インターネットにはたくさんの国境がある、人はグローバル企業から買うのではない
書籍『グローバルWebサイト&アプリのススメ』の一部をWeb担向けに特別にオンラインで公開!
この記事は、第1章「翻訳経済の新しいルール」から、1-3「インターネットにはたくさんの国境がある」と1-4「人はグローバル企業から買うのではない」の内容をお届けします。
インターネットにはたくさんの国境がある
国境のないインターネットが、より国境なき世界を実現すると思われがちです。しかし、実際はその反対のことが起きています。インターネットには厳密な意味での国境はないかもしれませんが、仮想の法的な国境を作る国が増えているのです。次のEli Lillyのサイトが示すように、グローバルなWebサイトからある国のWebサイトに移動するだけで、税関を通るような気分になります。
訳注 吹き出しの中には、英語で「あなたはLilly.comからアメリカ合衆国の居住者向けではないサイトに移動しようとしています」というメッセージが書かれている。
しかし小さな注意書きは、仮想世界がより現実世界のようになりつつある現状のほんの一例にすぎません。また、こうした流れにより、これからも課題やチャンスが継続的に生まれてくるでしょう。
スプリンターネットの出現
2016年後半、ロシアは、国民の個人情報を国内にあるデータベースに格納していないという理由でLinkedInをブロックしました。この動きはロシアに限ったことではありません。ドイツもアメリカの企業に、ドイツ国民の個人情報はドイツ国内に保持するよう求めました。ブラジルも同じような道をたどっています。このような戦略を実施する国が増えていくと、インターネットは徐々にスプリンターネットと呼ばれるようになるでしょう。
訳注 英語で裂く、粉々にするといった意味の動詞のsplinterに、internetが組み合わされた造語のスプリッターネット(splinternet)とは、さまざまな要因から分断された状態のインターネットを意味する。
それから大規模なインターネットフィルタリングと検閲を行う「グレートファイアウォール」のお家元、中国があります。中国は長年にわたり、コンテンツの検閲を(まだ)許可していないことから、Facebook、Twitterなどの企業をブロックしています。中国のファイアウォールは、ライセンスを取得して中国国内でWebサイトをホストし、中国の規定に従って運用するよう企業に働きかけています。今後も、中国が仮想国境警備の極端な事例であってくれればよいのですが。
訳注 著者が「中国が極端な事例てあってくれればよい」とするのは、もし多くの国が中国と同様の施策を進めるとしたら、グローバルなWebは存在できなくなるであろう、と考えるからである。
グローバル戦略について考えるときは、現実世界と同じようにインターネットにも国境が実在するということを常に念頭に置いておいてください。これらの国境が、EU規制によって推進されているCookieオプトイン方式によって姿を現すとしてもです。
訳注 Cookieオプトイン方式とは、ユーザーの識別などを目的にCookieを使用する際、事前にユーザーの承諾を得る方式のこと。EUではプライバシーの保護を目的としてこれを義務化している。DysonのWebサイトのスクリーンショットでは、ページの最上部でユーザーにCookieの使用の承諾を求めている。
国境があるのは仕方ありません。それに応じた計画を立てましょう。
人はグローバル企業から買うのではない
皆さんがスターバックスのコーヒーを買うのは、70カ国に25,000以上の店舗があるという理由からですか?中国では1日に1店舗のペースで開店しているという理由からですか?
それとも、自分のオフィスの近くに店舗があるから買うのでしょうか?
グローバルに成功している企業は、ローカルで成功したからそうなったのです。また、1つの国で成功したからといって、他の国でも確実に成功すると考えなかったからです。皆さんの会社がどれほどグローバルになっても、1つの国ごとに新しい成功へのチャンスと、新しい失敗の可能性があります。
2015年、Walmart※8はカナダ、メキシコ、中国、日本などのアメリカ以外の国で1,300億ドル以上の売り上げを獲得しました。しかしグローバル展開はたやすくはありませんでした。ドイツでは失敗しており、日本でもかなり苦戦しました。Thee New York Timesでは、韓国の店舗の製品棚が高すぎて、買い物客は製品を取るのにはしごを必要としたと報告されています。また、メキシコでスケート靴、ブラジルでゴルフクラブなど、その土地で人気のないスポーツ用品を販売しようとしたとも伝えられています。Walmartは長い期間をかけ、困難な道のりを経て、消費者のニーズや慣習に順応した店舗や取扱商品のローカル化の方法を学んできたのです。
2015年にはTarget※9が、アメリカ本社から北にわずか数百マイルしか離れていないカナダから撤退しました。これにより、Targetは10億ドル以上の投資額を失い、CEOは職を追われました。小売業は、複雑で競争も激しく、非常にきめ細やかな顧客対応が必要であるため、おそらくグローバル化が最も難しい業種でしょう。
インターネットでは場所がますます問題になる
インターネット上ではすべてのブランドや企業が手近になりますが、だからといって場所が問題にならなくなるわけではありません。それどころか、ユーザーはこれまで以上に場所を気にするようになります。
地理的に考えましょう。人は地元の企業を好みます。メイドインアメリカは単なるスローガンではなく、個人的な信念に根差しています。
1990年代後半、日本が世界を支配するかのように思われた時代がありました。Honda(ホンダ)とToyota(トヨタ)にアメリカ人の仕事が「奪われて」いたのです。この2つの企業は、アメリカ人の反感を和らげるために何をしたでしょうか?彼らは、アメリカ人を雇用して、アメリカで車を作り始めたのです。また、その周知を徹底的に行いました。
地元の企業から購入したいと考えるのはアメリカ人だけではありません。形あるものを販売しようとする場合、ユーザーはあなたの会社がどこにあるのか必ず知りたがることでしょう。彼らは国際輸送料なしで返品できるかどうかを知りたいのです。また、自分の言語とタイムゾーンでカスタマーサポートを受けられるかどうかを知りたいのです。
企業の広報部が作成した「グローバルな」Webサイトは、一般に顧客にとってはほとんど意味がありません。企業に関する情報が必要なジャーナリストや競合他社、求職者にとっては役に立つでしょう。しかし、実際に製品やサービスを購入したい人が見たいのは、ローカルなWebサイト、すなわち自分の通貨が使える、自分の言語で書かれたサイトです。
原産地の場所がブランドの一部である場合もあります。EUは、ゴルゴンゾーラ(チーズ)、フェタ(チーズ)、ボルドー(ワイン)、シャンパーニュ(スパークリングワイン)などの特定の地域の食品および飲料の保護を厳しく実施しています。アメリカでは、ナパ・ヴァレーワイン(ワイン)とケンタッキーバーボン(ウイスキー)をやはり法律で保護しています。製品の産地は、その品質について重要な情報になります。今日、正しい製品ラベルによる産地名の保護を非常に重要視しているのはそのためです。
「外国の」市場での成功は楽ではない
世界観を単純に変えることが、企業のグローバル化に大きく役立つことがあります。私は、「foreign(外国)」という言葉で自国以外の世界を表現する企業は、国境の外で成功する力を備えていない場合が多いことに気づきました。
その言葉から、自国市場と目指す市場の隔たりが大きくて成功できないと決めつけているかのように感じられます。代わりに「international(国際的)」という言葉で考えてみましょう。または世界の特定の地域に重点を置きましょう。
世界観の単純な変化が大きな助けとなることがあります。自分の企業のことを、たとえば「外国市場に販売する日本の企業」ではなく、「ローカル市場に販売するグローバル企業」であると考えるようにしましょう。
外国の市場をローカルの市場にするのが早いほど、それらの市場での成功が近づきます。
グローバルジェネラリストなWeb担当者を目指して
- 独身の日 !? ブラックフライデーって !?
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すべてに精通したスペシャリストである必要はありません。
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Webサイト・サービスやアプリケーションなどのプロダクトを提供するのは、今や企業の大小に関わらず、広くビジネス機会を求める上で重要な視点です。そして、それは1つの国や地域のスペシャリストである必要はなく、ジェネラリストとして幅広い国や地域に対して知見を持っておくことが重要です。
この書籍は、そのような観点に立った知識と豊富な実践を解説する書籍です。Webサイト・サービスやアプリケーションなどのプロダクトを、英語圏や中国語圏、中東圏、スペイン語圏などグローバルにマーケティングする際のポイントを、数多いケーススタディにもとづいて解説します。文字表現、デザイン表現、プロモーション戦略などを各地域の商慣習に合わせて細かく例示した他に類を見ない内容となっています。
著者が運営するBlog「Global by Design」の日本語訳を手がける、株式会社ミツエーリンクスの木達一仁氏が監訳! Web担当者、Webマーケター、広報・PR担当者はもちろん、Webデザイン/サービスのデザイナーやアプリ開発者など、幅広く役立てていただけます。
推薦コメント:木達一仁(監訳者)
日本の将来の景気低迷を懸念する記事を多く目にする昨今、日本企業は今後ますます海外に目を向け、インバウンドとアウトバウンドの両面からビジネスの拡大を検討することになるでしょう。ビジネスの、ひいては自社のWebサイトやアプリのグローバル化に取り組もうとされている皆さんにとって、本書が良き手引きとなることを願ってやみません。
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