行動経済学の“選択アーキテクチャ”をSEOやサイトCROに応用する(前編)
『実践 行動経済学』にみる選択アーキテクチャ
最近、『実践 行動経済学——健康、富、幸福への聡明な選択』(邦訳、日経BP社刊)を読んだ。与野党双方の政治的決定に影響を与えたことを受けて、ここ英国でメディアからかなり大きく取り上げられた本だ。
この本の大前提は「人間の判断は純粋な経済的合理性に基づくわけではない」というものだ(とは言え、『ヤバい経済学 ——悪ガキ教授が世の裏側を探検する』(邦訳、東洋経済新報社刊)や『まっとうな経済学』などの本で提示されているように、経済的要因は大きな役割を果たしている)。※
『実践 行動経済学』の著者は、選択アーキテクチャという概念を導入している。この用語は、「選択者の自由意思にまったく(あるいはほとんど)影響を与えることなく、それでいて合理的な判断へと導くための制御あるいは提案の枠組み」だと定義されている。この最も単純な例として僕の心に残ったのは、以下のような部分だ。
調査によると、人々がカフェテリアでデザートを取る量は、他の料理とデザートとの相対的な位置関係(場所)に影響されることが示された。「置かれた場所によって食べたくなるデザートの量が変わる」という点について合理的な理由は特にないものの(実際、私たちの多くは自分がこうしたトリックに影響されないと思いたいはずだ)、これはどうやら広くあてはまる作用のようだ。
労働者は、たとえ年間ベースでは同じ額だとしても、月払いの場合よりも隔週払いの方が、給与のうち貯蓄に回す割合が増えるようだ。こうした現象に対する説明として、人は隔週払いであっても1か月単位でお金の使い道を考えるため、支払いの3回ある月が1年に2回あると、そのぶん貯蓄にまわす額が多くなるという仮説がある。興味深いことに、英国に比べ米国の方が、隔週払いの給与制度がはるかに一般的だと思う。僕の知る限り、英国では、ほぼ例外なく給与は月払いだ(また、税金システムもそれに合わせて設定されている)。
こうした事例では、多くの場合、選択アーキテクチャを作ることは避けられない点に留意しよう。僕たちは何らかの選択肢を示す必要があるから(カフェテリアでデザートを出したり、従業員に給料を支払ったりするのならね!)、それゆえにナッジする(適切な判断を促す)ことは不可避であり、ナッジする方法を決定せざるを得ない。
選択のアーキテクチャに基づくWebサイトの戦略
では、これがWebサイトやSEOどう関係するのだろう?
僕がこの本を読んでいるとき、著者の考えを自分の経験に当てはめずにはいられなかった。このような考えは、必ずビジネスやSEOとつながるものなんだ。だから僕は、記事を書いてこの本の主要テーマを大まかに述べ、そこに書かれているアイデアの中から、SEOやSEOビジネスに応用できると思われる部分を紹介しようと思ったんだ。
内容の大部分は人間の弱さ(あるいは少なくとも人間が受ける影響)に関することなので、僕はいくつかのアイデアをコンバージョン率最適化(検索エンジン経由のトラフィックについて語る際に考えなければならない重要事項)に応用してみた。検索エンジン自体は人間によるナッジの影響を受けないだろうからね。もし人手によるレビューが気になるのであれば、自分のサイトに対する肯定的なレビューを人間のレビュアーに書いてもらうためのナッジについて、思いつけることがたくさんあると思う。だが、その話は別の機会に。
説明に入る前に、著者たちが挙げている条件の1つを紹介しようと思う。著者たちは、「リバタリアン・パターナリズム」なるものに価値を見出している。著者自身が認めている通り、「リバタリアン」(自由主義)という言葉にしろ、あるいは「パターナリズム」(父権主義)という言葉にしろ、嫌悪感を抱く人は必ずいるはずだ(どっちの言葉に抵抗を感じるかは、各人の政治的な考え方次第だ)。著者たちの考えによると、ナッジする場合はいかなる選択肢も排除してはならない(これは「自由主義」的な部分だ)ので、ある人物にとって適切だと思われる判断へとその人をナッジしている場合でも(著者はそうすべきだと主張している――これが「父権主義」的な部分だ!)、相手が望むならば「間違った」判断を選ぶことも許容すべきだという。
僕が感銘を受けるのは、これが強制力を持たない誘導であり、自由主義的だとか父権主義的だとかいう部分ではなく、ナッジの効率性について考えることで、現実により良い態勢が整うということだ。これに感化されて、僕はブラックハットのナッジ屋になってしまうのかな?
余計な話はこのくらいにしておいて、ここからは、この本の主要テーマと、SEOとSEOビジネスへの応用法に関する僕の考えを説明していこう。
※注記:古典経済学の「あらゆるものは金銭的コストと利得の交換条件によって評価される」という説は、僕が思うに、近ごろは誰も支持していないのではないだろうか。それどころか、気分やその時の状況次第で変化しうる「効用」について人それぞれが自分なりの定義を持っており、人々はたいていの場合、その効用を最大化すべく行動するという主張がなされている。『実践 行動経済学』が主張しているのは、人々がそれだけにとどまらず、効用の差以上に異なった意思決定を行う場合がある(あるいは、効用に測定可能な差異がない場合であっても結果に差が生じる)ということだ。
この記事は3回に分けてお届けする。中編となる次回は、『実践 行動経済学』の中で示されている人間の特性と、SEOへの応用方法をお伝えする。→中編を読む
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