対岸の火事ではない、Web担当者を襲うパクリ疑惑への処方箋
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の421
対岸の火事ではない
東京五輪のエンブレムを巡る「パクリ騒動」。アートディレクターの佐野研二朗氏によるデザインが、ベルギーにある劇場のロゴマークにそっくりだと訴えられます。佐野氏も大会組織委員会もパクリを否定していますが、次々と発掘される「パクリ疑惑」を前に、本稿公開時にどのような結論に達しているかわかりません。これは、Web担当者にとって他人事ではありません。
パクる意図はなくても、社内スタッフはもちろん、外部のデザイナーの仕事のすべてをチェックすることはできないからです。Webコンテンツの検収は、Web担当者の仕事の1つですが、自らデザインしたとしても、世界中にある、すべての意匠をチェックすることなど不可能。しかし、Webは「世界中」に公開します。するといつ何時、どこの国から「パクリ」と指摘を受けるかわかりません。
ネット民の捜査力はすさまじく、ひとたび「疑惑」のレッテルが貼られれば「盗作認定」は時間の問題。これへの処方箋が「言語化」です。あらかじめお断りしておきますが、パクリを推奨するものではありません。
弁理士と弁護士の視点
ワイドショーを見ていると、佐野氏の東京五輪のエンブレムを巡る騒動は、専門家によって見解が分かれます。商標登録などを手がける「弁理士」は、ベルギーの劇場ロゴが商標登録されていないことから「商標権」に問題はなく「セーフ」とします。
一方、法律家の弁護士は「著作権」を争点として態度を保留します。日本とベルギーは、国家間で相互に著作権を保護する「ベルヌ条約」に締結しており、それぞれの著作権は相手国の国民と同様に保護されるものだ、これによる「法廷闘争」の可能性が、弁護士が態度を保留する理由です。
パクリとの指摘が「商標権」に抵触しているなら、迅速に事実確認をした上で、しかるべき処置を講じなければなりません。「商標権」とは独占的に商売などに利用できる権利で、登録によって効力が発生します。いわば「電話番号」のようなもので、通常は先に登録した企業なり個人に占有権が認められます。
あくまで一般論ですが、悪質性のない権利侵害なら、誠意を持って迅速に対応すれば、賠償問題にまで発展することは希です。このように明記するのは、「商標権侵害」を理由とした「詐欺」が多いからです。こうした事件が起きると、詐欺師が「ネタ」にするので、くれぐれもご注意ください。
厄介で難解
対する「著作権」は厄介です。「著作権」はチラシ裏の落書きにも自然に発生し、つまりは確認が困難なのです。ネット民のなかには、過剰な正義感から、法的根拠もなければ証拠もないまま「告発」するものが存在し、今回の騒動をきっかけに、わずかな類似を理由に「盗作」と騒ぎ立てるものが表れないとも限りません。そして、はっきり言って「デザイン」が似てしまうことなど日常茶飯事です。
レイアウトや配色には、納まりの良いパターンが存在し、「黄金比」はその代表格です。アルファベットのモチーフでも「佐藤」と「鈴木」は同じ「S」で、「キングドーナッツ」と「木村デザイン」はどちらも「KD」です。商業目的のデザインは、芸術性が高くても、複雑なデザインは敬遠される傾向が強く「シンプル」が好まれます。つまり選択肢はあまり多くないのです。疑惑発覚当時、多くのデザイナーが佐野氏を擁護した理由の1つです。
論理的な説明
「パクリ」だと指摘されたときに助けとなるのが、「言語化」によって用意した「ロジック」です。ロジックとは、三角形を選んだ理由、配色の意味、レイアウトに込められたメッセージなど。そのデザインに至った「理由」といってもよいでしょう。ビジュアルを文章がフォローするのはおかしな話に思うかも知れませんが、ロジックがパクリ疑惑のダメージを和らげます。何より商業デザインの裏側には、何かしらのロジックがあるものです。
東京五輪のエンブレムでは、東京の「T」をベースとし、右肩にある赤玉は選手らの鼓動をイメージしていると説明されましたが、これでは類似するベルギーのデザインへの抗弁としては力不足。そこで、久しぶりにへりくつ、もとい「ブラック・テキスト芸」を用いて、東京五輪のエンブレムを勝手に「言語化」してみました。
五輪エンブレムを言語化
黒の縦長の長方形は「都会」の象徴「ビル」のシルエット。赤玉はビルの谷間に昇る「ライジングサン」、すなわち日の丸。また、ビルは「I(アイ)=私≒人」と読ませ「人」、すなわち「選手」のダブルミーニングとし、「黒」を「無名」と意味づけ、左上、右下の金と銀の「メダル」を削るかのように、「無色(白色で表現)のメダル」を配置することで、すべての参加者こそが「主役」と強弁。さらに、ベルギーのデザインに通じてしまう、右下の銀も含めて「2」を表し、赤丸は「0」。つまりは「2020年」を表したデザイン
苦しいことは重々承知しております。しかし、疑惑発生時に、せめてこれぐらいのロジックが紹介されていれば、時間稼ぎぐらいにはなったことでしょう。ネット上での当初の反応は「問題提起」の意味合いが強かったのです。
後付けでOKの処方箋
デザインを発表する前に言語化しておけば、指摘を受けても即座に「説明」できます。ロジック自体はデザインが仕上がった後の「後付け」でもOKです。「似ている」と「パクリ」は似て非なるものであり、そのデザインに至ったロジックを用意しておくことで、「偶然の一致」と抗弁する余地が残されるのです。繰り返しになりますがパクリを容認しているのではありません。
デザイナーのなかには「直感」ですばらしい作品を仕上げる人もいて、彼らにとって「言語化」は野暮な作業ですが、すべてのユーザーやお客がクリエイティブではない以上、その人たちに向けた「説明」は不可欠です。そしてそれがパクリ疑惑から身を守る「処方箋」となります。
とはいえ、優れたデザインは言葉を越えます。これはマッチポンプではなく「日本イタリア国交150周年記念」のシンボルマークを見ての率直な感想です。
今回のポイント
デザインが似るのは避けがたい
パクリではないことを証明書する「言語化」
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コメント
国家観?
国家観?
ご指摘ありがとうございます
誤字のご指摘ありがとうございます。
お恥ずかしいミスが残っていて申し訳ありません。修正いたしました。