値段に見つけるノウハウの集約。見積もりはリスクマネージメント
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の303
二刀流だからこその提案
アイデアはあるが、具体性がない
企画はあるが参考資料などない
こうした案件は街角のホームページ屋においては日常茶飯事です。それでも力となるのが腕の見せ所。こんなとき当社では「チラシ」を作り、方向性を固めていきます。が、今回はチラシの話ではありません。
Webサイトの依頼を受けていると、なかにはそのまま「チラシ」として印刷してほしいという依頼があります。私はDTPとWebの「二刀流」。固めていく過程で本当に「チラシ」ができてしまうのです。それを以前はPDFで渡し、客先のプリンタで印刷させていました。
しかし、「ネットで印刷♪」とテレビから聞こえてくる、ネット通販の印刷屋の価格の安さはコンビニのカラーコピーを下回り、印刷まで請け負った方が顧客利益にかなうことと、当社の収益機会の拡大につながる「Win=Win」だと受注します。
さてこのとき、どうやって「値段」を決定するのか、というのが今回のテーマ。「定価」のない商品の「値付け」について「チラシ印刷」からのケースステディです。もちろん、Web業界にも通じます。
二大経費の算出
本稿における「印刷」とは輪転機を廻す「印刷所」のそれではなく、商品や販促内容を「チラシ」のかたちで納品する役割とします。
まず「経費」を洗い出します。「経費」は大きく分けて二通り。「外注費」と「手間賃(人件費)」です。Webサイトの場合であれば、イラストや外部ライター、CMSのライセンス料などで、印刷の主な外注費は「印刷所」への支払いです。かつては「写植」や「製版フィルム」などの外注費も必須でしたが、DTPの一般化とCTP(デジタル刷版)の普及によって「印刷所」への支払いで一本化できるようになっています。
シビアな色の仕上がりを求めるなら「色校正」の費用計上も必要です。ここでの「見積もり漏れ」は利益の減少を意味し、ときに赤字を連れてきます。
手間賃の数値化
次は「手間賃」です。印刷の場合、「判型」によって「基本料金」を設定します。A4判なら9,000円、B4なら1万2千円と面積で設定し(この価格は架空のものです)、これを「色数」でかけ算します。カラーとは印刷において4色を指し「×4」、両面ならさらに「×2」です。面積が増え、色数が増えれば手間が増えることから、判型による料金設定が存在します。「面積」という概念が希薄なWebとの大きな違いです。
また、かつては印刷に用いる「フィルム」を出力した際、そのゆがみや落丁がないかをチェックする作業があり、色数で乗する背景には、この責任料が含まれていました。つまりミスをチェックするという「リスク管理」も「手間賃」に含まなければなりません。
写真の取り扱いもWebと大きく異なります。フィルム写真では強制的に現像代とプリント代が発生し、さらには「スキャン代」も必要でした。フィルムや紙焼きからの「スキャニング」は専門業者の仕事だったのです。もちろんこれらは外注費。一方「デジカメ」には「手間賃」が必要です。
面倒は金にする
デジカメ写真(データ)のカラーモード「RGB」を商業印刷では「CMYK」に変換し、この工程を「色分解(変換)」と呼びます。すると「色味」が変化することがあるので、調整が必要になります。さらに「2色刷」「3色刷」のときはその色数への分解があり、手間がかさみます。
そこで写真点数×単価を手間賃として計上します。ここでの「見積もり漏れ」は「残業」の増加に直結しますのでご注意ください(ネット通販の印刷屋のなかには、「RGB」を「CMYK」に変換してくれるところもありますが、ほとんどは単純に変換するだけで調整まではしてくれません)。
さらに「企画料」と「デザイン」、あるいは「レイアウト料」を加算します。この「手間賃」を「付加価値」と呼ぶこともあり、腕に自信があればここが「取り分」です。
合算に見る神髄
すっかり「印刷営業マン基礎研修」となっていますが、「定価」のない商品に値段をつけるときの基本的なアプローチで、この概念はWebにも通じます。最後に外注費+手間賃+(付加価値)の合算に、一定割合の数値をかけて「営業費」を計上します。「管理費」と呼ぶところもありますが、つつがなく進行させるための、諸経費や人件費です。細かなことをいえば、トラブル発生時の対応に「タクシー代」を支払えるかどうかは、この設定にかかっています。
算出された数字をもとに、取引上のリスクで増減します。たとえば、「前金」なら代金回収リスク(とりっぱぐれ)は0%で、着手時半金なら50%、全額後払いなら100%となります。また単発と継続取引でも「差」をつけます。こうして「論理的な値付け」は完成します。
ネットとリアルの最大の違い
「値付け」はノウハウです。1つの作業にかかる手間賃とリスクを正確に把握し、それを実現する安定した技術力をもっていることと同義だからです。反対に小さなソフトハウスなどで散見する、「社長の胸先三寸」で値段が決まるところは推して知るべし。つまり、値決めの概念を理解することは、信頼できる取引先を選ぶ目を養うことにもつながります。
ちなみに「チラシ」は「ついで仕事」ですが、そこそこ売上増加に貢献しています。アベノミクスのおこぼれを待つばかりではなく「収益機会の拡大」にお役立ていただければ幸いです。そこで最後に「印刷」に手を出すときの注意を1つ。必ず「刷り直しリスク」を計上してください。
ご存じのようにウェブならば即時、修正や変更が可能です。しかし、一度印刷するとやりなおしはききません。入念にチェックを繰り返したとて、校正漏れはおこるものです。力関係から「安価」を求められたとしても「刷り直し」に堪えられるだけの「値段」にしておくことをお忘れなく。
今回のポイント
値付けはノウハウ
利益よりもリスクを織りこむもの
雑学的に「ネットで印刷♪」の実例を。A4仕上げ両面カラーのオフセット印刷で、110㎏のコート紙(厚みのある光沢紙)を使用して100枚の印刷が送料込みで4000円ちょっとで、1枚単価も40円ちょっとです。コンビニのカラーコピーより安価です。戯れに20世紀の規格で見積もると10万円を楽に越えました。
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コメント
webサイトに関する疑問
世間に、やたらダラダラと長い1枚縦長のレイアウで長々と自分の経歴自慢をした挙句に
商品を売ろうとするサイトがあります。
大抵がサプリか教材なんかですが・・・。
※パララックスがどーのこーのの高級ペライチとは雲泥の差のものです
あれは途中でイヤになってしまうのですが、それにしてもあの手法は多い!
SEO的にものかな?と踏んでいるのですが、他にも理由はあるのでしょうか?
SEO的に良かったとしても顧客にとってみれは見慣れたレイアウトにうんざりして怪しくしか見えないんですけど・・・。
どう思われますか?
対象者層が違えば表現もまた変わりますが……
記事の内容からは少し離れてしまうので、編集部から。
縦長レイアウトに関しては、私も好きではありませんが、一部の業界ではそのほうがコンバージョン率が高いため採用しているという側面があります。
ある意味「きれいなデザインよりも縦長デザインのほうがコンバージョン率が高い場合がある」というものですが、それは一般論ではなく、ユーザー層によって違うというものだと思われます。
悪質な情報商材系に関しては、「だまされるタイプの人がだまされやすいフォーマット」を突き詰めているともいわれますね。
いずれにせよ、各Web担当者さんは、それぞれのサイトのお客さんにとって適切な表現を突き詰めていっていただければと思います。