企業ホームページ運営の心得

プレイヤーと批評家の違いから生まれた「ネット選挙」の幻

ネット選挙が盛り上がらないのは、Web業界に全体に通じるそもそも論レベルの問題があります
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の463

18歳の珍説

Boarding1Now/iStock/Thinkstock

与党の圧勝に終わった参議院選挙。Web界隈で選挙といえば、2013年に解禁された「ネット選挙」ですが、相変わらずの「低調」ぶり。

自民党が公開したWeb漫画が「男尊女卑」だと炎上し、民進党が改憲させないために掲げた「まず、3分の2をとらせないこと」に対して、「それでは少ない、9分の6は取らせたい」と叫ぶ支持者のツイートが嘲笑とともに拡散されるなど、狙いがことごとく外れます。

かねてよりネット活用に定評のある日本共産党が、トレーディングカードを模した特設サイトを開設し、局所的に話題を集めていましたが、せいぜい「努力賞」レベルです。

ネット選挙が解禁された2013年の参議院選挙の直後は、期待はずれの結果にも「初めてだったから」と言い訳する有識者がいましたが、あれから3年が経った今、目立った活用事例はいまだ聞こえてはきません。一方で、投票権が18歳に引き下げられることから「若者向けにSNSを活用すべき」という「珍説」を開陳する大学准教授を確認しています。

ネット選挙が盛り上がらないのは、Web業界に全体に通じるそもそも論レベルの構造の問題です。

今も昔も変わらない

まず、前述の准教授を珍説とする理由です。

確かに若者は、LINEを筆頭にSNSを利用しています。しかし、そこでのコミュニケーションは、

  • 今日ヒマ?
  • ヒマ
  • じゃぁ遊ぶ?
  • おーけー

といった、他愛のない日常会話です。

それどころか「憲法改正絶対阻止」「戦争法反対」と掲げる活動家同士でも、SNS上でのやりとりは近況報告がメインでしょう。ツールとコンテンツの混同で、「若者=SNSをよく使う=選挙利用」という三段論法は、「通販サイトを立ち上げる=売れる=金持ちになる」と主張するほどの珍説です。

また、この参院選挙から投票権を得た女子高校生タレントの岡本夏美さんは、テレビ番組のなかで、若者による政治団体の活動に意見を求められ「クラスにこういう子がいたら引いちゃう」と答えています。部活にバイト、進学に期末試験、そして恋愛と友情を育むに忙しい「若者」にとって、政治にうつつを抜かしている暇がないことは、自分の青春時代を振り返るだけでわかります。

少数派が作る歴史

若くして政治に高い関心を示す若者だっています。白黒映像とともに報じられる昭和時代の「学生運動」を紹介するとき、まるで当時の若者が、すべて学生運動に身を投じていたように語る有識者は少なくありません。しかし、文科省の年次統計によれば1970年の大学進学率は17.1%に過ぎず、短大を合わせても23.6%と、同時代の若者の4人に1人にも満たないのです。

さらにそこから政治活動に興味をもたない「ノンポリ」を除けば、極めて少ない割合の若者だけが大声をあげ、ゲバ棒を振り上げていたということです。いつの時代も、政治にうつつを抜かす若者は少数派なのです。文字通り「ノイジーマイノリティー(声の大きな少数派)」。ここが「ネット選挙」の低調さを読み解く鍵です。

世論は1人で作り出せる

自民党が政権を失った2009年の「政権交代選挙」の直前、ニコニコ動画による世論調査で最も高い支持率を得たのは自民党でした。あるブログサービスは、左派の巣窟になっているといわれ、そこを見る限りでは、今は「反自民」「脱原発」が世論を支配しています。すべて、ノイジーマイノリティーの仕業です。コピペに代表されるように、わずかな手間で「意見」を表明できるWeb空間では、極論すればたった1人で「世論」を作りだすことも可能なのです。

「ネット選挙が社会を変える」「Webが政治を動かす!」と錯覚した有識者らは、ノイジーマイノリティーを過大評価していたのです。「国民が怒っている!」とTwitterにあったとしても、それは本当の「民意」を意味しません。これは「クレーマー」に通じます。「すべての客が怒っている!」と、執拗な批判を繰り返すのが「たった1人」であることはよくあることです。

専門家不在で掲げた論

「ネット選挙」の構造的問題は、「ネット選挙」を礼賛していた人々のなかに、その筋の専門家が皆無だったところにあります。個人攻撃が目的ではないので名前は伏せますが、元脱法ダウンロードの伝道師がITに強いジャーナリストと紹介されたり、永田町の取材しかしない政治アナリストらが選挙活動を語ったりしていました。

「政治家は選挙のときしか挨拶に来ない」とは、選挙の現実を知らないという告白と同じです。盆踊りでは頭を下げて挨拶してまわり、どんな小さな会合でも顔を出し、亡新年会ははしご酒。生活保護の申請者を役所の窓口に連れていく政治家の振る舞いは、すべて「選挙」のための「集票活動」です。

だから、いつでも得票数のあらましを予想できます。そして残される票は「わずか」。つまり、あらかじめ取れる票は取ってしまっているのです。そのわずかをネットで奪い合うのですから「微力」になるのは自明です。さらに、非IT系の一般人のネット依存率が低くいことも微力の理由です。

プレイヤーと批評家の違い

私は3年前からネット選挙は「微力」だと予言していました。私自身が政治家と親しく、選挙がらみの仕事を手伝い、同時に企画を立て、コンテンツを制作する「プレイヤー」だからです。

対して、ネット選挙を礼賛していた人らは「批評家」。想像に希望や皮肉を添えて語る仕事は、人気商売というタレント的性格をもつので「受け狙い」に走ることもしばしば。Web界隈にも批評家が多く、「これからは○○」「次のトレンドは××!」という見出しが量産されます。これを見かけたときは、発言者が「プレイヤー」か「批評家」かを確認してください。

なお、本サイトの執筆陣や記事に登場する人の多くはプレイヤー。それも企業実務に関する人が多く登場し、Web界隈では数少ない媒体とは、拙稿も含めての自画自賛。なお、一説によると安田編集長自ら、サイトのスクリプトをプログラミングしているそうです。

今回のポイント

ネット選挙が盛り上がらないのは、残れた票がそもそも少ないから

プレイヤーと批評家の違いに注意する

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