来店予約率が160%改善:アートネイチャーの成功事例に学ぶITサービス導入に必要な視点とは?
こんにちは、花王株式会社の辻本です。
みなさん(特に事業会社のDX担当やマーケターの方々)は、どのような視点で、何をポイントにITサービスを導入されていますか。DX部門での経験や、ITストラテジストの資格の知識をもとに考えると、ITサービス導入の成功は、導入時のマーケティング視点が重要になると痛感しています。
そこで今回は、ITサービスを効果的に導入するために必要な視点について考えてみました。前半でITサービス導入時の確認事項に触れ、後半では株式会社アートネイチャーがデジタルサービスを導入して売上アップにつながった事例を紹介していきます。
なお、この事例を紹介するにあたって、ITサービス提供者として、私の副業先である株式会社ニアメロの亀島渡氏、代理店として株式会社電通デジタルの伊藤駿氏、櫻澤直希氏に取材させていただきました。
ITサービス導入に必要な視点
ITサービス導入の失敗とその原因は、主に次の2点です。
失敗1導入したが、必要な要件を満たしていない
原因:DX担当者が、適切な要件定義をできていない
失敗2導入したが、使われない
原因:DX担当者が、そのツールを使う部署の業務内容や職場環境を理解していない
DXという言葉が広まるのと時を同じくして、こうした失敗の話を皆さんの周りでも聞いたことはありませんか。ジグソーパズルの最後のピースをはめるかの如く、社内をよく理解したDX担当者が、適切な要件定義をして社外と連携しなければ成功しません。
ITサービス導入目的が売上貢献もしくは業務効率化いずれにせよ、“問題”といわれているからということだけで、それが解決すべき問題だと決めつけるのではなく、その“問題”が本質的な問題かを確認するために、カスタマージャーニーを描くことが大事です。
ここでいうカスタマーは、目的によって変わります。売上貢献であれば「商品やサービスの購入者」、業務効率化であれば「社内関係者」です。彼らが普段どのような感情や考えをもって行動しているのかを洗いざらい整理することで、そもそも本当にITサービスが必要なのかを検討したり、要件を具体化したりできます。
失敗しないためにも、サービス導入時には、次にあげることをチェックしてみてください。
- 会社の売上を伸ばすために、カスタマージャーニー上の“集客の穴”を考えて、適切に穴埋めができていますか。
- 業務改善のために、社内の重大なボトルネックを見つけて適切な対応ができていますか。
アートネイチャーの成功事例紹介
では、ここから先は毛髪業界のリーディングカンパニーであるアートネイチャーがメンズ事業において、ニアメロの「コールポップアップ」というITサービスを導入し、売上を増加させた事例について紹介します。
アートネイチャーが抱える課題は、コロナ禍以降の競争激化に伴う顧客獲得です。毛髪業界の市場はコロナが明けて回復傾向にある一方、AGA(男性型脱毛症)治療系を含めて競合の参入が激化していました。そのようななかで、電通デジタルの大きなミッションの一つは、店舗施術の増毛・ウィッグの新規来店予約数を最大化することでした。
集客の動線は、大きく分けて、サイトや広告LP(ランディングページ)のフォーム経由、または電話経由の2つのパターンがあります。商材の特性もあると思いますが、電話経由の問い合わせもかなり多く、ここでの来店予約積み上げも重視していた一方で、電話経由の来店予約はWeb媒体別の成果が見えないというオペレーション上の問題を抱えていました。
また、電話経由では、サイトや広告LP上の電話ボタンをタップした後、架電直前に離脱が多く発生する集客の穴も存在していました。ここまでの内容を整理すると下記の通りです。
- 【売上面の課題】
- コロナ明けの新規顧客獲得の競争激化
- 【新規顧客獲得面での課題】
- 電話経由の来店予約が多いが、電話をかける直前に離脱が発生
- 【業務上の課題】
- 電話経由の予約はweb媒体別の成果が見えず、PDCAが回せない
そこで電通デジタルは、「コールポップアップ」というITサービスが解決の糸口になると考えました。
コールポップアップとは集客支援のための特許取得済みのSaaSであり、電話問い合わせの効率をよくするITサービスです。具体的には、電話CTA(Call To Action)が押され、電話発信ボタンが出るタイミングで、任意のバナーを表示できるツールです。一般的な通電率50%をベースとすると相対値で3割程度向上するなどの実績があります(15pt上がって通電率が65%になった例もあります)。
バナーをクリックしてから電話をかけさせるのではなく、電話ボタン表示と同時にバナーを見せるよう開発したことで集客動線を崩さない点や、広告流入〜架電までの集客数データを返す点も魅力の一つです。
カスタマージャーニー上の障壁を徹底的に議論し、バナーに反映
アートネイチャーは、ただコールポップアップを導入するのではなく、「電話する直前に生活者は何を懸念するのか」というカスタマージャーニー上の障壁を関係者間で議論。それをバナー素材に反映させるところまでを、全員で検討しました。
自分の見た目を変える商材という特性上、ユーザーはそもそも電話問い合わせに一定の心理的ハードルがあります。そのようななかで、「無理な勧誘をされるのではないか」という不安もあると考え、それをバナー制作に活かしたそうです。その際、ユーザーの不安を払拭することは、アートネイチャーが長年培ってきた「信頼感」をさらに高めることにつながると考えたとのことです。
3社による密な連携で得た成果や、業務上の変化
導入後にどのような成果、業務上の変化があったかをまとめたものが以下です。
- 【成果】
架電率が170%改善。さらに、来店予約率が160%改善。
- 【業務上の変化】
出稿メディア、キャンペーン別の架電数・架電率をトラッキングし、メディアプランに活用できるようになった。
ニアメロが出稿メディア、キャンペーン別の架電数を集計し、架電率を算出したところ、リスティングの指名検索など、顕在層向けのキャンペーンは架電率が高かった。さらに、電話CTAタップ数が多いディスプレイ系のリーチキャンペーンについても、架電率が極端に悪いということはなく、架電CPA(顧客獲得単価)換算では安価ということが確認できた。
- 生活者のカスタマージャーニーを意識した体験設計
- アートネイチャーの事業上、業務上の課題深掘り
- 導入後の活用方法をクライアント、代理店、サービス提供社の3社で議論し、実行
そして、これらが先に説明した失敗を回避して良い成果を生み出すポイントでもあります。
取材の最後に私は、「クライアント企業におけるプロジェクト成功の秘訣」という質問をなげかけて議論しました。さまざまな意見がでるなかで、DX担当者にとって、私が特に重要だと感じたものは次のとおりです。
- ツールをただ導入するのではなく、導入した先に何を達成したいかという目的意識とチャレンジ精神
- 失敗しても次の仮説をたてて、失敗から成功に導く方法を、会社の垣根を超えて考えられるチームビルディング
- 数字だけで判断せず、エンドユーザーのために数字以外の部分も考慮し、「数字はいいが、この方向に転んではだめ」と、あるべき方向を示す舵取り
- プロジェクト有無に関わらず、普段から情報を収集し、事業に活かせるアイデアを考えて実行する姿勢
これらを意識したDX担当者は、代理店やITサービス提供者とうまく関係を構築して、会社に貢献できるだろうと私は思います。
今回取材にご協力いただいた皆様、ありがとうございました。また事例紹介をご快諾いただいたアートネイチャーさんにもお礼を申し上げます。私も取材をして得た内容をもとに自分の業務を振り返りつつ、現在お取引のある社外の方々と密な連携をはかっていきたいと思います。
次回もお楽しみに。
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