企業ホームページ運営の心得

「オリンピック」広告名称使用はNGで五輪表記は可? 著作権規制の境界線は

「オリンピックって名称は使用禁止?」「五輪って用語なら言い換えとして許可されている?」オリンピックという言葉の使用には、実は著作権や肖像権、知的財産権などの権利の問題が絡んできます。では、セールやキャンペーンなどの広告で使用許可とされる境界線とは? イベントにおけるアンブッシュマーケティングの監視が厳しくなっている今だからこそ、著作権規制下において使用不可な表記について詳しく解説します。
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の268

迎え撃てるか、なでしこ

まもなく始まるロンドン五輪に期待が高まっています。連勝記録の途絶えた女子レスリングの吉田沙保里に、勝って弾みをつけるはずだった「トゥーロン国際」で決勝トーナメントに進めなかった男子サッカー五輪代表と、嫌な空気がただようなか、がぜんサッカー女子代表の「ナデシコ」への期待は高まります。ただし、今回は「女王」として迎える大会で、ナデシコの戦術は完全解析されているとみるべきでしょう。

そもそも昨年のワールドカップも「薄氷の勝利」が多く、競り勝った事実は賞賛されてしかるべきですが、安直にメダルを期待するのは……と、すいません。サッカーとなると熱くなってしまいます。いずれにしろ「がんばれ!ニッポン!」……と書く際は注意が必要というのが今回のテーマ「アンブッシュマーケティング」です。

なんじゃろーな見解

アンブッシュマーケティングとは、権利を保有しない企業や個人が権利者の許可を得ずにその権利を利用することで、「便乗広告」のことを指します。

五輪が近づくと、メディアもネットも一色に染まります。ついつい販促イベントなどで「便乗」したくなるものですが、そこには肖像権や知的財産権が絡みます。JARO(日本広告審査機構)のサイトに次のようなQ&Aがありました。

スーパーで、「オリンピック記念セール」とうたって、セールイベントを行うことはできるか。

この質問への回答は、オリンピックに関する権利はIOC(国際オリンピック委員会)と、JOC(国内では日本オリンピック委員会)がすべての権利を保有していると明記したうえで、権利者と契約したスポンサー企業のみ広告活動ができるとしています。次にアンブッシュマーケティングを防止する意味を語り、国内法への抵触を匂わせながら、最後は、

JOCに相談してほしい、とのことである。

と、玉虫色の結論でした。

便乗広告が増えれば公式スポンサーのメリットがなくなり撤退するかもしれません。JOCは選手の育成や環境作りの費用として、スポンサーからの広告費を必要としています。ならばはっきりと「ダメ」としてもよいはずが、歯切れが悪くなる理由を、朝日新聞社広告局のコンテンツ「安達周の広告審査講座」で見つけました。

五輪はOKという論法

JOCはいまから20年前の1992年に新聞広告における「オリンピック」という単語の使用を「厳しく制限したい」と主張しました。しかし「オリンピック」は「一般名詞」です。ロゴマークやキャッチコピーの独占利用といったオフィシャルスポンサーの権利は認めた上で、日本新聞協会として「広告表現の自由を制限する」と反対の立場を表明し、2000年には同協会の顧問弁護士が、

商標権、不正競争防止法、肖像権、著作権いずれにおいてもオリンピックという用語の使用を制限する法的根拠はない。(安達周の広告審査講座から引用)

と指摘しています。もっとも「オリンピック」という単語に制限がかけられるとなれば、極端な話、ホームセンターやスーパーマーケットを展開する「オリンピック(東証1部 証券コード8289)」は広告が打てないことになってしまいます。

権利とアンブッシュの関係

アンブッシュマーケティングが公式スポンサーの利益を喪失するという主張を否定しませんが、広告業界は「便乗」だらけで、JOCの主張を丸呑みすれば、広告そのものがなりたたないのがJAROの歯切れの悪さの原因でしょう。

たとえば、公式スポンサー以外のテレビメーカーが、オリンピックやワールドカップ直前になると、こぞって「スポーツ」や「感動」をイメージさせるCMを流し始めるのは「便乗」の典型例です。

さらに踏み込めば、

規制はどこまで可能か。

ということで、まいどお馴染みの「表現の自由」が立ちはだかります。ちなみに「がんばれ!ニッポン!」はJOCが商標権を持っているとのこと。そしてオリンピックに便乗した本稿にクレームが入ったなら、物書きの端くれとして私は戦います。だいたい「がんばれ!ニッポン!」という素朴な感情すら、権利で囲い込む理屈をベルギー人には理解できても日本人には理解できかねます。

わんこ代表はアンブッシュか

すでに「便乗」しているものをネットで探すのは容易でした。イギリスの国旗を意匠としたTシャツや、競技ウェアを模した犬の洋服に「わんこ代表」と銘打ち販売するペットグッズ販売店、さらには「温泉まんじゅう」までありました。商標権は一定程度、保護されるべきと考えますが、「わんこ代表」などはアンブッシュというより「ユーモアグッズ」です。仮にこれを制限するというなら「ユーモア」の否定です。

そして先の朝日新聞社のサイトに

「五輪」であればJOCは制限しない(筆者要約)。

とありました。つまり、「五輪」は自由に使えるということです。「ゴリンピック」ならどうでしょうか。ただしすべては「自己責任」。JOCから訴えられても本稿は一切責任を持ちません。

囲い込みビジネスの限界

今回のロンドン五輪の広告規制は常軌を逸しています。かねてより批判の強い「商業五輪」ですが、報道によると「試合」「2012年」「ロンドン」「夏」「スポンサー」「メダル」「金」「銀」「銅」といった、少しでも五輪を連想するキーワードの組み合わせを「違反」とし、大会期間中は取締のために250人の警官が街をパトロールするといいます。

五輪公式スポンサーになれるのは巨大企業のみです。ロンドンっ子の営む小さなパン屋が「ロンドン」を使えないのです。また、ソーシャルメディアへの規制もかけており、チケット購入者が会場で個人的に撮影した写真や動画のアップロードを禁止しています。こちらは莫大な「放映権料」を支払っている放送局への配慮なのでしょう。

しかし、こうした規制は情報の送り手がテレビや新聞などの限られた媒体だった時代の発想です。競技場からの「金メダルゲット」という写真付きツイートを止めることは現実的には困難ですし、

アンブッシュAR(便乗拡張現実)

というアプリを作り、街並みに重ねると表示される「仮想看板」を作るのは造作のないことです。あるいは近隣商店が、一斉にグーグルマップ上に「オリンピックフェア」と投稿するといった可能性もあり、リアルとバーチャルのすべてを取り締まることは不可能に近いでしょう。

ロンドン五輪はマーケティングの視点とWeb担当者としての視点。そしてただのサッカーファンとして楽しみにしています。

今回のポイント

わずかなトラブルも避けたいなら便乗はNG

しかし、個人の応援魂まで規制はできない

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