実録ブラックSEO、詐欺は契約で合法となる
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の348
新手の詐欺は合法
浜の真砂は尽きるとも世に盗人の種は尽きまじ
歴史に名を残す大泥棒、石川五右衛門の辞世の句をWeb業界に置き換えれば「詐欺」の種は尽きません。特にSEOにからむものは、検索エンジンのアルゴリズムが非公開であることを逆手に取ってやりたい放題。いわゆるブラックSEOです。業界の問題については、SEOコンサルタントの辻氏によるWeb坦の講演でも過去に指摘されています。
数年前に流行った詐欺は「何もしない型」。代金だけを受け取り何もしないものもあれば、「成果報酬」で契約を交わし、たまたま上位に表示されたときに請求するという事例もありました。下火にはなっても、いまだ継続しているので注意が必要ですが、最新型はより厄介な「合法詐欺」です。
先に触れたのはどちらも「何もしない」ことを立証できれば詐欺を問えますが、ブラックな業者はこれを逆手に取り、作業記録の残る手法を開発します。さらに顧問弁護士が監修し「合法」を強化します。だから「詐欺的」と気がついたときには手遅れです。
そんなバカな方法はない
ヤフー、グーグルで1週間以内に上位表示!
ありがちな決まり文句ですが、私が遭遇した最新トレンドは「楽天市場」に特化したSEOです。もちろん、SEO業者のすべてがブラックだとは言いません。そんななか、ブラックな業者は指定キーワードの上位表示を約束すると勧誘し、さらに一定期間内に実現できないときは、全額返金するとうたいます。
どんなSEOのエキスパートでも100%の成功を約束することなどできませんし、ましてや期間限定です。そもそもの約束に無理があるのですが、失敗したときに全額返金するなら問題はないはず……と思いきや、申し込み直前に示される「注意書き」には、結果責任を負わないと記され、渡されるサービスの「規約集」に並ぶのは業者の免責に関する条文ばかり。繰り返されるのは「いかなる理由があっても返金には応じかねます」の一文。
セールストークと書面の違いに注意を払うのは、商取引の基本です。しかし、連中が狙うのは「楽天市場の新規出店者」です。楽天市場はサイトやパンフレットで、素人が成功した事例を紹介しており、それに引かれて素人が参加します。そして連中の餌食となります。
楽天市場が狙われる理由
ブラック業者にとって、楽天市場内の「検索結果」は見込み客を見つけるフィルターです。検索結果の下位から、出店より日の浅い出店者を探します。さらに、作り込みのできていないサイトは素人を告白しているようなもので、ネギを背負ったカモ。見つけると近づきこう囁きます。
楽天のアルゴリズムに侵入して順位を上げます
実際に楽天市場がクラッキングされているわけではなく、業者の虚言でしょうが、今回「ネットショッピングモール」とせず、「楽天市場」の実名をだした理由です。楽天市場になんらかの対策を講じ、被害の拡大を防いでほしいという願いからの実名です。
詐欺的である理由
さらに楽天市場の店舗管理システム「RMS(楽天マーチャントサーバー)」には作業時の「ログ」が残ります。これを「作業実績」とすることで、「何もしない詐欺」との差別化を実現しているのです。実際には無意味な作業でも、なんらかの作業をしていれば、詐欺を問うのは困難となります。もっとも「上位表示」と「全額返金」を喧伝しながら、正反対の契約書を用意している時点で「詐欺的」なのですが。
「契約」も巧妙です。契約は1年単位で毎月税別5万円、振り込み日が契約開始日になります。申し出がないかぎり年単位で「自動延長」され、いかなる理由があっても返金されないどころか、契約満了前の取引停止は残りの契約分の代金の一括支払いを求めます。
作業への不満を漏らしても改善されることなく、強攻策として支払いを停止すれば、法廷闘争を匂わせ、実際に裁判も起こしています。サイト上に顧問弁護士を明記しているのは伊達ではありません。
先の料金設定から、契約は最大でも12か月で60万円。この金額は「少額訴訟」の対象となり、契約書を添えて提訴すれば、すくない労力で裁判所からの「支払い命令」を勝ち取ることができます。知ってか知らずか、巧妙な金額設定となっています。
合法的である理由
繰り返しますが、同様の契約でも真面目にSEOに取り組んでいる業者もあります。しかし、この業者とも呼びたくない連中を「詐欺的」と断定するのは、法の網の目を理解し、悪用しているからです。
「BtoC」において消費者保護は手厚くなりつつあります。「優良誤認」「虚偽記載」「不実告知」など、消費者庁は監視を強めていますが「BtoB」は管轄外です。SEO業者への支払いは、大きな利益を得るための投資であり、投資に失敗はつきもの。詐欺的な業者にだまされても、救う法律はありません。BtoBにおいて、素人だから、初心者だからと特別扱いされません。そのため、契約書には「商業取引」と大書されています。
現行法では契約しないことが最大の防御策。そこで、最後に「詐欺的業者の見分け方」を紹介します。
悪質業者を見破る方法
ブラックな業者は「電話」で接触してきます。そのとき勧誘企業のサイトをチェックし、「電話」の内容が掲載されていなければ疑ってよいでしょう。口頭ならば「証拠」が残りにくいからです。ちなみに私が取材したケースでも、業者のサイトに「検索結果保証」や「全額返金」は記されていませんでした。
つぎにSNSをチェックします。「SEO」をうたっている業者が、TwitterやFacebookを活用せず、「社長」や「スタッフ」の個人アカウントやブログが見つからない企業も疑ってよいでしょう。プライベート情報を隠さなければならない理由があるからです。先の業者のFacebookは、2月にはいっても最新の投稿が新年の挨拶でした。
最後は「求人」です。求人サイトで当該企業の名前を検索します。そこで「テレアポ」や「コールセンター」のアルバイト募集をし、さらに、
- 未経験
- 高時給
- 歩合(インセンティブ)
この3点を見つけたときは、契約の前に第三者へ相談することをオススメします。SEO技術よりも営業力で成り立っている企業の証拠だからです。
石川五右衛門の辞世のように業界から詐欺的SEOは消えることがなく、常に変化しております。くれぐれもご用心を。
今回のポイント
口頭と文書の違う会社は怪しい
悪徳業者のチェックはSNSとアルバイト
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