「透明ディスプレイ」で新たな映像体験! 住友化学、LG、ソニーが実用化を進める次世代の広告・サイネージ技術
2024年9月5日、住友化学は100%子会社である韓国の東友ファインケムにおいて、次世代通信関連製品「ガラス透明LEDディスプレイ」を実用化し、同国内で販売を開始したと発表した。
また、韓国のLGは2024年1月に米国・ラスベガスで開催された世界最大規模のテクノロジー見本市・CESで、世界初となる「透過有機ELサイネージ」(透明な有機ELテレビ)を発表して話題を呼んだ。ソニーでも、360°で映像を表示できる「360°透明ライトフィールドディスプレイ」の試作品を公開している。
3社への取材を通して「次世代透明ディスプレイ」の最新技術、期待される活用法を探った。
住友化学:高品質を武器にハイエンド市場を攻める
半導体関連材料とディスプレイ材料に強みを持ち、微細加工技術の蓄積がある東友ファインケムでは、この技術を活用して2022年に透明LEDディスプレイの開発をスタート。2023年中にサンプルが完成し、CES2024への出展を経て、次世代通信関連製品「ガラス透明LEDディスプレイ」として韓国で発売を開始した。
「透明ディスプレイ」は、透明な樹脂やガラスの基板に光源を配置した表示デバイスのことで、画面に表示されている内容を視認しながら、同時に背景も透過して見ることができる特長を持つ。従来型ディスプレイとの最大の違いとして、周囲の景観や視界を妨げずに設置できる点がある。
東友ファインケムが発売開始したガラス透明LEDディスプレイは、同社が従来から手がけるタッチセンサーなどで培われた独自の微細加工技術を生かすことにより、高透過率、高輝度、高色再現性、高解像度を実現している。また、フィルムタイプの製品と比べ、衝撃などの物理的損傷や燃焼などの化学的損傷にも高い耐性を持つ。
住友化学の広報担当者は、「韓国では本年からEVバスの車窓に搭載する広告用ディスプレイの販売を開始しており、移動型広告デバイスとして多くの関心を集めています。広告業者や施設設置業者、企業イベントへの活用など、多くの関心と協業要請がある状況です」と現在の反響を明かした。
今後はモビリティ(車窓)、建物外壁広告、交通標識、地下鉄などのホームドア、映像放送機器などへの展開を検討中だという。価格帯はハイエンド市場を想定しており、通常ディスプレイの単純な置き換えではなく、強みを生かせる用途への展開を見込んでいるとのこと。
現状は韓国内での販売にとどまっているが、日本やその他海外へのプロモーションも検討中だ。同事業の展望として、広報担当者は「グローバルで2020年代後半に数十億円規模へ成長させたい」と話した。
LG:鮮明な映像を映し出し、空間に調和させる
テレビなどのAV機器や生活家電などを幅広く展開するLGでも、「透過型OLEDサイネージ」として透明ディスプレイを実用化している。同社が採用している「有機EL」は、特定の有機物質に電圧をかけると有機物質自体が光る現象(自発光)を指し、鮮明な映像を映し出せる利点がある。
この特性を活かし、空間と調和させるディスプレイとして開発されたのが透過型OLEDサイネージだ。具体的な開発期間や開発での苦労は非公開とのことだが、LGが長年培った経験と技術を基礎に透過率の向上などを進化させている点、独自技術によるプロセッサーを用いて、最適な映像を出力できる点は、他社製品との差別化ポイントになるという。
CES2024では、世界初の透過型OLEDサイネージ(透明有機ELテレビ)として発表し、注目を集めた。同社の担当者いわく、さまざまな用途があるが、特にブランディングに関わる使用方法で好評を得ているとのこと。インテリアに調和する特性を活かした新たな空間演出のアイテムとして採用されるケースが多いそうだ。その他、「NFTアートとしての可能性もあるため、デジタルアートとの融合も戦略として取り入れている」という。
同製品の展望として、「映像コンテンツクリエイターとインテリアデザイナーのコラボレーションといった映像と空間の調和、アバターとの連動など、透過型にしかできない映像表現をクリエイターと共に作り上げていきたい」とした。
ソニー:3D表現で、そこに実在するような映像に
ソニーでは、液晶や有機ELといった従来のフラットディスプレイでは実現できない、新しい映像体験の提供を目指して「透明スクリーンディスプレイ」の開発を進めている。開発のねらいについて、開発担当者は次のように話す。
SF映画では、何もない空間に突如人物の立体映像が現れて、あたかもその場にいるかのようにコミュニケーションを取るシーンをよく目にします。そんな世界を現実のものにしたいと考え、そこにあるような視覚表現(実在感、存在感)ができるディスプレイの開発を始めました
同社では、2019年のSIGGRAPH(アメリカコンピュータ学会におけるコンピュータグラフィックスを扱う分科会)で360°透明ディスプレイ(2D表示)を、2023年のSID(Society for information Display)で360°透明ライトフィールドディスプレイ(3D表示)の試作機を発表している。
同技術の差別化ポイントは大きく2点ある。1つ目は、従来の透明スクリーンと同じ透明性を維持しながら、従来の技術よりも数十倍明るい映像表示を可能にしている点。2つ目は、3D表示により、2Dでは難しい「そこに実在しているような映像」が再現でき、これまでにない体験を提供することができる点だ。
この優位性を生み出しているのが、HOE(Holographic Optical Element)技術を応用することで透明性と輝度を両立できる、ソニー独自のHOEスクリーンだ。
透明スクリーンディスプレイの開発において大きな課題となるのが、映像を映すスクリーンにおける透明性と輝度の両立です。この2つの性能は本来トレードオフの関係にあり、スクリーンの透明性を追求するほど投影される映像は暗くなり、映像の明るさを求めるほどスクリーンには白い曇りが生じます。
私たちが開発したHOEスクリーンは、HOE技術を活用して透明性と輝度の両立をかなえました。さらに、HOEスクリーンを用いた円筒型の360°透明ライトフィールドディスプレイにより、360°から人数制約なく、明るい照明環境下でも視認性が高く浮遊感のある裸眼3D映像を表示できるようになりました
同技術は研究開発段階であり、販売戦略を明確に定めているわけではないが、広告や標識、会議などでの活用が見込まれるという。
広告・標識用途であれば、駅や空港など多くの人が行き交う場所でも、全周囲に対してアイキャッチな3D広告や標識を表示できます。視聴人数に制約がなく、周囲を取り囲んで一緒に3Dオブジェクトを視認できるため、複数人でディスカッションするような医療や教育、デザインなどの現場での活用にも適しています
将来的には、自身の映像やアバターを遠隔地に3D表示することで、あたかもその場にいるかのように会議やイベントに参加する、あるいは音声センサーや生成AIと組み合わせ、実在感のあるAIスピーカーとしての可能性も期待できるという。また、仮想空間と現実空間をつなぐ新しいエンタテインメントを作り出すインターフェイスとしても貢献できるのではないかと今後の展望を話した。
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