コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の九十九
現場主義であること
ブログが続かないという人から「続けるヒント」を訊ねられると「現場」と答えます。「現場」は刺激とトラブルに溢れております。同じく「ネットで検索」だけに頼らす、該当団体に電話を掛け、メアドを見つけてメールを送信し、セミナーに足を運び、自腹を切った購入による「人体実験」も厭いません。すると「ネタ」がストックされていきます。それがWeb担当者Forum最多連載記録を更新し次号で100回を数えます。
「エピソード(ネタ)がない」から書けないという人には「それも著者(ブロガー)の仕事なんですよ」と告げ、質問者の耳元で囁きます。「執筆者の大半が毎回苦しんでいる」。サクッと書いているようでもあの手この手の苦労と工夫を重ねて書いているものです。
百里の道は九十九里をもって半ばとす。試行錯誤の末に掴んだ「続ける」ための「心得」です。
約束を守らない大人達
下版とは、印刷工程で校了した組版を版を次工程に移すこと。活版印刷の「版を下ろす」からきている。この場合の下版=印刷所の入稿締め切り。
母の営んでいた内職工房が潰れたのは納期の遅れが原因でした。チラシを制作していた会社員時代、追突事故の被害に遭っても売り出し日から逆算された「下版日※」が私を打ち合わせに向かわせました。約束は守るものです。
「書けないことはないのですか?」。
フジテレビ「めざましテレビ」の取材で作家の石田衣良さんはこの質問にこう答えました。「週刊連載などで締め切りがある人は書いている」。書けないとは言い訳だと続けます。そして締め切りは作家だけのものではありません。レストランが毎週水曜日を「新作ランチの日」としたのに「思い浮かばない」と木曜日にずらし、新作発表を休めばどう思うでしょうか。
続けるために締め切り(約束)を用意します。さらに約束を違える相手は信用されないと自分を脅します。
自由に書くという残酷
ブログを推奨するコンサルタントの「自由に書いてください」ほど残酷なものはありません。無数の選択肢から毎回「テーマ」をチョイスする負担を強いているのです。廃墟ブログ(更新されず放置されたブログ)を散策しているとテーマが欠落していることに気がつきます。
まず「テーマ」を決めます。
ブログが続かない人は「訪問者全員」を相手にする傾向がありますが、それはノーベル文学賞受賞者でもできないことです。読者は不特定多数で、感性に嗜好、読解力は十人十色だからです。そこで「テーマ」で絞り込み「求めている読者」にだけ伝わればよいと割り切ります。工務店の社長ブログなら「二世帯住宅」や「狭小地活用」などと絞り込みます。特定の読者(ペルソナ)や目的が「軸」となり、「何を書こうか」と考える著者の負担を減らしてくれます。
モンテールの涙に何を思うか
情報は複眼的に処理します。といっても難しいことではありません。
オープン2日目の「イオンレイクタウン」へ足を運びました。この埼玉県越谷市に誕生した巨大ショッピングモールでは足立区の洋菓子メーカー「モンテール」のシュークリームがオープン記念として1個39円で販売されていました。普通のセールでも98円の商品です。
複眼的に見るとこうです。
- 客は喜ぶ
- バイヤーも喜んでいるだろうな
- メーカーは泣いているのかな
「ネタがない」と口にする人は多くの場合、自分の立場でしか見ていません。客とバイヤーとメーカー。それぞれの立ち位置で考えるということです。この取引の真相は存じませんが、交渉現場でどんな「物語」があったのだろうと想像すると涙が止まりません。
ネットでのネタ探しのリスク
ニュースをネタにする“手法”にも触れておきます。
先日ある編集者が「最先端を追うので情報が狭くなる」とこぼしていました。実は一般的に報じられるニュースは「狭い世界の限られた論」であることが多く、リアルビジネスに及ぼす影響はあまり多くありません。メディアと「普通の商売」は常識もビジネスモデルも異なります。
特定の業界独自の「ニュース」ならどうでしょうか? 業界ニュースは「ネタ」の宝庫でビジネスに直結し、大変有効です。まして「IT活用」の遅れている業界なら「トレンドリーダー」となることも夢ではありません。しかし「見下ろす」のは厳禁です。どこの業界も狭いものでいずれは誰かの耳に入り、吐いた唾は自分に戻ってきます。業界ニュースを「上から目線」で偉そうに論評して多少なりとも商売に結びつくのは「メディア」か「IT業界」ぐらいです。
25歳からのリベンジ
締め切りを設定し、立場を替えて考え、業界新聞を隅々まで読んでも「書けない」こともあります。そんな時は「3行」だけ書いてみます。すると絡まった糸がほどけるように「ネタ」が現れてくることがあります。ほどけなければ別の「3行」を書いて様子を見ます。これを繰り返すと意外と書けるものです。書けないという思いこみが筆を止めることもあるのです。
17年前、社会人を「続ける」ことができずにフリーターとなりました。正社員を「続けた」同級生は会うたびに「大人」になっていきます。社会人としてプログラマをしていた頃に「C言語」をレクチャーした友人がプロジェクトを任された頃、私は年下の先輩にパチンコ屋で掃除のやり方を教わっていました。25歳で社会人復帰したとき「続ける」ことを決めました。「続かない」ことからフリーターになり、その生活に戻りたくないのから「続ける」を最初の目標にしようと。人生の逆回転を狙いました。
……という決意も虚しく人は簡単には変われません。「続ける」のは大変で、メルマガもブログも楽ではありません。今回紹介したものはすべて「苦肉の策」で身につけたものです。何度「3行」書いて頭を抱えたことか。ちなみに今回は、情報収集や関連づけ、文章表現に「字数を稼ぐ方法」などなどを字数の関係から削ることに頭を抱え、100回を前にネタがありすぎる苦しみを味わいました。
♪今回のポイント
書けない理由を並べる前に、とにかく3行書いてみる。
続けることで「雨垂れ石を穿つ」となる。
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