Web広告研究会セミナーレポート

データから戦略は生まれない、花王・キリン・NECが明かすデータドリブン・マーケティングの現状

マーケティングにおけるデータ活用の課題を企業担当者が議論
Web広告研究会セミナーレポート

この記事は、公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会 Web広告研究会が開催およびレポートしたセミナー記事を、クリエイティブ・コモンズライセンスのもと一部編集して転載したものです。オリジナルの記事はWeb広告研究会のサイトでご覧ください。

分析結果をどう解釈して議論を広げるかが重要

Web広告研究会
BigData研究委員会 委員長
(ヤフー株式会社)
友澤 大輔氏
キリン株式会社
綿引 いずみ氏

最初に友澤氏は、「今日のデータや調査結果(第一部講演)を見て、実際にみなさんがどのように感じ、どのように変えていこうと考えられたかを話していきたい」と話す。

BigData研究委員会では、第一部で紹介されたデータ分析結果を見ながら、3か月くらい毎月のように討論していたという友澤氏は、各パネリストに「理解できたか」と「やってみたいか」の2点について質問する。

分析結果を見るのは今回が2回目だと話す綿引氏は、「自分の仕事と照らし合わせて、さまざまな疑問が出てきた」と語る。初めて見たときには1つのカテゴリの製品でまったく違う結果が出ていることをおもしろいと感じ、自社と競合の施策を比較できることに興味を持ったが、改めて分析結果を見たことで「これで何ができるのか」「この後、何をすればよいのか」と考えたという。

また、さまざまなデータを複眼的に見る必要性を感じているので、調査結果の前に行った各データを指数化して時系列でグラフ化することを行ってみたい、と綿引氏は答えている。

分析のもととなった各データを指数化し、時系列で並べた(第一部講演より)

花王の本間氏は、自身がセミナーなどでデータ分析の話をするときは、共分散構造分析の説明までは行わず、上記の時系列化したグラフを書くことを勧めているという。

花王株式会社
本間 充氏

グラフで同時に上がっているところには何らかの関係があるので、上げたいのであれば同じことをやればよく、同じになったらそれを自分の武器としてやり続ければいい。マーケッターには本質論まで理解したい人と、売上が上がればよい人の2タイプがあってもいいと思う。売上を上げたいだけなら、なぜ上がったかを知る必要はなく、やり方がわかればいい。本質を突き詰めたいなら、マーケッターだけでやるのは難しく、今回分析してくれたブレインパッドの藤木さんのような、外部の人と一緒にやろうという話を社内ではしている(本間氏)

NEC
内田 朝子氏

これまで3回くらい委員会で討論したが、何となく議論しながら理解を深めてきたと思う」と話す内田氏は、可視化することで次の打ち手が見えてきそうな点がおもしろいと語る。また、ネットでの発言量がマイナスに働くことについても注目し、その理由を知りたいという探究心も生まれたという。

先入観を持たず客観的にデータを分析する

今回の分析は、全体が整理されている点や構造化される点がよかったと委員会でも議論されていた」と話す友澤氏は、分析から改善点などをどのように考えているのかと問いかけ、まず本間氏が自社製品でもあるヘルシアの分析結果を例に答える。

分析結果から(第一部)、ヘルシアはインターネット発言量と売上に関係がないので、ソーシャルキャンペーンは効果がないということになる。やったとしても、ポジネガの両方が働くのであれば、デメリットがあるかもしれない。ただし、テレビCMだけでは売上は立たず、インターネットで確認する作業が売上に影響しているので、ヘルシアのサイトに購買欲がありそうな人を呼び込む必要がある。少なくとも、テレビ広告費からインターネット検索量への影響が0.24あるので、テレビCMのキーコピーだけでヘルシアのサイトに来られるように設計しなければ、ロスとなる。

もっとドラスティックに言えば、テレビ広告で露出させるよりはネットで人を囲ったほうがよいとも言えるので、テレビ広告費の半分をネット広告に回せと言いに行くことができる(笑)(本間氏)

ヘルシアの分析詳細

これまでデジタルを積極的にはやっておらず、今年から力を入れていこうとしている」と話す綿引氏は、現状、危惧していることがあるという。インターネット発言量や検索量を増やす施策を行っていない現状で、分析してパスが出なかった場合に、やる必要がないという方向に向かうのではないかということだ。

今、今回のような分析を行ってよいのかがジレンマとしてある。製品についての発言が少ないのがブランド力なのか、インターネットというメディアの構造に対して効かない製品なのか、そういうジャッジをどこでするのかがわかるようになればよいと思う(綿引氏)

一方、内田氏はBtoBビジネスであるため、売上以外の指標も重要になると話す。

BtoBでは、広告だけで最終的な売上につなげることは難しいので、ブランドイメージ向上につながっているのかなどを分析できればよいと思う。第一部で言われていたように、競合他社と比較して構造的に分析できれば、強化すべきところや戦略に活かせる。1つ気になるのは、お~いお茶の広告費から売上へのパスがないところ。データ上では売上につながっていないが、本当にそうなのかが疑問(内田氏)

お~いお茶の分析詳細

内田氏の疑問に対して、本間氏は「パスがないという結果を見せると、必ずマーケッターや広告担当者から内田さんのような質問が出てくる。これは、マーケッターや広告担当者が広告ですべての売上を作っていると思っているからだ。実体は、お~いお茶は広告がなくても売れるので線がないだけ。それをちゃんと理解して読めるくらい“澄んだ瞳”で読めるかが重要」と説明する。

また、友澤氏も「委員会のなかでも議論になったが、分析をどう解釈するかが重要で、正しいとか合っているという問題ではない。どう解釈して議論をどう発展させるかが重要だというのが委員会での結論」と話す。

さらに「こうやって分析結果を見せると、マーケッターの人は何かをやろうと考える」と本間氏は続ける。

マーケッターの人が何かをやろうとすると、自分の考えも重ねてしまうので、“思ったとおりの結果になっていないことが理解できない”と言う人が必ず出てくる。しかし、外部データで実体が示されており、予測どおりであることをデータで示すことができないのであれば、いったん分析結果を信じるしかない(本間氏)

今回の分析は、広告出稿量が売上に影響するという仮説をもとにしているため、ブランドイメージなどは含まれていない。ブランドイメージは外部要因の「E」に含まれており、当週の売上には0.29の影響があると説明する本間氏は「ペットボトル茶の業界は、ブランドスイッチャーで成り立っている。そもそも因果関係がつかみにくく、データに表れない」と話す。

こうしたパネリストの回答を受けて、友澤氏は、データドリブン・マーケティングではどんなデータを取得して分析していくかが重要だとまとめる。

今回、データ選択や収集にも時間をかけ、データの選定にも議論を積み重ねた。本当は意識データも取れればよかったが、今回は取れなかった。意識データがあれば、もう少し変わった世界が見えてきたかもしれないが、逆に言えば、どのようなデータを取って分析に結び付けていくかも重要だし、分析結果をどう解釈していくかというのも重要なポイントになっていくと思う(友澤氏)

データから戦略は生まれない

取るべきデータとして、その商品をなぜ「想起」したかや、買った場所(自販機、コンビニ、スーパーなど)が入るとよいと話す綿引氏は、「一度にいろいろなことを見ようとすると説明できることや説明できないことが複雑化してわからなくなる。しかし、想起や買った場所といったものは、我々のビジネスのなかではキーファクターなので、これらのデータと一緒にコミュニケーションが見られるといいと思う」と話す。

内田氏や綿引氏のように、分析方法や結果に疑問や不満があるのは当然であり、非常に重要な意見だとする本間氏は、ビジョンを持ってデータ分析を行うことが重要だと説明する。

たとえば、人間ドックのデータを散漫に見て食事制限や運動を始める人は多いが、どのような暮らし向きをしたいかというビジョンを持って人間ドッグのデータを見れば、見るべきデータが決まり、測定項目や目標値を決めていくことができる。決して、人間ドッグのデータからどのような人間になるかを決めるわけではなく、「同様にデータから戦略が生まれるわけではなく、この戦略をやるべきなのか、などをデータで確認するもの」だという。

また、友澤氏と綿引氏も、今回の活動報告から得た経験を次のように述べている。

今回は当事者が入っておらず、データと分析力だけでどこまでやれるかを試したことになる。それによって、委員会ではもっとこうすればよいといった意見や仮説が出てきている。今後、分析を依頼する場合は、分析の論点設定やビジネスとして何を目指すかを明確にしないときれいな分析にならないだろう。今回、“論点設定を持って見える化を行えば議論できる”というシナリオができた気がする(友澤氏)

最初に分析の図を見たときには、これからはこんな分析をしなければならない時代になるのか、と圧倒されてしまった。しかし、会社に戻って担当者などと相談したら、データは揃っていないし、我々が何を見たいかというオーダーもできない。社内の担当者によって捉え方も異なるので、このような分析を行う前にもっと考えなければならないことがあると思う(綿引氏)

企業でのデータ分析の現状と課題

次のテーマは、「実際に現状でどのようなマーケティングデータを使って分析したいと考えているのか」というもので、パネリストたちが現在の状況と、それをふまえて考えていることを述べていく。

広告出稿をして、半期に一度ブランディングが向上したかを確かめているが、それとは別の視点でデータベースマーケティングとして見込み顧客のデータをどのように見つけるか、顧客データを使ってどのお客様が購買する可能性が高いかといった取り組みは行っている。WISDOMというNECの製品色がないビジネス情報サイトも運営していて、数十万人の会員に対してゆるくコミュニケーションを取りながら、大きなイベントを行った時などに顧客データを集めて、どのようなソリューションを紹介し、どのようなセミナーに誘引するのかなどを行っている(内田氏)

よくデータ分析を綿密に行っている会社と見られているが、意外と基礎的なデータをとっていなかったりする。先ほどの時系列で指数化したグラフや、サイト別のコミュニケーションコストも作られていなかった。売上に比例して予算も大きくなり、必要のあるなしにかかわらず重厚長大なサイトが作れてしまい、コスト回収ができていないことをきちんと話し合っていないことに気づき、2012年に自分が言って初めてコミュニケーションコストの表が作られた。

メディア投資と売上の関係を見るのが、今回の共分散構造分析や重回帰分析となる。しかし、マーケティング側は広告接触と売上の関係も見ていないので、テレビ広告を出せば売上が立つというデータもなく、ビッグデータ以前にデータを使っていないのが現状(本間氏)

また、本間氏は「KKD(勘、経験、度胸)の経験は非常に問題で、過去の先輩たちの教科書的なやり方をそのまま教わったことが日本のマーケッターの経験となっている。ヒストリカルな教科書から学んでいるため、ロジカルな説明ができない」と、現場の課題を語った。

綿引氏も、「デジタルマーケティングをどこまでやったらいいかというスタートの段階で、予算を確保しているところ。バラバラなデータをだれが見て、どうやって集めるかを考えている。多岐にわたる関係部署に新たにデータを収集してもらったり、データ同士の単位が違ったり、といった細かい話が課題となっている」と、データ活用の現状を話す。

一方で、データの集約や管理がすでにできているというNECでは、ビッグデータから新たな見込み客を見つけることを考えているという。

ITシステムの顧客は、これまで情報システム部だったが、クラウドによる新しいサービスなどは、情報システム部だけとコンタクトしてもビジネスにならないケースもある。見込み顧客をどのように見つけていくのかを考えると、これまで出稿していたIT専門のメディアだけでデータを集めてもあまり意味がない。たとえば、人事部とコンタクトを取るためにどのようなメディアを使えばいいのかなど、ビッグデータを活用して見込み客をメディアからピックアップする方法を考えている。大きなデータの中から、自分たちが情報を届けたい相手をどうやって見つけて伝えるか、といった課題がある(内田氏)

本間氏は、社内でデータ活用を推進するには客観的にデータを分析し、論理的に説明することが必要だと説明する。

先輩たちがデータを1つのサーバーに蓄えてくれていたので、データにアクセスするのに関係部署と連携する必要はなくなってきている。しかし、ターゲットが男性だったのに女性の含有率が非常に高かったり、若者をターゲットにしていたのにシニアが買っていたりするなど、想定とは逆のデータを担当者にどうやって説明するかが重要なテーマとなっている。マーケッターは、KKDでやってきたので主観的な論理が正しいと自負している。客観的な論理を持って説明し、トライアルな戦略を取ってもらうことを、ハードルは高いがやり続けなければならない(本間氏)

データにアクセスできる環境を整えることが第一歩

2012年度のWeb広告研究会宣言、「Cooking Big Data ~マーケティングの新しい時代へ~」を受けて発足したBigData研究委員会の活動はまだ始まったばかり。この数年の間でテクノロジーは急速に進化しており、データ活用の裾野が広がるなか、企業のデータ活用はこれからというのが現状だ。講演の最後、友澤氏は今回の実践例を参考に、まずはデータに触れてほしいと次のように語った。

それぞれの会社にそれぞれの課題があるが、共分散構造分析のような構造化された分析まで行かなくても、まずはさまざまなデータにアクセスできるようにして時系列で見ていくことは、ぜひ明日からでもやってみてほしい。時系列のグラフもかなり工夫をしていて、正規化で単位を合わせるなどの調整をしているが、グラフから仮説を発見してアクショナブルに何かを始めることが重要。

BigData研究委員会は始まったばかりで、国の法律も変わったり、DMPといった技術が出てきたり、データサイエンティストも生まれてきているなかで、これからの委員会だと思っている。広告主の方々にもぜひ参加していただいて、みなさんと一緒に議論しながら課題を解決していきたい(友澤氏)

この記事は、2014年2月21日に開催されたWeb広告研究会月例セミナーのレポート第二部です。→第一部を読む

オリジナル記事はこちら:「データから戦略は生まれない、花王・キリン・NECが明かすデータドリブン・マーケティングの現状」2014年2月21日開催月例セミナーレポート(2)

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