モバイルでのUXを圧倒的に向上させるには、デジタル基盤から!
コンテンツがリッチになればなるほど、デバイスがモバイルにシフトすればするほど、コンテンツの体感表示速度は遅くなっている。増えるトラフィック、非力なデバイスでも表示を高速化させる鍵は、実はインフラにあった。
アカマイの岡本智史氏は、「Web担当者Forum ミーティング 2016 春」で「圧倒的なモバイル体験で途切れのないデジタル動線を実現せよ」と題したプレゼンテーションを行った。
25年で圧倒的に高まったWebサイトの資産価値。そして現状の課題
1991年8月6日、物理学者ティム・バーナーズ=リー氏によって世界ではじめてWebサイトが公開されてから四半世紀、Webサイトは比較にならないほどリッチになっている。
内容もテキストだけでなく画像を活用するようになり、企業による圧倒的な投資がWebシステムに対して行われている。その理由は、Webサイト(デジタル情報)の経済価値(費用対効果)が確実に向上しており、企業にとって重要なアセット(資産)になっているからだ。
岡本氏はその理由として、
- 消費者の購買行動(AIDMA)全てのプロセスにWebサービスが関与する時代になっていること
- テレビや新聞などのレガシーメディアが軒並み縮小するなか、ネットのみエンドユーザーの利用時間が拡大していること
- スマートフォンやタブレットの普及により情報取得の媒体がデジタルに完全にシフトしていること
などをあげる。
このように企業にとってインターネットを介したエンドユーザーへの情報配信の重要性が増していくなか、アカマイはパフォーマンスやセキュリティといったインフラ部分を担保するCDN(Contents Delivery Network、コンテンツ・デリバリ・ネットワーク)分野においてグローバル市場の50%以上を担う圧倒的な存在感を保っている。
岡本氏は、グローバルで5,000社、国内で400社のアカマイ顧客企業の声を元に、デジタル配信における現在の課題として次の4点をあげる。
- モバイル向け配信の高速化
- デジタル配信基盤の可用性
- グローバル対応
- サイバーセキュリティ
以下、この4点に対しアカマイがどのような手法で解決していくかという取り組みについて説明を開始した。
モバイル向け配信の高速化――リッチ化でどんどん遅くなるページ表示の課題
アカマイでは毎年トラフィック量トップ10,000サイトを定点観測しているが、そこでわかったのは、通信環境は良くなってきているのにもかかわらず、近年Webページの平均表示速度は鈍化傾向にあるということだ。
理由はWebサイトのリッチ化だ。ページサイズ、オブジェクト数、リクエスト数、平均ロード時間すべて増加してきているにもかかわらず、閲覧環境はPCより非力なスマートフォンやモバイル端末に移行してきており、ユーザー体験をマクロ視点で見るとWebサイトは遅くなっているという印象を与えるというわけだ。
一方、ユーザーの表示速度に対する期待度は、さらに上昇傾向にある。
ユーザーがWebページの表示に期待する時間の調査では、49%のユーザーが2秒以内、30%が1秒以内、18%が即座の表示を求めているという。つまり、半数のユーザーは1秒以内に情報が出てほしいと思っているのだ。
これは現状の表示スピードと相当な乖離があり、どれだけこの差を埋めるかによってユーザーの満足度、ひいてはその先のコンバージョンが上がってくることになる。実際、サイト表示パフォーマンス改善は必須になっている。「100msの短縮は1%の収益増加に連結する」という米ウォルマート研究所のデータもあるという。また、GoogleもWebサイトの高速化はランキング改善に有益と明確に表明している。
さらに注目すべきWeb側のトレンドとして、さまざまなディスプレイサイズに対応し動的にページの大きさを変化させ、優れたユーザーの操作性を実現する「レスポンシブWebデザイン(RWD)」の普及がある。
ユーザー利便性だけではなくパーツの共有によるデザイン面での費用対効果や、Googleが推奨していることによるSEO効果の上昇も期待できる。しかしRWDの弊害として、小さい解像度でも必要以上のデータ量のダウンロードを強いる「オーバーダウンロード」問題も発生している。
ブラウザによる閲覧だけではなく、BtoC企業を中心にしたモバイルアプリケーションの普及も見逃せない。
ユーザーに独自アプリケーションをインストールさせることによって、ポイントプログラムなど1対1のコミュニケーションチャネルを獲得できるのが大きな理由だ。Webサイトに比べ離脱率が低いことも魅力だ。
モバイルアプリケーションに関しては、ユーザーからの期待値も高く、米国内では約15.6兆円規模の投資が行われている。
モバイルアプリケーションの中でも特に成長率の高いものとして、「ライフスタイル、ショッピング」、「ユーティリティー」、「生産性」、「メッセージ、ソーシャル」ジャンルが高い伸びを示している。全体でも平均76%の驚異的な増加率だ。世界的にアプリケーションの配信はどんどん増えてきている
だが、モバイルでのWeb閲覧以上にモバイルアプリはパフォーマンス面での課題が大きい。
調査によると、ブラウザがWebサーバーとやりとりする「ウェブリクエスト」とモバイルアプリがWebサーバーとやりとりする「APIリクエスト」を比べると、APIの方がレスポンスサイズ(サーバーが返すデータ量)が大きい傾向にある。
これにはさまざまな理由があるが、アプリ開発の歴史が浅く、ベストプラクティスが統一されていないことが多いため、Webでは当たり前のデータ圧縮などをせずに、そのまま配信してるケースも少なくない。
以上のような理由でモバイルWeb・アプリのレスポンスが遅いことによって、AIDMAの各フェーズにおいて離脱率が増え、マクロ視点で見るとコンバージョンの低下につながっているのが現状だ。
この問題に対する回答として、岡本氏はアカマイのWebパフォーマンス高速化ソリューション「Akamai Ion」の紹介に入る。
同製品は世界中にサーバー網をもつアカマイのインテリジェントプラットフォームによって、高いオフロード(負荷削減)率と可用性、データ先読みやレンダリングの高速化などによる幅広い高速化機能、多様なユーザー属性を判断し詳細なレポート(インサイト)を提供するインテリジェンス機能などが特徴だ。
岡本氏は、同ソリューションの効果の説明として、米アパレルECサービス「MADISON」を紹介、「AKAMAI Ion」の導入によって、デスクトップで73%、モバイルで80%、表示が高速化したという。
また、モバイルアプリの事例として「The Weather Channel」を紹介。1日に450億リクエスト、300TBのネットワーク帯域幅という巨大なトラフィックを抱えるこのアプリも、「Akamai Ion」の高度なキャッシュ機能により80%のAPIオフロードを達成した。
これは450億リクエストのうち360億は、お客様のデータセンターにリクエストが来ないということを意味します(岡本氏)
また、遅延(レイテンシ)も平均で25ミリ秒未満を達成。顧客満足の向上に成功したという。
マルチデバイス向け画像配信の手間を解消
次に岡本氏は、マルチデバイス対応(RWD)サイトでの画像配信について、表には出ない現場の苦労を紹介した。
PC、スマホ、タブレットといったマルチデバイス配信をしようとした場合、スタジオで撮影したマスター写真を元に大量の画像変換が必要になる。
あるサイトの具体的な例としては、
- デバイスごとに3種のサイズ
- ブラウザごとに4種のフォーマット
- 3種の解像度
- 3種のカテゴリ
実に1製品あたり108の画像が必要となる。
もちろん作業は画像変換だけではない。RWDサイトの作成工程には10を越える様々な人的工数が必要となる。一部をアウトソースするとしても、担当者にとって配信準備工程の負担が非常に大きいことを指摘。
さらに、webp(Chrome)、jpegxr(IE10)jpeg2000(safari)といった、各ブラウザに特化した圧縮率の高いフォーマットも出てきた。画像のクオリティを変えずにサイズが小さくなるので積極的に活用していきたいが、そのぶん変換の工数もかかってしまう。
この問題に対する回答として、岡本氏はアカマイのイメージソリューション「IMAGE CONVERTER CLOUDLET」を紹介。
スタジオで撮ったマスターイメージをアップロードするだけで、あらかじめ指定したポリシーに従い画像の最適化が動的に実行される。これにより画像加工の工数が圧倒的に減るのみならず、派生画像はアカマイのエッジサーバーが配信するため、自社サーバーのストレージも圧迫しない。
事例
岡本氏は同ソリューションの事例としてハイエンドホテル予約サービス「一休」を紹介、「IMAGE CONVERTER CLOUDLET」の導入によって、大量の高画質画像をアカマイに作成・保存しオフロードすることによって、Webマスターが本職に注力できるようになったという。
デジタル配信基盤の可用性――リソースをCDNとクラウドにオフロードさせ、サイト可用性を向上する
次のトピックはサイトの可用性向上だ。
ご承知のとおりサイトのトラフィックは一定ではない。新製品発表、キャンペーン実施、気候変動(ゲリラ豪雨など)といったさまざまな要因がピークトラフィックを引きおこすことがある。
やっかいなことにピーク時のトラフィックや時期は予想できないうえに、そこにあわせて帯域などを準備しようとするとインフラ超過になってしまい、ROI的に割に合わなくなってしまうことが多い。
この問題に対する回答として岡本氏は、アカマイのCDN+マイクロソフトのクラウドAzureによる統合的なオフロードと高速化について紹介を始める。
アカマイとマイクロソフトのパートナーシップによって実現した「Azure CDN」は、Azureが提供するWebアプリやモバイルアプリといったAzure appサービスにおいて、アカマイのCDNによってスケーラビリティ、パフォーマンス、セキュリティを担保していくソリューションだ。
岡本氏は次のように強みを説明した。
コンピューティングリソースはマイクロソフトに、配信はアカマイにオフロードすることによって、顧客企業はデジタル配信に関するインフラをすべてクラウドに任せることができる
困難を伴う中国をはじめとするグローバル対応
アカマイのCDNは、アクセスした地域や言語設定などユーザー情報を元にキャッシュした多国語コンテンツを動的に振り分けマルチ言語をサポートしている。
岡本氏は、困難の多い中国への配信についても自信を見せる。中国は現在、中国電信(チャイナテレコム)と中国聯合(チャイナユニコム)の2大キャリアによる国内ネットワークの独占が続いているが、両キャリア間の相互接続が悪く、場合によっては中国国内からのアクセスなのにアメリカ経由などということが頻繁に起きているという。
また、中国の政府による検閲(Great Firewall)や、常時7割程度を占めるP2Pトラフィックの問題も悩ましい。
アカマイが提供する「China CDN」は、中国政府の承認を受け国内にサーバーを持っているため、他地域と同様アカマイのインテリジェントプラットフォームを中国本土内に拡張し、中国大陸のユーザーに高速・安定・安全な配信体験を提供できるという。
岡本氏はグローバル対応の事例として日本航空のWebサイトを紹介。従来のアカマイのネットワークにChina CDNを加えることで、347%のレスポンス改善が見られたという。
アカマイへの攻撃を活かしたサイバーセキュリティ製品群
最後の話題はセキュリティ関連のグローバルトレンドの紹介から始まった。資料によると2015年は38%の企業が、前年と比べて多くのセキュリティインシデントを確認し、24%の企業が前年比より多くのセキュリティ予算を確保している。企業のトップ層のセキュリティに対する意識が非常に高くなり、CISO(Chief Information Security Officer)という役職を約半数の企業が設置している。
一方日本でも2014年11月「サイバーセキュリティ基本法」が衆議院を可決、2015年12月には「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」を経産省制定しており、そこでもCISOの設置が強く求められている。
このような状況のなか、アカマイはどのようにセキュリティ対策を行っているのか、岡本氏は説明を続けた。
サイバー犯罪者からの攻撃は、莫大なトラフィックでサーバーに負荷をかけるDDoS攻撃と、不正ログインや改ざん情報漏えいなどのWebの脆弱性に対する高度な攻撃の2つに分類される。
アカマイは「Kona」と「Prolexic」と呼ばれる2つのツールでこれらの攻撃に対応している。前者はウェブアプリケーションに対するDDoS攻撃やウェブ攻撃対策を、後者はデータセンターに対するIPシステム全てに対するDDoS攻撃対策を提供する。
アカマイのセキュリティ製品は、1日平均数百億件発生するアカマイへの攻撃に関する情報を分析・活用して開発されている。
ユーザーごとに脅威レベルを10段階で提供し、セキュリティー・ポリシーに基づきアクションを定義する「クライアントレピュテーション」、ネット上で約4割のトラフィックを占めるといわれるボットを、アカマイ既知、お客様既知、未知のボットを振るまいベースで判断し、ブロック、レイトコントロール、代替コンテンツの表示などインテリジェントな管理を行う「ボットマネージャー」などユニークな機能を持つ。
また、近頃はDNSサーバーを狙った攻撃も増えているため、DNSをDDoS攻撃から防御する「Fast DNS」というサービスもある。
最後に岡本氏はアカマイCDNのアドバンテージである「モバイル体験の圧倒的な向上」、「ピーク&グローバル対応」、「サイバーセキュリティ対応」をもう一度強調、「なにか各分野でお手伝いできることがありましたらぜひご相談をいただきたいと思います」と、プレゼンテーションを締めた。
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