なおG-SHOCKの場合、直営店が8店舗あるので、オンライン、オフライン双方からの送客を意識している。オンラインから直営店の在庫確認、オンライン購入商品の店舗での受け取りなどに加えて、カシオIDの登録により、オンライン/オフラインどちらで買っても、自分のコレクションとして管理できる。

ECサイト内のおもしろい取り組みとしては、3D描画機能を活用して自分の時計をカスタマイズできる MY G-SHOCKがある。3Dモデリングした時計に、テクスチャを貼りながら自分仕様の時計を作り、オーダーすることができる。カスタマイズしていくだけでもワクワクできる機能だ。

MY G-SHOCK

3Dモデリングなので、質感にこだわりました。自分の『推し』のカラーでカスタマイズした時計をオーダーした方もいて、SNSでシェアされています。私達の想定以上に体験を楽しんでいただいており、このプラスアルファの体験がカシオのロイヤリティにつながるといいなと思います(石附氏)

意識的に変わるための努力をする。Webサイトも人間も

現在、Webサイトに関わっている人は、20~30人ほど。EC担当、UI/UX担当、各国の拠点担当、データサイエンティストなどそれぞれ役割が決まっているという。

メンバーはもともとWebサイト関連の仕事を担当していた人、社内公募制でデジタルにチャレンジしたいと応募してきた人、外部からの経験者採用などを中心に構成されている。社内公募の応募者は、もともとエンジニアなど別の職種の人がスキルトランスファーして参加しているという。

サイトリニューアルから2年でチームの意識も行動も変わったと思います。カシオのサイトで商品に出会い、購入し、楽しい体験につながれば、購入者はカシオのサイトに来てよかったと思うでしょう。日々の業務をこなすのではなく、お客様に喜んでもらうという目的をDX全体のビジョンとして示し、Webサイトが購入、体験の場であることをトップダウンで理解してもらいました(石附氏)

社内では、できるかどうか悩む前にまずはやってみようという文化が生まれているという。最初は反発もあったサイト統合だが、できたものをみて前向きに受け止められている。マーケティング、営業部門の人もサイトを活用するようになり、社員の可能性も拡大していると感じると話す。

なお、「ECを魅力的な買い場にしたい」という目標に対して、石附氏の評価では、スピート感でいうと100点満点中80点。想定外の出会い、新しい発見という点では、まだ30点だという。新しい好みを見つけられる、新しい自分に出会える場所になれば、さらに楽しい体験ができる場になるので、さらなる改善を続けていく予定だ。

用語集
CMS / SNS / UX / アクセス解析 / キャッシュ / コンバージョン / ディレクトリ / ドメイン名 / 構造化データ / 訪問
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