ヤフー岡元淳氏が語る コンテンツマーケティングの本質と成功のためのポイント
日本におけるコンテンツマーケはこれから変わる。Yahoo! JAPANはそう考えているようだ。
顧客に価値のあるコンテンツを届けることで、企業と顧客との長期的な関係構築に有効な「コンテンツマーケティング」に注目が集まっている。
マーケティング手法としては決して新しいものではないものの、日本においては直接的な売上に結びつかない(効果が見えづらい)などの理由から、まだまだ定着しているとは言い難い。一方で、コンテンツマーケティングに取り組む企業は着実に増えているのも事実だ。
しかし、今度はその難しさが壁になる。成功している企業がいる一方で、取り組んではみたものの、期待していた成果を上げられずにあきらめてしまった企業も少なからずいるだろう。
コンテンツマーケティングを始めるために準備すべきことは何か、どんな心構えで取り組めばよいかなど、Yahoo! JAPANが考えるコンテンツマーケティングについてヤフーの岡元淳氏に聞いた。
「コンテンツマーケティング」というと「オウンドメディアでの記事コンテンツ展開」というイメージが強いが、本稿では本来の意味である「明確に定義されたターゲット(読者、顧客)に対して、価値のあるコンテンツを提供することで、関心や注目を維持し、最終的には自社の利益に結びつける手法」と定義する。
コンテンツの掲載場所はオウンドメディアに限定されず、広告(ペイドメディア)やソーシャルメディア(アーンドメディア)も含む。
“コンテンツ”が得意とするのは「潜在顧客を作る」こと
すなわち「顧客との出会いの創出」にある
―― Yahoo! JAPANでは、2015年にコンテンツマーケティング事業本部を設立しました。どのような経緯から、本格的にコンテンツマーケティングに取り組むことになったのですか?
岡元淳氏 私は以前、ヤフーの子会社であるクロコスで、ソーシャルマーケティングサービス事業に取り組んでいました。
ソーシャルマーケティング、すなわち企業がFacebookページを立ち上げ、ファンを呼んで、ページにコンテンツを投稿して、「いいね」や「シェア」などを通じてメッセージを多くの人に届け、企業と顧客の関係性強化を支援するツールやソリューションを提供していました。
ソーシャルマーケティングも一種のコンテンツマーケティングといえますが、特定のプラットフォームに限らず、Yahoo! JAPANとしてもっと幅広くコンテンツマーケティング領域を支援していくべきだという考えから、2015年4月にコンテンツマーケティング事業本部が設立されました。Yahoo! JAPAN自身のためのコンテンツマーケティングではなく、広告主さまをはじめとする企業のコンテンツマーケティングを助けるサービスを提供することがこの事業本部の目的です。
―― コンテンツマーケティングの取り組みはやはり米国が進んでいるといわれています。日本のコンテンツマーケティングと比較した場合、どのような違いがありますか?
コンテンツマーケティングという手法そのものは、決して新しいものではありません。日本でもすでに多くの企業が取り組んでいます。ただし、ブランド認知向上、ブランド意識の改善といったブランディングをおもな目的として展開されている米国などの状況と比較すると、日本では、より費用対効果が明確な、SEOやコンバージョンを獲得する目的で実施されているケースが多い傾向です。
―― 目的がブランディングの場合とコンバージョン獲得の場合では、コンテンツにどのような違いがあるのですか?
日本のコンテンツマーケティングも、将来はブランディングを重視する方向に進んでいく。
コンバージョン獲得を目的とした場合、短期的な売上につながるよう、検索流入や、流入したお客さまが何か買ったり、申し込んだりするのを促進するよう、直接購入に結びつけるコンテンツを大量に作成、配信していくやり方が一般的です。これも大事なことですが、お客さまと企業間で、カスタマージャーニーに基づき、長い目で信頼関係を高めていくよう、「量」より「質」に着目してコンテンツを作成、配信していくのがブランディング目的といえるでしょう。
日本でも、ゆくゆくはブランディングを重視する方向に進んでいくのではないかと考えています。
―― ブランディングを目的に広告を使うこともあります。広告とコンテンツマーケティングの違いは何でしょうか?
従来の広告を中心としたマーケティングは、ある程度、認知があるうえで、より具体的なイメージを作り、行動を喚起していく、いわゆるカスタマージャーニー全体でいえば、コンバージョンに注力する、後半の部分が仕組み化されたものだと思います。
これに対してコンテンツマーケティングは、広告の見せ方ではリーチできない、広告とは違ったアプローチが提供できます。カスタマージャーニー全体で見た場合、コンテンツマーケティングは、どの部分にも適用できます。なかでも、コンテンツが得意とするのは潜在顧客を作ること、すなわち「顧客との出会いの創出」にありますから、取り組むにあたってはまずはそこから入っていくのがよいと思います。
「コンテンツマーケティングの目的」が明確になれば
それに応じた具体的なKPIも自ずと決まる
―― 読者のなかには、自社でコンテンツマーケティングに取り組みたいという方もいると思います。コンテンツマーケティングを実施する上で、ゴール(KGI)をどこに設定し、評価指標としてどんなKPIを設定するのが効果的ですか?
コンテンツマーケティングには、PVやCV率など「これだけ見ておけば十分」という指標はありません。大事なのは、「コンテンツマーケティングで達成したい目的は何か」という部分です。
売上拡大へつなげるために、まずは「お客さまのパイを広げたい」のならば、コンテンツマーケティングにおいては潜在顧客を獲得するのが目的になります。この場合は、コンテンツに対して今までリーチできていないお客さま、新規のリーチがどれだけ取れたか、すなわち、セッションのなかの新規率を指標としてみていくべきでしょう。
コンテンツマーケティングには「これだけ見ておけば十分」という指標はない。
また、既存の顧客に、より商品やブランドを深く理解してほしいという目的であれば、コンテンツそのものの完読率(最後まで読んでいただいたお客さまの割合)、サイト直帰率、回遊率や滞在時間などをKPIとしてみていくべきでしょう。
あるいは、カスタマージャーニーの後半部分、コンテンツを読んで、資料請求やメルマガ会員登録といったアクションをしてもらいたいということであれば、コンテンツからのクリック率、コンバージョン数などが指標となるでしょう。
売上拡大
→ セッションのなかの新規率既存顧客に対する商品・ブランド認知向上
→ 完読率、サイト直帰率、回遊率や滞在時間資料請求やメルマガ会員登録
→ コンテンツからのクリック率、コンバージョン数
―― コンテンツ企画をどうするかは、多くの担当者が悩むところです。一般的な企業がおもしろいコンテンツを作るためのコツや注意すべき点などはありますか?
コンテンツ制作の基本としては、社内にある素材をうまく活用することです。たとえば、商品の開発ストーリーなどは、社内リソースをうまく活用できる定番ネタです。
社内にいると当たり前に感じていても、外部の目には新鮮に映ることもある。
よく「そんなドラマチックなエピソードはないし、おもしろい話にはならない」とおっしゃる方がいます。しかし、社内にいると当たり前に感じていても、外部の目には新鮮に映ることがあります。
また、社内体制という意味では、なかなか専門組織を置くのは難しいので、ソーシャルメディア担当のように、兼任で3~5名体制くらいで取り組むことが多くなると思います。おもしろさ、品質の担保など、すべてを社内だけで実現するのは難しいので、適材適所で外部サービスも活用するとよいでしょう。
「スモールスタート」が可能な
Yahoo! JAPANが提供するコンテンツマーケティング
―― では、Yahoo! JAPANが提供するコンテンツマーケティングとは、具体的にどのようなものか教えてください。
コンテンツマーケティングを行ううえで、4つのバリューチェーンがあります。
- コンテンツを作る
- コンテンツを載せる(メディア)
- コンテンツを届ける(ねらった層にどうリーチするか、配信経路やコンテンツの量、広告などの設計)
- 効果を測る
Yahoo! JAPANではこの4つのバリューチェーンに対し、それぞれサービスを提供しています。
- 作る: 編集、制作機能
- 載せる: Yahoo! JAPANや提携メディアなど
- 届ける: 「インフィード広告」や「Yahoo!コンテンツディスカバリー」などのレコメンドモジュール
- 測る: レポーティングツール
コンテンツマーケティングでは、コンテンツから直接売上が発生するわけではないので効果測定が難しい面もありますが、ROIを可視化し、より予算を確保しやすく、長期的に取り組めるよう、サービスを整備しました。
このなかの「作る」の部分は意外かもしれません。Yahoo! JAPANはポータルとしてさまざまな情報を掲載する場だと思われているかもしれませんが、そこに掲載する企業さまのコンテンツを作るところもサービスとして提供しています。
―― 「載せる」「届ける」「測る」サービスについて、もう少し詳しく教えて下さい。
「載せる」ことにおいては、「TRILL」「Yahoo! BEAUTY」などの女性向けメディアや、エンタメ系では「ネタりか」などがあります。
また、「届ける」部分でのYahoo!コンテンツディスカバリーは、おもにYahoo!ニュースや提携メディアの記事下にある「おすすめコンテンツ」部分に、記事の内容の関連性や読者の行動履歴や属性などをもとにした独自アルゴリズムにより、ユーザーの興味にあったコンテンツを選び、表示させるものです。レコメンド記事として紹介されると大きなトラフィックが期待できるので、獲得できるリーチ数が格段に増えていきます。
そして、「測る」ためのレポーティングツールは、コンテンツマーケティング用の独自ツールを運用しています。ツール単体ではなく、お客さまに提供するパッケージのなかに組み込んで提供しています。
―― Yahoo! JAPANのサービスを使ってコンテンツマーケティングに取り組む場合、どのような進め方になりますか?
企業にとって、一番望ましい形は、自社のオウンドメディアに、自社のリソースを活用してコンテンツを作り、自分たちで集客することです。しかし、なかなか一足飛びにそこに至るのは難しいです。
そこで、まずはYahoo! JAPANなどのペイドメディアにスポンサードコンテンツとして記事を掲載し、新たな読者層にリーチするきっかけを作ります。コンテンツは、Yahoo! JAPANの編集チームがメディア方針に沿って制作をお手伝いします。さらに、ソーシャルメディアなどのアーンドメディアもうまく活用してコンテンツを拡散しブランドの評価を獲得するなど、トリプルメディアを効果的に組み合わせていきます。
その後の長い関係構築はオウンドメディアを核にして進めていく、という使い分けをしていくのが現実的でないでしょうか。
―― 最後に、コンテンツマーケティングの成功のために、読者に向けてメッセージをいただけますか。
遠回りに感じてしまうかもしれませんが、コンテンツマーケティングをやる価値があること。読者の皆さまには、その本質を理解してほしいです。企業が伝えたいメッセージでなく、ユーザーの読みたいものを作らなければおもしろいものにはなりません。
Yahoo! JAPANは、コンテンツの質を重視し、「ユーザーファースト」、ユーザー(読者)のためになる、有益なコンテンツを価値基準に置いています。
「コンテンツを作る」「載せる」「届ける」「測る」というコンテンツマーケティングの4つの領域を、トータルにワンストップで提供できている事業者は少ないです。Yahoo! JAPANはその4領域をワンストップで提供しつつ、メディアの力を最大限活用して、これからも価値の高いサービスを提供していきます。コンテンツマーケティングに取り組む際の1つの選択肢として、弊社サービスをご活用いただけると幸いです。
参考情報:
※この記事の内容は、2015年12月現在の情報に基づいています。
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