中小企業的Web担当者の育て方
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の弐百弐十参
不足しつづけるWeb担当者
ホームページは需給のミスマッチを安価に解消できるツールです。たとえば、東京では転居や廃業などにより客の減った町工場の技術を、九州は小倉の企業が求めていることがあります。団塊世代の社長の引退にともない廃業するケースは、特に最近目立ってきています。両者をインターネットが結びます。マスメディアの広告費と比較すれば、ホームページにかかる費用など安いものです。だからこそ中小企業はもっともっとホームページを活用すべきだと……なにを当たり前の話をと思うでしょうか。
前回述べたように、売るのが難しい商品をホームページで扱うなら、社員を1人を専任(Web担当者)にするぐらいの覚悟が必要です。しかし、インターネット元年以来、中小企業の「Web担当者」は不足しているのです。ないなら作る、これぞモノヅクリ日本の真骨頂。そこで今回は「作り方」、もとい「育て方」について。
Web担当者とはなにか
まず、Web担当者の仕事には大きく分けて3つのジャンルがあります。
- A:制作
Webデザイナー、プログラマ、ライター - B:管理
プロデューサー(ディレクター)、マーケッター、プランナー
※すべて同じだという突っ込みはパス - C:調査
アナリスト(アクセス解析)、リサーチャー
Aがホームページの制作作業、Bは内容や仕掛けを考え、Cは統計学的なアプローチです。実際の運営ではすべて連動していますから、Web担当者の業務として理想を述べれば「ぜんぶ」となります。しかし、すべてできる人はまれで、HTMLが書けてPhotoshopのデザインもおまかせ、運営管理も完璧で、プログラムや統計学もお手のもの、といった完璧超人はいません。Web業界の著名なご意見番であっても、JavaScriptを知らなかったりします。ちなみにご意見番に成り上がる前の彼の属性は「ライター」でした。
中小企業では、まず「制作」の「Webデザイナー」を育てるとよいでしょう。ホームページはコンテンツが命、ならば同じ制作でもライターからでは、という意見もあるでしょうが、見せるためのページを作れないのでは意味がありません。
Web担当者に求められる資質
それでは人選です。できるだけ優秀な人を充ててほしいところですが、唯一絶対の条件となるのが「PCの前に長時間座っていても平気な人間」です。PCの前に10分と座っていられない人間はWeb担当者に向いていません。
PCの前に座っていられるなら理系文系は無視して結構です。理系の大学を出てプログラムが組めない人もいますし、なにより貧困な語彙や読解力の未熟さの言い訳に「わたし理系」という一言が使われているのです。また、コンテンツの大半は「文章」だから、文系なら適任……とは追い込みすぎですね。
これはすべてに通じますが、人を育てる時は「逃げ場(落としどころ)」を用意してあげるものです。「デザイン」のセンスについてはそれほどこだわることはないでしょう。フォントや著作権フリーの素材を組み合わせるだけでも作れますし、後述するように真の目的はデザインを学ばせることではないからです。
本稿は中小の「一般企業(非IT、非Web系)」向け。今回のテーマを執筆するに当たり各方面を調べわかったのは、Web業界に関するすべてを「PCの前に座っていられる人」が語っていることです。わたしもその1人ですが、(一般)中小企業に集う人々には苦手な人の方が多く、ネット活用がうまく進まない理由の1つかも知れません。
コピーから学ぶ技術
学ぶとは真似るが変化した言葉です。完成品を分解するのが学習の一番の早道です。目標とするサイトを例題としてWeb担当者候補生に真似させ学ばせます。ライバル企業のサイトならなお良いでしょう。
まず、当該サイトを「保存」します。ブラウザごとに保存方法は異なりますが、「ファイル」メニューか、マウスの右ボタンクリックで「別名保存」で保存できます。これをもとにHTMLを学び、ホームページビルダーやDreamweaverといったオーサリングソフトの操作を理解していきます。一点だけご注意を、「私的利用」を越えると各種権利を侵害する恐れがありますので、あくまで「勉強」のための利用に留めてください。
オーサリングソフトやHTMLについての解説本を事前に求めておきましょう。いまどきネットで検索すればわかるといのは、わかっている人の傲慢です。初心者はそもそも「わからないところがわからない」ので、検索するためのキーワードを知らないのです。インプレスからも沢山の書籍がでており、わたしも、安田編集長がかつて手がけたマニュアルのお世話になりました。
パクリから月商1,000万円
ECでの成功も「真似る」が近道です。あの楽天市場では「ナンバーツー戦略」というものがあります。最初から1位を目指さず、売上ナンバーワンになった店舗のデザインや販促企画を徹底的にパクるというものです。わたしの知っている健康食品販売サイトは、売れているサイトを片っ端からパクっていき、いまではネット通販で月商1,000万円を越えています。
Webデザイナーとして制作できるようになればしめたものです。Web担当者の月給だけで「試行錯誤」ができるからです。Web制作会社における1人当たりの人件費を「1人月」と呼び、それを60万円(非統計調査、経営者同士のオフレコ話より集計。べらぼうに高いところと個人経営を除いた大雑把な数字です。くれぐれも積算根拠にしないように)と見積もれば損か得かが見えてきます。
向かないと知ることが大切
中小企業のWeb担当者が目指すのはプロのクリエイターではありません。だからWebデザイナーとしては結果的に挫折しても問題ありません。制作工程を体感させるのが主題で、将来的に専門家を雇ったり、業者に発注したりするようになったときに、仕事ぶりをチェックする人間が社内に必要で、そのために基本的な制作技術・方法を理解しておかなければならないからです。
Webデザイナーとしての修業の結果、「苦手」という結論が出れば、Bの管理やCの分析にチャレンジさせます。遅ればせながら、職種の分類で「管理」としたのは日本企業型組織における上級者の意味ではなく、ドラッガーを読んだ高校野球の女子マネージャーぐらいのニュアンスで、制作作業より管理・運営が向いている人たちを指します。
もちろん「管理」も「Web担当者」。次回は中小企業のWebプロデューサー編。というわけで初めて3回連続……で終わるのか?
今回のポイント
まずはWebデザイナーから
真似るのはすべての学習の基本
- 電子書籍『マンガでわかる! 「Web担当者」の基本 Web担当者・三ノ宮純二』
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