スクラッチ型ECシステム利用の現場が嘆く。レスポンシブ化“できない理由”は社内投資家に
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ECサイトではなく、とあるリアル小売店舗の入り口ドアに以下のような張り紙がしてあると、皆さまはどのように感じますか?
お客様各位
**月**日店舗入口ドアが古くなり少々開けにくい状況になっております。
しかしながらこのドアは私どもが過去たくさんお金を投じて作ってきた高価な入口ドアです。ですから交換するのはもったいないため、お客様には少々開けにくく不便な思いをさせますが、なんとか開けていただき入店いただくよう何卒よろしくお願いいたします。店主
たぶん、この張り紙を見た多くの方が「一方的な店都合で顧客に不便な思いをさせて、この店…大丈夫か??」とあまりいい印象は持たないと思います。
こういったことがリアル店舗で行われていると一目瞭然で“おかしい”と思いますが、同様のことがECサイトで普通に行われているケースがあります。
お金をかけてきたシステムを捨てられずに、お客様に不便さを強いるEC事業
昨今のスマホユーザのEC利用の伸長により、多くのEC事業者様がスマートフォン向けECサイトの強化を図られてきました。また、タブレット対応も必須になってきています。
そのスマホやタブレット強化の方法として、レスポンシブECサイトが運用効率、ユーザ満足、SEO等のアクセスアップなどあらゆる面でこれまでの分離構成(PC・スマホを別に構築する方法)に比べ有効であることは、多くの方が認知されてきています。
しかし今、スクラッチ型システムを運用してきた多くのEC事業者様の現場でレスポンシブ化を検討する中、大きな課題にぶち当たっています。
レスポンシブ化の大きなパラダイムシフトは、旧来型のECサイトの構造から新たな構造(レスポンシブ)への移行のため、当然ながらほとんどの場合に既存システムの作り替えやリプレースを要します。しかし、そのリプレース自体が会社の(店側の)一方的な理由で難しく、お客様に不便な思いをさせているという課題です。
先週私が新規案件でご訪問させていただいたクライアント様でも、同様の課題を抱える会社様が4社いらっしゃいました。その共通課題は、「お客様や運用面を考えれば“スグに”やりたいレスポンシブECサイトへの移行だが、既存ECシステムの作り替えやリプレースが難しく、なかなか困難」というものです。
その主な理由は以下のような内容です。
- ECシステム自体、基幹システム含む全てが1つの構成でありリプレースしにくい
- フロント側が他の多くのシステムとがっちり連携しているためリプレースしにくい
- これまで多くのお金を投じたため、既存システムを捨てることが難しい
これらの課題を持つ会社様に共通するのは、
- 比較的投資力を持つ会社
- EC専業ではない
- ある程度長く運用されている
など、簡単に言えば、「お金があるから、ガッツリ外注でカスタマイズして創り込んできた!」というクライアント様で、かつシステム投資権限が現場にない会社様です。
なぜこのような事態に陥っているのか
このような中でも、同課題を持たない会社様や既に解決済みの会社様もおられます。参考に、そもそも課題を解決している会社様に共通するのは、
- 独自カスタマイズをしなくてもいい方法を考えてきている
- システムを資産化せずに費用として考えASP等のサービスなど利用している
- ECシステムでもフロント(主にサイト~カートまで)はいつでもシステム変更できるようにしている
- 既にスクラッチのフロントECシステムを捨てた
等です。
では、なぜこのような事態に陥っているのでしょうか。
1.ECシステム自体、基幹システム含む全てが1つの構成でありリプレースしにくい
そもそも市場変化の速度が異なるモジュールで、ECのフロント側(サイト~ショッピングカート)とバックエンド側(受注や顧客管理など)を1つのシステムとして構成していることに問題があります。
なぜなら、ECフロント側は常にマーケットの変化に合わせ変えていく必要があるからです。今回はモバイル化やマルチスクリーン化という変化への対応ですが、このようなフロント側の変化の速度とバックエンド側の変化の速度はあまりに違いすぎます。
そこで、ECのフロント側は常に変わることを考え、バックエンド側と別のモジュール単位とし、バックエンド側のシステムはそのままで、フロント部分のみモジュールをスイッチできるような変化に耐えうる構成にしておくべきなのです。そしてそのような構成になっていないのであれば、今まさにそのように構築し直すべきなのです。なぜならこの課題は今後も市場変化の度に付きまとうものですから。
2.フロント側が他の多くのシステムとがっちり連携しているためリプレースしにくい
あきらめてECフロント部分のモジュールを変更(リプレース)し、変化させる決断が必要でしょう。
この問題はについては[1]とほとんど深刻度合いが同じである可能性もあるため、このタイミングで決断をする必要があります。
3.これまで多くのお金を投じたため、既存システムを捨てることが難しい
こちらについての深刻度合いはピンキリです。上記[1]のようにフルスクラッチで構成されている場合は、なかなかその損切の決断は費用対効果・妥当性の検証が必要になってくると思います。
しかしながら、先週訪問した4社様に共通したことでもありますが、実は「リプレースのコストはそこまで大きくなく、決定権者の決断の問題」というものです。
これら4社共に、既存システムはオープンソースやフルスクラッチシステムなどをベースに相当額の独自カスタマイズをされてきていますが、フロント側・バック側の分離は比較的容易でリプレースでのコストもそれほど大きくなくイケそうではある案件なのです。
しかし、なぜリプレースに踏み切られないのか。それは単純に、部長や社長含む役員の決定権者が「これまで多くのお金を使ってきたからもったいない」という損切ができないからです。
ECシステムの損切
ココで考えていただきたいことが、スマホやタブレットでECサイトを利用しているお客様がサイトに不便を感じているのにも関わらず、[1]~[3]の理由はどれ一つとしてECサイト利用者様である“お客様”のことを考えた理由ではないことです。
まさに、冒頭の店舗入り口の張り紙のようなことが堂々と行われているのです。
なぜこのようなお客様にとって不便な状態を放置しているのか?
その理由の一つは決定権者がそのことを理解していないということがあります。それを解決するためには、理解するための資料と説明を行う必要があります。
また、そもそも決定権者が「ECサイト運営は流通小売業であり、常に変化するお客様のニーズに合わせコンビニの様にスクラップ&ビルドを繰り返し、お客様を満足させなければいけない」という思想を持ち得ることも必要でしょう。
ただ、例えば長年メーカー思考の社長を突然流通小売業の思考にするのは難しいと思います。しかし、そのような場合でも社長や部長など投資決定の判断をする方であれば、適正な投資として「損切」は理解できるはずです。
この「損切」を、上手く現場が説明する必要があるのかもしれません。これまでのシステム投資分がまともに回収できていない状況であろうとも、今後もさらに追加カスタマイズしてシステムへの投資を行う前に、含み損が生じている投資商品(ECシステム)を見切り損失確定して「損切」しなければ、難平や塩漬けするとさらに下落が続いて損害が拡大する可能性があります。
要は「お金をかけたのにもったいない」という思考自体がおかしいことに、現場が気づかせることが必要なのです。
お金を増やすために投資をしている人であれば当たり前の「損切」ですが、「システム投資」の場合は「損切」という考え方を持ちこめていないようにも思います。ですから現場はしっかりと、
- なぜECシステムの「損切」をしなければいけないのか
- 「損切」しなければ損害が拡大する可能性があること
等をきちんと資料としてまとめ、決定権者に報告すべきなのです。お金を増やしたい経営者や株主からすると、「損切」が妥当であれば当然ながら「損切すべき」という判断に至るはずです。
今一度、ECサイトは流通小売業であることを再認識すべきです。ECサイトのフロントは、常に変化するお客様の嗜好やトラフィックに合わせてリニューアルやスクラップ&ビルドを繰り返すリアル店舗のようなものであり、いつでも閉店して移設できるようしておかなければいけません。
そして、このレスポンシブ化のパラダイムシフトの中で今一度システムを見直し、システムのリプレースが必要であれば「損切」の判断をする必要もあります。
いち早く「これまでやってきて、もったいないから追加投資する」のでは無く、「本当にお客様満足のために」、「会社のお金(売上)を拡大させるために」投資を決断すべきです。そのシステム投資はなんのためのシステム投資なのか、考え直す必要はありませんか?
岩波
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