企業ホームページ運営の心得

個人情報保護法の商売的解釈。専門家の言えないこと

Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の六十

消費者の権利という解釈

2005年の全面施行から間もなく丸3年を迎える「個人情報保護法」を巡る混乱はまだ出口が見えておりません。災害や事故での安否確認などでも情報が錯綜し救助が遅れ、公務員の不祥事が「匿名」となる一方、施行後に身に覚えのない業者からの迷惑メールやDMが激減したという話は耳にしません。

施行直前のセミナーで弁護士は「個人が業者に対抗するための法律」と位置づけていました。「自分の情報」の訂正や削除を要求する「根拠」となるという解釈で、公の陸上競技会で選手の名前が隠され、学校の連絡網が作れないという「過剰保護」ではありませんでした。ところが、現状追認の形で「商売用ホームページ」にも「過剰保護」のプレッシャーが襲いかかります。

私は「法の専門家」ではありませんから、法の解釈を言及する立場にありません。今回は商売の現場からみた「個人情報保護法との付き合い方」の話です。

法解釈はババ抜きという告白

名簿のイメージ画像

個人情報の厳格な管理は当然の話ですし、不正利用が発覚したときの「信用失墜」という損失は商売に重大なダメージを与えます。しかし、顧客名簿もメールアドレスも個人情報です。過剰保護に立てば商業活動は制限されてしまいます。

大手企業やお役所の情報流出が相次ぎ「セキュリティ」の重要性を説く声も、過剰なレベルのものがあります。セキュリティの専門家は完璧を追求する習性があり、リスクを限りなくゼロに近づけろとアドバイスします。弁護士も「あらゆるリスクを想定」して意見を述べます。専門家の話は最悪と理想の両極端を併記する傾向があるからです。

ちなみに、前述の弁護士は「最終的な解釈は判例を待たなければならない」とし、つまりはトランプゲームのババ抜きのように「誰かが捕まるまでわからない」と本音を漏らしていました。

個人情報保護法の抜け穴

取得した個人情報を無断で転売したり、ずさんな管理で流出させるのは論外というレベルで話を進めていきます。顧客データ(個人情報)が保存されているPCでWinnyを使用し、あまつさえウイルスチェックもかけずにファイルを開くなど言語道断というレベルです。

大手の出版社などでは「懸賞の応募ハガキ」にも注意を払い、二重三重のセキュリティを施し、管理コストの増大に頭を抱えています。しかし、個人情報保護法には「5000件以上の個人情報(データベース)」を保有している事業者が対象となるとあります。大企業の話の様な影響力、広報伝達力がなければ5000件集めるのは一苦労です。つまり、4999件までは適用外の「チャレンジ期間(または猶予期間)」と見ることができます。

同じく「個人情報の利用は本人の同意が必要」とありますが、許可を得て取得した情報なら使い放題ということです。

個人情報から得る利益で再投資

得られた利益を再投資し、成長に合わせた適切な投資をしていることは、中小企業や個人事業の商売用ホームページの成功例に共通します。スタートから過度な投資をするリスクを避け、ホームページで得られた利益を次の投資に廻すことで更なる発展を狙います。

極端な話、「個人情報保護法は5000件を超える時点で遵守されていればよい」と開き直れば、4999件まではそれなりでよいともいえます。さらにいえば立ち上げ直後は「常識的」なセキュリティから始め、個人情報を活用することで得られた利益を「再投資」してセキュリティを強化していくということです。

「出るを制して入るを計る」は家計の基本。出金を少なくして入金が多くなるように考えるということですが、商売では順序が逆、入るを先に考えて出るのは後回しにします。個人情報を集めて活用し、「入る」方法が見えてから、セキュリティ強化に資金を投じるということです。

余談ですが、商売での理想的なお金の流れは「前受けの後払い」です。お客さんからは前金で受けて、支払いは翌月末払いにするというものです。成功している商売の多くはこの方法を採用しています。

同意と曲解と拡大解釈の境界線

個人情報保護法では取得した個人情報の利用には「利用目的」の制限がかけられています。端的に言えば、利用者本人が同意した「目的」以外での案内メールやDM送付などを規制するものですが、同意さえしていればメールは送り放題です。そこでサービスの規約には、さまざまな利用目的が多岐にわたり盛り込まれています。

ベンチャー企業のメルマガでも大手町の経済新聞の会員サイトでも登録すると「各種広告」が届くのは「情報提供」という利用目的に同意しているからです。新聞や雑誌では欄外に「広告」と明記されますが、メール広告にその必要はなく、広告と情報の境界が非常に曖昧です。そして、今日も広告が情報として届けられます。

情報提供を明示して「同意」させれば何でもアリです。また、規約を読み込む人が少ないことから「入れ放題」という舞台裏の声も添えておきます。

解約で選択。去る客を追うな

どうしても個人情報保護法が「怖い」のでしたら、無料メルマガスタンドなどに「アウトソーシング」をするのも手です。しかし、メールアドレスも含めた「個人情報」は、企業にとっては「顧客名簿」であり、他社への依存は推奨できません。某ショッピングモールのように自社の都合で「ルール変更」が行われ、名簿を取り上げられる可能性もあります。読者が増え、利益の目処がついた時点で、自社管理を検討してください。

そして自社管理では、会員登録などの個人情報を「解除しやすく」することを心がけてください。個人情報保護法の要件というだけではなく、解約に手間取る苛つきは憎しみへと変わりやすいからです。心が離れた恋人を振り向かせるのは至難の業ですし、「別れ際」のトラブルが嫌な思い出として永久保存されてしまうようにです。大企業のサイトでも多々あるのでご注意を。

法は遵守しなければなりません。しかし、過剰保護によって商売の手足を縛ることもまた危険です。

♪今回のポイント

薬も過ぎれば毒となり、その逆もしかり。

個人情報の適正利用がビジネスを加速させる。

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