アドテクノロジー活用に欠かせない広告主の判断力とは、ライオンの事例に見るアドテクノロジーの役割と変化
アドテクノロジーはデジタルマーケティングでどのような役割を果たし、今後どのような役割を担っていくのだろうか。実際に第三者配信を使ってキャンペーンを行ったライオンの事例をベースに、広告主とサプライヤーの両方の立場からその経緯と効果が話し合われた。
アドテクノロジーの活用にはコミュニケーション設計が不可欠
3月月例セミナーの第二部は引き続き菅原氏が登壇し、ライオンの中村大亮氏と「デジタルマーケティングにおけるアドテクノロジーの役割」と題した対談を行った。
まず、「デジタルマーケティングの中でのアドテクの役割とは?」というテーマから対談は始まり、まず中村氏は次のように話す。
ライオンのなかで自分はECではなくブランド系の広告をやっているが、これまではテレビ、ラジオ、新聞、インターネットといった複数のメディアを並べて一斉にやることがメディアミックスだという幻想を抱いていたと思う。アドテクノロジーは柔軟性があり、他の広告にアジャストすることが容易。しっかりとカスタマージャーニーを捉えたうえで、どこに広告を置くかを考える必要がある。顧客がリアルにどのような行動を取るかストーリー立てし、全体のなかでアドテクノロジーをどのように使っていくかという発想がこれから重要になってくるのではないか(中村氏)
第一部でも菅原氏が“退化”という言葉を使ったように、アドテクノロジーはどうしてもメディアを売る側と買う側で閉じてしまい、効率化と最適化だけが進んでいる。中村氏は、しっかりとしたコミュニケーション設計を組み立てたうえでアドテクノロジーを活用しないと、単なるパフォーマンス改善ツールになってしまうというのだ。
次に菅原氏は、上記の図を示しながら「アドテクノロジーは、ネット広告からWebへ送客するためだけに使われているが、それを超えてテレビ広告や店頭も今後見ていく形になるのだろうか
」と中村氏に質問する。それに対し中村氏は、「店頭ということでいえば、単純にクーポンを配ったり、リアルなイベント絡めることだけがO2Oではない。店頭で顧客が競合製品と比較できるようにディスプレイ広告やSEOで商品説明に誘導するなど、顧客ニーズに応えることもO2Oにつながるものだと思う。その意味でも、カスタマージャーニー分析は重要となる
」と答えている。
ライオンの事例から見るアドテクノロジーの実際
続いて菅原氏は、「広告主からみてアドテクは何を変えたのか?」というテーマを提示する。「広告に対する考え方が本質的に変わってきた
」と、中村氏はアドテクノロジー活用以前の状況を交えながら次のように話す。
これまでは、クリエイティブを入稿したら終わりで、広告展開中は経過観察しかしていなかった。そして、掲載が終了してしばらくしてからレポートが出てくる。大げさに言えば、完全に気持ちが離れた状態でCTRやCPCなどの数値を眺め、最後は“次回はがんばりましょう”と、デジタル広告をやっているのに精神論で終わってしまっていた。気持ちも離れているし、終わってからレポートが出ても直しようがなく、次に活かせるものでもない(中村氏)
では、アドテクノロジーの活用によって広告施策はどのように変化したのか、2012年秋に中村氏と菅原氏が手がけたライオンの柔軟剤であるアロマリッチのキャンペーンを事例に説明が行われる。
複合的にさまざまな施策が行われたこのキャンペーンでは、広告配信や計測のために多数のアドテクノロジーが活用されている。
- ノンターゲティング
対象ユーザーを制限せずにバナーを配信しながら次第に最適化
- オーディエンスターゲティング
特定の興味関心を持った人に配信(データは他社のものを使い配信)
- リターゲティング
ライオンのオウンドメディア上から関心のある人に配信
- 第三者配信
設計に基づいたターゲティング広告の配信およびレポート
- アドベリフィケーション
広告が不適当なサイトなどに掲載されていないかを監視
- 広告露出計測(InView計測)
ブラウザ上で広告が見える状態であったかを計測
各種ターゲティング広告は同じ第三者配信ツールを使って配信されたが、「無関心層」「関心層」「検討層」によってアプローチする配信ロジックを変え、異なる役割としていた、と中村氏は説明を続ける。
3か月間行われた同キャンペーンでは、ランディングページとともに、初期に6つの広告クリエイティブが作られ、運用開始とともにチューニングしたり、全体的に入れ替えたりしながら、最終的に12のクリエイティブが作られている。また、コンバージョンページとしては「商品説明」「香り説明」「Web動画」の3つのページを設定しており、実際に第三者配信を利用することで、「入稿してからが勝負となった」と中村氏は以前との違いを説明する。
たとえば、あるクリエイティブは、最終的なレポートではCV数や新規訪問率が高いものの、コンバージョンページへのCVRが全体的に低いと判断されていた。しかし、このクリエイティブは、掲載1週目のレポートでは商品ページやWeb動画へのCVRが高く、滞在時間が長いことがわかった。また、掲載4週目のレポートは、1週目とまったく違うレポートとなり、パフォーマンスが大きく低下していた。以前は最終的なレポートしか見ることができなかったが、第三者配信を使うことで毎週レポートが出され、状況の変化に対応した施策を取れるようになったと中村氏は話す。
このキャンペーンのクリエイティブはタレントに依存しているので、テレビCMと連動して最初は流入が多かったが、テレビCMの出稿低下や顧客が見慣れてきたことでパフォーマンスが落ちてきている。これによって、タレントを使ったプロダクトでは、導入時期はテレビCMと連動したクリエイティブが有効だという仮説が立てられる。しかし、トータルのレポートしか見られなければ、もうタレントを使うのをやめようという結論になってしまう(中村氏)
PDCAの高速化には広告主の判断が求められる
前述のキャンペーンでは、週次または隔週でレポートを分析することによって、最終的なレポートだけでは見えてこなかったさまざなものが見えてきた。一方で、日常的にクリエイティブの入れ替えなどを判断しなければならなくなり、非常に大変な作業だったことを振り返る菅原氏は、「あらかじめ6つのクリエイティブを用意し、配信ボリュームを運用でコントロールできるようになったことがこのキャンペーンの特長。広告主側は、日々の運用のなかで、クリエイティブをどう活用するかを見出していく必要が出てくる
」と話す。
また、中村氏は広告主には戦略に基づいたすばやい判断が求められると話す。
第一部で高速PDCAといった話が出てきたが、PDCAのなかで広告主がやらなければならないのはやはり“判断”だと思う。高速に判断していくノウハウも必要になるし、根本的なKPIや何をしたいかをハッキリと持っていなければ判断することができない。これまでは判断も広告代理店などに任せてしまっていたかもしれないが、今後は広告主として当たり前のことをちゃんとしなければならなくなったと思う(中村氏)
中村氏は続けて、「誤解を生むかもしれないが、自分のイメージのなかでアドテクノロジーはリサーチ型ディスプレイ広告のようなものだと考えている。反応がわかることで、バナーやクリエイティブの最適化だけでなく、ランディングページの最適化も行え、他のメディアの施策との連携や最適化もできる可能性があると思う
」とも話している。
また、ノンターゲティングの場合と、リターゲティング/オーディエンスターゲティングになった場合の検索キーワードの変化もこのキャンペーンの特長の1つだ。ノンターゲティングでは商品に近いキーワードでしか流入がなかったのに対し、リターゲティング/オーディエンスターゲティングでは金額やクチコミなどの購入手前の行動を想定できるキーワードが増えてきている。中村氏は、「おこがましい言い方ですが、バナーを配信しながら顧客を育てていることを感じれる結果となった
」と語る。また、キーワード自体もより具体的なものとなっており、認知度や認識が高まっていることを感じさせるものであったようだ。
事例紹介の最後として中村氏は、キャンペーン展開中は毎週火曜日に菅原氏とミーティングを行っていたことを明かし、次にどのようなクリエイティブをだれに対して出すか、ランディングページに修正は必要ないかなどを話し合い、「毎週、死に物狂いで対応していった
」と話す。
「アドテクノロジーを使えば、単純に自動化されてCTRやCPCが良くなり、すばらしいレポートが出てくるわけではない
」と話す中村氏に続いて、菅原氏は「何がゴールなのかという定義と、それをモニタリングするためのKPIを設定したところから運用を始められたところが、このキャンペーンの非常に良かったところ
」とまとめた。
数字を追うことだけがアドテクノロジーではない
実際に第三者配信を活用してみて、「楽になることと大変になることは何か」と聞かれた中村氏は、「楽になることはない
」と答える。ただし、確実にPDCAは回しやすくなり、これまでは数字的なバックボーンがないなかで何となく仮説を立てていたのが、「数字をもとに仮説を立てて次のアクションを起こせること」に大きな手ごたえを感じたようだ。
大変になることはたくさんある。設計段階でどの配信ロジックにどの役割を持たせるかという話は、関わる人すべてが合意しておくことが重要で、非常に手間がかかる作業だ。入稿した後の運用も大変になるが、逆に言えば、これまでいかに楽をしてきたかがよくわかった。
30くらいある主要ブランドのすべてで同じことをやろうとしても1人では絶対にできない。人を増やすかアウトソーシングするしかないが、まだパートナーとデータやオペレーションを共有できていないのは今後の課題。
これからアドテクノロジーをやる人は、最初はさまざまなデータが出てきて戸惑うと思う。自分も最初は戸惑い、半年くらい経ってやっとトイレタリー製品であれば8割くらい共通の指標があり、2割くらいブランドの特長を活かすといったやり方が見えてきた。膨大なデータのなかから見るものを決めてパターン化することが重要なのだと思う(中村氏)
続いて、「会社のなかは変わりましたか?」というテーマでは、中村氏が宣伝部として社内への説得をどう行い、その結果どのような反応が見られたかが話された。
純広よりも明らかに見られるデータが増え、チューニングができると話すだけで、第三者配信に良いイメージを持ってもらえるので、説得や導入は難しくなかった。また、このキャンペーンよってデジタル広告に興味を持ってもらえたことが大きな効果だと思う。
入稿して終わりだった以前の状態では、結果に関心も持てず、気持ちも入らない。リアルタイムのアクセス解析と同じような感覚で施策を行え、社内のマーケッターサイドからもアイデアが出てきたし、次回の施策に対しても前向きで活発な議論が行えるようになった。施策に対してのリアクションがあることで、オウンドメディアも含めたデジタルに関わる人たちが興味を持ち、やる気になってくれた(中村氏)
高速でPDCAを回すための負担は大きくなるが、その手ごたえが出てくるので苦にならず、スムーズにアドテクノロジーに向き合えたということだろう。
「社外との連携」という話に移ると、中村氏は「CTRやCPCなどの数字が命で、“アドテクノロジー=数字”と考えているパートナーとは組めない
」と話す。事例で紹介されたキャンペーンでは、マーケティングの本質がわかっている菅原氏と議論しながらアドテクノロジーを活用したから成功できたと話す中村氏は、「しっかりとした本質を見極めてくれるパートナーは少ないと思うし、広告主側もまだ勉強不足だと思う。今回は菅原さんというサプライヤーと組めたが、30もある主要ブランドすべてをサプライヤーとともにやることはできないので、能力の高いエージェンシーと一緒にやる必要がある。どのように分担して負荷軽減するかは、今後議論していきたい
」と今後の課題を説明した。
課題については、周辺サポートツールの標準化やコストの問題、アドテクノロジーの透明性、タグマネジメントなどについても提案した中村氏は、最後に今後のアドテクノロジーの可能性について次のように話す。
今後もアドテクノロジーを使ってお客様と寄り添っていこうと考えている。たとえば、飲料メーカーなら、朝飲みたいお茶と夜飲みたいお茶は違うことに注目して、朝掲出されるバナーと夜掲出されるバナーを変えるといったことが考えられる。カスタマージャーニーにきめ細かくアジャストすることをアドテクノロジーでやっていきたい。
また、広告主は、その気になればテクノロジー会社とサービス段階から一緒にツールを作っていくことができる。アドテクノロジーとその他のテクノロジーを組み合わせて、たとえば紹介したキャンペーンで利用した3つの配信ロジック以外を作るようなことに挑戦したい。おそらく、こういったサービス開発に自ら関わっていくことが、今後広告主の醍醐味になっていくと思う(中村氏)
菅原氏は、「米国ではすでにプライベートDSPなどが登場してきており、単体の商品だけでなく、顧客の複数のブランドの好みを管理して適切なコミュニケーションを図り、広告配信につなげるという流れが起こりつつあると感じている。我々プラットフォーマーとしても、ぜひ実現していきたいと考えている
」と話し、第二部をまとめた。
オリジナル記事はこちら:「アドテクノロジー活用に欠かせない広告主の判断力とは、ライオンの事例に見るアドテクノロジーの役割と変化」2013年3月26日開催 月例セミナーレポート(2)
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