UXを定量的に評価する7つの基準で客観的にサイトを改善していこう
自社サイトにおけるユーザーエクスペリエンス(UX)基準を定め、定量的に評価して高めるための7つのUX基準とは。オンラインビジネスで成果を出すWebサイトのUX改善手法について、Web担当者Forumミーティングに登壇したゴメス・コンサルティングの森澤正人氏が解説。ユーザーの意見を収集して数値分析し、アクセスのしやすさ、使いやすさといった指標を定点観測して改善していくための手法を明かした。
サイト全体構造とUX7つの要素
オンラインビジネスの成功のためには、ユーザーの意見を客観的に多数取得し、その数値分析から具体的対策を練ることが重要だ。当たり前のことだが、これができているサイトは少ない。
UXはたびたび、Webサイトやサービスの「使い勝手」を指す「ユーザービリティ」と混同されがちだが、UXとは単なる使い勝手ではなく、商品・サービスを含めた体験そのものを表す。
UXの概念を示すものとしては、ピーター・モービル氏が提唱した「UXハニカム構造」が有名だ。しかし、キーワードは英語で言葉の意味がわかりづらく、内容を理解するのは少々難解である。
これを専門家以外にもわかりやすく、ゴメス・コンサルティングで編集したのが「サイト全体構造とUX7つの要素」だ。Webサイトの構造例と、それぞれに対応する7つのUX基準を記している。
1. アクセスのしやすさ
「アクセスのしやすさ」とは、Webアクセシビリティやマルチデバイス対応など、いつでも、どこでも、だれでも見られるようにするための基準だ。評価基準としては、次のような項目が挙げられる。
- スマホ対応しているか
- タブレットに適したタップエリアを確保しているか
- すべての世代に文字が読みやすいか
- WCAG 2.0またはJIS X8341:2010へ対応しているか
- ブランド名で検索1位になっているか
スマホ対応という点については、多くのWeb担当者が「スマホにはスマホ専用サイト」と当然のように思うだろう。実際ゴメス・コンサルティングの調査結果でも、スマホユーザーの44%がスマホ専用デザインのほうがよいと回答しており、サイト平均滞在時間についても、スマホ専用サイトのほうがPCサイトよりも2分以上長かった。
一方で、スマホでPCサイトを閲覧した人に対し、「なぜPCサイトを表示させるのか」を聞いたところ、「慣れている(使いやすい)」「情報量でスマホ版の方が劣る」などの意見が寄せられた。このような「スマホでもあえてPCサイトを閲覧する人」に対するフォローも「アクセスのしやすさ」という観点においては考慮しなくてはならない。
また文字サイズについては、大きいサイズと小さいサイズのテストサイトを用意してアンケートをとったところ、予想を超えた約80%近くのユーザーが14px以上の文字サイズがよいと回答した。
繰り返しになるが、「Web担当者の常識」は一般のユーザーとはかなりかけ離れていると思っていたほうがよい。この感覚の差を引き戻すのは、ユーザーから得た調査結果の数字でしかない。
2. サイトの使いやすさ
「サイトの使いやすさ」では、各画面内容のわかりやすさ、次のアクションのしやすさが基準になる。Webページのリンクとアクション、文章表現、表示速度などがその要素だ。
- レイアウト上の見出し・本文の論理構造を守っていること
- クリック箇所が明確なこと
- 意図しない動きを行っていない
- 文章表現にこだわっていること
- サイトパフォーマンスの最適化(ページあたりの表示速度は平均2秒以内)
サイトの使いやすさを示す重要な指標である「サイトの表示速度」を例に取ると、たとえば、米国Gomez,Inc.の調査結果では、サイト表示速度が2秒以下の場合の離脱率が5%以下だったのに対し、表示速度が5秒以上の場合の離脱率は17%以上を示すことがわかった。
しかしゴメス・コンサルティングの調査結果では、国内通販ECサイトのほとんどがこの基準を満たしていなかった。商品画像やバナーなどが多数表示されたゴチャゴチャ感は購買意欲をかきたてる効果を持つかもしれないが、一方で単純に「表示速度の遅さ」がユーザーの離脱につながっている可能性があることも考慮すべきだろう。
このサイトの使いやすさを定量化する方法として、ユーザーに離脱理由を直接聞いてしまうという方法がある。リモート型のユーザビリティテストでサイトを利用してもらい、離脱した瞬間にスクリプトを走らせて理由を質問するのだ。この方式であれば、安価に多くのデータを集められる。
3. 目標到達のしやすさ
「目標到達のしやすさ」は、ユーザーが目的とするアクション(コンバージョン)まで直感的に到達できるかという基準だ。Webサイトの全体構造の論理性、目標到達までのサポート、フォームの使いやすさなどが要素となる。
- ナビゲーションメニューが明確なこと
- 情報が適切にグルーピングされていること
- ポート機能が充実していること
- EFO(入力フォーム最適化)を行っていること
情報を適切にグルーピングしたい場合には、「カードソーティング」という手法が有用である。雑誌のようにパラパラとめくることのできないWebサイトでは、情報が適切にグルーピングされていることがユーザーのスムーズな目的到達につながるが、このグルーピングの仕方をユーザー自身に尋ねてしまうのである。
そしてその集計結果をクラスター分析し、ユーザーが迷いづらいと予想されるカテゴリ分けを行う。ユーザーの視点に立った分類を行うことで「わかりやすいWebサイト」に近づけていくことができる。
「目標到達のしやすさ」の定量化指標として、コンバージョン率をすでにKPIとしている企業は多いだろう。だが、自社のCV率が業界全体の中で果たして高いのか低いのかということはわかりづらく、故に目標も立てづらい。そんなときは、ユーザーに自社サイトと競合サイトを同時にテストしてもらい、競合サイトの想定CV率を算出して比較すればよい。つまり「業界の平均CV率」に対する偏差を求めるという考え方だ。自社のCV率が業界平均よりも上回っていれば、業界内では優秀なサイトだと評価してもよいだろう。
4. 信頼感・安心感
「信頼感・安心感」は、会社情報がきちんと掲載されているか、セキュリティ対応がされているか、それらのコンテンツにアクセスしやすいかといった基準だ。
- 会社情報の詳細な記載があり、アクセスしやすいこと
- 各種ポリシーを常駐させており、アクセスしやすいこと
- セキュリティへの対応を行っており、利用者に公表していること
この「信頼感・安心感」という観点において、「第三者バナーの存在」が一般消費者に与える影響は、Web業界の人が思うよりも大きい。
ゴメス・コンサルティングが実施したアンケート、「何かを購入するサイトで関係ない第三者のバナーが表示された場合、どう感じるか?」では、「不安を感じる」と答えたユーザーは65%、さらに「申込みや購入を中止すると思う」と46%が回答している。特にスマホのバナーに対して嫌悪感を抱く傾向が見られる。
5. 内容自体の役立ち度
「内容自体の役立ち度」という基準は、そもそもサイト訪問者が何を目的に来訪し、サイトから何の価値を得ようと思っているのか、目標ページは何かという基準だ。
- ユーザーの情報取得目標を満たしていること
- ユーザーの機能利用目標を満たしていること
- ユーザーの申し込み・購入目標を満たしていること
- ユーザーに金銭的利益をもたらすこと
たとえば、上場企業であるANAホールディングスやソフトバンクのサイトでは、IR情報(株主・投資家情報)のトップに株主優待の情報を表示している。これは、株主の最大の関心事である「どんな利益が得られるのか」という要素に応えたものだといえる。
ユーザーに聞くのも有効だ。たとえば、楽天市場やAmazonのような通販ECサイトの利用者に、「どんな機能があればもっと購入しますか」と聞いてしまうのだ。実際、ゴメス・コンサルティングが行った調査では、実物大写真の掲載、絞り込み機能の充実といった意見があった。
定量評価の手法としては、このようにユーザーに直接サイトの満足度を聞くことが挙げられる。「このサイトを利用してみて満足しましたか」と聞き、サイト利用満足度が一定以上になるように改善していくのだ。
6. 全体の好感度
「全体の好感度」は、サイト全体から得られる感覚的な印象・好感度のことだ。Webサイトのデザインの印象と、企業が訴求したいイメージと差異がないこと、利用前の期待値を上回ることなどが評価基準になる。
- Webデザインの第一印象が良いこと
- サイト利用時にフラストレーションがたまらないこと
- サイト利用中または利用後に当初の印象がさらに良くなっていること
定量化においては、競合他社を含めたアンケートを実施し、自社サイトの好感度と比較する。
7. 企業の収益性
「企業の収益性」は、上記6つのUX基準のすべてを総合的に判断して、ユーザーが行動することによって、企業にもたらす収益を見るものだ。
- 現実にそのWebサイトを利用すること
- 継続的にそのWebサイトを利用すること
たとえば、Webサイトのデザインと収益性は総合的に見ていく必要がある。ゴメス・コンサルティングの調査、「デザインの良し悪しがサイトでの申込みや購入に影響するか」によると、「影響する」と「とても影響する」の合計が56%となり、デザインが収益と関係ないとは言い切れない。
また、Webサイトに対する「全体的な要望」としてユーザーが挙げる要素は、「シンプルで軽い」「見やすい」「セキュリティ面の安心感」「広告をなくしてほしい」などが上位を占めており、企業が「ユーザーのためになる」と思って追加した機能が、ユーザーの要望である「シンプルさ」を阻害する可能性も考えられる。
こうした収益性を定量化して評価するには、調査前後の実利用意向の差を数値化し、従来の期待値を上回ることができたか検証する。
サイト制作にテストを組み込む「アジャイル開発/リーン・スタートアップ」
ここまで、7つのUX基準と、それぞれの数値化、定量化の方法について解説してきた。その内容を踏まえ、サイト制作に「調査」フローを組み込むための開発手法を提言したい。
まず、従来のサイト制作のプロセスは、大きく次のように分けられる。
- 全体企画
- 分析・設計
- コンテンツの洗い出し
- ユーザーフロー作成
- 基本デザイン作成
- 原稿執筆
- ワイヤーフレーム作成
- 個別ページデザイン作成
- HTMLテンプレート作成
- HTML制作
これは正しい進め方である一方、1つのプロセスが終わるとなかなか後戻りできないデメリットがある。今後のサイト制作では、サイトを通じていかに購入してもらえるのか、UXを追求していくことが求められる。そこで提唱したいのは、以下のようなアジャイル開発やリーン・スタートアップと呼ばれる開発手法だ。
- 全体企画
- 基本デザイン作成
- CMSテンプレート作成
- 原稿のCMS入力
- オンラインUXテスト(リモート型のユーザビリティテスト)
- CMS上で直接修正
- HTML清書
従来であれば、サイトがある程度完成した段階で確認作業を行っていたが、この手法ではまず、「本番に近い」テストサイトを作り、上述したようなUXテストを繰り返しながら制作を進めるのだ。ユーザーの声やデータを集めながら修正をCMS上で加えていけば、比較的簡単に修正できる。そして、デザインや機能が完成したら、最後にHTMLを清書して納品する。
実際にゴメス・コンサルティングでは、あるオンラインショップのサイト改修にあたり、2週間で300ページのテストサイトを制作、2週間で500名のユーザー検証を行い、コンバージョンが2倍になることを検証してからシステム開発に進むなど、アジャイル開発で成果を上げている。こうした開発手法を可能にするためには、設計者、デザイナー、コーダーが互いのスキルを重複させつつ、近い位置で仕事を進めていく必要がある。
ユーザーテストといえば、専用のモニタールームで調査員が行うものというイメージがあるが、昨今はアジャイル開発/リーン・スタートアップに適した、Webを通じた大規模なリモート型のユーザビリティテストなどの環境が整備されつつある。こうしたテストをうまく活用し、ユーザーの意見を「客観的に」「多数」取得し、オンラインビジネスの成功のための具体的対策を練ってもらいたい。
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