Web解析のためのKPI大全

KPIではないもの

KPIではないもの

生データは、KPIではない。これに反対する賢い人もたくさんいるが、それでも誤りは誤りである。KPIと生データを1つのテーマで一緒に使用してはいけないとは言っていないし、ましてや隣り合わせで表示してはいけないわけでもない。実際に、訪問者数、訪問数、ページビュー数、収益額、注文数など、いくつかの実数を表示するのは、多くの場合、悪い考えではない。ただし、行き過ぎは禁物だ。膨大な生データを盛り込んでしまったら、それはKPIレポートではなく、誰も理解できない・誰も使わないレポートになってしまう。

もし生データがKPIだという議論をしたいのであれば、ゴミ箱行きのアドレスまでメールしてほしい。

KPIをどう表現したらいいか

表現形式についてこれまで本書に書かれてあることすべて読んだのに、なお、表現についてあるのかと驚かれるかもしれない。KPIをどう構成して表現するかはわかっただろうが、それをどのように提供すればいいのかを知る必要がある。

形式(フォーマット)

KPIレポートのフォーマットは、組織によってさまざまだ。Eメール、ワード、エクセル、パワーポイント、ダッシュボードなど。私の場合は、エクセル (Microsoft Excel)のような表計算ソフトを主に使用する。これまでに述べた最良の表現形式を実現するのには、エクセルが最適である。また、多くのアクセス解析ツールでは、エクセル形式でデータを抽出でき、レポート作成の手間を大幅に減らすことができる。データの抽出を自動化して、レポート作成の時間を節約できれば、より分析に集中することができる。

パワーポイントを使うつもりなら、注釈を付けた表を用い、重要な指標に絞ってプレゼンテーションをするのがよい。表をそのままスライドに貼り付けても、読みづらくなるだけである。スライドが読みづらいと、聞き手にメッセージを伝えることは難しい。

ほとんど全てのベンダーが推奨するKPIレポートの定番フォーマットは、アクセス解析ツール上で利用できるダッシュボードである。これは「KPIレポートを見る人がアクセス解析ツールにログインしてくれる」という前提のもとに成り立っている。しかしダッシュボードでは、表示される指標が固定化されていることが多く、柔軟性にかけることが多い。確かにダッシュボードは、(温度計や速度計のような)直感的な表示ができるが、十分な情報を盛り込めるとは限らず、そのためデータ十分有効活用できなくなってしまう。

タイミング

KPIレポートの作成間隔が、3ヶ月以上開いてしまうようなら、どれだけ良いレポートを作ったとしても、それは時間の浪費である。むしろKPIレポートを作らないほうがいいかもしれない。組織による違いはあれど、KPIは頻繁に確認してはじめて、ビジネスの意思決定に有効なものとなる。ECサイトの場合は日別のレポートを、その他の類型のサイトでは週別のレポートを確認すべきである。

KPIレポートに多くの時間を割くことができない場合でも、KPIレポートの作成、注釈付け、配布という一連のプロセスだけは欠かさないようにしたい。そうすることで、受け取る側が常に情報を最新に保ち、指標に関してのより生産的な議論ができる。KPIに関するミーティングがあるときはいつでも、議題に関連するレポートを事前に用意できるよう、努力しよう。同様に、アクセス解析ツールにも頻繁にログインして、データの関係性を読み解くセンスを維持しよう。言うは易く行うは難しで、実際に欲しい結果を出すのは、案外難しいのだ。

注釈

これまで何度か触れてきたが、KPIレポートに注釈を加える作業は、指標を適切に扱うために必要な作業である。KPIは行動を促すべきものだが、指標に適切な注釈をつければ、より「適切な」行動が引き起こされる。書くことが特になくても、最低限、閾値を超えた値を示す指標に対して「アクセス解析チームは問題を認識しています。早急に取るべき行動を提示する予定です」という注をつけて、無用な電話や会議を減らそう(図3)。

図3 KPIのトップライン・サマリーとして冒頭に挿入された「調査中」の注釈
図3 KPIのトップライン・サマリーとして冒頭に挿入された「調査中」の注釈

「KPIの階層モデル」に関するガイドライン

組織の中で、誰が、どのようなKPIレポートを受け取るべきかを決めることは大変重要である。業種ごと・役職ごとにどの指標が適切であるかについては、4章で詳しく述べる。原則として私が強く勧めるのは、「誰に何を」を決める際に、「階層モデル」に沿うことだ。階層モデルを無視して、関係者全員に全ての指標を送りつけても、よけいな仕事を増やすのがオチだ。私が提唱する基本モデルは以下のとおりである。

  • 経営層 ―― 経営層向けのレポートには、2つから5つのKPIを、担当する分野に応じて選択する。たとえば、オンラインショップの総責任者であれば、注文コンバージョン率コンバージョン当たり平均コスト1人当たり平均収益の指標を、その他仕事に必要な計測値とあわせて確認する必要がある。

  • 管理職層 ―― 管理職層向けのレポートには、5つから7つのKPIを選択する。これは、経営層向けの指標に加えて、それぞれの部署や商品ラインに応じて、適切な指標を加える。たとえば、マーケティング部門の副部長は、経営層が見る指標に加え、現在展開しているそれぞれのキャンペーンごとのコンバージョン率を見る必要がある。

  • 実務責任担当者 ―― 実務担当者向けのレポートには、7つから10の指標を選ぶ。これは、管理職層向けの指標に、個々のキャンペーン、プロモーション、ページごとの詳細なKPIレポートを加える。たとえば、オンラインマーケティング部門のディレクターは、管理職層と同じ指標を参照した上で、「アクティブな上位10キャンペーンのコンバージョン率」を見る必要がある。

実務責任者より下のかたたちには、アクセス解析ツールを使い慣れることをお勧めする。実務責任者は通常、キャンペーン・製品・ページのすべてに対して責任をもつので、適切なKPIレポートを見るだけでなく、アクセス解析ツールから直接必要なデータを集める方法に慣れておいた方が良い。そうすべき主な理由は、通常KPIがきっかけとなって、より現場の人間を巻き込んで問題調査と修正を行っていくからである。

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