ここがよかった!ここがスゴイ! 後藤真理恵の企業SNS活用事例ピックアップ

SNSでは「誰が発信するか」が重要! 社長が投稿、あるいはネタに?「社長コンテンツ」の活用例

「社長ネタを発信する」「社長が公式アカウントで発信する」「社長が個人アカウントで発信する」それぞれのケースについてコムニコ後藤さんがポイントを解説。

当連載では、企業・団体のSNS担当者のみなさんにお役立ていただけそうな良質なSNS活用事例をピックアップし、「どこがすぐれているのか」「なぜ話題になったのか」などをやさしく解説していきます。企業・団体のSNS投稿やSNS施策のなかでも、比較的最近の事例や再現性のある事例を取り上げ、みなさんのSNSアカウント運用の参考にしていただけるような記事を目指しますので、よろしければどうぞお付き合いください。

SNSでは「何を」以上に「誰が」発信しているかが重要

SNSにおいては、「何を発信しているか」以上に「誰が発信しているか」が重視される傾向がより強まってきています。

企業SNS活用の定番である「公式アカウント運用」は、信頼できる情報、特に自社ブランド・商品・サービスなどの機能的価値(例:商品の特長・優位性など)を発信できる点が強みです。一方でユーザーの感情に訴える情緒的価値(例:商品/サービスを購入することで得られるわくわく感・商品を所有する喜び など)を提供するには工夫が必要です。そこで「誰が発信するか」がカギになってきます。

「誰が」の部分には「インフルエンサー(影響力のあるユーザー)」や「お客様」、「従業員」などを当てはめることが可能です。従業員が自ら発信者となって自社ブランド・商品・サービスについてSNS投稿したり、公式アカウントの投稿を拡散したりするのを支援する施策を「従業員アドボカシー」といいます。アドボカシー(advocacy)とは「代弁・支持」などを意味する語。つまり、従業員が『自社の熱烈な支持者・メッセージの代弁者』として発信することで、おのおののフォロワーに商品・サービスの価値を伝えたり共感を得たりといった成果を期待する施策といえるでしょう。

SNSで「社長みずからが発信する」「社長ネタを発信する」パターンは3種類

さて、従業員・お客様・取引先・投資家・あらゆるステークホルダーに対してもっとも影響力がある人物といえば?……そう、企業のトップである社長ですね。

まずは、社長を投稿ネタとして使っている事例、社長自らが発信者として活動している事例を整理してみましょう。「SNSでの社長の発信」は、大きく以下の3パターンにわかれます。以下順番に解説いたします。

(1)公式アカウントが社長をネタにして投稿する
(2)公式アカウントで社長みずからが発信する
(3)社長の個人アカウントで社長みずからが発信する

(1)公式アカウントが社長をネタにして投稿する

社長自身はアカウントを作らず、企業公式アカウントの投稿ネタ(コンテンツ)として、社長の写真や動画などを使う方法です。公式アカウントの運用目的や社長のキャラクターに合わせた投稿をSNS担当者が企画・作成できるので、社長に負荷をかけることなく始めやすく、投稿前に社内で入念なチェックを行えるので、炎上リスクをかなり減らすことが可能でしょう。

銚子電鉄

千葉県のローカル鉄道 銚子電鉄の公式Xアカウント「銚子電鉄(公式)」では、ユニークな施策を次々展開する社長の人となりが伝わるような投稿を時々まじえています。

10月18日には、社長が近鉄特急ひのとりと撮った写真に「銚子電鉄の懐事情はひのくるま」と、やや自虐的でユーモアあふれるテキストを添えて、多くのファンから共感を集めていました。


また、同社のYouTubeチャンネル「【銚子電鉄】激つらチャンネル」では、利用者への感謝を伝えるメッセージ動画のような固め路線から食レポなどのゆるい企画まで、社長が幅広く取り組み人気を博しています。結果的に、社長の多才さやダジャレ好きなど、これまで隠れていた(?)魅力をも引き出すことにも成功しているといえるでしょう。

【銚子電鉄】激つらチャンネル|YouTube

大京警備保障/Daikyo Security

西新宿の警備会社 大京警備保障では、若年層を中心とした人材採用増を目的として、TikTokアカウントを運用しています。同アカウントの動画には社長がよく登場するのですが、部下にいたずらされたり、「やらないと退職します」と部下に迫られて踊ったりと、ほぼ「いじられキャラ」に徹している点が特徴的です(パワハラに当たらないような役割分担を意識しているそうです)。

なかでも、いろいろな絵を描いた冷えピタを部長から投げつけられるシリーズは人気コンテンツです。

@dkykeibi_tokyo 冷えピタまとめ #anime #fyp #animegelsheet ♬ original sound - 😶‍🌫️💪🏾♾👻⚡️🤔

こうした短尺動画が話題化・拡散することで同社の知名度が向上し、動画の内容から社長や部長への親近感と社内の雰囲気に対する好意度の向上につながっていることは想像に難くありません。

(2)公式アカウントで社長みずからが発信する

社長自身はアカウントを作らず、企業公式アカウントから自分自身のことばで投稿する方法です。スタート地点である「SNSアカウントの作成」、「ダイレクトメッセージやコメントの確認や対応」といった日々の業務、「投稿の効果測定」などは、社長に代わって公式アカウント担当者が行うので、社長の負荷は大きくありません。また、必要とあれば公式アカウント担当者が、社長の投稿を削除したり修正したりするので、炎上などのリスクはある程度抑えることが可能でしょう。

迎賓館赤坂離宮  Akasaka Palace

内閣府迎賓館の公式Xアカウントでは、「開館50周年まであと半年」にあたる10月11日から、館長が「つぶやきに参加する」と投稿し始めました。

注目すべきは、館長自らがSNSアカウント運用についてよく学んだ上で、まずは「目的」や「目標」をしっかり決めているという点です。

目的は「迎賓館にもっと親しみを感じていただきたい」、目標は「開館50周年中にフォロワー数(つぶやき開始時から)倍増:7.5万人」とし、それらを達成するための作戦(施策)は「至誠通天」(あらゆることに誠の心を尽くして行動すれば、いつか願いは叶う)として、土日祝日含め毎日1回以上の投稿に努めているそうです。

顔もお名前も出されてはいませんが、迎賓館愛を感じさせるお役立ち情報、得意料理の披露など人間味を感じさせる投稿の数々から、親近感をおぼえファンになってしまったユーザーも相当数いるのではないかと感じます。

(3)社長の個人アカウントで社長みずからが発信する

社長自身が個人アカウントを作り、自分自身のことばで投稿する方法です。アカウント作成から日々の投稿、コメントやダイレクトメッセージの確認・対応なども社長自身が行うため、SNSの基礎知識が必要でしょう。社長の人間性がもっとも出しやすく、社長への親近感や信頼向上・会社への好意度向上・ファンづくりもしやすい一方で、投稿内容や他ユーザーとのコメントのやり取りが原因で炎上も起きやすいため「SNSリスクマネジメント」知識も必須です。

西尾 両口屋(公式) 二代目 礒貝隆男

愛知県の小さな和菓子屋 西尾両口屋の二代目代表は、和菓子のつくりたての良さ、美しさを伝えることを目的に、Instagramアカウントで発信を続けています。

西尾 両口屋(公式) 二代目 礒貝隆男 🌸🌻🍁🎄(@nishio_ryouguchiya) ・ Instagram写真と動画

「かしわ餅」のシーズンには、美味しそうな湯気が立ちのぼる出来立ての様子をリールで投稿し、ユーザーから好意的な反応を集めていました。同店の餅は、お米の香りが引き立つレアな無糖タイプであるという豆知識もあわせて紹介している点も好印象です。

なお、「社長が個人アカウントで発信」と聞くと「インフルエンサーを目指すってこと?」と思われる方もいるでしょう。確かに、多くのフォロワー/チャンネル登録者を集めて「〇〇社長」等の名前で活躍中の社長インフルエンサーも存在しますが、すべての社長がインフルエンサーを目指す必要はありません

公式アカウントと同様、社長のSNSアカウント運用でも大切なのは「目的」と「対象」です。「若年層に当社に入社してほしい」「20代30代女性に、和菓子の魅力を知ってもらい購入してほしい」等、「誰にどうしてほしい/誰にどうなってほしい」のかを決め、そのために「どんな価値を提供するのか」「どんなテーマの投稿をするのか」を考えて、コツコツと投稿を継続するようにしましょう。

 社長の親近感/信頼感等の向上社長自身の負荷/投稿内容の自由度炎上リスク
公式アカウントが社長を投稿ネタにする
公式アカウントから社長が発信
社長の個人アカウントから社長が発信

SNSで社長が発信する際のリスクマネジメント

特に、社長が公式アカウントや個人アカウントから投稿(情報発信)する場合、炎上などのリスクには十分注意が必要です。SNS担当者だけでなく社長自身にも以下対策をとっていただくことをお勧めします。

SNSの基本を学ぶ

SNSはユーザーとのコミュニケーションの道具です。そのため基本操作はもちろん世界観を踏まえることも大切ですし、リスクマネジメントの必要性も生じます。しっかりSNSの流れを観察して学んでいきましょう。書籍や動画、外部研修やセミナーを活用するのもお勧めです。

「会社の顔」として投稿している立場を忘れない

たとえプライベート寄りの投稿を行う場合でも、自分が「会社の顔」として投稿している・見られている意識を常に持つことが大切です。できれば、ご自身で投稿する前にSNS担当者らにダブルチェックを依頼されるとよいでしょう。

他ユーザーとの絡みは慎重に

自社商品・サービスへの愛が強いあまりに、SNS上で「他ユーザーと議論」したり「自社商品へのクレームに反論」したりした結果、炎上してしまった社長は後を絶ちません。くれぐれも感情的な言動は避けましょう。

炎上しやすいテーマは避ける

過去の犯罪自慢、非常識だと受けとられる発言、顧客・取引先・従業員に対するネガティブな発言、個人情報/機密情報の暴露、著作権/肖像権/商標権を侵害する投稿などは、当然のことながら避けるべきでしょう。

炎上さしすせそ:特に注意しておきたい5つの題材

それ以外にも、SNSで「特に炎上しやすい話題」としてSNSエキスパート協会が提唱している「炎上さしすせそ」に当てはまるテーマは極力避けるのがお勧めです。どうしてもこれらのテーマで投稿する場合は、投稿日時や表現などに十分注意し、投稿後にも「炎上が発生していないか」をいつも以上に注視するようにしましょう。

さ:災害、差別
し:思想、宗教
す:スパム、スポーツ、スキャンダル
せ:政治、セクシャル(性的な言及。あるいはLGBTQ、ジェンダーなどへの言及など)
そ:操作ミス(誤投稿、アカウント切替ミスなど)

また、社長は「富裕層・上級国民」としてみられる傾向が強いため、飲食・趣味・購入品・出張や旅行などの話題は、思わぬ妬みを買うことがあります。判断に迷うときは避けるのが賢明でしょう。

まとめ

今回は、社長自らが発信者として活動している事例と、社長を投稿ネタとしてうまく使っている事例をご紹介しました。貴社でもっとも影響力のある人物を、SNS活用に使わない手はありません。
これまでに社長ネタを使ったことがないというSNS担当者様も、当記事をご活用いただき、まずは難易度の低い「公式アカウントが社長を投稿ネタにする」から、チャレンジしてみませんか?

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